7-4.Lenehru -Flora-
新武器の入手と、エルの召喚術によって、ありえない進度でレベルを上げている俺達。
一応、前回の反省もあるため、森を突破するのは俺のレベルがカンストしてから、という事にしている。
そして、ご存じレアモンホイホイのウヅキによるウッドソルジャー大量出現と、俺の新技・「煉獄の救済」が合わされば……。どういう理屈かはよくわからないが「業火の理」を使うよりも格段に経験値が入ることが発覚した為、こちらのスキルを優先的に使っている。ちなみに、同じく新技の「桜火の理」だが、こちらは範囲魔攻ではなく対単体魔攻のようなので、ウッド殲滅戦では出番なしだ。
ジュン-男
属性-闇 職業-暗殺者 Lv.99
称号-なし 通り名-なし
周回数-3(+1)
エイプリル-女
属性-光 職業-召喚士 Lv.99
称号-神を制す者 通り名-氷月華の女王
周回数-2(+2)
今日はウッドソルジャーに囲まれることを見越して、あらかじめウッドクエを大量受託していたのだが、こうもあっさりとカンストしてしまうと、何だかなぁ、といった気分でもある。
ウッドのドロップした装備も、いくつかは俺のメイン装備に使えるモノがチョイチョイあったので遠慮なく拾わせてもらう。
ちなみに、今日は採集系のクエストもエルの希望で進めたいとのことだったので、ウヅキにはウッドを引きつけてもらったら即離脱して採集に戻る、というサイクルでクエストを進めている。
ウヅキの離脱は、俺の「煉獄の救済」とエルの召喚した深淵の魔氷狼とアースガルズの門番という過剰戦力により、不可能を可能にしてしまった。要は眼を着けられる前に焼き払えばいいのだ。
若干俺の方がエルよりもレベルの上がり方が緩やかだったので、二人とものレベルカンストが完了するころには、既に昼下がりも良いところで、そのまま薬の材料などの採集やウッドの殲滅などの作業を、日が暮れる少し前まで続けていた。
例によってウヅキをクエスト報告役にして、俺とエルで宿に戻る。
明日はいよいよ森突破を試みる予定なので、俺は武器の調整、エルは回復薬の調合(「接近治療」や「範囲治療」のスキルでも回復自体は可能だが、召喚に使われるエルの魔力の消費が半端ないので、出来るだけ回復薬の類も併用するということにしたのだ)を始めている。
正直もう何度ユニに殺されたかも分からない森なので、出来れば長居はしたくない場所なのだが、森を抜けないとその先の「ルネール地方」に行けないという。回り道などの手段も無く、完全に森を攻略しないと次の地方には進めないようだ。
ウヅキがハンター協会から戻り、宿の食堂で夕飯をすませた後、俺達は明日の行動について軽い打ち合わせをしてから早々に休んだのだった。
朝。
宿の朝食を摂り、昼食の弁当を受け取った(女将には、今後三日間、俺達が戻らなければ宿の部屋の契約は解除していいと告げ、今日までの滞在費と先三日間分の部屋代を支払ってある。)俺達は、ハンター協会で「フローラフォレスト突破」のクエストを受託して、森へと乗り込んだ。
「ラルフォレスト」突破の時と同じく、先頭から俺、エル、ウヅキの順で簡単な隊列を組み、出来るだけモンスターとの本格的な戦闘は避けて進んで行く。
『暗殺者』の職業と『改造屋・フミヒロ』によって増強された俺の火力は、もはやこのフローラフォレストのモンスターですら一撃で仕留めるほどになっていた。単体で出てくるモノは「桜火の理」か紅蓮の小刀改二の投擲(モンスターを倒した後、どういう理屈かは分からないが自動的に手元に戻ってくるのでありがたい)、ウッドソルジャーのように群れで囲んでくるタイプのモノは「業火の理」や、群れの規模によっては「煉獄の救済」で焼き払う。
そうして太陽が真上に来るころ、俺達は特に脅威になるような敵にも遭遇せずに、かつては夕暮れ時に辿り着いた野営地跡に辿り着いたのだった。
「……まさかこんなあっさり着くなんてね」
「ココまでで確か六割なんだろ? まだまだ気は抜けないな」
休憩と軽い食事をかねて、野営地跡で俺達は脚を止めた。
開けたその森の一部。ココまでで森の出口までの道のりの六割ほどと、以前エルから言われていた。
ここで、「夜」になった森で、俺とエルはユニに殺された。……そういえばその後ウヅキはどうやってラストフローラまで戻ったのだろう?
「なぁ、ウヅキ」
「なぁに?」
ウヅキは宿の女将に貰った弁当の包みを開きながら答える。今日の弁当は、野菜と肉の挟んだサンドイッチのセットのようだ。
「お前、あの日、あの後どうやって『ラストフローラ』まで戻ったんだ?」
森にはウヅキの天敵であるウッドソルジャー(間接的な攻撃が効かないため、ウヅキがダメージを与えることはできない)や、他にも魔攻が使えなければ倒すのに一苦労どころの騒ぎではないモンスターもいる。
だから、ウヅキが単独でこの森を引き返すのは、かなり現実的ではない。「夜」の森なら尚更だろう。
「あぁ。それね」
モゴモゴとサンドイッチを咀嚼しながらウヅキは言う。まるで何でもない事の様にだ。
「二人の装備リングを回収して、『朝』になってから、一度森を抜けたんだ」
エルもこのことは聞いていなかったのか、サンドイッチに向けて口を開けたまま固まっている。
「森を……抜けたの!?」
「うん。あれ、言ってなかったっけ? 襲われても何されても、とにかく逃げ続けながら、森の出口まで行ったんだ」
そういえばウヅキは補助装備を回避と耐久に極振りしていると言っていたか。それに合わせて前にルキウス戦あたりで使っていた何か良くわからんスキルも合わせて使ったのかもしれない。それならば、ウヅキ一人でリング二つを森の出口まで届ける事ができたことにも納得は出来る。
「思ったよりも出口までの道のりは単純だったよ。薄らとだけど、何度か人が通った跡みたいな道みたいなものもあったし」
サンドイッチをほおばりながらそう言うウヅキに、開いた口が塞がらないエル。
「森の出口に行ったなら、何かなかった!? その、えーっと……」
何かを問い詰めようとしているのだが言葉を選び口ごもるエル。そんなエルにもウヅキは何でもない事の様に答える。
「あー。何かデッカイのと……男の人がいて、『また三人でおいで』って言って、オレをラストフローラに転送してくれたんだ」
結構重要なコトのような気がするんだが、ここに来るまで俺も聞いていなかった内容だ。エルは反応を見ればわかるが。
最近はクエスト中は俺単独とウヅキ・エル班で動くことが多かったし、クエストが終わってからはウヅキに単独で報告に行ってもらう事が多かった。確かに、思い返してみれば、ウヅキとの接点は減っていたかもしれない。……まぁ、そんなに接点の多さに変化が無いはずのエルも驚いている辺り、本当に今初めて話したのだろうが。
「ほら、二人ともさっさと食べないと! また『夜』になっちゃうよ?」
ウヅキに促され、俺とエルはサンドイッチを手早く胃袋に収めたのだった。
……まさか、このサンドイッチが、この「世界」での最後の食事になるとも知らずに。
昼食を取って軽く腹を休めた後、俺達は再び進軍を開始した。
ウヅキの言うとおり、地面を良く見れば本当に薄らとだが、ヒトの通った跡のようなモノが道のように続いている。ウヅキはおそらく「狙撃手」の職業関係のスキルで目視したのだろうが、どうやら「暗殺者」も、今までの職業よりも眼が良くなるようだ。ウヅキが視認していたのよりも多分よりくっきりと、その道なき道は俺は視る事が出来た。
朝とほぼ同じペースで進んで行く。相変わらず、モンスターとの戦闘は極力無しか手短かに。
昼に休憩を取ってからは、俺が紅蓮の小刀改二を数回ほど投擲する程度のモンスターしか現れなかった。……森も奥まで入り込みすぎるとモンスターも出にくくなるのだろうか? それとも、何か、より強大なモノが迫っているという暗示なのだろうか……?
走り続けて数時間ほどだろうか。
まだ陽は傾きかけてはいないが、昼と呼ぶには少し遅いくらいの時間。
俺達は森の『出口』を目にした。
木々に光を阻まれて薄暗い森の中からは、『出口』はとても眩しく感じる。
「エル、ウヅキ、もしかしてあそこが……!」
「えぇ……」
「うん、アレが『出口』だよぉ、ジュ~ンっ!」
エルに続き返事をしたと思ったウヅキの声色に異変を感じた俺は、背後を振り返る。
俺につられたのか、何かを感じ取ったのか、エルも同時に振り返っていた。
「うん、アレが『出口』だ」
返事をするウヅキの後ろから……ユニが追いかけてきていた。
「もぉ~う! 私に黙って『帰っちゃう』なんてヒドイよぉ~、ジュンったらぁ!」
エルと同じ『召喚士』用の杖を携えながら俺達に追いついてくるユニ表情は、笑っているはずなのにどこか恐怖を感じさせる。
エルにくっついている深淵の魔氷狼が唸り声を上げた。やはりイヌは何かが見えると言うし、エルやウヅキには見えていない(多分)ユニの事も、感じ取っているのだろうか?
とにかく俺は、あと少しという所まで差し掛かっている『出口』へ向かうスピードを上げていった。
ここでまた死ぬわけにはいかない。
何かが俺の中でそう叫んでいる気がした。
ユニさん久しぶり!!( ´ ▽ ` )ノ←




