7-2.Lenehru -Custom-
「よくぞ参った、終端の魔王を屠りし運命を担う異世界の英雄たちよ!」
エルに連れられて市場の中を歩き、辿り着いた通称「改造屋」の店主は、俺達に向かってこう言い放った。
言っている事が若干どころか盛大にイタい。
さらに店主の顔が、その辺のモブと同じ扱いのはずなのにやたらイケメンなところが、より発言のイタさを増している。「ただしイケメンに限る」の法則も、ここまでのイタさになると、却って逆効果になるのかもしれない。
ついでに言うと、彼の言う「終端の魔王」は別の言語に訳すなら「Evilking of Termination」とか「Evilkingof the End」あたりが妥当だろうし、「異世界の英雄」に至ってはもう俺の理解の範疇を越えている。
そういえば、こんな感じのイタいノリの奴を、俺はどこかで知っているような気もする。が、きっと気のせいだろう。そう信じたい。
「この武器の改造をお願いしたいの。代金は出来を見てから決めるわ」
エルは店主のノリは総無視で、ルキウスの杖とその他いくつかの『魔術師』時代に使っていたのであろう杖を差し出す。
「全部『魔術師』か『大魔導師』あたりの装備だけど、それを『召喚士』向けに改造してほしいの」
五・六本辺りの杖を受け取った店主は、先程のイタいイケメンから、「何か仕事の出来そうなイケメン」に変身していた。貴様、いつの間に……!!
「その依頼、この天下に名を馳せる改造屋のフミヒロが、自信をもって受けて立とうではないか、氷月華の女王よ!」
前髪をかきあげそう言う「改造屋」フミヒロは、ふと、俺に目を止めた。
「おや、天下を侍らす女王の飼い犬の君よ! 君もなかなかに改造のし甲斐が有りそうな武器を持っているではないか! その武器、このフミヒロに預ければ、更なる真価を発揮しようではないか!」
……もしかして、このイタいイケメンに目を付けられているのは、俺ですかね。
ちなみに今気づいたが、このイタいイケメン、右目が蒼に左目が深紅とかいう絶賛廚二病だった。……どっちがカラコンなんだろう。
俺は堂々と、エルに彼の言葉の翻訳を頼む。これ以上この男の言葉を自力で理解しようとしていたら頭がパンクする……! ちなみにウヅキは既に脚もとで屍のようになっている。
「えーっと……要するに、アンタの持ってる武器を改造させてくれって頼んでいるみたいね。向こうから言いだしたことだし、もちろんお代はタダよねェ?」
俺に適確に彼の言葉を伝えつつ、さり気に「改造屋」に対して値切りをするエル。
ハイ、今ここで、俺の中でのこの世界最強ランクトップが、さっきの爺からエイプリルさんに塗り替えられました。
「ちなみに、どっちの武器だ?」
現状、俺が持っている武器と言えば、約束された勝利の剣と倶利伽羅の二本の剣のみだ。さらに言うと、体力を媒介として必殺スキルを放つ約束された勝利の剣よりも、魔力を媒介にする倶利伽羅を、今後はメインにしようかと思っていたところなのだが……。
「あぁっ、どちらも眩い高貴なオーラを放っている……だが、この『改造屋・フミヒロ』がその真価を導き給うと欲しているのはこちらの、禍々しき紅に塗りこめられながらもその御姿を――(以下略)」
店主の言葉を耳に入れることを、俺の本能が全力で拒否していたので、やはりエルにかいつまんで解説をお願いした。ウヅキは屍になっていて返事もないし、もはやエルだけが頼りだ。というか、なんだかエルがこの残念イケメンの扱いに慣れ過ぎていて、逆に怖い。
「倶利伽羅をアンタの職業に合わせて改造してくれるみたいよ」
そう言って、エルはさっさとよこせと言わんばかりに手をチョイチョイと俺に振る。
「おっおい、そしたら俺は今日のクエストは約束された勝利の剣だけで乗り切れって言うのかよ!?」
「大丈夫よ、多分。……そこの返事の無い屍が、きっと何か他にも持ち腐れている武器でもあるでしょうから」
そう言われて、俺は慌ててウヅキを起こす。もはや二人の間では俺の倶利伽羅は改造決定の様なので、メイン装備を取り上げられる前に変わりを確保しておきたいところだ。
「おいウヅキ!! 頼むから何か武器よこせ!!」
そう言ってウヅキを揺さぶるが、放心状態のままウヅキは特に何も反応を示さなかった。
が。
「おや~? そこのリトルボーイもイイカンジの武器を持っているではないか! ……その武器を今スグに俺の魔法の手で改造すれば、お前のイイ相棒になるだろう……ほら、そのリトルボーイのポーチの中からその武器を出せ!」
……これはひどい。というか、ひどかった。
主に精神面へのダメージが。
結局、俺とエルは、放心状態のウヅキのポーチに入っていた(エル曰く「持ち腐れていた」)武器を手当たり次第に物色し、『改造屋・フミヒロ』とか名乗るいろいろアレなイケメンが最初に目を付けた武器以外にも、合計五つほどの武器を改造品として差し出したのだった。
ウヅキには大変申し訳ないと思っているが、何か俺の装備が充実するらしいのでそれでガマンしてもらおうと思う。
いやぁ、しかしひどかった。
おかげで今日はクエストに出向けないかもしれないとすら思ったものだ。
いろいろアレだが、『改造屋・フミヒロ』の腕は伊達ではないようで、最初の眼を付けたウヅキの武器をあっという間に俺用の銃っぽい何かに改造して見せた。……っていうか、あの武器、ウヅキのポーチから出てきた辺り、原型は弓矢なハズなんですけどね。『改造屋』は何でもアリなんですかね。
『改造屋・フミヒロ』によって改造された銃は、元々が火属性の魔弓だったのか、深い紅の、「魔炎弾」を発射するという、魔改造魔攻武器に変貌していた。……もはやウヅキに返却しても余計なお世話と言ったところだろう。
ちなみに、この「銃」とカテゴライズされる武器は、通常ならば『銃騎士』と呼ばれる職業の者が装備可能なモノらしい。弓矢から改造された辺り、おそらくは『狙撃手』の上位職業なのだろう。
倶利伽羅を外した左手の装備リングに変わりに装着すると、魔改造武器の詳細が確認できた。
装備リング①:約束された勝利の剣(レア、火属性、使用可能必殺スキル「聖 杯 の 祝 福」)
装備リング②:深紅の魔炎銃(準レア、火属性、使用可能必殺スキル「業火の理」)
新武器深紅の魔炎銃の必殺スキルは、俺がフミヒロにリクエストして「業火の理」にしてもらった。どうやら改造後の倶利伽羅のスキルが変更されるとのことだったので、俺としては使い勝手の分かる、馴染みのあるスキルをどうにかして手元に残しておきたかった。あと、森でのレアモンスター・ウッドソルジャーに囲まれることが多いので、「業火の理」は手放せない火属性範囲攻撃魔攻だったのもある。
もちろん、武器のレアリティが倶利伽羅の「レア」から深紅の魔炎銃の「準レア」に落ちるので、武器に付随するスキルである「業火の理」の威力も多少は落ちるそうだが、元々の威力が半端なかったので特に問題視はしていない。
かくして、俺達は今日のところの街で済ませるべき用事を果たし、ようやく森へと入ったのだった。
今日のメインは採集系のクエスト。……のはずだった。
「ウッドソルジャーだぁぁぁぁぁああああぁぁぁあぁぁぁぁ!!」
やはりウヅキがいる限り、ウッドソルジャーとの遭遇は免れないようだ。
涙目で逃げるウヅキを尻目に、俺はエルを保護しつつ「業火の理」でウッド御一行様を冥土へご案内して差し上げたのだった。
深紅の魔炎銃は両手で構えるタイプのライフル銃で、連射には向いていなさそうだが、その分精密に照準を合わせられるようだ。……通常なら。
本来ならばきっちりと両手もしくは地面などの土台的なモノで照準を合わせて打つものなのだろうが、元々身の丈程もある約束された勝利の剣を片手でぶん回していた俺だ。深紅の魔炎銃も当然片手で斉射。照準? 知るか。
ちなみに、抜かりの無い我がパーティの参謀女王様は、通常の三倍ほどの数の「ウッドソルジャー討伐」のクエストを受託していたらしい。
採集クエストとは名ばかりの、ウッドソルジャー乱獲クエストを終えて、夕暮れの街へと戻った俺達は、再び市場を潜り抜けて残念なイケメンの元へと向かった。
店仕舞いを始める市場の店の面々の中で、いまだにスペースを片づけずに俺達を待っているかのように仁王立ちしている残念なイケメンは、それはそれは目立っていた。
「やぁ、世に仇なす魔物を屠りし、古より伝わりし御技を磨き、この世界を救おうと踠く哀れなる救済者達よ! 俺は君たちの来訪を今か今かと待ちわびていたぞ!」
……全っ力で他人のふりをしたいところだが、如何せん俺の倶利伽羅が人質ならぬ武器質になっている。それに、エルは相変わらずフミヒロのノリは総無視なので、慣れればどうという事は無いのかもしれない。……慣れるまでどのくらい時間が必要なのかとか考えたくないが。
俺とウヅキは既に朝の時点でこの残念なイケメンに対してアレルギー反応を起こしてしまっているので、情けないことこの上ないがエルの後ろに隠れるように立っている。……まぁ、ぶっちゃけ俺とエルの身長差的に、俺がエルの護衛みたいに見えているかもしれないが(ちなみにウヅキは俺の後ろにいるのですっぽりと隠れている)。
「依頼した武器、引取りに来たわよ」
「約束の時が来たぞ諸君! このフミヒロの魔法の手にかかれば」
「ちょっと静かにしてもらえる?」
フミヒロの姿以外に何もないと思っていた『改造屋』のスペースだったが、フミヒロの合図によって、俺達が朝に依頼した武器が出現した。……この『改造屋』、本当にただの『改造屋』なのだろうか? ……職業選択の時には、商いをするようなモノは無かったと思うのだが……。
エルの一言で黙ったフミヒロの足元から、俺は赤黒く染まった十二本のナイフを手に取った。
……何の説明もないが、おそらくコレが倶利伽羅の成れの果てだろう。
あの、約束された勝利の剣にも負けず劣らずの大きさと威厳を放っていた赤い大剣が、一ダースの小ぶりなナイフに変わってしまっている。
左手の装備リングに倶利伽羅(仮)を付けると、改造後の詳細が確認できた。
装備リング①:約束された勝利の剣(レア、火属性、使用可能必殺スキル「聖 杯 の 祝 福」)
装備リング②:深紅の魔炎銃(準レア、火属性、使用可能必殺スキル「業火の理」)
倶利伽羅改二(極レア、火・闇属性、使用可能必殺スキル「煉獄の救済」)
……改二って何だ改二って! 改一はどこ行ったんだよ! まぁ、スキルの「煉獄の救済」は明日使ってみるとして、俺は何だかいろいろと諦めるように倶利伽羅改二を受け取ったのだった。
ジュン-男
属性-闇 職業-暗殺者 Lv.48
称号-なし 通り名-なし
周回数-3(+1)
エイプリル-女
属性-光 職業-召喚士 Lv.53
称号-なし 通り名-氷月華の女王
周回数-2(+2)
ちなみに:
『改造屋フミヒロ』の身長は、ジュンと同じくらいか少し低いくらい。同じくらいに見えるけど本人たちの目線は合わない程度の身長差です。




