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7-1.Lenehru -Bazaar-

 (イーストフローラ)に着いた俺達は、ハンター協会報告組と拠点にする宿の手配をする組に分かれて行動することにした。といっても、実質攻撃力ゼロのエルが性質たちの悪いハンターに絡まれると厄介なので、自然と単独行動と二人組に分かれることになる。


 火力分散の事も考慮すると自然と、ウヅキにハンター協会の方を任せ、俺とエルで宿の手配をすると言う流れになったのだった。


 ハンター協会の列に紛れ込み、姿が見えなくなったウヅキを確認すると、エルは俺を引き連れて宿を選ぶ。とはいっても、やはりエルの目当ての宿は、今までも散々贔屓にしてきたあの宿だろう。

 案の定、エルが俺を連れてやって来たのは女王様御用達の、この街でも一流と呼べるだろう水準のあの宿だった。

 日没後という事もあり、まだクエストの報告を終わらせていないハンターが多かったのか、ほぼエルの顔パスで、この街で拠点にする宿を決める事が出来た。


「なかなかの強行軍だったけれど、無事について良かったわ」


 女将に通された、大きめのベッドが二つ並ぶ、他よりも若干広めな作りの部屋のベッドの内の一つにボフリと音を立てて座り込んだエルがそう言う。


「なんだかんだで、それなりに回復や補助魔法用の装備も入手できたし、とりあえず明日からのクエストは何とかこなせそうね」


 道中、ほぼ俺が拾ったともいえるドロップ装備は、ほとんどが俺よりもエル向きの武器や装備が多かった。なので、エルは「召喚士」としてはどうなのかはさておき、上位の「ヒーラー」程度の魔法は使えると言うことになる。とはいっても、「ヒーラー」には攻撃力はほとんどなく、攻撃手段のほとんどはその杖を使った打撃攻撃だと言うのだから、後方支援が聞いてあきれる、といったありさまだが。


 ウヅキが戻る前に、明日の計画を一通り立てることにする。

 食事は宿の女将に予めウヅキと合流してからにすると伝えてあるので、食いっぱぐれることもない。


「まぁ、主に(フローラフォレスト)での採集クエストと討伐クエストがメインよね。私もジュンも、思ったよりもレベルが上がっていなかったから、どちらかというと採集メインにして、レベルが追いつき次第、討伐系も追加ってカンジかしら」


 レベルが上がっていないのは、極力戦闘を避けて、最高速度を保ちながら此処まで強行突破してきたからなのだが。


「あぁ、そういえば、装備リングの店にも行かないといけないわね。今日はもう閉店してしまっているから、明日の朝イチで行くわよ。ついでに武器の改造(カスタム)も依頼しておけば、早ければ明日の夕方には受け取れるでしょうね」


 どうやら、「夜」になると、街の中でもほとんどの店が営業を終えるそうだ。「夜」でも開いている店は、「宿」以外だと、お天道様の当たる所では出来ないような商売の店がほとんどなんだとか。


 エルはそのまま、クエスト以外の「街」での予定をブツブツと呟いている。クッションを抱え込みながら一心不乱にブツブツと呟いている様は鬼気迫るモノがあるが、この状態のエルさんには出来るだけ干渉しない方が無難だと既に学習している俺。


 やっと明日の行動予定がまとまったのか、「よしっ」と呟きを(しめ)てから、なにやら部屋に常備されているメモ用紙のような紙にペンを走らせ始めるエル。机に向かうその姿を見ながら、俺はようやく、数少ない装備品を外していった。




 食堂にウヅキが来ている事と、食事の用意が整っている事を、宿の使用人が俺達の部屋に伝えに来た。正直言うと、俺達の部屋のフロアに入ってから彼女が出来るだけ気配を殺すような動きをしているのは感知していたので、彼女が部屋のドアをノックしても特に驚くことは無かった。尚、一心不乱に紙に何かを書いているエルは、彼女の来訪自体に気付いていない(気にしていないだけかもしれないが)。

 そして、強いて言うなら、ウヅキがこの宿に到着した気配も感知していたので、俺は出来るだけエルの邪魔にならないように注意を払いながら、食堂に降りる準備も整えていた。


 使用人の彼女が何を思って気配を殺し(切れていないが)行動していたのかは敢えて詮索しなかったが、ふつうにソファに腰かけいつでも行動できるように準備されている俺と、机に向かって何かを書き散らしているエルの姿を見て驚いていた。まぁ、あのエルの様子は初見なら誰でも驚くだろうが。




 ハンター協会でもみくちゃにされてきたウヅキと、食堂のテーブルで合流する。

 なぜこの宿に居るのかわかったのか尋ねると、ウヅキはいつも通りヘラリと笑いながら「カン」とだけ答えやがった。

 女将が腕を振るった(ついでに二の腕の贅肉も大いに震えただろう)食事を前に、エルは満足気に書き上げた紙の束を差し出してくる。

 クエスト報告で既にグロッキー(移動中は全く疲れを見せなかったのにハンター協会に出向いただけでこれとは、今日は一段と込み合っていたのだろう。時間帯も関係していただろうが)なウヅキは、その紙の束を見てさらに顔をひきつらせた。


 エルが書き上げた超大作の紙の束は、明日からの行動予定だった。ちなみに、俺とエルの装備をどういう方向性でそろえるかも提案されていた。

 延々と続く日付とそれに対するどう考えてもオーバーワーク気味なクエストの数々に、この街で立ち寄る予定の店の名前と必要な物資、他諸々……。


 なんとなく、ウヅキの反応を見た俺は、明日からも人生ハードモードを突き進む予感を覚えたのだった。

 久しぶりの女将の自慢の料理の味も、あまり覚えていなかった。




 翌朝、エルに叩き起こされ(文字通り、『ヒーラー』用の杖で「叩き」起こされた。『魔術師』用の杖とは微妙に装飾などが異なるためか、めっちゃ痛かった。危うく永眠するところだった)、女将特製の朝食と、サービスで付けてもらった昼食のお弁当のセットを受け取った。


 込み合う前にと、まずはハンター協会に出向き、エルがこしらえたメモの束から、主に採集系のクエストを受託していく。


 その後は(フローラフォレスト)へは入らず、一旦出店などが並び始めている市場(バザール)を尻目に以前にも連れられてきた、何屋なのか良くわからない、装備リングを扱う店へと向かった。

 前回死んだときに俺とエルの補助装備リングは根こそぎ無くなっていた為、まずは道中の戦闘で僅かばかりだが儲けた金でそれらを仕入れることにする。


 店主の老人は、朝早い為かカウンターの前に腰かけ、新聞のようなモノを捲っていた。

 だが、老眼なのか耳が遠いのか、どちらもなのかは知らないが、目の前に現れた(俺達)が視界に入っているはずなのに、何も言わない。

 結局、前回のようにエルが、今度は店主の目の前で、店のカウンターに置かれたベルをけたたましく鳴らす羽目になったのだった。


「店主がカウンターにいるのにベルを鳴らす必要があるなんて、存在している意味が無いじゃないのこの老 害(クソジジイ)!」


「ふぉっふぉ。な~んにも聞こえんのぉ。ワシ、耳遠いから」


 最終的にエルに胸倉むなぐらを掴まれながらそう言われる店主の爺は、何でもない事の様に笑っている。まぁ、物理系のゴツイ男性のハンターならいざ知らず、今のエルじゃあただの口の悪いひ弱な少女だからな……ぶっちゃけ威厳もへったくれもあったものじゃないだろう。


 というか、年配の店主に向かって「老害」はないだろう、「老害」は。……たとえそれが(若者の雇用問題とかを考えるに当たって最終的な結論が)事実だとしても。


 エルに何と罵られても「ふぉっふぉ」の一言で片づけるこの爺はある意味この世界で最強な気もしたのだが、とにかく今は目的を果たさなければいけない。


「で、今日はこんな朝こっぱやくから何の用かのぅ、氷の……いんや、お主はもう『氷の』ではなく『光の』と呼ぶべきじゃろうかのう?」


 何も伝えていないはずなのに、エルの『属性』の変化を何かしらの術で読み取ったのか爺はそう言う。


「ついでにお主もまぁた面白い状態になっておるのう、青年よ」


 俺を指してそう言う爺。……やっぱこの爺、最強なんじゃないだろうか。いろいろな意味で。


「いっ、いいから、さっさと補助装備リング二人分、出しなさいよね!」


 負け犬の遠吠えのようにそれだけを伝えたエルは、とっととカウンターから離れてしまう。

 補助装備リング二人分の代金は合計で金貨四枚。まぁ、ギリギリ今までの戦闘で稼いだ分と、パーティメンバーの育成資金ってことでウヅキから借り(エルが巻き上げ)た資金で何とかなる程度だった。


「……青年よ、お主には特別な装備が使用できる権限があるようじゃが……どうする?」


 代金を支払おうとカウンターに近づいた俺に、ズズイっと顔を近づけてくる爺。

 特別な装備……もしかして、この爺は俺の職業(ジョブ)が『暗殺者』だという事までわかっているのか……!?


 俺が驚いて動きを止めると、それを問いへの是と受け取ったのか、爺はさらに何かをカウンターの奥から取り出してきた。


「お主は通常のハンターが一つしか装備出来ないこの『メイン装備リング』を合計五つ、持つことが可能じゃ。もちろん、使用することもじゃ。……如何いかが致す?」


 爺は俺に顔を再び近づけて問う。

 通常の五倍の装備。多分、もしかしなくても、『暗殺者』という職業(ジョブ)による効果か何かだろう。

 このパーティでのメインになる攻撃力、すなわち火力役はもちろん俺だ。未知の力ではあるものの、圧倒的な火力をさらに底上げできるなら……。




 結局俺は、爺が差し出してきた四つの『装備リング』を、二人分の補助リングとともに受け取ったのだった。




 俺はこっそりと爺から受け取った四つのリングはさっさと服のポケットにしまい込み、あたかも二人分の補助リングを買って来たかのようにエルとウヅキに合流する。


「何してたのよ、遅かったじゃない」


「いやぁ、さすがに補助リング二人分で金貨四枚はねーだろと思って。値切ってたんだよ」


「値切り交渉? ……ジュンが!?」


「物理で」


「あ……ははは、そーだよなー。エルですら値切れないあの爺をジュンが単純に口で負かすとかなー。ないよなー」


 そのまま笑い続けるウヅキに対して、こちらに睨みを利かせるエルに、「後でな」と口パクで伝え、事なきを得る。

 よくわからん『「世界」のルール』やらにまた殺されるのはごめんこうむりたい。


「ま、補助リングは入手したのだし、次の予定に行くわよ」


 ヒラヒラとは到底言わない分厚いメモの束を振るエルに、俺とウヅキは再びうなだれて後を着いて行く。




 ポケットに一旦しまわれた、追加の装備リングは、二人の目を盗んでとりあえずそのうちの一つだけを、ベルトに通してあるリングから外した倶利伽羅(ク リ カ ラ)を付けて腕輪の様にして嵌めてみた。

 左手に通したリングはゆるっゆるだったはずなのに、まるでアクセサリーにでもなったかのように、さりげなく、俺の左手に収まったのだった。それが当然の居場所だと言うかのように。



  装備リング①:約束された勝利の剣(エクスカリバー)(レア、火属性、使用可能必殺スキル「聖 杯 の 祝 福アンリミテッドブレイドワークス」)


  装備リング②:倶利伽羅(ク リ カ ラ)(レア、火属性、使用可能必殺スキル「業火の理」)



「何してんのよジュン、置いてくわよ!?」


 雑貨屋で、薬の調合に必要だと言う品物を買っていたエルが、声を掛けてくる。細々としたモノがたくさんある場所が苦手だと言い訳をして、一人だけ俺は店の近くで待機していたのだった。


「さ、次は武器の改造(カスタム)よ。さっさと依頼しないと、今日中に受け取れないわ!」


 キビキビと歩くエルの後ろを、俺とウヅキはドナドナよろしく引き連れられていく。




 エルに連れられて市場(バザール)の中を歩き、辿り着いた通称「改造屋」の店主は、俺達に向かってこう言い放った。


「よくぞ参った、終端の魔王(エンドオブザローズ)を屠りし運命を担う異世界の英雄(アンチザワールダー)たちよ!」


 ツッコミどころが多すぎて、俺は溜め息を吐くしかなかった。



 

 

 

ちなみに:

「装備リング」一つと「補助リング」四つのセットだと、金貨3枚という値段設定のようです。(「3-3.Reincarnation -Remuneration-」より)

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