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5-3.Reloaded -Reloaded-

 

 

 

 「この『世界』に来る前の記憶」。……とは一体どういう事だろう。

 俺とウヅキは困惑して顔を見合わせる。

 以前、エルが話していたような「他の『世界』」とかそう言う話なのだろうか。


「えっと……つまりどういうこと?」


 ウヅキが焚き火から目を放してエルに尋ねる。

 ウヅキの顔にも文字通りの困惑の色が見える。


「そうね……ちょっと訊き方が具体的ではなかったかしら。正確に言うならば、『ハンターになる前は何をしていたの』と尋ねるべきだったわね」


 そう質問を訂正するエルだったが、俺とウヅキの反応だけで、既に何かを察したらしく、最初に質問してきた時のような緊張感は漂っていなかった。

 それを理解してか知らずか、ウヅキが「それなら、」と答え始める。


「ボ……オレはまぁ、えっと……家族と暮らしてたかな。兄さんがいて、えーっと……そう、狙撃手になったのも兄さんがきっかけだったんだよね」


 何だかやけに歯切れが悪い気がするが、しどろもどろと言った様子でそう言ったウヅキに対して「そう」とだけ返したエルは、こちらを見るが目を反らして溜め息を吐いた。


「俺は『前』にハンター協会で寝てたのより前については覚えてねーよ。『四天王』だった時の事も全く思い出していない……残念だったな」


 俺も溜め息を吐きながらそう答えておく。言葉通り、俺は「剣士」としてハンター協会で目覚めるよりも以前――『魔剣士のジュン』時代――の事は何一つ思い出せてはいない。それはウヅキから客観的な『ジュン()』についての話しを聴いてからも相変わらずで、当然、その前に何をしていたのかだとか、何故ハンターになろうとしたのかだって、覚えているわけがない。


 「まぁ、アンタは予想通りよ」と言うエルは、何か考え込む様子を見せてはいたものの、その「何か」に対する答えは出なかったらしい。

 その後しばらく、他愛もないことを喋っていた俺達は、氷の半円球(ドーム)の中だから特に警戒することも無いと言う事で、素直に身体を休めることにした。


 ちなみに、半円球(ドーム)の外では、不気味な形相をしたグールだかアンデッドだかのモンスターがうようよとひしめいていたのだったが、半円球(ドーム)を突き破ってまで侵入してくるようなことは無い様子だった。






 暖を取るために消さずにいた焚き火が揺らめくのを感じて目が覚めた。

 辺りを見回すと、エルもウヅキも眠っている様子で、周囲を完全に覆っている半円球(ドーム)(そう言えば、中で焚き火をしているのに酸素が不足しないのはどういったカラクリだろう?)の周りにいたモンスターたちもすっかりナリを潜めている様子だ。


 眠る前とほぼ変わらない周囲の状態にホッと、胸を撫で下ろした時だった。


「……ジュン」


 誰かに呼ばれたような気がして、周囲をもう一度見回す。半円球(ドーム)の中には俺とエルとウヅキの三人だけだ。二人とも眠っているようだし、特に寝言を言ったりもしていなかったと思う。


「こっちだよ……おいでよ」


 やっぱり誰かの声が聞こえる。というよりも、声の主が何となく察せられる。


「……おいでよ、ジュン」


 武器を構えた俺に、その声が届いた瞬間、何故か俺の脚は声の方へと向かってしまう。

 ゆっくりと歩く速さから、だんだんと早くなる脚を止めようとしても、何故か俺の脚は持ち主()の言う事を聞かず、どういう原理か半円球(ドーム)をすり抜けるように突き抜けて出て行ってしまった。




「……今、何か、半円球(ドーム)を通り抜けた?」






 ようやく俺の脚が止まった先にあったのは、身長180cm代後半の俺の両腕でも抱えきれるかどうかという巨木だった。


「久しぶりだねぇ、ジューンッ!」


 やはり俺を呼んでいた声の主は、ユニだった。巨木の影からひょこりと顔を覗かせて、至極楽しそうに笑っている。

 月光も覗かない暗闇の森の中でも、ユニの長い黒髪は何故か光を反射していて艶めいている。碧色の瞳は怪しげなきらめきを放っていて、半円球(ドーム)からココまで辿り着く間には何故かすれ違いもしなかったグールやアンデッド達なんかよりもよほど不気味だ。


「何の用だよ」

「もーぅ、ツレないんだからぁ。せっかく久々に会えたのに、それしか言う事は無いのー?」


 相変わらず噛みあわない会話だ。だが、ユニを含めて女性の機嫌を損ねるとロクなことにならないと言うのは身を以って理解しているので、何か「言う事」を探してみる。


「……えーっと……前髪切った?」


 とりあえず、ありきたりだが俺の中での「女子的に男子に気付いてもらいたいかもしれないランキングっぽいモノ(今考えた)」から適当に口にしてみる。


「違うよぉー。全く、コレだから男の子はぁー」


 わざとらしく(いやきっとわざとに違いない)頬を膨らませたユニだったが、すぐにまたニコニコと笑い、ふわりと一回転してみる。


「お洋服ねー、新しくしてみたのー。どぉ!? 似合ってる!? 変じゃないかなぁ……?」


 言われてみれば、ユニの身体の回転に合わせてヒラリと舞う洋服が、暗闇の中では分かりにくいが以前とは色などが違っているように見える。

 とりあえず、俺の眼には、フリルだかリボンだかがごってりとついた、非常に動きづらそうな服装、という、以前とほぼ同じカテゴリに収まって見えてしまうようだ。夜の闇にまぎれている辺り、今回は黒に近いダークカラー系の服装のようだが、同じ黒系でもついエルの機能的な服装と比較してしまう。


「あー……別に(どうでも)いいんじゃね?」


 そう返すと、ユニは「やったぁ」とか言いながらぴょんぴょんと跳ね回る。


 何だか疲れてきたので、その後も適当にユニの相手をしていたのだが、ふとユニが動きを止めて呟いた。


「やっとお客さんだ……待ちくたびれちゃったよぉー」


 ユニの視線の方向は、俺がやってきた半円球(ドーム)の方で、そこにいたのは、息を切らせたエルだった。


「ジュンったら! あんなに夜は結界から出ちゃダメって言ったじゃない!」


 いかれる氷 華 の 女 王(アイスドールクイーン)は、黒いローブをなびかせながら、俺()()を視界に入れている。……(ロッド)を構えながら向かってくる辺り、モンスターにでもつかまっていたのかもしれない。とにかく、至極不機嫌である事には変わりない。


「……ゴメ」


 素直に謝ろうと謝罪の言葉を口にした瞬間に、エルが俺の方向に氷属性の魔攻を放ってきた。


「おい、せめて謝罪くらい」

「ソコに何か(・・)いる! 離れてジュン」


 炎属性である俺にとってエルの氷属性魔攻は致命的とも言える相性だ。ソレをいきなり向けられて焦ったが、エルの言葉に疑問が浮かぶ。

 ここには何故かモンスターはいない。いるのは俺とユニと、今来たばかりのエルだけだ。


 ……エルにはユニが見えていないのか?


 闇に紛れているユニは確かに遠距離からでは視認しにくいだろうし、仕方無いのかもしれない。が、とりあえず人に向かって魔攻放つのはやめろと言いたいところだ。

 だが。


「『氷華の理』!」


 エルはどうやらカンでユニに魔攻を当てようとしているらしく、乱発される氷属性魔攻に俺の方が恐怖を覚えてしまう。

 攻撃を向けられているユニの方はどうしたものかと振り返ってみると、何故かそこにユニは居なくなっていた。


 見失ったユニを見つけようと、辺りを見回していた俺は、ゾクリと寒気を感じる。


「ルール違反はねー、いけないんだよー?」


 フフフ、という不気味な笑い声と共に、森の闇の中から何かが飛んでくる。慌てて躱そうとしたが、金縛りにでもかかったかのように俺の身体は動かない。

 しかし、飛んできた「何か」は、俺に当たることはなく、その後ろで鈍い音を立てた。


 軋むようにゆっくりと首を動かした俺の眼に映ったのは、胸部を杖のようなモノに貫かれるエルの姿だった。


「エル!」


 ゴフリと血を吐いたエルは、突き刺さった杖を握りしめながら、その場にドサリと倒れた。

 駆け寄って確認してみるが、呼吸が徐々に弱くなっていく。出血も多く、エルの周りを常に漂っている青い光の粒がどんどん少なくなっていく。


「しっかりしろ、エル! 今ウヅキも呼んで治療……」

「に……げな、さい……ジュン」


 生気が失われていく薄いブラウンの瞳に囚われるように、エルを抱き起そうとした俺はそのまま動けなくなる。

 呟くように言われた「逃げろ」という警告にも反応できない。


「あんま動かさないほーがイイと思うよー? ま、その女はもう死んじゃうからどーでもイイと思うんだけどねっ」


 どこから現れたのか、きゃらきゃらと笑いながらそう言うユニの声に、俺はコイツ(ユニ)がエルを殺したのだと確信した。

 傍らに置いていた約束された勝利の剣(エクスカリバー)を手に取ると、ユニの声の方を向く。


「まぁ、その女はぁ、この『世界』のルールを破ったんだから、ペナルティくらい与えないとイケナイよねぇー? ねぇ、ジュンだってそう思うデショ?」


 エルに刺さっている金色の杖とは別の、先端に頭に被っているのと同じような大きな冠のようなオブジェが付いた杖をくるくると振り回しながら、楽しそうに笑いながらそう言うユニ。


「ま、そのルールってヤツもー、持ち主の気分によって変わっちゃ……」

「俺はそうは思わない」


 ユニの話しを遮るように呟いた言葉に、ピタリと演説が止まった。


「『世界のルール』なんてドコに書いてあった? そんなワケわかんねーモンのために罰則(ペナルティ)なんて加えてたらキリ無いんじゃないのか? 大体、エルが一体いつその『ルール』とやらを破ったって言うんだ? 何でソレをお前(ユニ)が裁くんだ? 意味わかん」


「そんなことジュンは言わない!」


 ユニが狂ったように……いや、既に狂っているが、そう叫ぶ。

 森がユニの突如爆発したような怒りに応えるかのようにザワザワと唸りを上げる。


「そんなことジュンは言わない! 絶対に言わないもん! だって! だって!いつだって私の味方になってくれたデショ!? なんでそんな女の言う事なんか真に受けるの!? なんで私以外のヤツと一緒にいるの!? なんで私の言う事無視するの!? なんで私と一緒にこの『世界』を救ってくれないの!? 私の『世界』なんだよ!? 私と私の『世界』が、助けてって、言ってるんだよ!? ねぇ、なんで!? なんでそんなに変わっちゃったの!? あんなに優しかったのに、まるで全然違うヒトみたいだよ!? シスコンのクソカマヤローとかブラコン拗らせたド低能ヤローと違って、アナタだけはいつだって私の味方になってくれたじゃない! それともその女に絆されちゃったとか? そんなの私の****クンじゃない! 私の味方じゃないなら死んじゃえ!」


 半狂乱に叫ぶユニが最後に呼んだ名前が聞き取れなかったが、言い終わると同時にユニはその手に握って振り回していた杖を俺に突き刺した。


「私の味方じゃないキミなんて、死んじゃえばイイんだヨ……そうデショ?」


 笑いながらどこかへ走り去るユニの声を聴きながら、俺の意識は黒く染まっていった。

 

どうでもいいんですけど、この話、エディターでの文字数カウントが4444字でした。特に意味は無いですが。

ちなみになろうの編集画面での文字数は4448字でした。4字の誤差は何でしょう。まぁ、意味は無いんですが。

 

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