5-2.Reloaded -Forest-
「ハイ、『ウッドソルジャー』御一行様、冥土へご案内でーす」
フローラフォレストに入ってからそれほど進んではいないのだが、俺達は既に5セット目のウッドソルジャーの群れを俺の攻撃スキル「業火の理」によって、陽も高いうちからキャンプファイヤーよろしくお焚き上げしていた。
「ちょっと、これじゃ森を抜ける前に陽が落ちちゃうじゃない!」
ウヅキとともに「業火の理」の射程外に潜んでいたエルが飛び出てくるなりそう叫ぶ。
イーストフローラのハンター協会に申請したのは「森を抜ける」クエストのみで単発扱いのクエだったため、他の討伐や採集のウィークリークエストの様にまた明日も森へ入るのであれば、再び手続きをしなければならない。
「今のところ効率的に駆除出来てるから特に問題ないだろ。俺のレベルも何だかんだでけっこう上がってるし」
四天王・ルキウスとの戦いで格段にレベルアップした俺だが、今日森に入ってから遭遇しているモンスターが軒並みレアモンスターの一種でもあるウッドソルジャーばかりだったため、さらにレベルが上がっている。
もしかしたら、今日の午前中だけでも再びカンストできる可能性もあるだろう。
ジュン-男
属性-火 職業-騎士 Lv.70
称号-憤怒の雷神 通り名-宝具の収集者、女王の番犬
周回数-2(+1)
ルキウスとの戦いで一気に50レベル前後上昇させた後、今日だけで約5レベル上がっている。
「剣士」だった頃よりもレベルが上がりにくいことを考慮しても、『魔王軍四天王』との戦いがどれだけの激戦だったのかが窺い知れる。
職業が「剣士」のままだったら、ルキウス戦のみでカンストすることも可能だったかもしれない。
さらに、今日の分のレベルの上がり方を見る限り、ウッドソルジャー1セットにつきレベルが1ずつ上がるようだ。……さすがにウッドソルジャーに30回当たるとは考えにくいだろうし、戦闘の回数が増える事は森を抜けるという目的の上ではタイムロスになってしまう。
夜のフローラフォレストにはあまり良い思い出が無い為、陽のあるうちに森を抜けたいというエルの意見には概ね賛同だ。
あと、ルキウス戦後にステータスを確認した時から付いている良くわからない称号や通り名には、敢えて突っ込まないでおく。
「ジュン、さっきから攻撃スキル使いまくっているけど、体調に変化はない?」
そう尋ねてくるのはウヅキ。……ぶっちゃけウヅキがウッドホイホイじゃなければ、「業火の理」をここまで使いまくることも無かったと思うのだが。
「あぁ。特に問題ないな」
どうやら俺の持っている攻撃スキルのうち「聖 杯 の 祝 福」以外のモノは、体力などを媒介にすることは無いらしい。その代わり、必要な分の「攻撃回数」をこなす事でスキルを発動できる何かしらのサインが出るようだが……「業火の理」のような範囲攻撃だと、攻撃射程内のモノ全てを攻撃対象として認識し、効果の及んだモノ(「業火」の場合は燃えたモノになる)の数だけ「攻撃回数」にカウントされるようだ。
今のところ最初のウッドソルジャーに対しての数回の斬撃以外は、全て「業火の理」によって一掃しているが、「魔力切れ」の状態を起こしていない理由としては、コレが妥当なのではないかと思っている。
「それなら良いケド……無理は絶対しないでね?」
「さ、急ぎましょ。早くしないと、もう陽が昇りきっているわ」
森に入ってからはまだそう深くない所にいる。日没までに森を抜けるには、今よりも進むスピードを上げなければいけないだろう。
俺は森についての土地勘は殆ど無いが、出口までの道を知っているらしいエルを先頭に、俺達は先を急いだ。
「やっぱり、日没までに森を抜けるのは難しいかしら……」
日没前、オレンジ色に染まる空の下で、エルはそう溜め息を吐く。
「森を抜けるまで、あとどのくらいなの?」
「そうね……あとだいたい四割くらいなんだけど」
「なら、強行突破すれば行けるんじゃ」
「夜の森には、昼とは別のモンスターが出るのよ。昼よりも危険度が増すわ」
今朝早くから掛けて予定の六割しか進めていないのは、一メートル進むたびに三十匹単位で出現するウッドソルジャーの群れのせいだろう。おかげでレベルこそ上がるものの、本来の目的である進路をスムーズに辿ることが出来なくなっていた。
個人的にも、夜にはあまり森に居たくないので、出来るなら日中に森を抜けたいところだったが……この後どうするのかエルの予定を訊いてみた。
「仕方がないわ……今夜は森の中で野宿するしかなさそうね」
「でも、野営の準備はしてあるの?」
「……開けた場所まで出られたら、そこで魔法で野営の拠点を作るわ。日没ギリギリまでは進み続けるから、陽が落ち切る前に拠点に出来そうな場所を見つけないといけないわね」
どうやらエルもウヅキも野営用のアイテムなどは持っていないようだ。――ウヅキ辺りは常備しているような気もしていたのだが、さすがにそこまでの備えはしていないらしい。移動しながらウヅキに聞いたが、街の市場でも「野営セット」という野営のための装備一式セットアイテムは売っているそうだが、使い捨てな上に参考価格は金貨ウン十枚だとか。そりゃさすがのウヅキも常備は厳しいだろうな。
「日没の合図は、街から聞こえる鐘の音よ。それが聞こえたら、森は『夜』になるわ」
進みながら説明を続けるエルの背中に、俺達は質問をぶつけていく。
「『夜』になると、どうなるんだ?」
「まず、視界は完全に効かなくなるわね。街のように灯りがあるわけではないから」
それを聞いて、俺はふと、ユニに呼び出された夜の事を思い返す。確かに森には灯りも無く真っ暗だったはずなのに何故ユニは迷う事なく森を突き進んでいたのだろう?
「視界が効かないのかー……そう言えばオレの鷹の眼も夜に使ったことは無いなぁ」
「多分だけど、そのスキルも使えないと思うわよ。だから、夜の森での戦闘は極力避けたいわね。まぁ、そもそも進むことすら困難だから、『夜の森』ではじっとしているくらいしか出来ないのだけれど……フツウはね」
最後だけボソリと呟くように付け足したエルに、俺は無意識の内にその『フツウ』ではないモノにユニを重ねていた。
「あと、出現するモンスターも大きく変わるって言うのは、聞いたことあるわよね?」
「あぁ、アンデッドとかグールとかが出るようになるんだっけ」
「そうよ。基本的にアンデッド種やグール種のモンスターには、光属性の魔法か魔攻が効果的とされているけれど、今回は私達誰も光属性装備は持っていないから、出来るだけ戦闘は控える必要があるのよ」
「逃げるが勝ちってか」
「その逃げるための道が見えないから元も子も無いよね」
アンデッドだとかグールだとかの話しは正直初耳だったが、要するに「俺達の攻撃は効かないから戦闘は出来るだけ避けていくスタイルでいく」という事だけわかったので十分だ。
「アンデッド種もグール種も、通常の攻撃が効きにくいのは『闇属性』のモンスターだからよ。だから、『光属性』の魔法や魔攻が推奨されているんだけれども、かといって『光属性』で装備を固めればイイってモンでもないのよ」
「前に言ってた『光属性』と『闇属性』が拮抗している関係か?」
「そうよ。だから、光属性は逆に闇属性からの攻撃が効きやすいのよ。一応、野営中は私が氷属性の結界を作っておくけれども、そこからは絶対に出ないで頂戴。特にジュン、絶対よ? 絶対に結界の外に出てはダメよ? いいわね?」
何で俺だけこんなに念を押されるんだという文句は言わないで置いた。前回ユニに殺された時も、二人に黙って宿を出て森へ入り込んだからだ。
そうこう言っている間にも、太陽は完全に天から落ち、街の方から鐘の音が聞こえ、周囲は一気に暗くなった。
喋りながらも歩みは止めなかった俺達は、エルの希望通り少し開けた場所に辿り着いていた。
陽が完全に落ち切る前から既に野営のための準備を始めていたのだが、オレンジに染められた視界と闇に閉ざされた視界では、映るモノが違う。
暗くなった視界に映ったこの場所は、俺がユニに殺された場所だった。
「さて。それじゃあ長い夜の始まりというワケなんだけれど」
エルの作った「氷属性の結界」は、要するに俺達全員が入れる氷の半円球だった。氷属性であるから、当然そこからは冷気も発せられているわけで、ついでに言うと『夜の森』は昼に比べて気温がかなり下がっているのも考えると……。
「ていうかさっむ!! すっげえ寒いよココ!! どうにかなんない!?」
「……確かに少し肌寒さは有るけど、どちらかというとウヅキが五月蝿い方が気になる。……どうにかなんないワケ?」
炎属性の俺はそれほど寒さを感じているわけではないが、ウヅキはそうでもなかったらしく、モロに冷気に中てられているようだ。
「中央に焚き火を作ってあるんだから、それでガマンしなさい!」
周囲への警戒と、暖を取るために、半円球の真ん中には申し訳程度の大きさだったが焚き火が設けられている。最初は一応火属性である俺が着火を担当する予定だったのだが、危うくその場一体を焼け野原にしたついでに森全体を火の海に変えてしまいそうになったので、仕方なくウヅキがコツコツと木材を摩擦させて着火させた焚き火である。――無論、俺が着火の際に使おうとしたのは「業火の理」で、どうやら俺の職業では例えレベルがカンストしても、攻撃以外で属性の魔法を使用することは出来ないらしい。ちなみに、魔術師であり戦闘以外でも氷属性の魔法を使う事の出来るエルは、そのことは知らなかったようだ。
ちなみに、俺のレベルは予想通り、道中の戦闘によってカンストを果たしていた。
ジュン-男
属性-火 職業-騎士 Lv.99
称号-カンスト、駆け抜ける初心者、憤怒の雷神 通り名-宝具の収集者、女王の番犬
周回数-2(+1)
「さて、改めてなんだけど」
エルがその辺に転がっていた枯れ木を使って拵えたイスのようなモノ(ほぼただの枯れ木の丸太である)に座り、脚を組む。焚き火の傍を陣取るウヅキと、二人の間辺りに適当に座る俺は地面だ。……何だこの目に見えそうで見えないようでただ目を逸らしているだけのようなヒエラルキーは……!?
「アンタたちって、この『世界』に来る前の記憶って、どのくらいあるの?」




