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5-1.Reloaded -Wake-




 目が覚めると、何故かウヅキが俺の横で寝ていた。

 何を言っているのかわからないと思うが、俺も何が起こっているのか一瞬わからなかった。


 起き上がり、月明かりに照らされる部屋を見回す。隣のベッドで眠っているエルを見て、ようやく、ルキウス討伐の事や、その後エルが倒れてしまったことを思い出す。

 エルの額には濡らされたタオルのようなモノが置かれていて、そばには宿のオバチャンから借りている盥に水が張られている。俺がエルの介抱用にと借りたモノを特に弄ったりした記憶も無いし、そもそもオバチャンが部屋から出ると同時に寝てしまったことも、ソレを見たところでようやく思い出した。……おそらく俺の代わりにウヅキがやったのだろう。


「あれ、起きたの?」


 ぼんやりと部屋を眺めていると、声を掛けられる。

 声の方に目をやると、ウヅキが寝転んだままこちらを見ていた。


「あぁ、まぁ」


 ぼんやりとそう返すと、小さく笑ったウヅキが続ける。


「びっくりしたよ。エルはともかく、ジュンまで丸二日も寝てんだもん」


 その言葉にむしろ驚いたのは俺の方だ。ちょっと転寝(うたたね)程度のつもりで横になったつもりだったが、そんなに眠ってしまっていたのか。

 という事は、その丸二日間は、ウヅキが一人でエルの面倒を見ていたことになる。……俺の隣で眠っていたのはおそらくその疲れのせいだろう。


「あ……その、悪ィな」

「別に、良いよ、このくらい」


 そう言って起き上がったウヅキは、エルの様子を窺う。額に当てていた布を取り、熱を計っている。


「うん、下がってきたみたい」

「熱、出てたのか」


 俺が背負っていた時には出ていなかったハズだ。むしろ、属性の違いからか、どちらかといえばひんやりと感じる程度の体温だったように思えたが。


「うん。まぁ、多分一時的なモノだと思うよ」


 そう言いながら、ウヅキは布を盥の水で冷やし直して、エルの顔を拭っている。


 俺は、そんなウヅキを眺めながら、ルキウスに挑む直前にウヅキと交わした約束の事を思い出す。

 ――以前の俺、『魔王軍四天王・魔剣士のジュン』をウヅキが討伐したことを、俺に教えなかった理由。

 エルは寝込んでしまってはいるが、ウヅキの出した条件はクリアしているはずだ。


「なぁ、ウヅキ」

「わかってる」


 ウヅキはエルの前髪を指で梳きながら言う。表情は何とも言えないモノだ。


「ジュンを……『魔剣士のジュン』をオレが討伐したことでしょ?」

「あぁ」


 しばらく窓から月を眺めていたウヅキだが、やがて、ぽつぽつと話し出した。普段と違って小さな声で呟くように話すので、俺はウヅキの声を聴きとるために、エルのベッドの方へと移動した。敢えてウヅキの隣には行かず、ウヅキとは反対側に回り腰かける。


「……逃がしてあげなきゃって、思ったんだ」

「……え?」

「『ジュン』も最初は、他のハンターに襲われることに不安だったみたいだったんだけど、徐々に、ハンターを狩ることに……なんていうのかな、快感? か楽しみ? か、わかんないんだけど……戸惑いが消えていったように見えてきて」

「……」

「ずっと行動は一緒にしていたんだけど、でも、なぜかオレは急に魔攻とか使い出しても『ジュン』に対して特に恐怖感とかは無くって」

「……」

「逆に、楽しそうに振る舞っているはずの『ジュン』の方が、何だか辛そうに見えてきてさ」

「……」

「オレが『ジュン』を、この世界から逃がしてあげなきゃ、って思ったんだ」


 ベッドの反対側に座っているウヅキの表情は見えなかったが、むしろ好都合というか、それを狙って反対側まで来たのだから当たり前といえばそうなるのだが。

 多分、今の俺がウヅキに掛けてやれる言葉なんて無いんじゃないかと思った。


 終始無言でウヅキの話しを聞いていた俺だったが、ふと疑問が浮かんだ。

 魔攻を使いだしたという俺に、完全物理型ハンターのウヅキはどうやって勝ったのだろう?

 おそらくだが、属性の相性で言えば、対抗するのであればウヅキの方が劣勢のはずだし、そもそもウヅキは魔攻が使えなければそれに対する防御策なども無いはずだ。


「……お前……どうやって『俺』に勝てたの?」


 単刀直入にそう尋ねると、ウヅキは一瞬だけ、言葉を詰まらせた。が、すぐに真相を白状した。


「……ネテイル『ジュン』ニモノカゲカラソゲキシマシタ」

「……何だって?」


 ちょっと待て。

 頼むから聞き間違いであってほしい。ホントマジ、頼むから。

 頼むから『四天王』そんなアレな理由で討伐されてほしくねーから……せめてルキウス(変態)並みとはいかなくてもいいからそれなりに激戦とか……。


「寝ている!! 『ジュン』に!! 物陰から!! 狙撃!! しました!!」


 激戦……とか……無かったようだ。

 ただの仲間による良くわからん理由での闇討ちで『四天王』討伐されてたらしい。

 劇的な戦いとか、仲間を撃つ悲しみとか無かったワケ?


「淡々と!! 物陰から!! 狙撃しました!!」


 無かったっポイ。

 というか、さっきからいちいち、やたらハキハキと答えるウヅキ。開き直ったと言うか自棄になっていると言うか。


「で!! 『神 風 射 手(ゴッドアーチャー)』の通り名と!! 『狙撃の神(オ リ オ ン)』の称号を!! 手に入れました!!」

「いや、今の補足は絶対いらなかっただろお前」


 自棄ついでになんちゅーコトまで暴露してんだコイツは。

 というか、ソレは一応討伐した相手でもある俺に言う事なのかね、いやホントに。


 でも、確かに魔攻を使ったという『俺』とまともにやりあうのはウヅキには殆ど不可能だろうし、確かにそのやり方でなら「ウヅキが『俺』を討伐した」というのも納得がいく。


 振り向いてウヅキの様子を見てみると、肩を震わせながら息を乱している。心なしか涙目に見えるがきっと気のせい……ホントに気のせいか?

 ひとまず、疲れているだろう事には変わりなさそうだ。


「えーっと……とりあえず、寝たら?」


 それだけ言うと、ウヅキはコクリと頷き、あっという間に泥の様に眠ってしまった。






 エルが復活したのは、ウヅキが『俺』討伐について話した晩から三日後だった。いや、正確に言えば、あの晩の翌朝には目が覚めてはいたのだが、魔力の枯渇というのは思ったよりも身体に負担がかかっていたモノらしく、三日ほどエルは布団とお友達状態だったのだ。


 そして、三日間掛けて魔力も無事回復させたエルは、こんなことを言い出した。


「ルネールに行くわよ!」

「ルネール?」

「美味くは……なさそうだスイマセン氷属性魔法はヤメロクダサイ!」


 まぁ、俺の返事は冗談だ。それにエルの方も属性魔法なんて冗談だろう。

 エルが向けてきた(ロッド)はルキウスが遺したと言う「範囲魔法」用のモノで、エルには使用できないと言っていたからだ。


「ルネールっていうのは、地名よ」


 ドンッ、とルキウスの杖を宿の床について仁王立ちになるエルはそう言う。……あ、コレ久々に長くなるヤツだ……。


「……地名? ルネールなんてオレも聞いたこと無かったけど?」


 一応俺よりもこの世界は長いウヅキがそう言う。長いことハンターやっているせいか、ウヅキは地理関係に関しては俺達の中でも知識があったはずだ。


「まぁ、魔攻使えないアンタだったら、興味も無いと思ったけど。ルネール地方はここフローラ地方と違って、魔法に関して特に色々と進んでる都市が多いのよ。フローラが『狩りと採集』の地方なら、ルネールは『魔法と技術』の地方とでも言うべきかしらね」


 あぁ、そりゃあ確かにウヅキとは無縁だろう。

 でも、何故そんな魔術師ホイホイな都市に、今までエルは向かわなかったのだろう。


「ルネール周辺に出るモンスターはこっちと違って強力な個体が多いわ。パーティでも組んでいないとまずその辺の雑魚モンスターにやられるでしょうし、単純に魔攻に弱いだけのモンスターばかりじゃないのよ」


 つまり、今までぼっちソロハンターだったエルでは行けなかったと……言おうとしたがすんでのところで押さえておいた。戻って来られるとはいえ、これ以上死ぬのもどうかと思ったのだ。


「ルネール行きの船が、フローラフォレストの北東から出ているわ。ひとまずはそこを目指すわよ」


 フローラフォレストといえば、前回ユニ(どっかのヤンデレ)に殺された森だ。

 今回は森での採集などのクエストは受けずに、ひたすら森を突っ切るらしいので、よほどの事が無い限りは森で時間を食う事は無いだろう。戦闘は必要最低限に留め、採集も前回エルが消費した薬の材料以外は特に採集せずに進行するようだ。……万が一ウッドソルジャーの群れに囲まれた場合は、俺が「業火の理」で範囲ごと焼失させる作戦だ。


 作戦を立てた俺達は、宿のオバチャンに挨拶すると、ルネールを目指すというクエストが存在しなかった為、森を突っ切るクエストだけを受諾して、フローラフォレストへ臨んだのだった。





















「もうすぐ会えるネ、ジュン……!」





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