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4-7.Transmigration -God Archer-




「私が『風属性』の魔力を込めて弓を引くから、ウヅキには照準を合わせてほしいの」


 私の提案した、作戦と呼ぶにはかなり大雑把なモノ。それに対して、ウヅキがどんな反応をするのかくらい……予想の範囲内よ。


「何言ってんだよ……それに装備リングまで外しちまって……らしくねーよ、エル?」


 まずは困惑するウヅキ。大丈夫、想定内。恐らく、完全物理型ハンターのウヅキには、私が説明した属性による補整や威力増大などの事は殆ど理解できていないだろう。

 だから、あと一押し。きっとウヅキは怒るだろうけど、それでもこの作戦に協力してくれるはず。だって……アンタは誰よりも優しいから。その優しさを利用するみたいで申し訳ないけど、でもそれ以上に「生」に固執しているウヅキは、「全員が生き残るため」の最善の選択をするはず。


「この方法じゃないと、良くてジュンがまた死ぬことになる。最悪、私達全員、ルキウスに殺されるわ。……もしこの作戦が失敗したら、その時は……私がルキウスを倒すわ、たとえ刺し違えてでもね。それに」


 既にルキウスとの近接戦を始めているジュンの方に視線を送る。ジュンが戦闘を始めてしまった以上、もう後戻りはできない。


「一度『四天王』を倒して『神 風 射 手(ゴッドアーチャー)』の通り名と『狙撃の神(オ リ オ ン)』の称号を手にしているアンタなら……いえ、アンタにしか出来ないのよ」


 ウヅキは一瞬俯く。私の知る限りでは、ハンターであるウヅキに『神 風 射 手(ゴッドアーチャー)』の通り名と『狙撃の神(オ リ オ ン)』の称号が付けられたのは、『魔王軍四天王・魔剣士のジュン』が討伐されたという噂が広まってからだったはず。申し訳ないけれど、『ジュン』を討伐した過去とその実績は使わせてもらうわ。


「わかったよ……エルの作戦に従う」


 戦闘開始直前に、「3人一緒に生き残れたら」という条件でジュンと約束を交わしたウヅキが私の策戦に乗るのは想定の範囲内。問題は、ウヅキの所持している装備――特に練度を上げているモノ――の中に、私の期待する効果のある魔弓があるかどうかだ。


「ただ、条件がある」


 ウヅキの装備品を吟味していた私に、ウヅキは厳しい顔つきで言う。……そんな表情も出来るのね、知らなかったわ。


「条件?」

「うん」


 ウヅキはそう言うと、トコトコと、ウヅキの武器を広げている私に近づいてくる。そして、私の顔を両手で挟む。

 突然の事に瞳を瞬きさせることしかできない私に、ウヅキは言った。


「刺し違えても、なんて絶対言わないで。あと、自分を犠牲にしてオレ達を逃がすとかそう言うのもナシだから」


 黄金色の瞳は、普段は見せる事の無い「怒り」という感情に揺れている。大抵の事なら笑って流してしまうウヅキの普段の様子を知っている人間なら、きっと私だけでなく皆固まるしかないだろう。


「わ、わかったわよ……ていうか顔近い」


 それだけを必死に口にすると、我に返ったのかウヅキの方が慌てて顔を放してきた。もう少しで互いの前髪が触れ合うんじゃないかという程度の距離まで自ら寄せたくせに、この反応である。


「ごっごめん」


 「球氷壁(アイスボール)」の範囲からギリギリ出ない辺りまで後退するウヅキに、思わず溜め息が出る。……こんなヘタレがよく『魔王軍四天王・魔剣士のジュン』をソロで倒したものだ。


「で、良さそうな弓、あった?」


 ウヅキのその言葉に、私は一張りの魔弓を差し出す。ウヅキの装備の中でも特に練度が高く、付いているスキルも求めていたモノに限りなく近い。


「あっ、ソレ……」



  魔弓:フェイルノート(レア、風属性、装備時発動能力(パッシブスキル)無駄なし(百発百中)の弓」)



「どうやら相当の愛用品のようね」

「まぁね……そのスキルなら魔攻が使えなくても使えるからさ」


 そう言いながらルキウスと戦闘中のジュンを見るウヅキの視線に、おそらくこの弓を使って『ジュン』を倒したのだろうと予想する。

 私が探していた弓は、属性が「風」であれば特にスキルにはこだわっていなかった。ただ、確実に標的に当てるという事が出来ればいい。ウヅキを照準の補助に着ける時点で杞憂だろうが、念には念を、だ。


 さて。武器の選定も終わったところで(ちなみに、使わない弓はウヅキに返してある)、私とウヅキは弓を射る位置を探る。ルキウスの魔攻により視界はどんどん悪くなっていく一方で、多分私も同じ氷属性じゃなければ「球氷壁(アイスボール)」よりも外の範囲は殆ど見えなくなっていただろう。……まぁ今も「球氷壁(アイスボール)」の外1m位がギリギリ視認できる程度なんだけれど。


 この猛吹雪のホワイトアウト状態で、ジュンの雷属性攻撃の補完のみに矢を射ることなど出来るのだろうか。


「ねぇ、こんな視界でも、射る事が出来るモノなの?」


 ついウヅキに訊いてしまう。カンスト狙撃手のウヅキに対しては愚問だとは、自分でももちろんわかってはいるが、もし可能ならばどうやって照準を合わせるつもりなのかは知っておきたいところだ。


「まぁね」


 何でもないことの様に答えるウヅキに、初めてカンストハンターとしての威厳を感じたような気がする。

 と、同時に、ジュンとルキウスが居るであろう方向から、凄まじい爆発音と魔力の気配を感じた。


「えっ、な、何よ!? 何が起こったの」


 魔弓「フェイルノート」を握りしめて思わず叫ぶ。自分の装備リングは、一応いつでも回収できるように足元に置いておくようにと、ウヅキから言われていたので、暴風雪の中でも飛ばされないように靴の踵で端の方を踏んでおいている。


「多分……ジュンがスキルを発動させたみたいだ」


 そう言うウヅキは、この猛吹雪の中でも何故か視界が効いているようだ。

 ウヅキの言うとおり、先程の爆発音はジュンによるモノらしく、風に流されて雷属性と炎属性の光の粒が流れてくる。……()()()()()()()()()()()()()()()()()ですって?

 確かジュンが拾って現在使っている大剣の属性は雷だったはず。なのに何故赤い光まで飛んでいるの? 雷属性のスキルを使ったならばその光の色は黄色のはず。……大剣かジュンのどちらかに、何かあったのかもしれない――まさか、ここにきてのバグとかじゃないでしょうねクソ兄貴――。


「今のジュンのスキルのおかげでかなり詳細に居場所が特定できたよ。あとは次のスキル使用までに支援攻撃の準備をすれば……エル?」


 ウヅキが話しかけてくることにより、私は取り留めもない考察を中断した。今はジュンのスキル攻撃の支援に集中しなければいけない。


 私の残存魔力である六割弱で、撃てる支援攻撃の回数はおそらく回復薬を使用しても2回が限度だろう。そもそも、直接攻撃魔法を使うよりも支援攻撃に魔法を使う方が、より繊細な調節が必要なため、魔力と同時に精神的疲労も重なって負担になるのだ。……特に私のような攻撃型魔術師の場合は。


 思ったよりも早く、ジュンは次のスキル攻撃を行うようだ。元々所持していたレア級の炎属性武器とは違って、あまりレア度も練度も高くないからこその魔力充填の速さなのかもしれない。

 吹雪で視界は効かないが、ジュンの方から溢れ出る雷属性の魔力とそれに混じる微量の炎属性の魔力に、ウヅキに照準を合わせるように言う。


「弓を引いて」


 そう言われ、私は「風」属性の魔力を込めながら弓を引く。それにウヅキが後ろから覆いかぶさるような形で私の弓のかたを修正し、照準をジュンの放つ「スキル」に合わせる。


「そういえば、こんな視界でどうやって照準合わせてるのよ」


 もはや私ですらホワイトアウト状態の周囲の状況は視認できていない。正直この矢の指す方向に順がいるかどうかも、魔力を辿らなければわからないレベルだ。


「え、カンだけど」


 訊くんじゃなかった。

 そう思ったのと同時に、私の魔力が込められた矢が、放たれた。


 緑色の光を帯びながら飛んで行った矢は、同時に放たれたらしきジュンのスキル攻撃に見事合わさり、威力が増すのを感じられた。先ほどよりもより大規模な爆発音と、魔力の気配が窺える。

 雷属性のスキル攻撃は、さすがのルキウスにも効果があったのか、吹き荒れている吹雪も少しだけ濃度が薄くなっている。それでも私の視力ではギリギリの距離にいる二人の様子は細かくは分からないが、ルキウスの立つ姿勢が、最初よりも若干だが体の前側に構えているロッドの方に重心が傾いてきているように見える。もしかしたら、あと2、3発雷属性スキルを入れたら「聖 杯 の 祝 福アンリミテッドブレイドワークス」でカタが付くかもしれない。……というのはさすがに楽観視し過ぎだろう。


 矢に支援攻撃用の魔力を込めるのは、思ったよりも魔力を消費するらしい。私は魔法で掌に氷の器を作って水を出し、魔力回復用の回復薬を飲む。これであと2回くらいは矢を飛ばせるはずだ。

 魔術師は魔力が枯渇すると体力を媒体にして魔法を行使することもできるが、その際に消費する体力の量は尋常ではないので、常に残存魔力の量に気を配る必要がある。

 それでもやはり精神的な疲労までは回復できない。事実、肩で息をしている私に、ウヅキは背後からだが困った様子で視線を送ってくるのがわかる。


「エル……」

「……大丈夫よ。まだやれるわ」


 そう言って私は再びウヅキの魔弓に手を伸ばす。視線の先には、吹雪が和らいできたことにより、さっきよりもはっきりと確認できるジュンとルキウス。

 ジュンは黄色から山吹色に変化している大剣から金色の柄に紅い宝石の嵌められている約束された勝利の剣(エクスカリバー)に持ち替えている。どうやら「聖 杯 の 祝 福アンリミテッドブレイドワークス」を使うようだ。「聖 杯 の 祝 福アンリミテッドブレイドワークス」の発動条件は未だにわからないが、完全物理攻撃のこのスキルであれば、かなりのダメージが期待できそうだ……もっとも、ジュンがこのスキルを使用しているところを見たことは無いのだけれど。


 約束された勝利の剣(エクスカリバー)の宝石が輝いたと同時に、ジュンが目にも止まらぬ速さでルキウスを斬りつけていく。恐らくこれが必殺スキル「聖 杯 の 祝 福アンリミテッドブレイドワークス」なのだろう。正直私には残像しか見えていない。『四天王』と『闇堕ち』の物理・魔攻の有効性についての関係が同じなのかどうかは未だに謎に包まれている部分が大きいのだが、ルキウスの反応を見る限りでは「聖 杯 の 祝 福アンリミテッドブレイドワークス」は有効らしい。


 敵・味方双方の消耗具合を見た限りでは、あともう1セット、今のように属性スキルと物理スキルで攻撃すれば、ルキウスを倒せるのではないだろうか。


 そう考えて魔弓を構えようとした私から、ウヅキがかなり慌てた様子で「フェイルノート」をひったくる。

 突然の事に驚愕していると、今度はポーチを漁り、回復薬の包みを取り出し、矢尻の付いていない矢を取り出してそれに括りつける。


「ちょっと、どうしたのよ!?」


 理由を尋ねると、ウヅキはいつもよりも数倍早口で答える。


「あのスキル、媒体、ヤバい」

「どういうこと」

「多分、『聖 杯 の 祝 福アンリミテッドブレイドワークス』の発動には、ジュンの体力値が媒体になってる」


 吹雪で視界があまり効かない私よりも、おそらくウヅキは狙撃手の職業(ジョブ)補整により視界が遠くまで届くのだろう。


「ジュン!」


 そう言って、ウヅキは片膝を付いて息を切らしているジュンに向けて、矢尻の無い矢を飛ばした。



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