4-5.Transmigration -Glacier-
更新が遅くなってしまい申し訳ないです……。
「アタシはルキア。『魔王軍四天王・氷河のルキア』よ」
そう言いながら、エルですら使えないと言っていたはずの「範囲魔法」で攻撃するルキア――もといルキウス。エルの師匠というだけあってか、その威力は強力なものだ。
……直撃していれば、だが。
ルキウスが起こしたと思われる霰混じりの冷風は、炎属性の俺にとっては致命的なダメージを与えるはずだったのだが、エルの防御魔法のおかげか特にダメージにはなっていない。
ルキウスの傍にいたエルが、こちらに合流してきた。魔術師同士とはいえ、やはりすぐ近くに居ると危険なのだろう。俺とウヅキ、エルのそれぞれを覆っていた氷のボールは、俺達が寄り集まった為一つの球になる。
「まさか……師匠があの四天王だなんて……!」
信じられないという風にエルがそう呟く。ウヅキは若干居心地が悪そうにしては居たが、俺達を置いて戦線離脱する気は無いようだ。
「とにかく、作戦を立てましょう。むやみに突っ込んでも、師匠には傷一つ付けられないわ」
そう言うと、エルは俺達の装備を確認し始める。エルと同じ氷属性であろうルキウスに効果的な属性は「雷」なのだが、生憎俺達の中には雷属性の持ち主はいない。おまけに、俺は職業を変更したばかりで満足な装備も確保できず、クエストの途中で拾ったドロップ装備を適当に装備リングに着けている。ウヅキに至っては魔攻が使えないため、おそらくだが自身の所持している装備の属性すらも把握していないだろう。
高笑いしながら続々と吹雪の威力を増してくるルキウスを尻目に、エルは淡々と俺達の装備を確認している。
「お前の師匠も、氷属性なんだよな? なら確か有効属性は雷、で合っているよな?」
「そうね……幸いにも、ジュンが拾った装備の中に、雷属性の大剣があるから、ソレを軸に攻撃をしましょ……前に『闇堕ち』に対する注意を話したのは覚えている?」
「あぁ、確か物攻系の『闇堕ち』には魔攻は効きづらくて物攻が有効、魔攻系の『闇堕ち』には物攻耐性があって魔攻が有効、ってヤツだろ? ならオレはかなり不利だな……」
エルに問われ、すぐにウヅキが答える。以前イヤというほど復唱させられた講義が役に立ったようだ。
「えぇ。ソレよ。ただ、それは『闇堕ち』に関しての話しなのよ。私たち通常のハンターにとってはむしろ逆、物攻ハンターには魔攻、魔攻ハンターには物攻が有効なの……だから、必然的にウヅキには後方支援に回ってもらう形になるわね」
そう言いながら、エルは俺が拾ったという雷属性の大剣に、何か複雑な文様が描かれている紙を貼りつけた。貼り付けられた紙は、大剣に吸い込まれるように消えていく。
そして次に俺に杖を向けると、何かを呟く。何が起こったのかはわからないが、何時になく緊迫した様子のエルを見れば、かなり重要なことを施したと考えられる。
「さて。作戦を説明しましょうか。グズグズしていられないし……何より、時間が無い。それに……一か八かだけど……成功するかもわからないけれど……でも、今やらなきゃ……やられるわ」
そう言って、エルはいつものような自信とはかけ離れた表情で、作戦を説明していく。ソレを聴くうちに、俺とウヅキは、エルがどれだけ無茶なことをやってのけようとしているのかを理解し、止めようとする。が、エルは頑なに俺達の反対を拒み、その作戦でしかルキウス討伐は不可能だと言う。
やがて、エルの決意に折れた俺達に「もしかしたら、これが最後になるかもしれないから」と言って、言い残したいことを尋ねてくる。……エルらしくないその発言に、俺はひょっとするとエルは自分とルキウスの相討ちすらも覚悟しているのではと思案する。
そして、俺が尋ねたのは――
「なぁ、ウヅキ……どうしてお前が『魔王軍四天王・魔剣士のジュン』を討伐したこと、教えてくれなかったんだ?」
昨夜エルから聴いたことが引っかかっていたのだ。
エルの話しからすると、以前の「俺」を殺したのはウヅキ、そして、今も以前も行動を共にしている。謎だらけだ。
「それは……」
俺の質問に答えるかと思ったが、ウヅキはそのまま俯いて、言いかけた言葉を留める。そして、何かを決意したかのように顔を上げると、こう言った。
「……アイツを倒せたら、3人一緒に、一人も欠けることなく勝てたら、教えるよ」
つまり、なんとしてでもルキウスを倒さなければならないという事だ。ウヅキの発言に、俺もエルも思わず唾を呑む。まさか、ウヅキがこういう局面になってそう言う事を言い出すとは思わなかったのだ。
「……わかった。俺は絶対死なないから。だから……」
「うん、こっちは任せて」
俺を真っ直ぐに見つめてそう言うウヅキの黄金の瞳は、何時にも増して輝いているように見えた。
俺はエルの作戦通りに、雷属性の大剣――先程エルが紙のようなものを貼りつけた一振りだ――を手に、ルキウスの元へと駆け込む。それと同時に、エルのかけた一つ目の魔法が作動する。氷属性のボールのような形状の防御魔法。どちらかというと防御よりも攻撃魔法の方が得意だというエルの、唯一の防御魔法ともいえるそれだ。
出来るだけ、後方の二人の事は気にしないようにしながら、俺はルキウスに剣を振るう。
エルの作戦は、大まかにいうとこういったものだ。
まず、基本的な陣形は、前衛が俺、後方にエルとウヅキだ。
基本的には、物理攻撃・魔法攻撃の両方を扱える俺が、雷属性の剣でルキウスを攻撃する。大剣の必殺スキルが使用可能になった時点でそれを発動。その時に、後方で待機するエルとウヅキが何らかの形で攻撃魔法の威力を増大させる支援攻撃を行う。威力を増大させた雷属性の攻撃の後、約束された勝利の剣による物理攻撃および必殺スキル「聖 杯 の 祝 福」を発動。
これの繰り返しでルキウス討伐が可能である、というのがエルの予測だ。――「聖 杯 の 祝 福」の発動条件が未だに判明されていないのがネックだが――
接近戦に持ち込んだ俺を見て、ルキウスはその顔を愉悦に歪ませた。
「あらァ、『魔王軍四天王・魔剣士のジュン』直々に来てくれるなんてェ……感激しちゃうワ」
俺の剣撃を冷静に杖で受け止め、そのまま弾き返すルキウスに俺は舌打ちする。同じ魔術師と言っても、性別による力の差は出来てしまうモノなのだろうか……。少なくとも、今のがエルに入れた振りならば、大ダメージを与えられただろう。それとも、やはりエルの師匠というだけあって、その能力もエルより遥かに上なのだろうか。
俺は態勢を立て直すと、再び剣を振りかぶる。相手にもそれなりに近接戦闘の心得がある様子が見える以上、下手な小細工は無用だ。
俺が攻撃をルキウスにヒットさせるごとに、雷属性であろう小さな稲妻が飛び散っている。が、ルキウスはそれもお構いなしに、霰の全体魔法の威力をより強めてくる。……不気味な笑い声を上げながら。
どうやらこの程度の稲妻ではルキウスへのダメージにはならないらしい。
俺は攻撃の手を休ませることはせずに、現在使用している武器のステータスを確認する。……何も考えずにエルの作戦を鵜呑みにしていたが、これでこの大剣のスキルが補助スキルだったりしたら一大事だ。
装備リング:約束された勝利の剣(レア、火属性、使用可能必殺スキル「聖 杯 の 祝 福」)
倶利伽羅(レア、火属性、使用可能必殺スキル「業火の理」)
イエローソード(雷属性、使用可能必殺スキル「ボルト」)
「必殺スキル」という表示に内心ホッとする。「装備時発動能力」だと攻撃には使えないスキルという事なので、少なくともこの「ボルト」というスキルは攻撃用スキルであるようだ。
雷属性大剣・イエローソードでルキウスへの物理ダメージを重ねてはいるが、正直あまり手ごたえらしきものを感じない。これが倶利伽羅や約束された勝利の剣のようなレア級の剣ならば多少は違ったのかもしれないが……いや、今は雷属性の装備を入手できたこと自体を喜ぶべきだろう。少なくともルキウス相手の現状ではこの剣が切り札だ。
俺の剣撃を防ぎながらも、霰の全体魔法を行使し尚且つ俺へのロッドでの近接攻撃を加えてくるルキウスに、苦戦しつつも俺は雷属性スキル「ボルト」の発動の機会を窺っている。剣の柄に付いている黄色の宝石から黄色の光が溢れているところを見ると、おそらくスキルの発動自体は出来るはずだ。問題は……後ろで何やらわちゃわちゃと揉めている様子の後方支援の二人だ。どうやらまだ体制が整っていないらしい。そういえば、どのようにスキルの支援を行うのかは具体的には訊いていなかった。恐らく二人が揉めているのはそれについてなのだろう。
……二人の態勢は一旦見なかったことにして、「ボルト」を発動させるべきだろうか……?
「後ろのお二人、大丈夫なのかしらァ?」
ニヤリと怪しく笑みを浮かべながらそう言うルキウス。しかしそれは俺の注意を後ろの二人に向ける為の罠だ……多分。
「うるせーよ」
自分でも律儀だな、と思いつつそう答える。全体魔法の攻撃が出来るルキウスならば、後方に控えているエルとウヅキに標的を変えて攻撃魔法を放つくらい出来るだろう。エルの防御魔法があるとはいえ、未だに態勢を整えていない二人の方には出来るだけルキウスの注意を向けたくないので、あくまでもコイツの相手は俺だと言う事を主張する。
「あらァ……さながらお姫サマを守る騎士ってとこなのかしらァ……ロマンティックねェ~、うらやましいワ」
そう言いながらも、さらにロッドでの打撃を加えてくるルキウス。エルもよくロッドで俺やウヅキをど突いてくることはあるが、それとは明らかに攻撃の重みが違う。というか、ロッドを打撃に使用するのは使い方として間違いではないのだろうか……?
ルキウスの全体魔法の威力の増大具合が更に増してきて、もはや周囲がホワイトアウト寸前という視界の悪さに達している。これでは後方からの支援も厳しくなってくるだろう。……一度支援無しのダメ元でも、スキルを発動させた方が良いかも知れない。それとなく後方に視線を送るが、既に俺の視界では二人の姿を確認することが出来なくなっている。
意を決して、俺は雷属性スキル「ボルト」を行使する為に剣に集中する。どうやら必殺スキルの発動の方法は、倶利伽羅の「業火の理」と同じで良いらしい。……相変わらず親切設計ドーモデス。
俺はルキウスを睨み付けながら、スキルを行使する。……次にこのスキルを発動できるタイミングがわからないのが不安だが、宝石から光が溢れだしたタイミングから考えると、次の行使にもそう時間は掛からないはずだ。
「『炎雷』」
しかし、俺の放った必殺スキルは、装備データとは違う名称になっており、黄色の宝石が填められていたはずのイエローソードは、全体的に元の色よりも若干赤みを帯びた色に変化しており、宝石の色も赤みを帯びた黄色に変化している。そして……その必殺スキルの属性も本来の雷属性に俺の固有属性でもある炎属性が混じった不可思議なモノに変化していた。
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