3-4.Reincarnation -Reincarnation-
昼食を平らげた俺とエルは早速、先ほど購入したリングに武器や装備を組んでいく作業に入ることにした。メインとなる装備リングには職業の関係上、剣類しか装備できないようだ。補助リングには装備リングから溢れたモノの中から、エルの指導によって武器や装備品を組み込んでいく。俺には良く分からないが、装備にも相性があるらしく、エルがウンウンと唸りながら俺の補助リングを組み替えていく。
結局、全てのリングに装備品を組み込み終える頃には、太陽はすっかりと沈み、街の市場も店仕舞い。挙句の果てには、居座っていた食堂の店員から夕食の注文を聞かれる始末で、俺とエルは慌てて宿へと戻ったのだった。
「おかえり」
宿の食堂で待ち合わせをしていたウヅキが、すっかり不貞腐れた様子で迎えてくる。昼間は何をしていたのか尋ねると、ギルドで低ランクハンターへの武術指導をしていたという。カンストするとそういったクエストも受けられるようで、ウヅキはよく暇つぶしに受諾することが多い案件のようだ。……もしかしたら、俺と会うまでは、そうやって見込みのあるハンターを見繕って即席パーティーなども組んでいたのかもしれない。
「あぁ」
「お待たせして申し訳ないけれど、もう1日借りるわよ?」
「えっ、マジ?」
「……もとはと言えばアンタの指導不足が祟ったんでしょうが。まさかリング組むだけで1日使うとは思ってなかったわ。物理攻撃系の職業のリングって、どうも組みなれないのよねぇ」
「リング組むならオレにも言ってくれればよかったのに」
「アンタどうせ回避と耐久極振りでしょ参考になんないわよ」
「アッ、ハイ」
……どうやらエルのウヅキのリングの内容の予想は当たっていたようで、ウヅキは居た堪れない様子で黙り込んでしまった。
夕食の料理をそれぞれ注文し、ウヅキがエルにこってりと絞られているのを尻目に、オレは昼間組んだリングやステータスを確認する。
装備リング:約束された勝利の剣(レア、火属性、使用可能必殺スキル「聖 杯 の 祝 福」)
倶利伽羅(レア、火属性、使用可能必殺スキルなし)
レッドスラッシュ(火属性)
クリムゾンスラッシュ(火属性)
クリムゾンソード(火属性、装備時発動能力「アイスガード」)
補助リング:レア級グローブ×20(火属性5、風属性5、土属性5、雷属性5)
レア級ロッド×20(火属性5、雷属性5、氷属性3、土属性7)
レア級アクセサリ×20(全て火属性)
レア級アクセサリ×20(火属性3、雷属性7、風属性5、土属性5)
ジュン-男
属性-火 職業-剣士 Lv.99
称号-カンスト、駆け抜ける初心者 通り名-宝具の収集者、女王の番犬
周回数-1(+1)
「おい……ちょっと待て」
明らかに身に覚えのない通り名が付いている気がするんだが、気のせいだろうか。……きっと目の錯覚に違いないむしろそうであってくれ。
「どうしたのよ」
「どうかしたか?」
驚愕する俺に反応したのか、(一方的に)言い争っていた二人が俺のステータスを覗き込み……盛大に笑い出した。それはもう二人の腹筋が6つに割れるんじゃないかってくらいに。
「いや笑ってる場合じゃねーだろ何なワケコレは!」
とりあえず笑い過ぎてむせ始めたウヅキの背中をどつく。どつかれたウヅキはヒイヒイ言いながらも説明を始める。
「通り名ってのは、他のハンターとか一般人がオレらを見て呼んだり付けたりしたあだ名みたいなモンなんだよな。たまに持ってる装備とかギルドのクエストの完遂条件によって付いてるのもあるみたいだけど……てか女王の番犬って!」
再び笑い始めたウヅキはもう放って置くことにする。問題はいつ、この通り名が付いたのかだ。
「通り名って、特別に設定しない限りは、一番古いモノが最初に見えるようにつくらしいから、ジュンに最初に付いた通り名は番犬で確定みたいね……って言うか、コレ、森で確認した時には付いてなかったわよね? 『収集者』はきっと、リングを組んでいる時に勝手に付けられたモノだとして……。ねぇ、ウヅキのステータスも確認してみない?」
一方、一通り笑い終えたエルは、冷静に俺のステータスを分析した後、悪戯っぽくそう提案する。俺もその案に賛成し、未だに笑い続けているウヅキにステータスを表示させた。
ウヅキ-男
属性-風 職業-狙撃手 Lv.99
称号-カンスト,狙撃の神,他 通り名-神 風 射 手、女王の番犬
周回数-1
今度は俺が笑う番だ。
その日の晩は、各々個別に部屋を取ることにしてあったので、夕食を摂り、明日以降の打ち合わせを軽くした後、俺達はそれぞれの部屋に引き上げることにした。
俺は自分の部屋に入ると、溜め息を吐く。今思えば怒涛の如く過ぎ去った数日だ。目が覚めたと思ったらいきなりワケ分からんコトばっかり言う女に会ったと思ったら、自分の死ぬ前(所謂「転生前」ってヤツか?)を知っているとかいうヤローとパーティーを組むことになり、あまつさえそいつがカンストハンターだという事もその後になってから知り、「闇堕ち」に遭遇したら助けたはずの女には杖を向けられ、今はそんなカンスト魔術師と行動を共にしていて、とうとう俺までカンストハンターの仲間入りを果たしてしまった。
……というか、フツー、レベルをカンストさせるのが最終目標になったりすると思うのだが、早々にカンストしてしまったこの場合、今後はどう過ごせばいいのだろう。
ガラにもなく難しいことを考えつつ、そろそろ寝ようか、とまだ完全に揃えきれていない装備を外していく。
「ジュンー! ひっさしぶりーっ!」
……出やがった。何だか本当に久しぶりに見るような気がするユニは、相変わらずのフリフリロリロリな服装で、長い黒髪を月光に反射させている。
部屋の施錠はしっかりと行ったし、窓もきっちりと閉めたはずなのに、一体どこから入ってくるんだ?
そんな俺の疑問は余所に、ユニはペラペラとまくし立てていく。
「ジュンったら遂にカンストしたんだねーおめでとー! ……なんか余計な通り名まで付いちゃったみたいだけど、ま、特に気にしなくてもいっか…………あのねー、今日はジュンに、とってもイイお知らせを持ってきたんだよー」
両手を広げながら部屋の中を走り回るユニに、両隣りのウヅキとエルの部屋(特にエルの方)を気にするが、不思議と抗議の声は聞こえてこない。
「うっせーよもう夜だぞ静かにしろっていうか出てけ」
「ひっどーい! でもそんな反応も相変わらずだぞ☆っと」
ついに語尾に星マーク付けやがったコイツ。そんなことは置いておくとして、両隣(特に女王の方)からいつ抗議の声が聞こえるともわからないので、手短に帰って頂きたい所存だ。
「あー、じゃあそのお知らせとやらだけ聞くから、ソレ話したらとっとと出てけ、な」
「あっ、聞いてくれるのー!? じゃあ早速準備しなくちゃねー!」
俺の目の前に現れた時から崩れない笑顔を浮かべ続けながら、ユニは先程外した俺の装備を渡してくる。
「……は?」
「えっとねー、このお知らせはぁー、ちょっとココでは言えないんだー。だから、ジュンはお外に行く用意をしてね!」
ここでは言えないって何だよそれ。でもまぁ、ユニをこの部屋から出してしまえば関係ないだろう。そう思った俺は、ユニに促されるままに装備を再び身に着け始めた。
「うん、準備オッケーだね! じゃあこのまま、れっつらごー!!」
ユニに背中を押される形で部屋を出た俺は、そのまま宿も出たのだった。
「……アイツ、こんな時間に何しに行くのよ……?」
まさか目撃者がいたとも気づかずに、俺は宵闇の街へと出て行った。
「おい、ココって」
ユニに背中を押されながら俺がやってきたのは、夜の森だった。確か、夜の森は専用のクエストを受諾していないと入れないとエルやウヅキが言っていたはずだが。
人気も灯りも無い、真っ暗な森の中を、俺は奥へと歩いて行く。いつの間にか背中を押していたはずのユニは、俺の手を取り先導する形になっていた。
「何かのクエストの手伝いか? それなら昼間に予め言っておいてくれないと……」
森に入ってから、話しかけてもユニからの返事は無くなり、ひたすら森を深部へと突き進んでいく。逆に怖いくらいにモンスターにも出逢わずに歩いて行く。
「なぁ、ユニ?」
「……ジュンが悪いんだよ?」
突然止まったユニにぶつかるが、ユニが何かをぼそりと言ったのが聞こえて思わず聞き返す。
「え? 何だって?」
「だから、ジュンが悪いって言ってるの」
ぶつかった姿勢のまま、ユニは再び繰り返した。……なんで俺が悪者になってんだとか、疑問は尽きないが、身長180cm代後半はゆうにある俺が150cmあるかどうかも怪しいユニにぶつかったことに対しては、若干胸が痛む程度の良心は持ち合わせている。
「ぶつかったのは悪いって……てかそっちがいきなり止まるから」
「ジュンは私と一緒に世界を守ってくれてればよかったのに、あんなしょーもナイ奴らとつるんで、しょーもナイ通り名だとか付けられちゃって、カワイソーだよ。だから最初に言った通りに私と一緒に、私だけと一緒に居ればよかったのに、ジュンってばカワイソウ。だからね、もう1回やり直しさせてあげるの。そうすれば、また私と一緒に世界を救えるよ? ねぇジュン、私と世界を救ってくれるって言ったモン、ねぇ? ジュンは私だけと一緒に居ればイイの。私だけと一緒、ジュンは私のモノなんだからそれが当然なんだよ? ねぇジュン、今どんなキモチ? 痛いの? 苦しいの? でもすぐにラクになるからねー? だってこれ以上苦しむなんてジュンがカワイソウだもん、ね? それで、今度こそ、次こそ、私だけと一緒に居ようね? 私といればジュンは怖いモノなんてなーんにも無いんだから。そうよ、ソレがいいのよ、そうに決まってる! ジュンは私だけと一緒にいる方が幸せなの。そうだよねぇ、ジュン?」
ぶつぶつと何かを呟きながら俺から一歩下がるユニ。ユニの顔があった鳩尾のあたりに、ナニカが刺さっている。若干痛む、どころじゃない。知覚するとその痛みはさらに増してくる。
痛んでいるのは良心なんかではなく、紛れもない現実の俺のカラダだった。
ユニに文句を言おうと、口を開きかけるが、その口からはごぷりと赤い液体が噴出してくる。
痛い、イタイ。
ただ痛覚だけが俺の全身を襲い、それ以外の感覚が無くなっていく。
ぶつぶつとまだ何か呟いているユニの姿が見えなくなる。
ジュンったらカワイソウ、カワイソウなジュン。
そう思うなら、何故お前は俺を刺したんだ?
口に出せない疑問も、ユニの呪詛のような声も、聞こえなくなっていく。
そして、俺は音も何もない、ただ黒いだけの虚無に包まれていった。
「ジュン!? どこにいるの、ジュン!? 返事をしなさい! ジュン!」
「なぁ、アレ……」
「……ウソでしょ!? ねぇ、返事しなさいよ! ねぇったら!」
「ジュン!」
ひと段落ついたので、サブタイトルの解説っぽい何か。
0.The Prologue -Re:loaded-
意訳:プロローグ。リローデッド。既に2周目以降であることがタイトルからばれてしまっているという盛大な出オチ。
1-1.Shuumatsuron -Eschatology-
意訳:「終末論」。サブタイトル2つが同じ意味。ユニの言う「世界の終り」についてジュンがまだ囚われていることを示唆しています。
1-2.Shuumatsuron -Quest-
意訳:クエスト。だんだんとユニの唱える「終末論」から解放されるジュン。クエストにのめり込むようになります。
1-3.Shuumatsuron -Resumption-
意訳:「再会」。ジュンとウヅキの再会。もっとも、ジュンにとっては初対面なわけですが。ウヅキとの会話によって、ジュンは完全に「終末論」を頭から消し去ります。
2-1.Party -Swordsman-
意訳:剣士。ジュンの事を指しています。同時に、ジュンの過去について知るきっかけが明確に出てきたのもこの話。
2-2.Party -Sniper-
意訳:狙撃手。ウヅキの事を指しています。ウヅキが過去のジュンについて種明かしをしてくれます。
2-3.Party -Magician-
意訳:魔術師。エルの事を指しています。エル様の講義無双が始まる記念すべき回(笑)
2-4.Party -Three Munsell-
意訳:3人一組。パーティ編成が終わりました(笑)。同時に、過去にジュンが壊滅させたパーティの話しも聞き出すことが出来ます。
3-1.Reincarnation -lecture-
意訳:輪廻。講義。エル様は話し出すと止まらない(笑)。実はエルのモンスター講義の他にも、地理についての情報も出ています。
3-2.Reincarnation -harvest-
意訳:収穫。ひたすらクエストをしているだけの回。そのクエストでの「収穫」はジュンにとってはかなり大きかったはず。書いてないけど(笑)
3-3.Reincarnation -remuneration-
意訳:報酬。エル様の小間使いが終わった後のジュンへの報酬。装備に関してはウヅキはあまり詳しくなかったようですね(笑)
3-4.Reincarnation -reincarnation-
意訳:輪廻。ユニさん久しぶり!(笑)
全体的に女子が怖いですが、頑張れ男子!(続きますよ?念のため……)




