3-2.Reincarnation -Harvest-
ひたすらクエストしてるだけです笑
「ま、今日はこんなとこかしらね」
纏めて討伐したマジロックスの残骸を尻目に、エルはクエストの受諾書を見ながら言う。俺も受諾書を見てみるが、モンスターの討伐数もといクエストの進捗はせいぜい五分程度と言ったところじゃないだろうか。
「今日は、って、明日もやるのか?」
「当然よ。だってこのクエスト、ウィークリー扱いだもの」
俺の疑問にやはりあっけらかんと答えるエル。「一日みっちり」と言っていたので、クエストは今日のみの手伝いかと思っていたのだが。……俺が「一週間」と「一日」を聞き違えたのだろうか? ウヅキは特に疑問に思ってないらしく「そっかーウィークリーかー」とか言っている。一見朗らかに見えるがその表情筋は俺といい勝負な程度にはストライキを起こしている。
そもそもクエストにはその日のみで受諾・完了報告をする「デイリー」と、7日間ほどの日数をかけて達成する「ウィークリー」がある。俺はてっきりデイリークエストだと思っていたのだが、どうやらエルが受諾してきたクエストはウィークリークエストばかりのようだ。言われてみれば、デイリーのクエストとはモンスターの討伐数やレア度も異なるので、見る人が見ればわかりやすいのかもしれないが。
「それじゃ、いったん街に戻るわよ。夜の森のクエストは受諾していないし、用もなくうろうろするのは危険だわ」
茫然としている俺とウヅキにエルはさらにそう付け足す。
「え、戻るのか? わざわざ?」
「もちろんよ。私、野営ってあまり好きではないのよね」
ウヅキと二人の時は宿のことなど気にも留めなかったが、エルはやはり女子だからだろうか、一応衣食住に関してはこだわりが強いように見える。
結局、俺達はかなり深くまで進んだ森を引き返して街へと戻り、宿を探す羽目になったのだった。
「やっぱりクエスト帰りに適当に探した宿はダメね。ウィークリークエの時点で宿は予約しておくべきだったわ」
街に戻り、森に比較的近い場所に宿を探したが、結局質の悪い宿しか取ることが出来ず、食堂で落ち合ったエルは不満タラタラと言った様子だ。食堂を見回してみるが、女性のハンターはほぼ姿がなく、唯一の女性であるエルは男性ハンター達のあまり心地よくは無いであろう視線を浴びている。……俺とウヅキがいなければ簡単に襲われてしまうかもしれない。
エルはカンストハンターではあるものの、俺達とは違い物理的な「力」に関してはほぼ一般人と大差ないレベルなのだ。物理職業が多い男性ハンターばかりで質も悪いこの宿では、エルはあまり一人にはさせない方が良いだろう。
この判断により、俺達は3人部屋を取ったのだが、エルの不満はそこにもあるらしい。夜は一人で過ごすのが好きなんだそうだ。これには俺も一応は賛成意見だが、この状況では贅沢は言っていられない。
あまり雰囲気の良くない食堂と、味もお世辞にもあまり良いとは言えない食事にさらにエルが不満を溜めるのを避けるため、俺達は早々に部屋へ引き上げたのだった。
翌朝、早速今日の宿(「氷華の女王」様お墨付きの一流宿だ)を手配した俺たちは、昨日のクエストの続きをするために森へと入って行った。
昨日ウヅキがウッドソルジャー(何気にレアモンスターだ)の群れに入り込んだおかげで、ウッドソルジャーの討伐のクエと、ウッドと一緒に出現することの多いツルクサボウズとデクビースト等のモンスターも半数以上は討伐していた。
「このペースなら早ければ今日中にでも終わらせそうね」
5匹のコウラリアンの群れを氷属性の魔法で1体ずつ倒して行きながら、エルがそう言う。俺はウヅキと一緒にマッスルシシーとゴブリンの群れに向かいながら適当に返事をする。互いにモンスターとの戦闘中なので受諾書を確認する余裕もないが、確かに今日中にクエスト自体は終わらせられそうなペースでモンスターは討伐できている。
ちなみに、このクエストが終わったら、俺はエルに装備とやらを選んでもらう約束を取り付けてある。エルの方もまんざらではないようだ。……一人置いてけぼり状態のウヅキが若干不憫だが、そこは仕方ないので諦めてもらうとしよう。
「またウッドの群れだ! 何なんだよ昨日から!」
ちょっと目を離した隙に、ウヅキはまたウッドソルジャーの群れに遭遇したらしい。ウッドソルジャーは既に目標の討伐数に達しているため、今出現されても時間の無駄にしかならない(何気にレアモンスターなので、戦闘中の逃避が出来ないようだ)。
「いい加減にしてよウヅキ! 時間のムダじゃない! ジュンも経験値溜めたいなら来なさいよ!」
エルもこればかりは倒すのが面倒らしく、俺にも声をかけてくる。というか、はっきり本人に「時間のムダ」とか言えるあたりは尊敬できるようなできないような微妙な感じだ。
「結局今日中には終わらなかったじゃないの!」
日が暮れた後、朝手配しておいた宿に着いた俺達が食堂で落ち合った時、氷華の女王様は見事にご立腹だった。ウッドソルジャーの群れに時間をかけ過ぎたせいで、寸でのところで今日中でのクエスト完遂が出来なかったのだ。
申し訳なさそうにうなだれるウヅキを慰めようかとも思ったが、エルの怒りの矛先が思わぬ方向に向かうことを考えると、下手に動かない方が無難だ。
そういえば、さっきわかったことなのだが、クエストを受諾した朝、俺達とエルが話しているのを見たハンター達がざわついていたのは、単純にエルがカンストハンターだからというワケでもないらしい。通り名の所以でもあろう女王様的な性格や態度から、なかなかウマの合うハンターもいないらしく、エルの方からも誰かに話しかけることはおろか挨拶をするという事自体かなり稀らしいと小耳に挟んだのだ。ちなみにウヅキの方はというと、エルとは真逆の評判で、気さくで話しかけやすいがカンストハンターの威厳はあまり感じられないという。……どちらがイイとかはこの際置いておこうと思う。みんな違ってみんなイイって誰かが言っていた気もするし。
「そういえば、あれだけウッドソルジャーと戦ったんだから、ジュンも少しはレベルとか上がってんでしょうね!」
結局動こうが動かまいが、女王の怒りの矛先は来てしまったようだ。
「そうだな、確かめてみるか」
もっとも、この数日間エルと共に行動していて、感情的になっているエルに対してはこちらも感情的になってはいけないという事は学習済みだ。……他の女性ハンターもみんなこんなカンジなのだろうか?
ジュン-男
属性-火 職業-剣士 Lv.89
称号-駆け抜ける初心者 通り名-なし
周回数-1(+1)
「あら、もうすぐカンスト間近じゃない! じゃあ明日は目標達成し終わったらジュンのレベルでもカンストさせましょ! ……ウッドソルジャーの群れに突っ込む達人もいるわけだし?」
一瞬浮上したかの様に見えたエルの機嫌だったが、やはり今日のクエで時間を予想以上に取られたことに対しては根に持っているらしく、ジトリとウヅキに視線を送ったのが俺からでも確認出来た。




