トウギ
こういうのもなんだが、俺は人の心がある程度解る。解ってしまう。
殆ど生まれつきだった。別に家庭環境が特別で、そういう技術を身につけないと生きていけなかったってわけじゃない。ただ、人の表情を見れば今何を感じてるのがなんとなく解るし、どうしてそんなふうになったのかとかもある程度なら予想出来る。質が悪いのは、それが大抵当たるってことだ。
それと、産まれつきで体格も良いほうだった。小学生とかの時は体格が良いってだけでリーダー格やってたからな。だが、それにも限界が来た。リーダー格として持ち上げられる事に嫌気が差したんだ。
そして中学に上がって俺は荒れた。
とにかくストレスが溜まっていたため、暴力に走る事も多々あった。
だが、不思議なもんで荒れていても人は近付いてくる。類は友を呼ぶ、とでも言うべきか、そういう類の連中が俺の周りに集まってきた。
虎の威を借りんとする狐も居た。不良ってレッテルに憧れてるだけの女も居た。俺に近付いてあわよくば寝首を掻こうってやつも居た。だが、それが事前に解っていた俺は、そういう連中をさっさと追い払った。
つまらない。
そう思ったのは、中学の三年になった時、既に俺の近くには誰も寄りつかなくなってい時だ。とはいえ、誰かが近付いてきたところでそいつも退屈な人間だろうがな。
そう思っていた時だった。
修学旅行の班分けも当然のようにあぶれた俺はもう一人のあぶれたやつと組む事になったのだが、そいつは失礼な事に俺の名前を読み間違えやがった。
何故か、それが異様に愉快だった。
随分と久しぶりに笑った気がした。
結果、修学旅行は悪くないと思えるものだった。
俺の名前を読み間違えた馬鹿は俺の予想を上回る馬鹿で、俺の予想を裏切る言動を連発した。
なんでこんなやつがクラスで孤立してたんだ? とも思ったが、調べてみればすぐに解った。そいつは学校中から気持ち悪がられていたんだ。そういう境遇も何故か、俺にとっては予想外で、だからこそ、面白かった。
しかしそれでも、俺の心は腐っていたらしい。いつしか俺は、そいつに向かって弱音を吐いた。
――つまらねぇ。
――こんなつまらねぇ世界なら、ぶっ壊しちまいてぇ。
するとそいつはあろうことか、俺にアニメなんぞを紹介してきた。俺の言動を中二病の症状だとでも思ったのかもしれない。
藤技っつうキャラクターが主人公のファンタジー。ただ単にそこまで強くない主人公が仲間と協力して、時に敵だったやつと共闘して、数々の敵を倒していく物語。
しかし当時の俺にとっては、その展開が予想外の連発だった。
気付けば俺は、それにのめり込んでいた。
――それが、俺が二次元と、そしてツキヒと出会った経緯だ。