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傷だらけのパラノイア  作者: 根谷司
cage in the princess
18/26

始まりに焦がれたエンディング

 全てが終わると、俺とポーターは保健室の前に立っていた。盗み聞きしたツキヒ達のやり取りも、パーソナルワールド内でのツキヒの活躍も見てしまった以上は、流石の俺も驚かざるを得ない。


「あんた、月島があんな力を持ってるって、知ってたの?」


 俺の心を代弁したかのようにポーターが問う。俺は鼻で笑い、当たり前だろと強がってみせた。


「あいつが馬鹿だから。ってのは勿論だが……」


 俺は少しの間を開けた。


「あいつの武器が、骨で作られた弓矢だった、ってのが最大のヒントだったな」


「……どういう意味よ」


「自己犠牲って意味だよ」


 自分の骨を削って作らされた弓矢。ツキヒは宝生に、誰かの血を混ぜた幸福に幸せなんて無いと言ったが、それをやっていたのは他のなんでもないあいつ自身だ。


 宝生の心にツキヒの言葉が届いたのもそうだろう。


 ツキヒが宝生を自分と重ね、感情移入したうえで、あいつは、自分が当時言って欲しかった言葉を言っただけなのだ。


 成る程ね、と頷くポーター。しかし顎をしゃくれさせたその表情から察するに、理解したふりなんだろうがな。


「てゆーかどうしてあんたは、あたしが感情操作して無理矢理協力させてるって知った後も協力してくれたの?」


 なんだよこいつ、さっきから質問が多いな。


「まぁ、なんだ。あれだ」俺はなんとなく気恥ずかしくなり、頭を掻きながら答え。「ただちょっと、見てみたいもんがあったんだよ」


「……?」


 首を傾げるポーター。そりゃそうだろうな。これは、俺とツキヒにしか解らんだろ。


「ま、とりあえずこれで一件落着なわけだ。増援さん達も来たことだし、一段落しようぜ」


「は? あんた何言って……ああ、消えろってことね」


 卑屈な言い回しではあるが正解だ。廊下の向こうから走ってくる朝間と石動にポーターの姿は見せられないだろうからな。つっても、ポーターは今制服を着てるから見られてもそこまで問題無い気もするんだが。


 ポーターは溜息を吐きながらも言う通り、どこかの影に隠れた。どうでもいいが、天使見習いがこそこそする様ってのはなかなか滑稽だったりする。


「藤枝。二人の様子はどうだい?」


 保健室に入る前にそう確認してくる石動。走ってきたってのに、なんで息ひとつ乱して無いんだ?


「み、み、みみみつ、美月、ちゃん、は、早い、よ……」


 斜め後ろに着いてきてた朝間はこんな様子だってのに。つーか噛み過ぎ。


「二人共起きた。今は……まぁ、中に入って確かめよう」


「そうだね」


 息がドアノブに手を掛けると、石動と朝間が俺の後ろに続く。


 そして、扉を開けたそこには……。


「宝生さん落ち着いて! 君はもう立派な高校生なんだよ!?」


「やだ。立てないからおんぶ」


 ……両手を広げて「抱きしめて」的な体制をしてる宝生と、一歩身じろぎしながらもかっちんこっちんになっているツキヒが居た。


「立てないからおんぶという考えは些か思慮に欠けると思うんだ。僕らはほら、年頃なわけだし」


「大丈夫。私は永遠の七歳だから年頃じゃない」


「桁がひとつ足りないよ!? 普通は永遠の十七歳とかって言わないかなぁ!」


 なにやってんだ、あいつら。つうかあれ、本当に宝生か?


「人に無条件で甘えられるのは小学生まで。だから私は永遠の七歳が良い」


「下がりすぎだよ! 自分勝手になるのと幼児化するのは意味が違うと思うんだ!」


「そういう概念ごと失くせたらたら良いな、と画策する七歳に私はなりたい」


「賢すぎる七歳児!?」


 コントなのかマジトークなのかいまいちよく解らん。


「…………たった数十分の間に何があったんだい……?」


 後ろから冷めた石動の声がする。冷めた、というよりも、驚き過ぎて声の抑揚が逆に無くなってしまったと言うべきか。


「たった数分目を離したらこうなってた」


 ピクシーが宿った騎士達を殆ど倒しちまったから、これから宝生は、多少なりとも周りを気にする事は減るだろうとは思ってた。


 が、


「あ、みっちーにあーちゃん。心配掛けてごめんねー。心配ついでに私を抱っこしてくれたら嬉しいかも」


 これは減りすぎだ。


「えっと、な、なんで、抱っこ、なの?」


 何故か現在一番普段通りなのは朝間だった。いつもテンパッてるから普通ならテンパル状況だと普通にでもなるのだろうか。


 宝生はこれでもかと言わんばかりの笑顔でもって告げる。


「今なら女の子でもいける気がするっ!」


 そして、空気が死んだ。


 成る程。そうか。そういう事だったのか。全て解った。ようやくなにもかもが繋がった。


「宝生さん。あのね、女の子がそういう事を言ったらいけないと思うんだ。というかそもそも、同性愛はどうかと思うよ?」


「え? でも月島君と藤枝君は付き合ってるって、ファンクラブの皆が言ってたよ?」


「なんで宝生さんのファンクラブで僕らの話題が上がるの!? というかその噂本当に流れてたの!?」


「本当に流れてたよー? でも、私のファンクラブで流れてたんじゃなくて『藤枝×月島を見守る会』で――月島君待って! ここは保健室だよ! そんなところで首を吊ろうとしちゃ駄目だよ!」


 首を吊るも何もツキヒが手を掛けてるのはただのカーテンだ。そんなんで死ねるわけが無い。俺が手本を見せてやる。


「待つんだ藤枝。ここは一階だから、窓枠に乗ったところで頭から落ちても死ねない」


「っち」


 ぶっちゃけ俺も死にたくなった。だが、人は簡単には死ねないんだな。石動に止められなかったら無意味な負傷をするところだったぜ。


「宝生さん……ファンクラブがあるって、とても辛い事だったんだね」


 と、呆然と呟くツキヒ。だが、宝生のファンクラブと俺達を見守る会ってのは勝手が違うだろう。ってか、なんで宝生はそこで流れてる噂を聞いたんだ? まさかそいつらと繋がりがあるのか? いやそれ以前に、そんな会がある時点で噂も何もねぇじゃねぇか。


 ぎゃーぎゃーと喚く宝生とツキヒ。それに便乗、というよりも巻き込まれていく石動と朝間。その様子を一歩下がったところから見て、ふと考える。


「あの本性は確かに、隠さねぇと心配されるわな」


 隠す、というより、抑えていたと言うべきか。ずっと隠してきた本性があれでは、正直引かざるを得ない。……今の日本語、間違ってる気がする。


 とにかくだ。


 ツキヒが自分と重ねた宝生は、こうやってささやかな願いを叶えた。報われる事が出来た。なかなかどうして微笑ましいもんだ。


 なぁツキヒ。お前、気付いてるか? いや、お前の事だから、きっと気付いていないだろう。


 敵だったやつと共闘して、困難に打ち勝つ。


 俺達が二次元を崇拝するきっかけになったアニメの、誰もが報われるエンディング。三次元には有り得ないと思っていた展開だ。


 それが今、お前の眼の前にあるんだぞ。


 誰に言うまでも無い言葉を頭の中だけで反芻して、俺は賑やかな保健室を後にした。






 ちなみに。


 翌週、宝生のファンクラブが『宝生さんをそっと見守る会』に改名したらしいが、それが宝生の性格が変わったからなのか、それとも宝生の中に居たピクシーが起こしていた超常現象が無くなったからなのかを確かめる手段は、きっともう無い。










     虹の麓編~完~

 お楽しみ頂けたのなら幸い。ここまで読んで下さった方がおりましたら、心よりお礼申し上げます。本当にありがとうございます。


 人の悩みをテーマにした、というには悪ふざけが過ぎた作品。自称色々と書いている僕からしても、ここまでシリアスとコメディーのギャップが激しい作品は他に無いと思います。ちょっと、読んでて疲れるかもしれませんね。でも、僕はこういうのが好きなんです。シリアスとコメディーの両立、というか、シリアスにもコメディーにも転ばせられるような設定が大好きです。

 

 最初のうちはここいらで終わりにする予定でしたが諸事情で、ほんと、ただのしがない諸事情で、続きも載せてしまおうと思い至りました。


 もしよければ、続きもご賞味下さい。

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