手紙と直接
「――前から思ってたんだけどさ、手紙での告白って何かおかしくない?」
学校からの帰り道。楓は突然そんなことを言い始めた。
「…え?」
「明らかに不便だし、かさばるし、良いとこ全然無いじゃん。ねえ?」
「ねえ、って言われても…どうしていきなり?」
さっきまで、今日の学校での話をしていたはずだ。それなのにどうして……まさか気付かれた?
「いや、何となく思いついたの。手紙って告白の方法としてどうかなって」
「そ、そうなんだ…」
それにしてはタイミングが悪すぎる。僕は思わずポケットをかばいながら考える。
――実は今日、僕は楓に告白するつもりだった。…このポケットの中には楓へのラブレターが入っていたりする。
「まずさ、手紙って読む手間がかかるじゃない?それに付き合うにしても断るにしても、その場じゃ答えにくいから、受け取る側は迷惑でしょ」
楓は手紙での告白を遠慮なく否定する。楓の言うことは確かに筋道が通っている。…でも、ここで引き下がれない!
「でもさ、手紙の方が気持ちがこもってるんじゃないかな?」
手紙は書く側にとっても手間がかかるし、それなりの覚悟が無ければ書けないものだ。それに、言葉では伝えられない思いも手紙なら伝えられる、ということもある。普通に告白するよりは気持ちがこもっているんじゃないんだろうか。
「それってただの自己満足でしょ?」
しかし、楓はそれを簡単に切り捨てる。
「手紙だろうと直接だろうと、どっちも覚悟が必要なことには変わり無いじゃない。ただ手間がかかるだけよ。それに思いは直接言った方が届くわ」
「――っ!確かにそうかもしれないけど…手紙の方がロマンチックっていうか…」
僕は反論されることを分かっていながらも、弁明を続ける。
「別に直接の告白だってシチュエーションによってはロマンチックだけど?」
しかし、もちろん、楓は当たり前と言わんばかりに僕の弁明を切り捨てる。
それでも僕はまた考える。手紙は文字だからこそ良い、手紙の方が人気がある…
「そう…だね」
…駄目だ。これ以上手紙での告白を正当化できる言葉が、僕には見当たらない。僕は唇をかむ。
手紙での告白を否定されてから手紙で告白できる勇気なんて、僕にはない。…僕にはまだ、告白は早すぎたのだろうか。
肩を落とす僕を彼女は見つめる。そして、小さくはにかむとこう言った。
「だからさ、すれ違い告白なんてどう?」
「…え?」
楓はそう言って突然歩調を早めると、少し先の方まで歩いていく。そして、途中で引き返すと、僕の方に早足で向かってきた。僕らがすれ違う。
――あなたが好きです。付き合って下さい。
…僕の耳に入ったその声は、一瞬楓の声なのかと疑うくらい甘くて、心地いい声だった。そして、それと同時にポケットが軽くなる。
「手紙なんかより、こっちの方がロマンチックだよ」
笑う楓の手には僕の手紙が握られていた。
少し投げやり感が否めません…すいません