質問と謎
――僕は人に告白をしたことがない。果たして何でだろうか?
夕日の射す土手で、彼女と座りながら僕はそんな問いを立ててみた。
「それが謎なの?」
彼女は難しすぎでしょー、と愚痴りながらも質問を考え始める。
彼女とやっているのはあるゲームだ。それだけでは答えが分からない謎を一つ考え、回答者は質問者に四回まで、「はい」か「いいえ」で答えられる質問をする。そして質問者の答えを聞いて、謎の答えを考えるのだ。
これを帰り道にすることが僕達の習慣になっていた。互いに適当な謎を考えては出して、たまに質問しないでも分かってしまうような謎だったり、真相が意味不明なものだったりしては、二人で笑っていた。こんな下らない事だけどもうすぐ一年になる。…もしかしたら今日で終わってしまうかもしれないけれど。
「じゃあ、人を好きになった事はありますか?」
一つ目、彼女は僕にそう質問する。答えはもちろん「はい」。今現在いるのに告白していないのだ。そうじゃなきゃ謎にさえならない。
「うーん…じゃあ告白しようとしたことはありますか?」
それも「はい」だ。何度もしようとはした。でもそのたびに思い止まってしまったのだ。今のままで十分じゃないかって。だって、もし失敗すれば今さえも壊れてしまうかもしれないから。
「…それじゃあ、あなたの好きな人は身近な人ですか?」
また「はい」。身近も身近だ。小学校から高校生になった今まで、ずっと近くにいて、今だってすぐそばにいる。
「そっか…」
彼女はそう呟くと、少し俯く。その頬に夕日とは違う赤みがさしているような気がして、僕の鼓動が少し早まる。…彼女は答えに気付いてくれただろうか。
「……」
彼女は黙ったまま動かず、僕らの周りに沈黙が訪れる。…やっぱり遠回しすぎたかもしれない、少し後悔した時だった。
彼女が突然立ち上がった。そして、座っていた僕の手を取って、何も言わずに立ち上がらせた。突然すぎる行動に少しバランスを崩しながらも僕はなんとか立ち上がる。
「じゃあ最後の質問…なんだけどさ、その前に一つ謎を出させて」
彼女は夕日を背にして僕に向き直ると、唐突にそう言った。
謎?僕の謎がまだ終わっていないのに?僕は訳が分からずに困惑する。
「大丈夫。ある意味答えだと思うから」
彼女は僕の心を見透かしたように言う。そして大きく深呼吸をすると、小さな声で謎を出した。
「私が今まで告白した事が無いのは…何故でしょう?」
――僕と同じ謎を。
状況を理解して立ち尽くす僕の体に、やわらかな衝撃と体温がぶつかってくる。
「…私から言うのは恥ずかしいから」
彼女は僕の胸に顔を埋めたまま小さく訴える。埋めきれていない頬が真っ赤に染まっているのが見えた。…ああ、これだから。
「ずっと前から好きでした、付き合って下さい」
ずっと言いたかった言葉をやっと紡ぐと、僕は大好きな幼なじみを抱き締めた。