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勇者との初めての一戦

 正面に構えた剣を勇者へと向ける。この剣は父様の形見のファルシオン――ではなく、近くの武器屋で買っておいたバスタードソードだ。いつかは自費でファルシオンを買って使いたいと思っているが。

 さすがに、父様の願いと対極を行くオレが、父様の形見を使用するのは気が咎めた。ちなみに肩身のファルシオンはミイの家に預けてある。

「……っ」

 勇者は特にあわてるわけでもなく、さすが勇者というところか。オレの父様を連れて行ったどの勇者よりも、この勇者は強いかもしれない。

 それでもわずかに緊張が見て取れるのは、何度も修羅場を潜り抜けたわけではないということか、あるいは人間同士での死闘が初めてということか。

「…………」

 どちらにしても、オレにとっては変わらない。死闘が初めてなオレだが、不思議と焦りはなく落ち着いている。

 ……かつて一度だけ、父様に依頼に来た駆け出し勇者と戦ったことがあったが、あの時はわけもなく勝った。

 結局、その勇者は汚名返上しようとリスクの高い死地へと赴き、父様を道連れに死んだが。苦い思い出だ。

「どうぞ。先手は譲ってやるよ」

 オレのその言葉が終るや否や――

「……せぁ!」

 ――勇者は駆け出し、上段に構えた素朴なブロードソードを振り下ろす。

「っ」

 がぃん! と鋼同士がぶつかる音が鳴り響くと、勇者の影に隠れるように移動していた兵士が横にずれ、手に持つ槍を突き出した。

「ハッ!」

「ふっ!」

 オレは受け流した勇者の剣を地面にたたきつけ、体を回すようにして槍の延長線から逃れ、回転した反動で振り上げたバスタードソードを振り下ろし、2メートルの長さの槍を半分以下へとちぢめて見せる。

「なっ!」

 驚く兵士には目もくれず、体ごと剣を引き、左側を守るようにしながら一歩下がる。キンッ――弾けるような甲高い音が小さく響くと、オレの胸の前を勇者の剣が通り過ぎた。

「!」

 驚愕の面持ちを浮かべる勇者の体は剣の持つ手の方へと流れている――致命的な隙だ。

 オレはその好機を、掴もうと――焦っていることに気が付き、気が付いた時には一歩下がっていた。

「……どうしたんだ?」

 勇者が不思議そうな顔でオレを見る。兵士も同様の表情をして、腰の剣――1メートル前後のショートソード――を抜いていた。

「なんでもないよ。ただ、あまりにすぐに終わっても仕方がないというのと……実戦に慣れていなかった、というだけだ」

「なるほ――どっ!」

 律儀にも返答したオレは、そのまま一歩踏み出してバスタードソードを横からたたきつけ、防御に回った勇者の影へと兵士から身を隠した。

「はぁ!」

 だが――勇者が気合いとともに大きくブロードソードを振り切ると、オレは一瞬たたらを踏んだ。

「っ」

「もらいましたぜ!」

 その隙を兵士が突こうとするが、オレは半歩下がって振り下ろされた剣を躱し、一歩進んで兵士と密着する。

「んなっ」

 決定的な間合いまで入られた兵士を、その足に刃を突き立てて、その体重を利用して投げ飛ばした。

 ぐぅ、と呻きながらオレと勇者の間に降って湧いたそれを勇者はひらりと躱すと、そのまま剣を横に振るう。オレはその剣を受け止め――がきんっ、と音が鳴ると同時に両腕に力を込めた。

「う、わっ……!」

 勇者とオレの膂力勝負――その結果は一瞬でオレに軍配が上がり、今度は勇者がたたらを踏む。

「――覚悟!」

 今度は焦ることなくその隙をつくことができ、勇者は横に振るわれたオレの剣を無理な体勢で受け止め――そして転んだ。

「くっ……」

「お前の負けだ、勇者」

 オレは勇者の頭上に立つように錯覚するほど、近くに立った。

 すでに勇者の剣は蹴り飛ばし、勇者の手元を離れている。

「なにか、言いたいことはあるか?」

 オレは今日初めて戦いに使ったバスタードソードを大きく振り上げながら、そう尋ねた。

 勇者は俺を見上げ――けれどどこか悩んだように目を伏せ、決心の付いた目でオレの目を見た。

「なら、頼む……オレの連れは、助けてやってくれ」

「ぐ、……勇者殿っ?」

 その視線が一瞬、視界の外にいる兵士に向けられ、オレも一瞥だけをした。

 兵士は驚愕からか目を見開き、勇者を見つめる。彼は足を引きずり、だが痛みに阻害され、ほとんど動けない。

「……あの兵士か。いいだろう」

「っ」

 オレは再び視界の外に移った兵士が激痛にうごめく様子を頭に入れ、兵士が息をのむのを聞きながら、無感動に剣を振り下ろした。

 ずぐり、と。

 剣が――研ぎ澄まされた鋼の塊が、命にうごめくぬるい体に入り込む感触を初めて掌に味わい、そしてその感触は一瞬で消えた。

「ぐ、ぁぁあぁああああ!!」

 勇者の右腕を切り落としたオレのバスタードソードが血に塗れる……これが初めて、オレが人を斬った瞬間だ。

 ――思ったよりも、心を揺さぶらない。

 オレの心が壊れているのか、それとも勇者というものそのものが――斬っても感慨が浮かばないほど――嫌いな存在なのか。どちらかはわからないが、初めて人を斬った感想としては――これから先も、人を斬り続け、時に命を奪うことを当たり前とする予定がある身としては、悪くないと思った。

 オレは勇者の腕が生えていた場所から、その代わりと言わんばかりに流れ出る血液を止めるための当て布を鞄から取り出すと、そのまま勇者に投げつけた。

 ……これで、いいだろう。

「お前は勇者としてはもう使い物にならないだろう。それでもまだ、勇者として再びオレの前に立った時は、今度こそその命を斬ってやる」

「ぅぁ、あ、ぁあ」


 ――だから今日はまだ、生きていろ。

 ――出立のこの日、生まれ育ったこの村で、ここで育ったオレが人の死体など作りたくはない。

 ――だからまだ、この村では……生きていろ。


「ぐ、ぁ、あ……」

 呻き、当て布を手に持ちながらもろくに傷口を抑えることのできない勇者に背を向け、すぐそばに倒れる兵士を見た。

 ほんと何様なんだと思いながら――けれど、魔王なんだし良いかと思い直して、オレに敵意を丸出しに向け、同時に命を絶たなかった戸惑いの視線もむける兵士に指示を出す。

「おい、兵士。こいつを助けろ。当て布を手伝うだけでいい……それじゃあな」

 指示を出し終えて去ろうとするオレに、背後から声が届く。

「……あんた、ほんとに魔王になりたいんですかい?」

 オレは一度その言葉に、肩をすくめることで返した。

「当たり前だろう」

 そして本命の返答として、どちらとも取れるあいまいな言葉で返した。

 なりたくないなら、ならなければいい――そう簡単でないのが世の常だ。

 だが、なりたいかなりたくないかというと……


 ――オレは魔王になりたかった。 



長々と……というより、だらだらと、戦闘だけのシーンを描写して……

申し訳ありませんでしたッッッッッッっ!!

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