最終編「和御霊(にぎみたま)」
■解説>
旧シリーズの最終話です。
(注意:作品中の祝詞・読経・呪文等はすべて、省略して一部のみが描かれてたり、
想像でテキトーに描かれてたりしてます。正しいやり方を知らない人は絶対に真似
しないで下さい。脳に障害が出て廃人になったり悪霊に取り憑かれたりしても
作者は一切保障しませんですよ~…(汗))
■粗筋>
お互いに相容れないまま接近してしまった美晴と浄雲。だが、すでに結界はなく
なった。妄鬼堆から出ないでほしいという美晴の願いの条件として、華村は浄雲を
贄に差し出すことを要求する……。
■人物>
美晴:更科美晴。冷たく無気力な美少女。
浄雲:じょううん。旅の仏僧。20歳くらい?
神主:どこかの神職。
華村:華村冴子。実はこの地に昔からいた
荒御霊。
父:美晴の父親。(故人)
泰造:美晴の育ての親。(故人)
博昭:『祟り祠』で死んだ真里谷博昭。
哲男:『妄鬼堆』で死んだ後藤哲男。
猫:『神域穢』で死んだ猫。
河童:『河童沼』で死んだ紀久。
狐:お狐様。
[1]
□ 図書館の建物。
□
看板「市立図書館」
□ 資料室。ぼろぼろの古文書を見ている浄雲。
浄雲「村の年貢記録、廃寺の過去帳、華厳経に般若経、寺の和尚の手記、
庄屋の日記……」「これらからわかることは…」
□
浄雲(古文書を読みながら)「……妄鬼堆」
[2]
□
T「和御霊」
□ 学校の電算機室。
カチ…カチ…
美晴がアクセス中。美晴の他には誰もおらず、電灯もついてない。
[3]
□
美晴、何かを見つけた様子。
□
モニターに写ってるリストの中、4行だけが鮮明に。
「般若波羅蜜多心経 (般若心経) 倶摩羅什 訳 」
「摩訶般若波羅蜜多心経 (般若心経) 玄奘三蔵 訳 」
「大般若波羅蜜多経第五百七 (理趣経) 玄奘三蔵 訳 」
「般若理趣経 (理趣経) 大廣智不空 訳」
□
カチ…カチ…
真剣にモニターを見ている美晴。
□
入り口に立つ華村。
華村「熱心ね 更科さん。何を調べてるのかしら?」
美晴「!」
[4]
□フッ
モニター上、消されるウィンドウ。
美晴(ふりむいて)「華村先生……」
□
華村「ふふふ……とうとう結界が完全になくなったようねえ」「狐の霊の手助けが
なければ、もうあなたのお札なんか全然効果なくてよ?」
□
美晴(口惜しそうに)「お願いです……妄鬼堆から外へは出ないで下さい…」
「なんでもしますから」
□
華村「うふふ 考えてあげてもよくてよ……そうねえ……次は宗教家を
食べてみたいわね」「たとえば 若い坊主とか」
□
蒼白になる美晴
□
フフフ
華村「ふふふ…楽しみにしてるわ」
薄笑いしながら去る華村。
美晴、拳を胸に当てる。
□ (場面転換)
美晴、息をふきかけないよう額の高さに三宝を捧げ、下を向いて歩いてる
[5]
□ (場面転換)
シャッ! シャッ!
常川稲荷の祠。中央の三宝、奥側に神酒徳利2つ。手前は皿、右が米、
左が塩。右の三宝には大根や里芋など野菜。左の三宝には魚。(鯛?)
中央手前に皿、山盛りの稲荷ずし。
□
神主が祝詞を上げ、後ろに制服姿の美晴が頭を下げたまま立つ。
神主(祝詞)「六根清浄の大祓い」「天照皇太神の宣く人は則ち天下の
神物なり」「すべからく掌静謐心は則ち神明との本主たり……」
□
神主(祝詞)「目に諸の不浄を見て心に諸の不浄を見ず、
耳に諸の不浄を聞きて心に諸の不浄を聞かず、鼻に……」
下を向いて聞いている美晴。
□
考え込んでいるような表情で、
美晴「……」
神主の声(祝詞)「……諸の法は影と像の如し、清く浄ければ
仮にも穢るることなし……」
「……天地の神と同根なるがゆえに萬物の霊と同体なり、萬物の
霊と同体なるがゆえに為所無願而不成就……」
□ 神社の遠景
神主の声(祝詞)「極めて汚きも滞無ければ穢きとはあらじ、内外の玉垣清浄と申す……」
[6]
□
鳥居前。車に乗り込む神主と見送る美晴。
神主「じゃあこれで」
神主、野菜がはみ出した袋を抱いてる。
美晴「ありがとうございました」
□
ブロロロ……
無表情で見送る美晴。
□
祠の前で三宝に載せられた大量の食物。
□
美晴、振り向いて溜息をつく。
[7]
□
シャラン……
釈杖。
□
三宝を運んでた美晴(今度は胸の高さで)、気がついて
美晴「!」
□
杖の主は旅姿の浄雲。
浄雲(片手合掌して微笑)「お疲れ様です。月並祭は無事に終りましたか?」
美晴「浄雲、いいところへ!」
□
浄雲(笠に手をやって)「?」
□ (場面転換)
ぐつぐつぐつ……
煮物の鍋が煮えてる。
□
美晴、薄く笑いながら調理中。
美晴「直会をやろうにも一人じゃ食べきれないし、料理のし甲斐も
なかったの。来てくれてよかったわ」
[8]
□
美晴(戸棚を開けながら)「あ でも 浄雲はお酒と魚が戒律でダメなんだっけ…」
□
たすきがけで大根の皮を剥いてる浄雲。
浄雲「お酒は……美晴さんだって未成年でしょう」
□
美晴(煮込みながら)「直会だから私はお神酒も含めて一応全部頂かないと」
浄雲(上を向いて溜息)「まあ この習慣ができた頃に未成年の飲酒を禁じる
法律はなかったでしょうしね」
□
美晴(力なく笑って)「だけど…不思議ね」
浄雲の声「何が?」
[9]
□
美晴(おたまで鍋をかき混ぜながら)「こうやって二人で台所に立ってると
私たちってまるで……」
浄雲(わかってない)「まるで?」
□
鍋を凝視したまま赤面して固まった美晴。(自分が何を考えていたかに
気がついた)
□ 家の外観。
ガシャン!
美晴の声「熱ちいっ!」
浄雲「あ、気をつけて」
□(時間経過)
お茶を喫している浄雲。
浄雲「やはりそうでしたか」「常川稲荷一帯から霊気が完全に消えていて
不思議に思いました」
[10]
□
浄雲(他人事のように)「始まりますね」
美晴「何が?」
□
浄雲「悪鬼魍魎の跳梁です」「あの高校のある丘のあたりで特に」
□
美晴「妄鬼堆……蒙木台高校」
□
浄雲「このあたりの歴史をよく調べてみました」「平安時代にこの辺りを
荒らしていた悪鬼 更科某という修験者にあの丘へ封じられたと
いう記述がありました」「美晴さん何か知ってるんじゃありませんか?」
□
美晴(視線を逸らす)「…………」
[11]
□
浄雲「鬼というと普通は角のある逞しい化物を思い浮かべがちだが
本来は単に霊的存在という意味に過ぎない」「何か人ならざるものが
この辺りにいたのでしょう。もしや 美晴さんの言う荒魂とは……」
□ 押し黙ってる美晴。
浄雲「教えて下さい。このままでは大勢の人が死ぬことになるかも」「私に
何ができるか知りたいのです」
□
美晴「…最初のきっかけは、15年前あの丘に高校が出来たとき」「結界の
一部が壊されて、鎮められていた御霊が荒れてしまったの」
□
黙って聞いてる浄雲
美晴「更科一族の生き残りだったお父さんがあらゆる手を打って御霊を
この領域にとどめたそうよ」「ただしそのためには三ヶ月に一度
贄を捧げることが条件だった…生きた人間の贄をね」
「お父さんはそのために……」
□
浄雲「まさか それから、ずっと美晴さんが?」
□
下を見て黙り込む美晴。
[12]
□
浄雲「なんてことだ……3ヶ月に1人づつ人が死ぬ…それも定命でなく
殺される!」「業に業が重ねられて、どんどん重くなっていく。ここはそういう
土地だったのですか!」「悪鬼魍魎が溢れるわけだ!」
□
浄雲「美晴さん。これ以上、業を重ねてはいけません因縁を切りましょう、
その荒魂の!」「そして悪鬼魍魎をすべて消すんです!」
□
美晴「御霊を消すなんて許されないって言ってるでしょう」「第一できるの?
そんなこと」
□
浄雲「わからない……だけどやらないといけない! もうこの地は限界まで
業が重なっている!」
□
美晴「穢れ……あなたの言う『業』が重ねられてるのは土地だけではないわ」
[13]
□
浄雲「!!」
美晴の後ろに立つ、60体(くらいの数の)不成仏霊体。哲男や博昭などもいる。
□
美晴(無気力に)「お狐様がいなくなって、私には彼らを鎮めることもできなく
なってしまった」「…下劣ね」
□
浄雲「神霊にばかり頼っていては駄目なんです自分の力で彼らを清めないと!」
□
美晴「でも浄雲だって神仏の力を借りて霊を成仏させるんでしょう?」
浄雲「ちがう。私のは入我我入観です」
[14]
□
美晴「?」
□
浄雲「仏に頼るのではない。自らを世界と一体にして仏の力も魔の力も自在に
使えるようにするのです」「そのために戒を守り自らを清く保っていつなんどき
でもこの身に仏を降ろせるようにしておかないといけないのです」
□
浄雲「仏の力とは『漏尽通』」「衆生、つまり魂を持つ人・獣・霊 何にでも
心に悟りを伝えること!」「一即多 多即一……自分は宇宙の一部、
仏も宇宙の一部、即ち自分と仏は一体!」
□
美晴「!」
(回想)
声「……天地の神と同根なるがゆえに萬物の霊と同体なり、萬物の
霊と同体なるがゆえに為所無願而不成就……」
(回想終了)
□
浄雲(汗)「でも……正直、私も修行中ですから」「そうなろうと努力してるだけ
ですけどね」
[15]
□
美晴「話は変わるけど……今日は泊まってってくれるんでしょ?」
浄雲「え?」
□ 美晴、きつい眼で浄雲を見つめる。
美晴「泊まっていってくれるわよね?」
□
浄雲(気迫に押される)「は、はい…」「?」
□(場面転換)風呂場。
ザバッ!
電気も点けず、水を浴びてる美晴。
美晴「祓い給え、清め給え!」
□
ザーッ
桶に水道の水が入いる。
□
美晴、目をつぶりもう一杯かぶる。
ザバァッ!
□
美晴、水滴の滴れる顔でうっすらと目を開ける。
[16]
□
和室で寝いてる、作務衣姿の浄雲。
□
ス……
障子が開く。気がつく浄雲。
□
浄雲、起き上がって、
浄雲「美晴さん!?」
□
美晴、白い小袖で畳の上に正坐。
□
見下ろしてる美晴。
美晴「浄雲……お狐様のいない今、私にはもう何の力も無い。最後の贄は…
…だから…」
□
浄雲「エ…?」
シュルッ
美晴、帯を解く!
[17]
□
半泣きの赤い顔、自分を抱きしめ、全裸で座ってる美晴。
美晴「欲箭清淨句是菩薩位(起こる欲望は菩薩の境地)
觸清淨句是菩薩位(触ることは菩薩の境地)
愛縛清淨句是菩薩位(抱きしめることは菩薩の境地)
一切自在主清淨句是菩薩位(絶頂に至ることは菩薩の境地)……」
「……私に……それを教えて…」
□
驚いて目を見開いている浄雲。
[18]
□
美晴、涙を流して必死。
美晴「ひとつになりたいのよ、あなたとっ!」
□
目をつぶる美晴。
それを見ている浄雲
□
クルリ
浄雲、布団の上に座ったまま突然、背を向ける。
美晴「!?」
□
浄雲、背を向けたまま、拳を握り締めて震えながら。
浄雲(つぶやく)「悪魔よ…………去れ」
[19]
□
愕然とする美晴。
美晴「悪…魔…っ!?」
□
浄雲(背を向けたまま)「悪魔とは、下劣なる私の心です。美晴さんのことでは
ありません」
□
背を向けたまま語り続ける浄雲。涙ながら聞いてる全裸の美晴。
浄雲「美晴さんが何を思いつめてるのか、私にはわかりません」「ですが
修行中の身で不邪淫戒を破ったら美晴さんを守る力も私から消えてしまう」
□
浄雲(顔は見せないが泣いてるのがわかる)「美晴さんを傷つけたくありません
大切に想ってるんです…だからそういうことはできません」「わかってください」
[20]
□
美晴、涙をこらえ顔を上げて見てる。
□
美晴、涙ながら目をつぶり微笑む。
□
美晴、背を向けてる浄雲にお辞儀。
美晴「ありがとう」
□
スッ
障子が閉まる。
□ (場面転換)大暴風雨。
ビュオォォォォ・・・
ザァァァァ
[21]
□
暴風雨の中の学校。
□
ザァァァァ
華村、傘を差し校庭に立つ。
□
華村、ニヤリ。
□
ザァァァ
美晴、浄雲を従えやってくる。
□
華村(ニヤリ)「感心なこと。ちゃんと来たのね」
[22]
□
雨に濡れた無表情の美晴。
□
華村「坊主を食べると霊力が増すと昔からいうわ…」
□
ドロッ…ぴちゃ…
華村、ゲル化しはじめる。
華村「楽しみだこと」
□
美晴(歯を食いしばり)「…下劣ね。」
□
浄雲(つぶやき)「仏説 摩訶般若波羅蜜多心経……」
□
ビクゥッ!
ゲルが動きを止める。
[23]
□ ゲルから華村の顔が浮き出る。
華村「小癪な……」
□
浄雲「これ以上に業を重ねてはいけません、因縁を切って成仏しましょう」
□
華村(再び溶けて)「やかましい!」「私は御霊! 天地の
創めからこの地に宿る精霊! 人間などに撃退されるわけには……」
□
浄雲「色即是空 空即是色」「それは あなたがそう思ってるだけで、
思いに実体など無いのです」
□
ビチャァァァッ!
浄雲に襲い掛かろうとするケル。
□
ババッ
その時、何かが飛び出す
[24]
□
ゲルを押さえつけたのは、
河童。
化猫。
白い狐の形をした光の塊たち。
一同「!?」
さらに後方から続々と集まってくる多数の妖怪変化。(過去に美晴に鎮められた
であろう和御霊)
□
美晴(汗)「に…和御霊!?」
□
満足そうな顔で、ゲルに溶けていく和御霊たち。
華村(驚いて)「なんだ!? なんだ、お前たちはぁ!!」「変わっていく……
私が変わっていってしまうぅぅぅっ!!」
□
ゲルに浮く幻影。
哲男と博昭も微笑んでいる。
□
義父が手を差し伸べる幻影に白い狐の姿が重なる。
泰造(幻影)「さあ 美晴……たくさんの荒御霊をひとつの和御霊に!」
ケェェェーー…ン!
□
美晴(涙+笑顔)「お父さん……」
静かにお札を取り出す。
[25]
□
浄雲「美晴さん!? 何をする気だ!」
□
美晴(背を向けたまま)「たくさんの人を贄にして罪穢れてしまった私も、
一緒に祓われなければいけないわ」「浄雲と結ばれてからでなかったのが少し
心残りだけど……」
□
美晴(振り向いて笑顔)「ううん! 違う! 一即多 多即一。あなたと私とは
最初からひとつだったのよ!」「永遠の初めから永遠が終わるまでずっとひとつ
……そうよね!」
□
浄雲(必死)「美晴さんっ! 駄目だ! 戻れ!」
□
美晴、お札を掲げゲルの中に踏み込む。
美晴「……華村先生も私とひとつ……」「お狐様やお父さんと一緒、みんな
ひとつの和御霊なのよ!」
□
ゲルの中に溶けていく美晴。微笑。
美晴(心の声)「惟神魂ち栄えませ…」
[26]
□
ドォォォン!
ゲルが急に爆発、天を衝く。同時に茶枳尼天のイメージが浮かぶ。
浄雲の声「茶枳尼天!?」
□
身構えながら
浄雲「……そうか、『成仏』!!」
□
浄雲の手。複数のコマで素早く印が組み替えられる。(絵面は九字の印でOKです)
浄雲の声(複数コマにかかる)「南無大日如来、オン・アビラ・ウンケン・ソワカ!」
「南無茶枳尼天、オン・ダキニ・ウシャトロ・ウン・ソワカ!」
「南無般若心経、
ギャーテイ・ギャーテイ・ハーラーギャーテイ(着けり着けり、向こう岸に着けり)
ハーラーソーギャーテイ(向こう岸に完全に着けり)
ボージ・ソワカ(悟りに幸あれ)!!」
[27]
□
浄雲「ウンッ!!」
浄雲、遠ざかる茶枳尼天の幻影に向かって不動印を突き出す。
渦を巻き集まって行く「気」。
そしてバブルアウト。
□ バブルイン。
雨上がりの学校。
□
稲荷祠に手を合わせている浄雲。
□
木の無くなった祠の背後に蒙木台高校。
[28]
□
浄雲が笠を被ると、
美晴の声(幻聴)「浄雲…」
□
浄雲、驚いて振り向く。
□
稲荷祠に重なる、満面の笑顔の美晴のイメージ。美晴を囲むように、華村や
ほかのみんなの笑顔も。
□
浄雲、微笑して手を差し出す。
□
シャラーン… シャラーン……
稲荷祠を後に去っていく浄雲。
腕を組んで共に歩く美晴の幻影が光の中に溶けていく。
<完>




