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第二編「河童沼(かっぱぬま)」

■粗筋>

 紀久はイジメに遭っていた。ある土曜日の夜、河童も溺れるという沼で泳がされる

ことになるが、そこに更科美晴が現れた。


■人物>

水上紀久:主人公。苛められ者。


更科美晴:紀久のクラスメート。冷たい感じの美少女。

華村冴子:古文担当の教師。美女。(裏設定=実は美晴に封じられてる妖霊)


春樹:いじめ者

達也:いじめ者

俊郎:いじめ者


ゾクA:原付で粋がってる珍走団

ゾクB:原付で粋がってる珍走団


■物語>

[1]

T「河童沼」


[2]

□ 沼池のほとり。

  そこに無表情で立つ美晴。

  水面には葦の群生にゴミが浮いている。壊れたスクーターとか瓦礫とかも

  見え隠れ。

□ 

錆付いて曲がり痛んでる看板

  「みずにはいってはいけません  ××町教員委員会」

 (小さく)

  河童が溺れているユーモラスな絵。

  お札を手にした美晴、ふと物音に気がつく。

  ガヤガヤ…

声「いいから来いよ!」


□ 沼池の全景。(美晴はすでにいない)

  そこはかなり大きな沼。

  ゴミが岸に打ち寄せている。

  岸辺にやって来た男子の高校生たち、春樹、達也、俊郎、紀久。


[3]

□ 

達也「汚え貯水池。魚も住んでないんじゃねえの?」

俊郎「死んだ婆ちゃんが、ここ、溺れた奴が河童になったから河童沼って呼ぶんだっ

 て。ま、どこにでもある話だけどな。」

  不安そうな紀久。

春樹「河童か! そりゃいいや!」

春樹「どうだい、河童大会やんねえか」

達也「なんだいそりゃ?」

春樹ニヤリ「この沼を泳いで渡るんだよ。」

  ゴクリ……一同、緊張。

俊郎「あ、あぶなくねえか?」


[4]

春樹「なんだよ、高2にもなって河童が恐いのかオマエ?」

俊郎「そ、そんなわけじゃないけど…」

   不安そうな紀久。

春樹「よし、土曜日の夜にやっぞ。オマエら逃げるなよ。とくに水上!」

  気が進まなそうに

紀久「あ…ああ。わかってるよ。」

  わいわいと去っていく一同。

  サーッ……

  そよ風で波立つ水面

  いつの間に来たのか、ほとりでお札を手に考えこんでいる美晴。


[5]

美晴(水面に向かって)「やめときましょうか……土曜日までは。ねえ?

 その方がいいんじゃなくて?」

  冷たく笑う美晴。

  ポチャ…

  水面に小さな波紋。


□ (場面転換)学校

  キーンコーンカーンコーン……

華村「ではSHRショートホームルームを終ります。」

声「起立。…礼。」


[6]

  帰り支度中の紀久。

美晴の声「水上くん」

紀久「更科?」

美晴「話があるんだけど、ちょっと付き合ってくれない?」

  驚く紀久。

紀久「おれに?」

春樹「なんだぁ、更科? 愛の告白かぁ!」

達也「ひゅーひゅー!!」

美晴「…………。そういうことしか頭にないの?」「下劣ゲレツね。」

春樹「なんだとコラァ!」

  ガタン!

美晴「今は水上くんに用があるの。後にしてくれる?」

  冷ややかな流し目で見る美晴。

  ビビリの入る春樹。


[7]

  教室を出て行く美晴と紀久。

  その後ろで

春樹「ちっ!」

  唾を吐く。


□ (場面転換)屋上

  ヒュウウウ……と風が。

  金網から見下ろしてる美晴の髪が風になびく。

  その後ろに立つ紀久。

美晴「もうすぐ暑くなるわね」

紀久「あの 更科、話ってなに?」

  美晴、振り向いて、作り物めいた明るい笑顔。


[8]

美晴(笑顔)「ねえ水上くん」「あの人たちとつきあってて楽しい?」

  紀久、衝撃を受ける。

  ごまかすように、

紀久「そ、そりゃあ友達だし……」

  美晴の後ろから風。

美晴「友達…ね」「はたしてそうかしら?」

  吹き出しで繋ぐ

  紀久に背を向け金網の方に向き直ってしまう美晴。

  うしろで困惑してる紀久。


[9]

美晴(後ろ姿)「あのね……我慢には二種類あるの」

 「意味のある我慢と意味のない我慢。」

美晴(視線を横に移動させ)「意味のない我慢はするだけムダよ」

紀久(ごまかすように)「我慢なんかしてないよべつに。」

  美晴、また振り向く。淋しい笑顔。

美晴「…………」「そう。じゃあもう何も言わない。」

  すれ違う美晴と紀久。

  ふわっ……

  美晴の髪が紀久の顔に。髪の香りが漂う。

美晴「憶えといて水上くん後ろについていること。先に行ってはダメよ、

 絶対に」


(10)

  顔を赤らめて呆然としてる紀久。

  紀久を置いてさっさと行ってしまう美晴。


□ (場面転換)

達也「お、戻ってきた」

  呆然とした表情で戻ってくる紀久。

春樹「更科となに話してきたんだ?」

達也「水上くぅん あたちあなたのこと好きなの」

俊郎「ああん、ぼくたんも好き、ちゅっ ちゅっ てか!?」

  ガハハハハハ!

紀久(心の声)「…下劣。」

春樹「なんだよオマエ」

紀久「あ、いや………たいした話じゃなかったよ」


[11]

達也「俺たちに隠し事か? テメエ、そういう奴だったのかよ!?」

紀久「ち、ちがうよ……」

紀久(汗)「だいたい、更科みたいな性格ブスとそんな話になるわけ

 ないじゃないか」

春樹「まあ、そりゃそうだな」

  ふと目をやる紀久。

  愕然とする紀久。

  扉の影で冷ややかに見ている美晴。


[12]

  他の三人は後ろを向いて談笑してるるため気がつかない。

  背を向け去って行く美晴。

  (バブルアウト)


  ポチャン……

  水面に立つ波紋。

□ 夜の闇の中、河童沼湖畔に立つ4人。

□ 

  春樹、懐中電灯を手に

春樹「向こう岸に行きたいか~!?」

3人(いまいち気が進むまない)「おお~……」


[13]

春樹(紀久の後ろ衿を掴み)「よし、水上。オマエ一番手だ。」

紀久「え? なんで…」

春樹「俺達が入る前に安全を確かめなきゃならないだろ」

 「男なら根性見せてみろ、ホラ! ホラ!」

紀久(捕まれてて)「わ わかったよ自分で入るから放してくれよ…」

  紀久、上着を脱ぎ始める

  ハッ!

  上着を脱いでるうちに気がつく紀久。美晴の顔が浮かぶ

美晴の声「後ろについていること。先に行ってはダメよ、絶対に」

  振り向く紀久

紀久「あ、あのさ…」

  彼をとりかこむ3人の影。


[14]

  ドン!

紀久「あっ!?」

  シャツを着たまま紀久は突き落とされる。

  ボシャー…ン!

  頭から沼へ落ちる紀久。

達也「どうだ水上? 深さは? 水温は?」

春樹「へっへっへ…」

  バシャッ!

紀久「だ、大丈夫……ちょっと冷たいけど泳げないことはないよ」

春樹「よし、そのまま向こう岸まで行け」

紀久「え……」

春樹の声「安全を確認するんだよ、早く行ってこい。テメエ男だろ!!」


[15]

紀久「わ、わかったよ…」

  泳ぎ始める紀久。

達也「ほんとうに行っちまいやがんの」

俊郎「バカじゃねえのあいつ」

  と、エンジン音が……

  ブロロロ・・・

一同 「!?」

  ブバン ブババババ!

ゾクA「ひやっほーう!!」

ゾクB「ファルルルルルルルルッ!」

  暗闇に交錯する原付のライト


[16]

春樹「やべえのが来やがった行こうぜ」

俊郎「水上はどうすんだよ」

春樹「ほっときゃいいよあんなやつ」

  去って行く三人。

  俊郎はちょっと気になってる様子。

ゾクA「いや~、危なかった」「オマワリ撒けたななんとか」

ゾクB「ん? 沼になんかいねえ?」

  ばしゃっ…

  泳ぎながらゾクから隠れようとする紀久。

ゾクA「ま、まさか河童!?」

ゾクB「なにっ!?」


[17]

  ブババババババハ!

  水面に向けられるヘッドライト。紀久の影が浮かび上がる。

ゾクA「人間じゃねえか、おどかしやがって」

ゾクB(石を投げる)「ふざけんじゃねえ!」

  ガッ!

紀久「!!」

  石が頭に当たる。飛ぶ血。

  岸から次々と石を投げる二人。

ゾクA「こんな時間にこんなとこで泳いでんじゃねえよ!」

ゾクB「ケーサツ呼ぶぞ、ケーサツ!!」

  ヒュッ

  ボチャッ!

  ヒュッ!

  ボチャッ!

  慌てて逃げようと泳ぐ紀久。


[18]

  葦の茂る岸に上がってへたばってる紀久。

  頭から血を流してる。

紀久「はあ はあ はあ……」

  ブロロロロ……

  二人が去っていく音。

  ファサ……

紀久「!?」

  突然、頭にかぶさるタオル。

  そこに美晴が立っていた。

紀久「更科!?」

美晴「…………」「…下劣ね。」

  背を向けてしまう美晴。

紀久「あ……」


[19]

  なんとなくタオルの端を口に当ててる紀久。

  暗い水面に、二つの目のようなものが見ていてる。その側に浮いてる、

  墨の滲んだお札。

  ボチャッ……

  その何かが潜っていく。が、岸に座り込んでる紀久は気がつかない。


□ (場面転換)学校の教室

  ガヤガヤ……

春樹「水上…てめえ、逃げたろ!」

紀久「え!?」


[20]

春樹「俺達が戻ったらテメエはもういなかった。友達を置いて一人で

 逃げやがったな!!」

紀久「ち、違うよ……」

達也「何が違うんだ、てめえ!」

紀久「おれ、ちゃんと泳いで渡ったよ…」

春樹「このヤロオ、見てないと思って好き勝手なこと言いやがって……」


□ (場面転換)

  三人に引きずられるように歩いてる紀久。

紀久「や やめてくれよ」

春樹「いいから来い!」


[21]

□ 河童沼湖畔。

春樹(突き飛ばす)「ホラ 泳げよ!」

紀久「あっ!」

春樹「一回泳いだんだから、二度目は簡単だろ?」

達也「そうだそうだ」

  跪いてる紀久。

俊郎「手伝ってやろうぜ」

春樹「それ!」

  わっせ! わっせ!

  三人に抱え上げられてる紀久。

紀久「や、やめてくれーっ!」


[22]

  バシャーン!! 学生服のまま水中に投げ込まれる。

  ドッ

  笑ってる3人。

達也「どうだい湯加減は」

□ 水面に顔を出してる紀久。

紀久「一昨日より冷たい…足にも何か…」

  水中に二つの目が光る。

  ヒュッ

春樹(石を投げながら)「何やってんだよ、はやくく泳げよ!」

達也(何かに気がついてニヤリ)「おい」

  ボチャッ

  飛んでくる石。

紀久「待ってくれ 何かに足を掴まれてるみたいで……!」

  見上げて驚愕する紀久。


[23]

□ 3人が壊れたスクーターを抱え上げてる。

□ 

紀久(絶叫)「やめろぉぉぉぉっ!」

  バシャーーーーン!! 紀久に命中するスクーター。


[24]

  ゲラゲラゲラゲラ

達也「はやく泳がねえから悪いんだぞー水上!」

  水面に広がる波紋。

俊郎「…おい、浮いてこねえぞ?」

達也「やべえんじゃねえの?」

春樹「し、知らねえよ。あいつが勝手に溺れたんだ。帰ろうぜ。」

達也「あ、ああ。」

  静かになる河童沼。


[25]

  日暮れの河童沼。岸に立つ美晴。水面にはさざ波。

  「みずにはいってはいけません」の看板が折れて倒れ掛けている。

美晴(溜息)「まいったなあ……もう少しで和魂にぎみたまにしてあげられ

 たのに」「これで元の木阿弥。」「まさか水上くんが贄になっちゃうなんて」

美晴「荒魂あらみたまの水神さん…水上くんの魂を鎮めるのを手伝って

 あげてね……」

  ビリッ……お札を破る。


□リー…リー…リー

  破れたお札が浮かぶ夜の水面

  に光る二組の目。


[26]

□ 春樹の部屋。(夜)

  布団を被って震えてる春樹。

春樹(大汗をかいて)「俺のせいじゃねえ俺のせいじゃねえぞ…」

  コンコン・・・

  窓を叩く音。

  春樹、窓に目を

  コンコン・・・

  春樹、窓を見て驚愕。


[27]

  闇の中に浮かぶ二つの顔。

  はっきりとは見えないが河童のような。

  驚愕する春樹。

  うわああああああ……ひぃぃぃぃぃ……

  夜の町に響き渡る悲鳴。


[28]

  教室。

  ザワザワ・・・・

誰か「また行方不明が出たって?」「今度は4人もだってよ」「この学校

 呪われてんじゃねえの?」

華村「はい 静かに! HRを始めます」

声「起立! 礼!」

  席につき横を見る美晴。

  机の上の花瓶が見える。

  机の花瓶にそよ風が。

モノローグ「こんどは本当に友達ができたわね。同じ『水神(河童)』の

 友達が…」「ね、水上くん」

  クス……

  冷たく笑う美晴の口元。



 <終>

2003年の10月ごろ。批評をもらって参考にする場所で、人助けをしない霊能ヒロインの出てくる習作『妄鬼堆』を載せてみたら、「更科さんの話をもっと読みたい」と言われまして。、当時近所にあった貯水池の横を通ったときに思いついた勢いで、構想取材込み2日で書いた続編でした。

この時点ではまだシリーズ化するつもりはなく、思いつきで即書きしてるだけだったんですが……(笑)


のちに「小学生ならともかく高校生にもなっていじめで水に落とされたり泳がされたりなんてリアリティない」という批評もありました。でも僕はやられたことあるんスよね……たしかに高校のときはなかったけど、中学のときにも大学のときにも。(汗)

だから田舎の高校ならありえるかなと思ったんですが……どうなんでしょう?(汗)


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