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家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。  作者: 希羽


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第13話:第四層、家具の森

 株式会社ニワサキの創業から一週間。

 業績は右肩上がりだ。

 峰岸レイカ効果で会員権は即完売。追加募集の抽選倍率は100倍を超えている。

 だが、急成長には痛みが伴う。


「……会長。そろそろ限界です」


 一ノ瀬社長が、段ボールの山に埋もれながら言った。

 リビング(兼オフィス)は、発送待ちのトマトが入った箱で足の踏み場もない。


「宅配業者も、最近は『ここ、一般家庭ですよね?』って怪しんでます。それに、この家のセキュリティと保存環境も問題です」


 彼女は天井を指差した。

 築45年のボロ家だ。断熱材なんて入っていない。

 夏は蒸し風呂、冬は冷凍庫。

 Sランク食材の保管庫としては、あまりに環境が劣悪すぎる。


「倉庫を借りるか、引っ越すか……でも、ダンジョンを離れるわけにはいきませんし」

「ふむ……」


 俺はコーヒー(Sランク水使用)を啜りながら考えた。

 確かに、このボロ家は限界だ。

 だが、建て替えるとなると数ヶ月かかるし、工事関係者を庭に入れるとダンジョンがバレる。


「現地調達、しますか」

「え?」

「ダンジョンの第四層。まだ行ってないけど、入り口から良い木の香りがするんですよ。リフォーム素材と、ついでに収納問題を解決するアイテムを探しに行きましょう」


 ◇


 【第四層:巨木の迷宮】

 そこは、見上げるような巨木が林立する静寂の森だった。

 足元にはフカフカの苔。

 空気は清浄で、深呼吸するだけで寿命が延びそうだ。


「わぁ……マイナスイオンが凄いです」


 一ノ瀬さんが目を輝かせる。

 今日は探索ということで、彼女もジャージ姿で同行している。もちろん、護衛のポチも一緒だ。

 ガサガサッ!

 茂みから何かが飛び出してきた。

 宝箱だ。

 いや、宝箱に手足が生えたような奇妙なモンスター。


【ミミック・ボックス(Lv.15)】

 パカッ、と蓋が開き、鋭い牙が並ぶ口が俺たちを襲う。


「キャッ!?」

「ポチ、やれ!」


 ガウッ!

 ポチの一撃。

 銀色の閃光が走り、ミミックは一瞬で木っ端微塵になった。

 あとに残されたのは、古びた革袋のようなアイテム。


「……これは?」


 俺は拾い上げてスキャンした。


【名称】次元収納鞄アイテムボックス

【ランク】S

【効果】

 ・亜空間収納(容量無限)

 ・時間停止(収納中は劣化しない)

 ・重量無視


「……出た」


 俺は震える手でそれを一ノ瀬さんに渡した。

 ファンタジー小説の定番チートアイテム。

 だが、経営者視点で見ると、その意味合いは変わる。


「え……容量無限? 劣化しない?」


 一ノ瀬さんが、革袋とトマトの段ボールを見比べる。

 そして、顔色がサッと変わった。


「会長! これ、とんでもないですよ!!」


 彼女が興奮気味にまくし立てる。


「これがあれば、倉庫代がゼロになります! それに『時間停止』ってことは、鮮度管理も不要! どんなに大量のトマトも、腐らせずに在庫として抱えられるってことです!」

「つまり?」

「物流革命です!!」


 彼女は革袋を抱きしめた。

 Sランクの武器が出た時より嬉しそうだ。


「よし、次は建材だ」


 俺たちは森の奥へと進んだ。

 狙うは、この森の主と思われる巨木モンスター。


 ズズズズ……


 大地が揺れる。

 樹齢数千年はいきそうな大木が、根を足のように動かして歩いてきた。


【エルダー・トレント(Sランク)】

 その樹皮は鋼鉄より硬く、枝は魔法を弾くという。

 だが、俺には最高級の建材にしか見えない。


「ポチ、噛み砕くなよ! 綺麗に倒せ!」

「ワフッ!」


 ポチが影から飛び出し、トレントの急所を正確に貫いた。

 巨木がどうと倒れる。

 ドロップしたのは、美しく加工された角材と、一枚の板。


【世界樹の加工木材(Sランク)】

 ・絶対断熱(夏は涼しく冬は暖かい)

 ・自己修復(傷が勝手に治る)

 ・防音・防振・対魔力防御


 完璧だ。

 これを使えば、俺のボロ家は「核シェルター並みの防御力」と「高級ホテルの快適性」を併せ持つ要塞になる。


 ◇


 その日の夜。

 俺たちはセルフリフォームを開始した。

 といっても、大工仕事をするわけではない。

 トレントがドロップした【匠の金槌(工数短縮アイテム)】を使うと、木材が勝手に組み上がり、既存の壁や床と同化していくのだ。

 外から見ると、築45年のボロ家。

 だが、玄関を一歩入ると――。


「……すごいです」


 一ノ瀬さんが息を飲んだ。

 床は、世界樹のフローリング。歩くとカツカツと小気味よい音が鳴り、素足でも温かい。

 壁は、シックなダークブラウンの木目調。防音効果は完璧で、外の雑音は一切聞こえない。

 空気は清浄機など不要なほど澄み渡り、室温は常に適温(24度)に保たれている。

 リビングには、これまたダンジョン産のふかふかソファ(魔獣の毛皮製)とクリスタルのシャンデリア(発光苔の応用)が配置された。


「完全に、超高級ホテルのスイートルームですね」

「外見はボロ家のままってのがミソです。これなら税務署も『豪華すぎる』とは言えまい」


 俺はソファに沈み込んだ。

 体を包み込むような座り心地。

 人をダメにするソファの上位互換、人を王様にするソファだ。


「これで仕事も捗りますね」


 一ノ瀬さんは、早速新しいデスクにパソコンを広げた。

 アイテムボックスからトマトを取り出し、発送伝票を作成する。

 その作業効率は、以前の倍以上になっていた。


「会長、計算しました」


 彼女が眼鏡を光らせる。


「倉庫代、光熱費、鮮度ロス。これらが全てゼロになったことで、利益率がさらに15%向上しました。月商4000万も見えてきます」

「恐ろしいな……」


 俺は苦笑した。

 内装が豪華になっただけじゃない。

 この家は今、世界で最も効率的な物流拠点に進化したのだ。


 ピンポーン。

 インターホンが鳴った。

 モニターには、宅配ピザの兄ちゃんが映っている。

 俺たちのささやかなリフォーム祝いだ。


『お届けにあがりましたー……って、うわっ、ボッロい家……』


 マイク越しに、兄ちゃんの失礼な独り言が聞こえた。

 ふふっ、笑うがいい。

 このボロい壁の一枚向こう側には、君の年収の100倍を稼ぎ出す、異次元のオフィスが広がっているのだから。

 俺は優越感に浸りながら、オートロック(に見せかけた手動)の鍵を開けた。


 住環境、よし。

 物流、よし。

 資金、よし。

 盤石だ。

 この城なら、どんな敵が来ても迎え撃てる。


 そう思っていた俺たちの元に、翌日、予想外の来訪者が現れることになる。

 それは税務署でも、協会でもない。

 異世界からの、小さな迷子だった。

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