第27話 挑戦③
前と同じ場所、同じ相手。
あのときは、この世界の理もわからず、がむしゃらに技を繰り出していた。
だが、今日は違う。
日々のトレーニングで修得したマナとスペル――『火炎』をスキルで叩き込む。
入団テストとは名ばかり。私にとっては本気の試合だ。
大一番の試合なのに、観客は五人だけ。
その五人も真剣に見守るのみで、歓声も手拍子も何もない。
マットの上で軽く跳ね、再度その感触を靴の裏で確かめる。
体が軽い。
頭も冴えている。
両手をロープにかけ、屈伸していたロイスが振り向く。
「本気で来いよ。俺の心配はいらねえからな」
「はい、胸をお借りします……!」
「よし、いつでも来い」
ロイスのその一言が合図だった。
今回もまた、聞こえるはずのないゴングが、頭の中に鳴り響く。
ロイスがロープを離れ、一歩踏み出す。
私は一気に距離を詰めた。
右手にマナを集中させ、挨拶代わりの逆水平チョップを一撃。
さらにエルボーバット。
いずれもガードされるが、前回の手応えの無さは感じない。
ちゃんと、通る――!
そう思った瞬間、ロイスが右腕を振り抜く。
私と同じ、逆水平チョップだ。
考えるより前に、身体が動いた。
すんでのところで、後ろに飛びながらガードする。
しかし鈍い衝撃が腕に響き、体勢を崩す。
腕で受けたはずなのに、骨の奥まで痺れが走る。
体格差以上に、マナの絶対量が圧倒的不利を生み出している。
格上なのは元々わかっている。
――それでも!
重心を低くし、大きく二歩。
素早く踏み込んだところで体を左に捻る。
そして――。
「『ハートクラッシュ』――!」
ロイスの鳩尾付近にローリングエルボーを叩き込んだ。
少しは効いたのか、ロイスの口元がわずかに歪む。
「しっかりマナが乗ってるじゃねえか」
その言葉で、必死にこなしたトレーニングが間違っていなかったと再確認する。
「だが……まさかこれで終わりじゃないよな?」
「もちろんです……!」
求められているのはマナだけじゃない。
つまり――。
胸の前で軽く拳を握る。
マナが巡り、熱が集まる。
「『火炎』!」
魔法陣が見えた瞬間唱え、右手に炎が宿る。
「ほう……」
ロイスの口角が上がる。
それを待っていた、とでも言わんばかりに。
これをキープしたまま、攻める――!
炎を叩きつけるように、逆水平チョップ……と見せかけて、飛び込んだ勢いでロイスの頭部を抱え込み、DDTをお見舞いした。
頭からマットに落とされたロイスは仰向けで倒れる。
そこに、ニー・ドロップ――。
ロイスの胸元に右膝を突き刺した。
右手には炎が燃えている。
ここだ――!
「おらぁぁぁぁっっ!」
ロイスに倒れ込むように、炎をまとった右手でスキル――渾身の掌底を叩き込む。
攻撃と同時に軽い爆発が起き、周囲を曇らせた。
マナリアクター相手では起こらない、マナとマナがぶつかったときの衝撃。
「はぁっ……はぁっ……」
右の拳の炎はかろうじて残っている。
でも、十分だ。
DDT、ニー・ドロップ、掌底の三連撃。
しかし――。
「いい連携だ。戦い慣れてる者の動きだな」
それをまともに受けたはずのロイスは、表情を崩すことなく、体を起こしながら言う。
そして――。
「少しだけ本気を出すぜ」
次の瞬間、ロイスが目の前にいた。
押し出すような掌底。
しかも、その手のひらには炎が見える。
いつの間に――!?
ガードも回避も間に合わない。
こういうときは――。
全力で受ける!
受けることは慣れている……が、その衝撃は凄まじかった。
火花が散り、身体の奥まで響く打撃。
私の身体は宙に浮き、ロープまで吹っ飛ばされた。
硬いロープの感触が背中に当たり、弾かれる。
「がは……っ……」
一撃が信じられないほど重い。
ロイスの攻撃は止まらない。
間髪入れずに距離を詰めてきたロイスの右腕が、私の左太ももをとらえる。
左腕は首に回され、そこを支点に一気に逆さまに持ち上げられ、景色が一変した。
何が起こったのか理解する間もなく抱え込まれたが、これが何かは経験でわかる。
ボディスラムだ。
なら、受け身を取れる!
ボディスラムは、最も基本的な投げ技のひとつ。
そのため、受け身も数えきれないほどしている。
文字通り、体が覚えているのだ。
私を持ち上げたロイスは前後を入れ替え、リング中央を向く。
そのまま私の背中を、マットに叩きつけた。
完璧な受け身。
衝撃を分散――したはずなのに。
立ち上がれない。
息が出来ない。
「ロイス、それ以上は――」
エレンが言いかけた言葉を、ターナーが制止する。
背中が痛い。
肺が悲鳴を上げている。
それでも、立ち上がる。
震える足を叩き、心を奮い立たせる。
「終わりにするか?」
私の闘魂は――まだ燃えている!
「まだです……!」
もう一度、頭の中に魔法陣を描く。
朦朧とする意識の中、ふと大きなイメージが湧いた。
そのまま右腕にマナを集中させる。
「……『火炎』!」
炎は渦を巻きながら、右腕を包んだ。
「――これが、私の」
全身全霊で力を振り絞る。
「全力の――」
右足を踏み込み、腕を振りかぶる。
「『ハートブレイク――」
目の前に立つロイスに叩きつけた。
「――バースト』!」
炎と衝撃が、同時に炸裂する。
ロイスの体が宙で一回転し、背中からマットに叩きつけられる。
私は仰向けに倒れた。
炎が消える。
リングには、熱と、静寂。
ロイスが体を起こし、息を吐いた。
「……効いたぜ」
それが、試験終了の合図だった。




