第41話「フェリシアの決意」
リオールとロザリンドが対決してから二日後、フェリシアは自室で一人、深く考え込んでいた。
このまま受け身でいては、何も変わらない。
ロザリンドの攻撃は、さらに激しくなるだろう。
噂は広がり続け、社交界での立場はますます悪くなる。
「もう、黙っていられない。」
フェリシアは立ち上がった。
彼女は、エミリアとポリーを呼んだ。
「二人に、相談があります。」
―――
三人は部屋に集まった。
フェリシアは、これまでの経緯を全て話した。
ドレスの妨害、噂の流布、社交界での中傷。
そして、リオールとロザリンドの対決のことも。
「ひどい...。」
ポリーは怒りで震えていた。
「そんな卑劣なことを。」
「でも、証拠がないんです。」
フェリシアは言った。
「だから、誰も彼女を止められない。」
「では、どうするんですか?」
エミリアが尋ねた。
フェリシアは真剣な目で二人を見た。
「私、もう逃げません。堂々と社交界に出て、自分の言葉で真実を語ります。」
「でも、それは危険では...。」
ポリーが心配そうに言った。
「危険かもしれません。」
フェリシアは頷いた。
「でも、このまま何もしないよりはマシです。」
彼女は窓の外を見た。
「私はもう、『不幸な令嬢』ではありません。フェリシア・ルミナス。リオールの婚約者として、堂々と生きていきます。」
エミリアが立ち上がった。
「わかりました。私も協力します。」
「私もよ。」
ポリーも頷いた。
「あなたは私の大切な妹。全力で支えるわ。」
フェリシアは二人に感謝した。
「ありがとう。では、作戦を立てましょう。」
―――
フェリシアの計画は、シンプルだった。
三日後に開かれる茶会に出席し、そこで堂々と自分の立場を表明する。
噂に怯えず、中傷に屈せず、真実を語る。
そして、マリアンヌ侯爵夫人や、自分を支持してくれる人々との絆を深める。
「でも、ロザリンド様も必ず出席するはずです。」
エミリアが言った。
「わかっています。」
フェリシアは頷いた。
「むしろ、彼女がいた方がいい。直接対決する覚悟です。」
「フェリシア...。」
ポリーは心配そうだった。
「大丈夫。」
フェリシアは微笑んだ。
「私は一人じゃない。皆がいてくれる。」
翌日、フェリシアはマリアンヌ侯爵夫人を訪ねた。
「まあ、フェリシア様。」
マリアンヌは温かく迎えてくれた。
「お久しぶりです。」
「どうされましたか?お顔色が優れないようですが。」
フェリシアは正直に話した。
ロザリンドの嫌がらせ、広がる噂、社交界での孤立。
マリアンヌは真剣な顔で聞いていた。
「そう...やはりロザリンドが。」
「ご存じだったのですか?」
「ええ。」
マリアンヌは頷いた。
「彼女が三年前、リオール様に想いを寄せていたことは知っていました。でも、まさかこんなことをするとは…。」
彼女はフェリシアの手を取った。
「あなたは何も悪くありません。あの子が、嫉妬に狂っているだけです。」
「私、三日後の茶会で、自分の想いを語ろうと思います。」
フェリシアは決意を込めて言った。
「噂に負けず、堂々と。」
マリアンヌは微笑んだ。
「素晴らしい。それがあなたらしいわ。」
「でも...もしかしたら、さらに攻撃されるかもしれません。」
「大丈夫。」
マリアンヌは力強く言った。
「私があなたの味方です。そして、真実を知る者は、必ずあなたの側に立ちます。」
フェリシアは涙ぐんだ。
「ありがとうございます。」
「それに。」
マリアンヌは立ち上がった。
「私からも、何人かの友人に声をかけておきます。あなたを支持する人々を、茶会に集めましょう。」
「本当ですか?」
「ええ。あなたは一人じゃないのよ、フェリシア。」
―――
その夜、フェリシアはリオールに計画を話した。
「茶会で、公に語る?」
リオールは驚いた。
「はい。」
フェリシアは頷いた。
「もう、隠れていたくありません。」
「しかし、危険だ。ロザリンドが何をしてくるか...。」
「わかっています。」
フェリシアは彼の手を取った。
「でも、このままでは何も変わりません。」
彼女は真剣な目でリオールを見た。
「私、変わりたいんです。かつての弱い自分から、本当に強い自分に。」
リオールは、彼女の目の中に宿る決意を見た。
「わかった。」
彼は頷いた。
「君の決断を支持する。そして、私も一緒に戦う。」
「ありがとう。」
フェリシアは彼を抱きしめた。
「あなたがいてくれるから、私は勇気が持てます。」
「君は、もう十分強い。」
リオールは優しく言った。
「私は、ただそれを信じるだけだ。」
二人は静かに抱き合った。
明後日、運命の茶会が開かれる。
そこで、全てが決まる。
―――
茶会の前日、フェリシアは一人で庭園を散歩していた。
母レーナが植えた「月光のバラ」を見に来たのだ。
白い花が、朝日を浴びて輝いている。
「母上。」
フェリシアは花に触れた。
「明日、私は大きな一歩を踏み出します。」
風が優しく吹き、花びらが揺れた。
「怖いです。でも、もう逃げません。」
彼女は胸の首飾りに手を当てた。
「母上が守ってくれた命。無駄にはしません。」
首飾りが、温かくなった気がした。
母も、応援してくれている。
フェリシアは決意を新たにした。
「私は、フェリシア・ルミナス。不幸な令嬢ではなく、光をもたらす者。」
―――
茶会当日の朝、フェリシアは入念に準備をした。
エミリアが髪を整え、ポリーがドレスを選んでくれた。
淡いピンクのドレス。優雅で、上品で、そして自信に満ちた印象を与える。
「完璧です。」
エミリアが言った。
「ええ。」
ポリーも頷いた。
「今日のあなたは、とても美しいわ。」
フェリシアは鏡を見た。
そこには、もう怯えた少女の姿はなかった。
凛とした、強い女性がいた。
「行きましょう。」
フェリシアは立ち上がった。
茶会の会場は、王宮の東の間。
広い部屋に、既に多くの令嬢たちが集まっていた。
フェリシアが入ると、室内がざわついた。
視線が集まる。
しかし、フェリシアは怯まなかった。
堂々と、部屋の中央に進んだ。
マリアンヌ侯爵夫人が、微笑んで手を振った。
その隣には、何人かの貴婦人たちがいた。
マリアンヌが集めてくれた、フェリシアの支持者たちだ。
「フェリシア様、こちらへ。」
マリアンヌが席を勧めた。
フェリシアが座ろうとした時、ドアが開いた。
ロザリンドが入ってきた。
紫のドレスに身を包み、優雅に微笑んでいる。
二人の視線が交わった。
ロザリンドの目には、挑戦的な光が宿っていた。
フェリシアは、視線を逸らさなかった。
もう、怯えない。
茶会が始まった。
最初は、普通の社交的な会話が続いた。
しかし、やがて話題は、フェリシアとリオールの結婚式に移った。
「フェリシア様、結婚式まであと二ヶ月半ですわね。」
一人の令嬢が言った。
「はい。」
フェリシアは微笑んだ。
「楽しみです。」
「準備は順調ですか?」
「おかげさまで。」
その時、ロザリンドが口を開いた。
「でも、大変でしょう?様々な噂もありますし。」
室内が静まり返った。
フェリシアは、深呼吸をした。
そして、はっきりと言った。
「はい、確かに噂があります。」
彼女は室内を見回した。
「私が、リオール様の地位と財産目当てで近づいたという噂。不幸をもたらすという噂。」
ざわめきが起こった。
「でも…。」
フェリシアは続けた。
「それは全て、事実ではありません。」
彼女は立ち上がった。
「私がリオール様を愛しているのは、彼の地位や財産のためではありません。彼の優しさ、強さ、そして私を信じてくれる心のためです。」
マリアンヌが頷いた。
「確かに、私はかつて『不幸な令嬢』と呼ばれました。」
フェリシアは続けた。
「父の呪いによって、多くの不幸に見舞われました。しかし、それは私の罪ではありません。」
彼女の声は、力強かった。
「呪いは解かれました。父は罪を償っています。そして私は、新しい人生を歩んでいます。」
フェリシアはロザリンドを見た。
「もし、誰かが私とリオール様の結婚を妨害しようとしているなら…。」
彼女ははっきりと言った。
「それは、卑劣な行為です。」
ロザリンドの顔が強ばった。
「私は、堂々と社交界に立ちます。噂に屈することなく、真実を語ります。」
フェリシアは全員を見回した。
「私を信じてくださる方は、どうか味方でいてください。信じられない方は...それでも構いません。」
彼女は微笑んだ。
「でも、私は決して諦めません。リオール様との結婚を、必ず成し遂げます。」
室内に、静寂が流れた。
そして、マリアンヌが拍手を始めた。
他の貴婦人たちも、次々と拍手をした。
「素晴らしいスピーチでしたわ、フェリシア様。」
一人の令嬢が言った。
「私、あなたを応援します。」
「私もですわ。」
次々と、支持の声が上がった。
ロザリンドは、青ざめた顔で座っていた。
彼女の計画は、崩れ始めていた。
フェリシアは、席に戻った。
心臓が激しく鳴っている。
でも、やり遂げた。
自分の言葉で、真実を語った。
マリアンヌが小声で言った。
「よくやったわ、フェリシア。」
「ありがとうございます。」
フェリシアは微笑んだ。
これは、始まりに過ぎない。
しかし、大きな一歩を踏み出した。
もう、後戻りはしない。
フェリシアは、前を向いて歩き続ける。
愛する人と、幸せな未来へ。




