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不幸な令嬢は王宮専属魔法使いに救われる  作者: 雪銀華
第三章

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第38話「最初の嫌がらせ」

ロザリンドと出会ってから一週間が過ぎた。


表面上、ロザリンドは友好的に振る舞っていた。茶会でフェリシアに話しかけ、結婚式のことを尋ね、祝福の言葉をかける。


しかし、フェリシアの胸の不安は消えなかった。


ロザリンドの笑顔は完璧だが、その目は決して笑っていない。時折、フェリシアを見る視線には、冷たいものが宿っていた。


「気にしすぎかしら。」


フェリシアはエミリアに相談した。


「ロザリンド様は親切にしてくださるのに、どうしても心が落ち着かないの。」


「それは、女性の直感というものですよ。」


エミリアは真剣な顔で言った。


「フェリシア様が感じる不安には、理由があるはずです。」


「でも、証拠もないのに疑うのは...。」


「気をつけるに越したことはありません。」


エミリアの言葉は、正しかった。


―――


この日、フェリシアはマダム・クラリスの店で、ウェディングドレスの仮縫いを予定していた。


エミリアとポリーが同行する。


「楽しみですね。」


エミリアが馬車の中で言った。


「ドレスがどれだけ進んでいるか。」


「ええ。」


フェリシアは微笑んだ。


「早く見たいわ。」


店に到着すると、マダム・クラリスが出迎えた。


しかし、その表情は困惑していた。


「フェリシア様...実は、お話があります。」


「どうされたのですか?」


マダム・クラリスは奥の部屋に案内した。


「実は...昨日、あなたの代理人だという方が来られまして。」


「代理人?」


フェリシアは首を傾げた。


「はい。ロザリンド・ヴァンフォール様という方が。」


フェリシアの顔が強ばった。


「彼女が、フェリシア様の親しい友人で、ドレスのデザインを変更したいと仰いました。」


「変更...?」


「はい。もっと豪華に、装飾を増やしてほしいと。そして、色も純白ではなく、アイボリーにしてほしいと。」


フェリシアは信じられない思いだった。


「でも、私はそんなこと頼んでいません。」


「やはり...。」


マダム・クラリスは安堵した様子だった。


「実は、私も不審に思ったのです。フェリシア様は最初、シンプルで上品なドレスを望まれていたのに、急に方針を変えるのはおかしいと。」


「それで、どうされたのですか?」


「変更は保留にしました。」


マダム・クラリスは言った。


「正式な確認を取るまでは、元のデザインで進めると。」


「ありがとうございます。」


フェリシアは心から感謝した。


もしマダム・クラリスが疑わずにロザリンドの言葉を信じていたら、ドレスは台無しになっていたかもしれない。


「ロザリンド様は、なぜそのようなことを...。」


ポリーが憤慨した。


「わかりませんが…。」


フェリシアは冷静に答えた。


「おそらく、私を困らせるためでしょう。」


「なんとひどいことを。」


エミリアが怒りを露わにする。


「でも、証拠がありません。」


フェリシアは言った。


「ロザリンド様は『親切心で』やったと主張するでしょう。」


マダム・クラリスは頷いた。


「確かに、彼女はそう言っていました。『フェリシア様のために、もっと良いドレスにしたい』と。」


「巧妙ですね。」


ポリーが言った。


フェリシアは深く息をついた。


「とにかく、元のデザインで進めてください。今後、私以外の誰かが変更を申し出ても、必ず私に確認してください。」


「承知いたしました。」


ドレスの仮縫いは無事に終わった。


美しいドレスは、ほぼ完成に近づいていた。


しかし、フェリシアの心には暗い影が落ちていた。


―――


王宮に戻ると、リオールに報告した。


「ロザリンドが...?」


リオールの表情が険しくなった。


「それは許せないな。」


「でも、証拠がありません。」


フェリシアは言った。「彼女は『親切心だった』と言い訳できます。」


「しかし...。」


「今は、静観しましょう。」


フェリシアは落ち着いて言った。


「もし彼女が何か企んでいるなら、またボロを出すはずです。」


リオールは納得していない様子だったが、頷いた。


「わかった。しかし、君に何かあったらすぐに言ってくれ。」


「はい。」


その夜、フェリシアは一人で考え込んでいた。


ロザリンドは、確実に自分を狙っている。


しかし、なぜこんな回りくどい方法を取るのだろう。


直接リオールに「私を選んでください」と言えばいいのに。


答えは明白だった。


リオールの心は、既にフェリシアにある。


だから、ロザリンドはフェリシアを貶めることで、二人の関係を壊そうとしているのだ。


「負けない。」


フェリシアは拳を握りしめた。


「私は、もう弱い自分ではない。」


―――


数日後、王宮で小さな茶会が開かれた。


フェリシアも出席していた。


そこに、ロザリンドも現れた。


「皆様、ごきげんよう。」


彼女は優雅に微笑みながら、席に着いた。


そして、フェリシアの隣に座った。


「フェリシア様、ドレスの仮縫いはいかがでしたか?」


「おかげさまで、順調です。」


フェリシアは平静を装って答えた。


「それは良かったですわ。」


ロザリンドは微笑んだ。


「実は、私も少し心配していましたの。」


「心配?」


「ええ。」


ロザリンドは他の令嬢たちにも聞こえるように言った。


「先日、マダム・クラリスの店に行った時、フェリシア様のドレスについて相談されたんですの。」


周囲の令嬢たちが興味深そうに耳を傾けた。


「マダムが『デザインが地味すぎないか』と心配されていて。それで、私も『もう少し華やかにしてはどうか』と提案したのですが。」


ロザリンドは残念そうに首を振った。


「フェリシア様は、シンプルなものがお好きなのですね。私の余計な口出しでしたわ。」


巧妙だった。


ロザリンドは、自分の妨害工作を「親切な提案」として語り、同時にフェリシアのセンスを暗に批判している。


「まあ、でも確かに。」


一人の令嬢が言った。


「王宮での結婚式なら、もう少し華やかな方が...。」


「いいえ。」


フェリシアははっきりと言った。


「私は、シンプルで上品なドレスが良いと思っています。それが、母の好みでもありましたから。」


彼女はロザリンドを真っ直ぐ見つめた。


「ロザリンド様のご提案はありがたいですが、私は自分の選択に自信を持っています。」


ロザリンドの目が、一瞬冷たく光った。


しかしすぐに笑顔に戻った。


「もちろんですわ。フェリシア様のお考えが一番大切ですもの。」


「それに…。」


フェリシアは続けた。


「今後、ドレスのことは私が直接マダム・クラリスと相談します。他の方に代理をお願いすることはありません。」


これは、明確な牽制だった。


周囲の令嬢たちは、二人の間に流れる緊張を感じ取った。


ロザリンドは完璧な笑顔を保ちながら、紅茶を飲んだ。


「賢明な判断ですわ。」


彼女の声は、蜂蜜のように甘かった。


しかし、その目は氷のように冷たかった。


―――


茶会が終わり、フェリシアは部屋に戻った。


エミリアが心配そうに尋ねた。


「大丈夫でしたか?」


「ええ。」


フェリシアは頷いた。


「ロザリンド様に、はっきりと伝えることができました。」


「それは良かったです。」


しかし、フェリシアは知っていた。


これで終わりではない。


ロザリンドは、さらに巧妙な手段を使ってくるだろう。


その予感は、正しかった。


―――


翌日、フェリシアが王宮の廊下を歩いていると、数人の貴族たちがひそひそと話している声が聞こえた。


「本当なのかしら。」


「ええ、聞いた話では...。」


「あの方が、実は...。」


フェリシアが近づくと、彼らは慌てて口を閉じ、不自然に立ち去った。


不審に思ったフェリシアは、エミリアに調査を頼んだ。


夕方、エミリアが深刻な顔で戻ってきた。


「フェリシア様...良くない噂が広まっています。」


「噂?」


「はい。」


エミリアは躊躇いながら言った。


「フェリシア様が、リオール様の地位と財産目当てで近づいたという噂です。」


フェリシアは息を呑んだ。


「そんな...。」


「それだけではありません。」


エミリアは続けた。


「かつて『不幸をもたらす令嬢』だったフェリシア様が、今度はリオール様に不幸をもたらすのではないか、という声もあります。」


フェリシアの顔から血の気が引いた。


古い傷が、再び開かれた。


「誰が...誰がそんな噂を...。」


答えは明白だった。


ロザリンドだ。


彼女は、フェリシアの最も痛いところを突いてきた。


「くっ...。」


フェリシアは唇を噛んだ。


かつての自分なら、この噂に押し潰されていただろう。


でも、今は違う。


「エミリア。」


フェリシアは顔を上げた。


「噂の出所を調べてください。必ず、証拠を掴みます。」


「はい!」


フェリシアは窓の外を見た。


夕日が沈んでいく。


嵐は、まだ始まったばかりだった。


―――


その夜、リオールがフェリシアの部屋を訪れた。


「噂のことは聞いた。」


彼の声には怒りが滲んでいた。


「誰がそんな馬鹿げたことを...。」


「おそらく、ロザリンド様でしょう。」


フェリシアは冷静に答えた。


「しかし、証拠がない。」


「証拠がなくても、私は彼女に直接抗議する。」


「待ってください。」


フェリシアはリオールの手を取った。


「今、感情的に動いてはいけません。」


「しかし、君が傷つけられているんだぞ。」


「わかっています。」


フェリシアは微笑んだ。


「でも、私は大丈夫です。」


彼女はリオールの目を見つめた。


「私はもう、弱くありません。噂に負けたりしません。」


「フェリシア...。」


「それに…。」


フェリシアは続けた。


「ロザリンド様は必ずボロを出します。焦れば焦るほど、ミスをするはずです。」


「君は...強くなったな。」


リオールは感心したように言った。


「あなたがいてくれるからです。」


フェリシアは彼の胸に顔を埋めた。


「あなたが信じてくれる限り、私はどんな噂にも負けません。」


リオールは彼女を抱きしめた。


「当然だ。私は、君だけを信じている。」


二人は静かに抱き合った。


外では風が強くなっていた。


嵐の前触れのように。


しかし、フェリシアの心は決まっていた。


この試練を、必ず乗り越える。


リオールと共に。


そして、ロザリンドの企みを暴く。


夜は深まり、静かな決意が、フェリシアの心に宿っていた。

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