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不幸な令嬢は王宮専属魔法使いに救われる  作者: 雪銀華
第二章

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第31話「二人の時間」

祝宴の翌日、フェリシアは朝早く目を覚ました。


窓から差し込む朝日が、部屋を柔らかく照らしている。


海鳥の鳴き声が聞こえ、潮風が白いカーテンを揺らしていた。


体はすっかり軽くなっていた。魔力も、ほとんど回復している。不思議と清々しい気分だった。


隣の部屋で、リオールが書類を整理している気配がした。

魔物討伐の報告書を書いているのだろう。フェリシアはベッドから起き上がり、簡単に身支度を整えた。


リビングに出ると、リオールが机に向かって羽根ペンを走らせていた。


朝日が彼の横顔を照らし、その真剣な表情が際立っている。


「おはようございます。」


フェリシアが声をかけると、リオールは顔を上げて微笑んだ。


「おはよう。よく眠れたか?」


「ええ、とても。」


フェリシアは頷いた。


「もう大丈夫です。リオールこそ、昨夜は遅くまで宴にいらしたのに。」


「私は慣れている。」


リオールは羽根ペンを置いた。


「それより、今日は君と二人だけで過ごしたいんだ。」


「二人で?」


「ああ。レオナルドたちには、町の警備と海の安全確認を任せた。私たちは、少しゆっくりしよう。」


フェリシアの顔がぱっと明るくなった。


「本当ですか?」


「もちろんだ。」


リオールは立ち上がり、フェリシアの手を取った。


「この数日、君は戦い続けた。魔物討伐という危険な任務で、命がけで戦った。少しくらい、休息を取る権利がある。」


「でも、報告書は...。」


「もう書き終えた。あとは国王陛下に届けるだけだ。」


リオールは窓の外を見た。


「今日は良い天気だ。海辺を散歩しないか?」


フェリシアは嬉しそうに頷いた。


―――


二人は宿を出て、港から少し離れた静かな海岸へと向かった。


エルドマールの海は本当に美しかった。


透き通った青い海、白い砂浜、穏やかな波。昨夜の激しい戦闘が嘘のような平和な光景だった。


「誰もいませんね。」


フェリシアが辺りを見回して言った。


「ここは観光客が来ない場所だと、宿の主人が教えてくれた。」


リオールは説明した。


「町の人々も、漁で忙しい時間だから、今は私たちだけだ。」


二人は靴を脱ぎ、裸足で砂浜を歩いた。砂の感触が心地よい。

波が足元まで寄せてきて、冷たい水が肌に触れる。


フェリシアは思わず笑った。


「冷たい!」


「気持ちいいだろう?」


リオールも笑顔で波と戯れている。


いつもは威厳のある王宮専属魔法使いが、今はまるで子供のように無邪気だった。


二人は並んで海岸線を歩いた。会話は途切れがちだったが、それが心地よかった。


言葉がなくても、ただ一緒にいるだけで幸せを感じられる。


やがて、大きな岩が海に突き出している場所に辿り着いた。


「あそこに登ってみよう。」


リオールが提案し、二人は岩を登った。

頂上は平らになっていて、座るのにちょうど良かった。


二人は並んで座り、海を眺めた。


水平線が遠くまで続いている。

青い空と青い海が溶け合い、どこまでも広がっている。時折、海鳥が飛び交い、その鳴き声が響く。


「綺麗。」


フェリシアが息を呑んだ。


「ああ、本当に。」


リオールも同意した。しかし彼の視線は、海ではなくフェリシアに向けられていた。


潮風が彼女の髪を揺らし、朝日が横顔を照らしている。その姿は、まるで絵画のように美しかった。


フェリシアがリオールの視線に気づいて顔を向けた。


「どうしたんですか?」


「いや。」


リオールは少し照れたように笑った。


「君が美しいと思って。」


フェリシアは頬を染めた。


「そんな...私なんて。」


「本当だよ。」


リオールは真剣な目で言った。


「君は美しい。外見もそうだが、何より心が美しい。」


「リオール...。」


「初めて会った時から思っていた。」


リオールは続けた。


「あの庭園で、月光の下で出会った夜。君は孤独そうで、悲しそうだった。でも、その瞳には強さがあった。諦めない意志が、確かにあった。」


フェリシアは黙って聞いていた。


「それから君を知るにつれ、その想いは確信に変わった。君は本当に強い。そして優しい。どんなに辛い目に遭っても、他人を恨まない。むしろ、他人を助けようとする。」


「そんなことは...。」


「昨日の戦いを見た。」


リオールは言葉を続けた。


「君は自分の身の危険も顧みず、私を守ろうとした。そして、その時に目覚めた力で、多くの人を救った。」


リオールはフェリシアの手を取った。


「フェリシア、君は素晴らしい人だ。誰が何と言おうと、私はそう思う。」


フェリシアの目に涙が浮かんだ。


「ありがとうございます。」


彼女は小さな声で言った。


「でも私は...ずっと自分に価値がないと思っていました。生まれてきたこと自体が間違いだと。」


「それは違う。」


リオールは強く言った。


「君が生まれてきたことは、奇跡なんだ。君の母上が命をかけて守った命。その命が、今こうして多くの人を救っている。」


フェリシアは泣きながら頷いた。


「昨日、初めて思ったんです。生きていて良かったって。人の役に立てて、嬉しかったって。」


「その気持ちを、忘れないでくれ。」


リオールは彼女の涙を指で拭った。


「君は必要とされている。私にも、町の人々にも、これから出会う多くの人々にも。」


「はい。」


フェリシアは微笑んだ。涙を流しながらも、その笑顔は本当に幸せそうだった。


二人はしばらく、何も言わずに寄り添っていた。波の音、海鳥の鳴き声、潮風。すべてが心地よかった。


―――


やがてリオールが立ち上がり、手を差し伸べた。


「もう少し歩こう。」


二人は岩を降り、さらに海岸線を進んだ。砂浜には、様々な貝殻が打ち上げられている。


「綺麗な貝殻ですね。」


フェリシアが一つを拾い上げた。螺旋状の模様が入った、小さな巻貝だった。


「それをあげよう。」


リオールが言った。


「記念に。」


「でも...。」


「いいんだ。この海で、君が生まれ変わった記念だ。」


フェリシアは貝殻を大切そうに握りしめた。


「ありがとうございます。大切にします。」


二人は歩き続けた。やがて、小さな入り江に辿り着いた。岩に囲まれた静かな場所で、波も穏やかだった。


「ここは秘密の場所みたいですね。」


フェリシアが囁いた。


「私たちだけの場所だ。」


リオールが答えた。


入り江の奥には、岩の隙間から真水が湧き出ている小さな泉があった。その周りには、色とりどりの花が咲いている。


「まあ、綺麗!」


フェリシアは駆け寄った。青、白、ピンクの小さな花々。海辺の厳しい環境でも、健気に咲いている。


「この花、知っています。」


フェリシアが一輪の白い花に触れた。


「母が好きだった花だそうです。海辺に咲く、海星花かいせいか。」


「そうか。」


リオールも花に近づいた。


「君の母上も、海が好きだったのかもしれないな。」


「かもしれません。」


フェリシアは微笑んだ。


「母の首飾りも、海の色をしていますから。」


彼女は胸元の青い石の首飾りに触れた。母レーナが最期の力を込めて作った、守りの首飾り。


「この首飾りが、ずっと私を守ってくれました。」


フェリシアは言った。


「そして昨日も、母の力を感じました。あの治癒魔法が発動した時、首飾りが強く光ったんです。」


「君の母上は、今も君を見守っている。」


リオールは優しく言った。


「そして、君の幸せを願っているはずだ。」


フェリシアは頷いた。


「母上、見ていてくださいね。」


彼女は空を見上げて囁いた。


「私、幸せになります。」


―――


昼近くなって、二人は宿に戻った。


食堂では、レオナルドと騎士たちが昼食を取っていた。


「リオール様、フェリシア様、お帰りなさい。」


レオナルドが立ち上がった。


「海の調査は順調だ。魔物の気配は完全に消えている。」


「そうか、良かった。」


リオールは頷いた。


「町の人々も、もう海に出始めています。漁師たちは喜んでいますよ。」


「それは何よりだ。」


二人も席に着き、食事を始めた。新鮮な魚の料理、野菜のサラダ、焼きたてのパン。どれも美味しかった。


「フェリシア様。」


レオナルドが言った。


「町の人々が、あなたに感謝の品を届けたいと言っています。受け取っていただけますか?」


「もちろんです。」


フェリシアは微笑んだ。


「皆さんの気持ちは、ありがたく受け取らせていただきます。」


食後、町役場を訪れると、ガレス町長が待っていた。


「フェリシア様、これを。」


町長が差し出したのは、美しい布で包まれた箱だった。


フェリシアが開けると、中には手作りの刺繍が施されたハンカチが入っていた。白い布に、青い糸で海と空が刺繍されている。そして中央には、光り輝く星のような模様。


「これは...。」


「町の女性たちが、総出で作りました。」


町長が説明した。


「フェリシア様の治癒魔法を、星の光で表現したのです。どうか、記念に受け取ってください。」


フェリシアは感動で言葉が出なかった。


「ありがとうございます。」


彼女はハンカチを大切そうに抱きしめた。


「私、一生大切にします。」


―――


その夜、二人は再び宿の部屋のバルコニーに立っていた。


星空が広がり、月が海を照らしている。波の音が、子守唄のように優しい。


「明日、王宮に戻る。」


リオールが言った。


「国王陛下に報告し、正式に家名をいただく。」


「はい。」


フェリシアは頷いた。


「そして、私たちの結婚式の準備が始まるのですね。」


「そうだ。」


リオールは彼女を抱き寄せた。


「楽しみだな。」


「ええ、とても」


フェリシアはリオールの胸に顔を埋めた。彼の心臓の音が聞こえる。力強く、温かい音。


「リオール。」


「ん?」


「私、変わりました。」


「どう変わった?」


「強くなりました。自分を信じられるようになりました。」


フェリシアは顔を上げた。


「あなたのおかげです。」


「いや、それは君自身の力だ。」


リオールは微笑んだ。


「私は、ただ君の背中を押しただけだ。」


「でも、あなたがいなければ、私は変われなかった。」


フェリシアはリオールの頬に手を添えた。


「ありがとう、リオール。あなたに出会えて、本当に良かった。」


リオールは彼女の手を取り、その手の甲にキスをした。


「こちらこそ。君に出会えて、私の人生は変わった。」


二人は静かに見つめ合った。


そして、ゆっくりと顔を近づけ、唇を重ねた。


優しく、温かいキス。


月光が二人を包み、海が静かに祝福しているかのようだった。


キスを終えて、二人は抱き合った。


「愛しているよ、フェリシア。」


「私も愛しています、リオール。」


遠くで波の音が響いている。


明日からは、また新しい日々が始まる。


王宮に戻り、家名を授かり、結婚式の準備をする。


そして、治癒魔法使いとしての修行も始まる。


忙しい日々になるだろう。


でも、それは幸せな忙しさだ。


かつて孤独だった二人は、今はもう一人ではない。


互いに支え合い、愛し合い、共に未来を歩んでいく。


エルドマールの海が、静かに二人を見守っていた。


新しい人生の、本当の始まり。


二人の物語は、これからも続いていく。

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