表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不幸な令嬢は王宮専属魔法使いに救われる  作者: 雪銀華
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/38

第30話「町の感謝」

船が港に近づくにつれ、岸壁に集まる人々の姿が見えてきた。


松明の明かりが、夜の港を照らしている。


町の人々が、総出で待っていた。魔物との戦いの光と音を見て、結果を心配していたのだ。


「あれを見ろ。」


レオナルドが指差した。岸壁には、ガレス町長をはじめ、町民たちがびっしりと並んでいる。


「魔物は!」


「どうなったんだ!」


人々の不安そうな声が、波に乗って聞こえてくる。


レオナルドは船首に立ち、剣を高々と掲げた。


「魔物は討伐された!もう二度と、この海を脅かすことはない!」


一瞬の沈黙。


そして次の瞬間、岸壁から爆発的な歓声が上がった。


「勝ったのか!」


「本当に魔物を倒したんだ!」


「助かった!私たちは助かったんだ!」


人々は抱き合い、泣き、笑い、喜びを爆発させた。これまで、恐怖に怯えながら暮らしてきた日々。


愛する者を失った悲しみ。海に出ることができず、生活に困窮した苦しみ。


それらすべてから、ようやく解放されたのだ。


―――


リオールは船室で、意識を失ったフェリシアを抱きかかえていた。


彼女の顔は蒼白だが、呼吸は安定している。


魔力を使い果たしただけだ。


しかし、リオールは心配でならなかった。


「フェリシア。」


彼は静かに彼女の名を呼んだ。


フェリシアのまぶたが、わずかに動いた。


「リオール、様...。」


「無理に起きなくていい。港に着いたら、すぐに休ませる。」


「でも...皆さんは...?」


「皆、無事だ。お前のおかげでな。」


リオールは優しく微笑んだ。フェリシアの治癒魔法が、どれだけ役に立ったことか。


彼自身も、あの時確実に致命傷を負っていた。しかしフェリシアの力が、傷を完全に癒したのだ。


船が岸壁に横付けされると、ガレス町長が真っ先に駆け寄ってきた。


「リオール様!本当に...本当に魔物を!」


「ああ。」


リオールは頷いた。


「魔物は討伐した。もう恐れることはない。」


町長の目から、大粒の涙が溢れた。


「ありがとうございます!心から、心から感謝いたします!」


彼は深く、深く頭を下げた。その後ろで、町民たちも一斉に頭を下げる。


「どうか顔を上げてください。」


リオールは困ったように言った。


「私たちは、ただ務めを果たしただけです。」


「いいえ!」


町長は顔を上げた。


「皆様は私たちの命の恩人です!どうかこの感謝を、受け取ってください!」


その時、船室からレオナルドがフェリシアを抱きかかえて出てきた。


「フェリシア様!」


町長が驚いて駆け寄る。


「どうされたのですか!」


「魔力を使い果たして、気を失われています」


レオナルドが説明した。


「休めば回復しますが、今はとにかく休息が必要です」


「それは大変だ!すぐに宿へ!」


町長が指示を出すと、町の人々が慌ただしく動き始めた。


「私が運ぶ。」


リオールはレオナルドからフェリシアを受け取った。


彼女は軽く、そして温かかった。リオールは彼女を抱きしめ、そっと額にキスをした。


「よく頑張ったな。」


―――


町で一番良い宿に案内され、リオールはフェリシアを寝室のベッドに寝かせた。


町の医者も駆けつけてきたが、診察の結果、やはり魔力の消耗だけだということが確認された。


「明日の朝には目を覚ますでしょう。」


医者は言った。


「それまで、ゆっくり休ませてあげてください。」


リオールは椅子を引き寄せ、フェリシアのベッドの傍らに座った。


彼女の手を取り、その手の甲に自分の額を押し当てる。


「ありがとう、フェリシア。」


彼は囁いた。


「君が私を救ってくれた。君の力で、多くの人が救われた。」


―――


翌朝、フェリシアがゆっくりと目を開けると、朝日が窓から差し込んでいた。


「ん...。」


体が重い。まるで何日も眠り続けていたような感覚。しかし頭ははっきりしている。


「気がついたか?」


傍らから、リオールの声がした。


フェリシアは顔を向けた。リオールが椅子に座り、疲れた顔で微笑んでいた。


「リオール様...ずっと、傍にいてくださったのですか/」


「当然だろう。」


「でも...。」


フェリシアは起き上がろうとして、リオールに止められた。


「まだ無理をするな。魔力の回復には時間がかかる。」


「私...魔物は...。」


「討伐した。」


リオールは優しく言った。


「君のおかげでな。」


フェリシアの記憶が蘇ってきた。魔物との激しい戦い。リオールが負傷したこと。そして、自分の中から溢れ出た光。


「あれは...私の力だったのでしょうか。」


「間違いない。」


リオールは頷いた。


「君は治癒魔法を発動させた。それも、極めて強力なものだ。私の致命傷を完全に癒し、他の騎士たちの傷も癒した。さらには、損傷した船まで修復した。」


「そんな...。」


フェリシアは信じられなかった。自分にそんな力があったなんて。


「君の母上も、優れた治癒魔法使いだったと聞いている。」


リオールは続けた。


「君はその才能を受け継いだんだ。呪いに抑圧されていた力が、ついに目覚めたんだ。」


フェリシアの目に涙が浮かんだ。


「母上が...私に力を...。」


「ああ。母上は君を守っただけでなく、君に未来も与えてくれたんだ。」


その時、ドアがノックされた。


「リオール様、フェリシア様、ご気分はいかがでしょうか?」


ガレス町長の声だった。


「どうぞ。」


町長が入ってきた。その後ろには、何人もの町民たちが続いている。皆、手に花や果物、パンなどを持っている。


「フェリシア様!お目覚めになられたのですね!」


町長は安堵の表情を浮かべた。


「良かった。本当に良かった。町中が、フェリシア様のことを心配しておりました。」


「私のことを...?」


フェリシアは驚いた。


「当然です!」


若い漁師が前に出てきた。


「フェリシア様が私の命を救ってくださったんです。魔物に襲われて、船から海に投げ出された時、もうダメだと思いました。でも、フェリシア様の光が私を包んで、傷が全部治ったんです!」


「私の夫も!」


一人の女性が言った。


「頭を強く打って、意識がなくなっていたのに、フェリシア様の魔法で目を覚ましたんです!」


次々と、町の人々が感謝の言葉を述べた。


フェリシアは圧倒された。こんなにも多くの人々を、自分が救ったのだろうか。


「皆様...ありがとうございます。」


彼女は涙声で言った。


「でも私は、ただ無我夢中で...。」


「それでいいんです。」


町長が優しく言った。


「フェリシア様は、私たちの命の恩人です。どうか、この町の感謝を受け取ってください。」


町民たちが、持ってきた贈り物をベッドの周りに置いていく。


色とりどりの花、新鮮な果物、焼きたてのパン。どれも心のこもった贈り物だった。


「今夜、町を挙げて祝宴を開きます!」


町長が宣言した。


「魔物の討伐を祝い、そして我らが英雄を讃えるために!」


町民たちから歓声が上がった。


リオールは笑って言った。


「ありがたく受けさせていただきます。ただし、フェリシアの体調が戻ってからにしてください。」


「もちろんです!夕方までゆっくりお休みください!」


町長たちが去った後、部屋には再び静寂が戻った。


フェリシアは周囲を見回した。花に囲まれた部屋。窓からは青い海が見える。穏やかな波が、静かに寄せては返している。


「信じられません。」


彼女は囁いた。


「こんなにも多くの人々に、感謝されるなんて。」


「信じるんだ。」


リオールは彼女の手を握った。


「君は人々を救う力を持っている。そしてその力で、これから多くの人を助けることができる。」


「でも私は...。」


「『不幸な令嬢』だったのは、もう過去のことだ。」


リオールは真剣な目で言った。


「今の君は、フェリシア・ルミナス。人々に光をもたらす者だ。」


フェリシアの目から、涙が溢れた。それは悲しみの涙ではなく、喜びと感謝の涙だった。


「ありがとうございます、リオール様。」


「リオールでいい。」


彼は微笑んだ。


「もうすぐ、君は私の妻になるのだから。」


フェリシアは頬を染めて頷いた。


―――


夕方になり、フェリシアの体調もかなり回復した。

彼女はリオールに支えられながら、町役場の広間へと向かった。


広間は、すでに町の人々で埋め尽くされていた。

テーブルには料理が並び、酒樽が用意され、楽団が楽器を調弦している。


二人が現れると、会場が静まり返った。


そして次の瞬間、爆発的な拍手と歓声が起こった。


「フェリシア様!」


「リオール様!」


「英雄万歳!」


人々は立ち上がり、二人に拍手を送る。


ガレス町長が前に出て、杯を掲げた。


「皆さん!今夜、私たちは自由を祝います!私たちを苦しめてきた魔物は、王宮から派遣されたリオール・ルミナス様とフェリシア・ルミナス様、そして勇敢な騎士たちによって討伐されました!」


会場から拍手と歓声。


「リオール様は王国最高の魔法使いとして、その力を余すことなく発揮されました!そしてフェリシア様!」


町長は感極まった様子で続けた。


「フェリシア様の治癒魔法は、まさに奇跡でした!戦いで負傷した騎士たちを、お一人で全員治療されたのです!致命傷を負った方々が、今こうして元気に立っているのは、すべてフェリシア様のおかげです!」


会場の視線がフェリシアに集まった。彼女は恥ずかしそうに俯いたが、リオールが優しく肩を抱いた。


「フェリシア様!」


救助された若い騎士が叫んだ。


「あなたは戦場の天使です!」


「天使!天使!」


他の騎士たちも唱和する。


町民たちもそれに続いた。


「戦場の天使!」


「光の癒し手!」


フェリシアは涙ぐんだ。かつて「不幸をもたらす者」と呼ばれた自分が、今は「天使」と呼ばれている。


「では、乾杯しましょう!」


町長が杯を高く掲げた。


「エルドマールの自由に!そして我らが英雄たちに!」


「乾杯!」


全員が杯を掲げ、一気に飲み干した。そして宴が始まった。


音楽が流れ、人々が踊り始める。料理が運ばれ、笑い声が響く。


フェリシアとリオールは上座に座り、次々と訪れる町の人々の感謝の言葉を受けた。


「私の父を救ってくださって、本当にありがとうございます。」


「息子が無事に帰ってこれたのは、お二人のおかげです。」


「この町の未来を取り戻してくださいました。」


一人一人と言葉を交わし、握手を交わし、笑顔を交わす。


フェリシアは実感していた。


自分は人の役に立てる。


自分にも価値がある。


自分も、誰かに必要とされている。


宴は深夜まで続いた。やがて疲れた人々が帰り始め、会場も静かになっていった。


リオールとフェリシアは宿に戻り、部屋のバルコニーに立った。


海を見下ろすと、月光が水面を照らし、銀色の道を作っている。穏やかな波の音だけが聞こえる。


「美しいですね。」


フェリシアが囁いた。


「ああ。」


リオールは彼女の肩を抱いた。


「もう恐ろしい魔物はいない。この海は、再び人々のものになった。」


フェリシアはリオールに寄りかかった。


「リオール様...いえ、リオール。」


「ん?」


「ありがとう。」


「何が?」


「私を見つけてくれて。私を救ってくれて。そして、私の力を信じてくれて。」


リオールは彼女を抱きしめた。


「こちらこそ、ありがとう。君がいてくれて、私は本当に幸せだ。」


二人は静かに抱き合い、この日の勝利と、互いへの愛を噛み締めた。


窓の外では、月が高く昇っている。


明日からも、まだやるべきことは多い。海の安全確認、町の復興支援、そして王宮への報告。


しかし今夜は、ただ喜びと安らぎを感じていたい。


エルドマールの町に、ようやく平和が戻ってきた。


そしてフェリシアは、自分の新しい人生が本当に始まったことを実感していた。


かつて不幸な令嬢と呼ばれた少女は、今や人々に希望をもたらす存在となっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ