第29話「魔物との戦い」
魔物が、船に向かって突進してきた。
「避けろ!」
リオールが叫んだ。
船員が、必死で舵を切る。
船が大きく傾き、魔物の攻撃をかわした。
「くっ!」
フェリシアは、船の縁に掴まった。
魔物は、船の横を通り過ぎ、再び海に潜った。
「レオナルド、準備はいいか!」
リオールが叫ぶ。
「はい!」
後続の二隻から、レオナルドの声が返ってくる。
海面が、また揺れた。
今度は、船の反対側から魔物が現れた。
「炎の矢よ!」
リオールが魔法を放った。
炎の矢が、魔物に向かって飛んでいく。
しかし、魔物の硬い鱗に阻まれ、ほとんど効果がない。
「やはり、硬いか。」
リオールは歯を食いしばった。
「弱点は、頭の石だけだ」
魔物が、再び突進してくる。
今度は、騎士たちの船に向かって。
「危ない!」
レオナルドたちが、剣を構える。
―――
魔物の尾が、騎士の船を襲った。
バキィ!
船の一部が、破壊される。
「うわあ!」
騎士の一人が、海に投げ出された。
「助けろ!」
レオナルドが叫ぶ。
しかし、魔物が騎士に向かっていく。
「させるか!」
リオールは、強力な魔法を放った。
「氷結の槍!」
巨大な氷の槍が、魔物に突き刺さった。
魔物は、怒りの咆哮を上げる。
その隙に、騎士は救出された。
「リオール様、ありがとうございます!」
レオナルドが叫んだ。
しかし、魔物は怒り狂っていた。
今度は、リオールの船に狙いを定める。
「来るぞ、フェリシア!」
リオールが、フェリシアを庇うように立った。
魔物が、巨大な口を開ける。
その口の中に、無数の鋭い牙。
フェリシアは、恐怖で動けなかった。
「フェリシア!伏せろ!」
リオールの声で、我に返る。
二人は、船の床に伏せた。
魔物の尾が、船の上を掠めた。
マストが、折れて倒れる。
―――
「くそ、このままでは…。」
リオールは立ち上がった。
「全員、距離を取れ!」
リオールは、両手を掲げた。
「俺が、魔物を引きつける。」
「リオール様、危険です!」
レオナルドが叫ぶ。
「構わない!お前たちは、頭の石を狙え!」
リオールは、強力な魔力を集中させた。
「雷光よ、我が手に!」
空から、稲妻が降り注ぐ。
魔物の体に、次々と雷が落ちる。
魔物は、苦しそうに身をよじる。
「今だ!」
レオナルドたちが、弓矢を放つ。
矢が、魔物の頭に向かう。
しかし、魔物は素早く動き、避けた。
「まだだ!」
リオールは、さらに魔法を放ち続ける。
しかし、魔力の消耗が激しい。
額に、汗が浮かぶ。
「リオール様!」
フェリシアが心配そうに見ている。
「大丈夫だ!」
リオールは、笑顔を見せようとした。
しかし、その時。
―――
魔物が、突然動きを変えた。
今度は、水中から攻撃してきた。
船の底を、尾で叩く。
ドンッ!
船が、大きく揺れた。
「うわっ!」
フェリシアが、バランスを崩す。
リオールが、フェリシアを抱きとめた。
「大丈夫か!」
「はい!」
しかし、魔物の攻撃は続く。
何度も、何度も、船の底を叩く。
船が、きしむ音を立てる。
「船が、持ちません!」
船員が叫んだ。
「わかっている!」
リオールは、決断した。
「レオナルド!俺が魔物を引きつける!その隙に、石を狙え!」
「しかし!」
「これしかない!」
リオールは、船の縁に立った。
「フェリシア、ここにいろ。」
「リオール様、何をするつもりですか!」
フェリシアが、リオールの腕を掴む。
「魔物を、直接攻撃する。」
リオールの目は、決意に満ちていた。
「離れろ、危険だ。」
「嫌です!」
フェリシアは、涙を流した。
「一人で行かせません!」
「フェリシア。」
「私も、一緒に戦います!」
リオールは、フェリシアを見つめた。
そして、頷いた。
「わかった。だが、俺の後ろにいろ」
「はい!」
―――
リオールは、魔物に向かって大きな魔法を放った。
「来い、化け物!」
魔物が、リオールに向かってくる。
巨大な口が、開かれる。
「今だ!」
リオールは、魔物の口の中に炎の球を放った。
魔物は、苦しそうにのたうち回る。
その隙に、レオナルドたちが矢を放つ。
何本かの矢が、魔物の頭に命中した。
しかし、石には届かない。
「くそ、もう少しだ!」
レオナルドが叫ぶ。
魔物は、怒り狂った。
そして、リオールに向かって突進した。
「避けろ、リオール!」
フェリシアが叫んだ。
しかし、リオールは動かなかった。
彼は、魔物を正面から迎え撃つつもりだった。
「氷の壁よ、立ち上がれ!」
リオールの前に、巨大な氷の壁が現れた。
魔物が、壁に激突する。
壁が、砕け散る。
その破片が、リオールに襲いかかった。
「リオール様!」
フェリシアが叫んだ。
リオールは、破片から身を守ろうとしたが。
一つの大きな破片が、彼の腕に突き刺さった。
「ぐあっ!」
リオールが、膝をついた。
―――
「リオール様!」
フェリシアが駆け寄る。
リオールの腕から、血が流れている。
「大丈夫、か」
リオールは、苦しそうに言った。
「大丈夫じゃありません!」
フェリシアは、リオールの腕を見た。
深い傷だ。
大量の血が、流れ出ている。
「これは…。」
フェリシアは、パニックになりそうだった。
しかし、その時。
魔物が、再び向かってくる。
弱った獲物を、仕留めるために。
「まずい!」
リオールは、立ち上がろうとしたが、力が入らない。
「逃げろ、フェリシア!」
「嫌です!」
フェリシアは、リオールの前に立った。
「私が、守ります!」
「お前には…。」
「できます!」
フェリシアは、両手を前に出した。
魔物が、口を開ける。
もう、時間がない。
フェリシアは、必死で魔力を集中させた。
「お願い。」
母の首飾りが、強く光った。
「力を貸して、母上!」
―――
フェリシアの手から、光が溢れ出た。
それは、防御の魔法ではなかった。
治癒の光。
しかし、それは単なる治癒魔法ではなかった。
光は、リオールの傷を包んだ。
そして、みるみるうちに傷が癒えていく。
「これは…?」
リオールは、驚いた。
傷が、完全に塞がった。
痛みも、消えた。
「フェリシア、お前…。」
フェリシアは、まだ手を伸ばしていた。
光は、さらに強くなる。
それは、リオールだけでなく、周囲にも広がった。
破損した船が、修復されていく。
負傷した騎士たちの傷も、癒えていく。
「なんという、力。」
レオナルドが呟いた。
しかし、フェリシアは限界だった。
急激に魔力を使ったため、意識が遠のく。
「フェリシア!」
リオールが、倒れそうなフェリシアを抱きとめた。
「無茶をするな。」
「でも、あなたを。」
「ありがとう。」
リオールは、フェリシアを抱きしめた。
「お前の力で、救われた。」
―――
魔物は、光に怯んでいた。
その隙を、レオナルドたちは逃さなかった。
「今だ!総攻撃!」
三隻の船から、一斉に矢が放たれた。
そして、一本の矢が。
魔物の頭の、青い石に命中した。
パリン!
石が、砕け散る。
魔物は、断末魔の叫びを上げた。
そして、大きな体が、海に沈んでいった。
静寂。
波の音だけが、聞こえる。
「終わった、のか。」
一人の騎士が呟いた。
「ああ、終わった。」
レオナルドが答えた。
「我々の勝利だ。」
騎士たちから、歓声が上がった。
リオールは、フェリシアを抱きかかえていた。
「フェリシア、大丈夫か。」
フェリシアは、微かに目を開けた。
「勝ちました、か。」
「ああ、お前のおかげだ。」
リオールは、涙を流した。
「お前が、俺を救ってくれた。」
「良かった。」
フェリシアは、微笑んだ。
「あなたが、無事で」
そして、意識を失った。
「フェリシア!」
リオールは、慌てた。
「大丈夫です。」
レオナルドが近づいてきた。
「魔力を使い果たしただけです。休めば、回復します。」
リオールは、安堵した。
「そうか。」
彼は、フェリシアを優しく抱きしめた。
「よく頑張った。」
船は、港へと戻り始めた。
月が、静かに海を照らしていた。
戦いは、終わった。
そして、フェリシアの新しい力が、目覚めた。
治癒魔法の才能。
それは、これからの彼女の人生を、大きく変えることになる。
港では、町の人々が待っていた。
魔物が倒されたことを知り、皆が歓喜していた。
新しい未来が、始まろうとしていた。




