第28話「魔物の調査」
港町での二日目。
リオールは早朝から、岩礁の調査に出た。
レオナルドと騎士たち二名が同行する。
「フェリシア、町で待っていてくれ。」
リオールが言った。
「でも…。」
「危険だ。まずは俺たちが下見をする。」
リオールは、フェリシアの肩に手を置いた。
「お前は、町の人々の話を聞いていてくれ。」
「わかりました。」
フェリシアは頷いた。
「気をつけてください。」
「ああ。」
リオールたちは、小舟に乗って岩礁へと向かった。
フェリシアは、港で見送った。
小舟が、徐々に小さくなっていく。
「大丈夫、リオール様なら。」
自分に言い聞かせた。
フェリシアは、町の中を歩いた。
人々は、皆不安そうな顔をしている。
「また、魔物が来るのか。」
「今度こそ、退治してくれるだろうか。」
囁き声が、聞こえてくる。
フェリシアは、ある家の前で立ち止まった。
中から、子供の泣き声が聞こえる。
―――
「すみません。」
フェリシアは、ドアをノックした。
「はい。」
出てきたのは、三十代くらいの女性だった。
疲れた表情をしている。
「あの、お困りのようでしたので。」
「あなたは?」
「フェリシア・アイテールと申します。王宮から、魔物討伐に来ました。」
女性の目が、希望の光を宿した。
「本当ですか!」
「はい。」
「ありがとうございます。どうぞ、お入りください。」
部屋の中には、小さな男の子が寝ていた。
熱があるようだ。
「息子が、三日前から熱を出していて。」
女性は、心配そうに言った。
「医者には診てもらったのですが、原因がわからなくて。」
フェリシアは、男の子の額に手を当てた。
熱い。
「お水を、もらえますか。」
「はい。」
女性が水を持ってくる間、フェリシアは男の子を見つめた。
昨日、女の子の傷が癒えた。
あれは、本当に自分の力だったのだろうか。
「もし、私に治癒魔法の才能があるなら。」
フェリシアは、男の子の手を取った。
目を閉じて、集中する。
―――
リオールに教わった、魔力の流れ。
自分の中にある、温かいもの。
それを、感じようとした。
すると、微かに何かが流れる感覚があった。
手のひらから、男の子の体へ。
「あの。」
女性が戻ってきた。
「あら。」
女性は、驚いた表情を浮かべた。
「息子の顔色が、良くなっている。」
男の子は、穏やかな寝息を立てていた。
熱も、少し下がったようだ。
「まあ、不思議。」
女性は、フェリシアに感謝の目を向けた。
「ありがとうございます。」
「いえ、私は。」
フェリシアは、自分の手を見つめた。
本当に、自分が治したのだろうか。
「あなたは、魔法使いなのですね。」
女性が言った。
「いえ、まだ…。」
「でも、息子が楽になりました。」
女性は、深く頭を下げた。
「本当に、ありがとうございます。」
フェリシアは、複雑な気持ちだった。
嬉しさと、戸惑い。
自分に、本当にそんな力があるのだろうか。
―――
午後、リオールたちが戻ってきた。
フェリシアは、港で待っていた。
「リオール様!」
駆け寄ると、リオールは少し疲れた様子だった。
「ただいま。」
「お疲れ様です。岩礁は、どうでしたか?」
「ああ、色々わかった。」
一行は、宿に戻った。
部屋で、リオールは地図を広げた。
「岩礁には、大きな洞窟がある。」
リオールが説明する。
「おそらく、そこが魔物の巣だ。」
「洞窟の中には?」
フェリシアが尋ねた。
「入れなかった。入口が水没していて、船では入れない。」
リオールは、眉をひそめた。
「魔物は、水中から現れる。」
「なるほど。」
レオナルドが頷いた。
「では、魔物をおびき出す必要がありますね。」
「ああ。明日の夜、満月だ。」
リオールは、窓の外を見た。
「魔物は、必ず現れる。」
「作戦は?」
「まず、俺が魔法で魔物をおびき出す。」
リオールは、地図に印をつけた。
「ここ、港の沖で待ち構える。」
「そして、騎士たちが船から攻撃する。」
レオナルドが続ける。
「はい。魔物の弱点は、頭の光る石です。」
リオールは、真剣な表情だった。
「あれを破壊すれば、倒せるはずです。」
―――
「わかりました。」
レオナルドは頷いた。
「では、明日の準備をしましょう。」
騎士たちが出て行った後、フェリシアはリオールに今日のことを話した。
「男の子の熱が下がった?」
リオールは、驚いた表情を浮かべた。
「本当か?」
「はい。でも、本当に私の力かどうか。」
「試してみよう。」
リオールは、フェリシアの手を取った。
「魔力を感じてみろ。」
フェリシアは、目を閉じた。
リオールの指導に従い、自分の内側に意識を向ける。
すると、確かに感じた。
温かい流れ。
自分の中に、確かにあるもの。
「これが。」
「ああ、お前の魔力だ。」
リオールは、嬉しそうに言った。
「フェリシア、お前には治癒魔法の才能がある。」
「本当ですか。」
「ああ。まだ未熟だが、確かにある。」
リオールは、フェリシアを抱きしめた。
「これは、素晴らしいことだ。」
フェリシアは、胸が熱くなった。
自分にも、力がある。
人を助ける力が。
「リオール様、私。」
「ん?」
「もっと、訓練したいです。」
フェリシアの目は、輝いていた。
「この力を、もっと伸ばしたい。」
「ああ、もちろんだ。」
リオールは微笑んだ。
「俺が、教える。」
――
その夜、リオールはフェリシアに魔法の基礎を教えた。
「まず、魔力の流れを意識する。」
リオールが説明する。
「そして、それを手のひらに集中させる。」
フェリシアは、言われた通りにした。
手のひらに、温かさが集まる。
「いいぞ。そのまま、イメージするんだ。」
「イメージ?」
「ああ。傷が癒える様子を、頭の中で描く。」
フェリシアは、目を閉じた。
傷が、閉じていく。
痛みが、消えていく。
そのイメージを、強く思い描く。
すると、手のひらが微かに光った。
「できた!」
リオールが驚いた。
「すごい、フェリシア。」
「本当ですか。」
「ああ。お前の才能は、本物だ。」
リオールは、フェリシアの手を握った。
「明日の戦いで、この力が必要になるかもしれない。」
「はい。」
フェリシアは、決意を固めた。
「私、頑張ります。」
「ああ、信じている。」
二人は、遅くまで訓練を続けた。
フェリシアの魔法は、まだ弱い。
でも、確かにそこにあった。
―――
翌日、満月の日。
町は、緊張に包まれていた。
今夜、魔物が現れる。
そして、決戦の時が来る。
フェリシアは、朝から町の人々を励まして回った。
「大丈夫です。必ず、魔物を倒します。」
人々は、フェリシアの言葉に希望を見出した。
「お願いします。」
「私たちの町を、守ってください。」
フェリシアは、その期待を背負った。
重い。
でも、それが力になった。
午後、リオールたちは最終確認をした。
「船は三隻用意した。」
レオナルドが報告する。
「一隻目に、リオール様とフェリシア様。」
「二隻目と三隻目に、我々騎士たちが乗ります。」
「わかった。」
リオールは頷いた。
「日没後、港を出る。」
「はい。」
騎士たちは、準備に取り掛かった。
フェリシアは、リオールの隣で海を見ていた。
「リオール様。」
「ん?」
「私、怖いです。」
フェリシアは、正直に言った。
「でも、あなたを守りたい。」
「フェリシア。」
「だから、頑張ります。」
フェリシアは、リオールを見つめた。
「私の力で、あなたを守ります。」
リオールは、フェリシアを抱きしめた。
「ありがとう。」
―――
日が沈み、夜が訪れた。
満月が、海を照らしている。
三隻の船が、港を出た。
リオールとフェリシアは、先頭の船に乗っていた。
「いよいよだな。」
リオールが呟いた。
「はい。」
フェリシアは、緊張していた。
心臓が、激しく鳴っている。
船は、ゆっくりと沖へと進んだ。
岩礁が、月明かりに浮かび上がる。
「あそこだ。」
リオールが指差した。
船は、岩礁の近くで停止した。
静寂。
波の音だけが、聞こえる。
「リオール様。」
フェリシアが囁いた。
「何か、感じます。」
「何を?」
「わかりません。でも、何か大きなものが。」
その時、海面が揺れた。
泡が立ち上る。
「来るぞ!」
リオールが叫んだ。
そして、海から巨大な影が現れた。
海蛇。
いや、それよりも遥かに大きい。
月明かりに照らされた、その姿。
「これが、魔物。」
フェリシアは、息を呑んだ。
巨大な体。
鋭い牙。
そして、頭に輝く青い石。
魔物は、咆哮を上げた。
海が、震えた。
戦いが、始まる。
フェリシアは、母の首飾りを握りしめた。
「母上、力を貸してください。」
魔物が、船に向かって突進してきた。
運命の戦いが、始まった。




