第26話「結婚の話」
裁判から三日が経った。
フェリシアは、リオールの研究室で二人きりだった。
「フェリシア。」
リオールが、真剣な表情で口を開いた。
「話がある。」
「はい。」
フェリシアは、少し緊張した。
リオールは、フェリシアの手を取った。
「俺は、お前と結婚したい。」
フェリシアの心臓が、激しく跳ねた。
「結婚。」
「ああ。お前を、正式に妻として迎えたい。」
リオールの目は、真剣だった。
「俺と、結婚してくれるか?」
フェリシアは、涙が溢れそうになった。
「はい。」
声が震える。
「はい、喜んで。」
リオールは、フェリシアを抱きしめた。
「ありがとう。」
二人は、しばらく抱き合っていた。
幸せな時間。
しかし、リオールは少し躊躇してから言った。
「ただ、一つ問題がある。」
「問題、ですか。」
フェリシアは、リオールから離れた。
「何でしょう?」
「家名だ。」
―――
リオールは、椅子に座った。
「俺は、魔法使いとして王宮に仕えている。」
「はい。」
「しかし、俺には家名がない。」
リオールの声は、少し苦々しかった。
「俺の家族は、俺を認めなかった。だから、俺は家を出た。」
「リオール様。」
「魔法使いとしての才能で、王宮専属になった。」
リオールは、フェリシアを見た。
「でも、それだけだ。貴族としての家名は、持っていない。」
フェリシアは、理解した。
「つまり、結婚するには。」
「ああ。家名が必要だ。」
リオールは頷いた。
「それに、お前もアイテール家が没落した。」
「はい。」
フェリシアは、自分の状況を思い出した。
父の罪により、アイテール家は爵位を剥奪された。
「私も、家名がありません。」
「そうだ。だから、俺たちが結婚するには。」
リオールは立ち上がった。
「新しい家名が必要だ。」
「新しい家名。」
「ああ。国王陛下から、家名を授けてもらう。」
リオールは、窓の外を見た。
「そのためには、それ相応の武勲が必要だ。」
―――
翌日、リオールはライオスの執務室を訪れた。
「ライオス、相談がある。」
「何だ、リオール。」
ライオスは、書類から顔を上げた。
「フェリシアと結婚したい。」
ライオスは、微笑んだ。
「ようやく、か。」
「ああ。でも、問題がある。」
リオールは、家名のことを説明した。
ライオスは、腕を組んで考えた。
「なるほど。確かに、家名がないと正式な結婚はできない。」
「何か、方法はないか。」
「ある。」
ライオスは、立ち上がった。
「ちょうど良い任務がある。」
「任務?」
「ああ。最近、海辺で船を襲う魔物が現れている。」
ライオスは、地図を広げた。
「ここ、南の港町だ。」
地図には、海沿いの町が示されていた。
「漁師たちが、次々と襲われている。」
「魔物、か。」
「ああ。これを討伐すれば、立派な武勲だ。」
ライオスは、リオールを見た。
「父上に、家名を授けてもらえる。」
リオールは、地図を見つめた。
「わかった。引き受ける。」
―――
「ただし。」
ライオスは、にやりと笑った。
「フェリシアも連れて行け。」
「え?」
リオールは驚いた。
「フェリシアを、危険な任務に?」
「何を言っている。」
ライオスは、リオールの肩を叩いた。
「彼女は、もう大丈夫だ。」
「それは、そうだが。」
「それに。」
ライオスは意味深に笑った。
「新婚旅行がてら、行ってこい。」
「新婚旅行って、まだ結婚していないぞ。」
「じゃあ、婚約旅行だ。」
ライオスは笑った。
「二人きりで、海辺の町に行く。悪くないだろう。」
リオールは、少し考えてから頷いた。
「わかった。フェリシアに、相談してみる。」
「それと。」
ライオスは、真剣な表情になった。
「騎士を五名、護衛につける。」
「ありがとう。」
「気をつけろ。魔物は、かなり強力らしい。」
「ああ、わかっている。」
リオールは、執務室を出た。
―――
その夜、リオールはフェリシアに話した。
「海辺の魔物、討伐。」
フェリシアは、驚いた表情だった。
「はい。これを成功させれば、俺に家名が授けられる。」
「そうですか。」
フェリシアは、少し不安そうだった。
「危険、ですか。」
「ああ。でも、俺なら大丈夫だ。」
リオールは、フェリシアの手を取った。
「それに、お前も一緒に来てほしい。」
「私も?」
「ああ。側で俺を支えてほしい。」
リオールは、微笑んだ。
「ライオスは、新婚旅行がてらと言っていた。」
フェリシアは、頬を赤らめた。
「新婚旅行。」
「まあ、まだ結婚していないから、婚約旅行だな。」
二人は、笑い合った。
「わかりました。」
フェリシアは、強く頷いた。
「私も、一緒に行きます。」
「本当に?」
「はい。私も、あなたの力になりたい。」
フェリシアの目は、決意に満ちていた。
「それに、これは私たちの未来のためですから。」
リオールは、フェリシアを抱きしめた。
「ありがとう。」
―――
翌日、国王オズワルドの前で、正式に任務が与えられた。
「リオール、フェリシア。」
国王が口を開いた。
「お前たちに、南の港町の魔物討伐を命じる。」
「はっ。」
二人は、深く頭を下げた。
「これを成功させれば、お前たちに家名を授ける。」
国王は、厳かに言った。
「リオール、お前は魔法使いとして優れている。しかし、貴族として認められるには、武勲が必要だ。」
「はい。」
「そして、フェリシア。」
国王は、フェリシアを見た。
「お前もアイテール家が没落し、家名を失った。」
「はい。」
「だが、お前は勇気を持って証言し、王国に貢献した。」
国王は微笑んだ。
「だから、お前にも新しい家名を授けるに相応しい。」
フェリシアは、涙が出そうになった。
「ありがとうございます、陛下。」
「成功を祈る。」
国王は、二人を見送った。
―――
王宮の中庭では、騎士たちが準備をしていた。
レオナルドが、五名の騎士を連れて待っていた。
「リオール様、フェリシア様。」
レオナルドが敬礼した。
「我々が、護衛を務めます。」
「よろしく頼む。」
リオールは頷いた。
「魔物は、どのくらい強力なのですか?」
フェリシアが尋ねた。
「報告によれば、巨大な海蛇のような姿だそうです。」
レオナルドは、真剣な表情だった。
「船を一撃で沈める力があります。」
「なるほど。」
リオールは、考え込んだ。
「準備に、三日ほしい。」
「わかりました。」
レオナルドは頷いた。
「では、三日後に出発しましょう。」
騎士たちは、準備を始めた。
フェリシアとリオールは、中庭に残った。
「三日後、か。」
フェリシアが呟いた。
「不安か?」
「少し。」
フェリシアは、正直に答えた。
「でも、リオール様がいれば大丈夫です。」
「ああ、俺もお前がいれば大丈夫だ。」
リオールは、フェリシアの手を握った。
「一緒に、乗り越えよう。」
「はい。」
―――
三日間、二人は準備に追われた。
リオールは、魔物に関する資料を調べた。
古代の海洋魔物について、様々な文献を読み漁る。
フェリシアは、少しでもリオールの役に立ちたかった。
そして、出発の前夜。
フェリシアとリオールは、庭園で月を見上げていた。
「明日から、旅が始まるな。」
リオールが言った。
「はい。」
「お前と一緒だと思うと、心強い。」
リオールは、フェリシアを抱き寄せた。
「俺たちの未来のために、頑張ろう!」
「はい。」
フェリシアは、リオールの胸に顔を埋めた。
「必ず、成功させましょう。」
月が、二人を優しく照らしていた。
明日から、新しい冒険が始まる。
魔物討伐。
そして、新しい家名を得るための旅。
フェリシアとリオールは、共に戦う。
愛する人と、未来のために。
二人の絆は、どんな困難も乗り越える。
それを、信じていた。
遠くから、ポリーが二人を見守っていた。
「頑張って、フェリシア。」
小さく呟いて、祈りを捧げた。
ライオスも、執務室の窓から二人を見ていた。
「無事に、帰ってこいよ。」
友人たちの幸せを、心から願っていた。
すべては、明日から始まる。




