第25話「決断の時」
浄化の儀式が始まってから二ヶ月が経った。
フェリシアの体から、呪いの残滓はほぼ消えていた。
「素晴らしい回復じゃ。」
セラフィナが、フェリシアを診察していた。
「あと一回、来週の儀式で完全に消えるじゃろう。」
「本当ですか。」
フェリシアの顔が、明るくなった。
「ああ。もう、誰も傷つけることはない。」
「ありがとうございます、セラフィナ様。」
フェリシアは、深く頭を下げた。
「礼には及ばん。」
セラフィナは微笑んだ。
「それより、リオールとの仲はどうじゃ?」
フェリシアは、顔を赤らめた。
「それは…///」
「まだ、結婚の話は出ておらんのか?」
「い、いえ、まだです。」
「なら、そろそろじゃな。」
セラフィナは意味深に笑った。
「お前たちは、もう十分に想い合っておる。」
フェリシアは、ドキドキしながら部屋を出た。
結婚。
リオール様と、結婚する。
そう考えると、胸が熱くなった。
―――
その日の午後、国王オズワルドから呼び出しがあった。
謁見の間に入ると、国王、ライオス、そしてリオールが待っていた。
「フェリシア・アイテール。」
国王が口を開いた。
「お前の回復、喜ばしく思う。」
「ありがとうございます、陛下。」
フェリシアは深く頭を下げた。
「そして、お前の父、クロス・アイテールの裁判が決まった。」
フェリシアは、息を呑んだ。
「来週、公開裁判が行われる。」
「はい。」
「お前と、ポリーには、証人として出廷してもらいたい。」
国王は、厳かに言った。
「お前たちの証言が、この裁判の鍵となる。」
フェリシアは、少し考えてから答えた。
「わかりました。証言します。」
「よろしい。」
国王は頷いた。
「それから、もう一つ。」
「はい。」
「グレゴール・ヴァンヘルシングの裁判も、同時に行われる。」
国王の表情が、険しくなった。
「彼は、五十年以上にわたり、無数の罪を犯してきた。」
「はい。」
「お前は、彼の最後の標的だった。その証言も、必要だ。」
フェリシアは、強く頷いた。
「わかりました。必ず、証言します。」
―――
謁見の間を出ると、リオールが待っていた。
「フェリシア、大丈夫か?」
「はい。」
フェリシアは微笑んだ。
「私、ちゃんと証言します。」
「無理はするな。」
リオールは、フェリシアの肩に手を置いた。
「辛かったら、途中でやめてもいい。」
「いいえ。」
フェリシアは首を横に振った。
「これは、私がやらなければならないことです。」
「フェリシア。」
「父と、グレゴールの罪を、明らかにする。」
フェリシアの目は、決意に満ちていた。
「そして、同じような被害者が出ないようにする。」
リオールは、フェリシアを抱きしめた。
「お前は、本当に強い。」
「あなたが、強くしてくれました。」
フェリシアは、リオールの胸に顔を埋めた。
「あなたがいなければ、私は今もあの屋敷で、孤独に生きていました。」
「俺も、お前に救われた。」
リオールは、フェリシアの髪を撫でた。
「お前と出会って、俺の人生が変わった。」
二人は、しばらく抱き合っていた。
―――
その夜、フェリシアはポリーと会った。
「来週、裁判なのね。」
ポリーが言った。
「ええ。姉上も、証人として。」
「わかっているわ。」
ポリーは、窓の外を見た。
「私、怖い。」
「姉上。」
「父の前で、証言するのが。」
ポリーの手が震えていた。
「でも、やらなければならない。」
「はい。」
フェリシアは、姉の手を握った。
「一緒に、乗り越えましょう。」
「ありがとう、フェリシア。」
ポリーは、妹を見た。
「あなたは、本当に強くなったわね。」
「姉上のおかげです。」
「私?」
「はい。姉上が、勇気を出して告白してくれたから。」
フェリシアは微笑んだ。
「私も、勇気を出せました。」
ポリーは、涙を流した。
「ありがとう。」
二人は、抱き合った。
姉妹として。
共に戦う仲間として。
そして、互いを支え合う家族として。
―――
裁判の前日。
フェリシアは、最後の浄化の儀式を受けていた。
リオールとセラフィナが、魔法陣を起動させる。
光が、フェリシアを包む。
そして、最後の呪いの残滓が、消えていった。
「終わったぞ。」
リオールが告げた。
「これで、お前は完全に自由だ。」
フェリシアは、自分の体を見た。
軽い。
まるで、長年背負っていた重荷が、消えたような感覚。
「本当に、自由になったのですね。」
「ああ。」
リオールは、フェリシアを抱きしめた。
「もう、誰も傷つけることはない。」
「はい。」
フェリシアは、涙を流した。
嬉し涙。
「ありがとうございます、リオール様。」
「礼には及ばない。」
リオールは、フェリシアから離れた。
「それより、明日の裁判。」
「はい。」
「緊張するだろうが、俺がそばにいる。」
「はい。」
「ライオスもいる。ポリーもいる。」
リオールは、フェリシアの手を取った。
「お前は、一人じゃない。」
「はい。」
フェリシアは、強く頷いた。
「私、頑張ります。」
―――
裁判当日。
王宮の大法廷には、多くの人々が集まっていた。
貴族たち、騎士たち、そして一般の民衆も。
フェリシアとポリーは、証人席に座っていた。
そして、被告席には、クロスとグレゴールが座っていた。
クロスは、すっかり老け込んでいた。もはや、かつての面影はない。
グレゴールは、魔力を封じる鎖で縛られていた。しかし、その目は相変わらず狂気に満ちていた。
「では、裁判を始める。」
裁判長が宣言した。
「まず、クロス・アイテールの罪状を読み上げる。」
書記官が、長々と罪状を読み上げた。
禁術の使用、妻の殺害、娘への虐待、詐欺、その他多数。
「被告、クロス・アイテール。認めるか。」
「認めます。」
クロスは、小さく答えた。
「では、証人を呼ぶ。ポリー・アイテール、前へ。」
ポリーは、震えながら立ち上がった。
フェリシアは、姉を見守った。
頑張って、姉上。
―――
ポリーは、証言台に立った。
「ポリー・アイテール、父クロスの行いについて、証言せよ。」
裁判長が命じた。
ポリーは、深呼吸をしてから話し始めた。
父がグレゴールと出会ったこと。
母レーナが苦しんでいたこと。
フェリシアが生まれてから、不幸が続いたこと。
そして、自分も父に強要されていたこと。
すべてを、涙ながらに語った。
クロスは、ただ俯いていた。
「被告、クロス・アイテール。娘の証言について、何か言うことはあるか。」
「ありません。」
クロスは、顔を上げた。
「すべて、事実です。」
「では、次の証人を呼ぶ。フェリシア・アイテール、前へ。」
フェリシアは、立ち上がった。
証言台に向かう。
途中、リオールと目が合った。
リオールは、頷いた。
大丈夫だ、お前なら。
フェリシアは、勇気を振り絞った。
―――
「フェリシア・アイテール、お前は被害者である。父クロスと、グレゴール・ヴァンヘルシングについて、証言せよ。」
フェリシアは、深呼吸をした。
そして、話し始めた。
十八年間の孤独。
周りで起きた不幸。
母の死。
そして、呪いの真実。
すべてを、冷静に語った。
途中、涙が溢れそうになったが、堪えた。
グレゴールは、冷笑していた。
しかし、フェリシアは怯まなかった。
「グレゴールは、母の家族を殺しました。」
フェリシアは、グレゴールを見つめた。
「母を利用しました。」
「そして、私の魔力を狙いました。」
フェリシアの声は、強かった。
「しかし、母の愛が私を守りました。」
「そして、リオール様が私を救いました。」
フェリシアは、リオールを見た。
リオールは、微笑んでいた。
「だから、私は今ここに立っています。」
「自由な人間として。」
フェリシアは、裁判長を見た。
「お願いします。父とグレゴールを、裁いてください。」
「そして、二度とこのような悲劇が起きないようにしてください。」
法廷は、静まり返っていた。
やがて、拍手が起こった。
人々が、フェリシアの勇気を称えていた。
裁判長は、頷いた。
「よくぞ証言した。」
そして、判決が下された。
クロス・アイテールは、終身刑。
グレゴール・ヴァンヘルシングは、死刑。
二人は、それぞれ連行されていった。
クロスは、最後にフェリシアを見た。
「フェリシア、すまなかった。」
それが、彼の最後の言葉だった。
フェリシアは、何も答えなかった。
ただ、静かに見送った。
これで、すべてが終わった。
長い戦いが、終わった。
フェリシアは、証言台から降りた。
リオールが、迎えに来てくれた。
「よく頑張った。」
「はい。」
二人は、抱き合った。
周りの人々が、温かい拍手を送っていた。
ライオスも、ポリーも、笑顔で見守っていた。
これで、本当にすべてが終わった。
そして、新しい人生が始まる。
フェリシア・アイテールの、本当の人生が。
愛する人と共に。
家族と共に。
友人たちと共に。
自由な人間として。
幸せな人間として。
彼女の物語は、これから本当に始まる。




