第23話「ライオスの想い」
今回から第二章開始になります。
グレゴールが逮捕されてから三日が経った。
王宮は、まだ祝賀ムードに包まれていた。
リオールは、ほぼ回復していた。魔力も、八割ほど戻っている。
「順調だな。」
セラフィナが、リオールを診察していた。
「あと数日で、完全に回復するじゃろう。」
「ありがとうございます。」
「礼には及ばん。」
セラフィナは微笑んだ。
「それより、フェリシア嬢との仲は?」
リオールは、顔を赤らめた。
「それは…///」
「もう、告白したのじゃろう?」
「はい。」
「なら、次は何をするか、わかっておるな。」
セラフィナは、意味深に笑った。
「結婚の準備じゃ。」
「け、結婚?!」
「当然じゃろう。お前たち、両想いなのじゃから。」
リオールは、どきどきした。
結婚。
フェリシアと、結婚する。
「まだ、早いのでは…?」
「早くない!」
セラフィナは首を横に振った。
「お前たち、もう十分に想い合っておる。」
「でも。」
「案ずるな。時間をかければいい。」
セラフィナは立ち上がった。
「ただし、あまり遅すぎるのも良くない。他の男に取られるぞ。」
「他の男?」
「冗談じゃ。」
セラフィナは笑って部屋を出ていった。
―――
その日の午後、リオールはライオスに呼ばれた。
執務室に入ると、ライオスは窓の外を見ていた。
「ライオス、呼んだか?」
「ああ。」
ライオスは振り返った。
「少し、話がある。」
「何だ?」
「座ってくれ。」
二人は、ソファに向かい合って座った。
ライオスは、少し躊躇してから口を開いた。
「リオール、お前とフェリシアのこと。」
「ああ。」
「俺は、心から祝福している。」
ライオスは微笑んだ。
「お前たちは、お似合いだ。」
「ありがとう。」
「でも、一つ聞きたい。」
ライオスの表情が、真剣になった。
「お前は、本当にフェリシアを幸せにできるか?」
リオールは、驚いた。
「それは、当然だ。」
「本当に?」
ライオスは、リオールを見つめた。
「お前は、魔法使いだ。危険な任務も多い。」
「それは…。」
「フェリシアを、不安にさせないか?」
リオールは、言葉に詰まった。
確かに、王宮専属の魔法使いは危険な仕事だ。
命を落とす可能性もある。
「俺は…。」
リオールは、拳を握りしめた。
「できる限り、彼女を守る。」
「できる限り、か…。」
ライオスは、深いため息をついた。
「それでは、不十分だ。」
―――
「ライオス、お前。」
「すまない。」
ライオスは顔を上げた。
「俺は、フェリシアのことが心配なんだ。」
「心配?」
「ああ。彼女は、十八年間苦しんできた。」
ライオスは立ち上がった。
「やっと自由になった。やっと、幸せになれる。」
「ああ。」
「だから、もう二度と、苦しんでほしくない。」
ライオスは、窓の外を見た。
「俺は、彼女を守りたい。」
リオールは、ライオスの横顔を見た。
その表情には、深い想いが浮かんでいた。
「ライオス、お前…。」
「何だ?」
「お前も、フェリシアのことを?」
ライオスは、黙っていた。
しばらくの沈黙の後、彼は答えた。
「ああ。」
「ライオス。」
「俺も、フェリシアを愛している。」
ライオスの言葉に、リオールは凍りついた。
―――
「でも、安心しろ。」
ライオスは、振り返って微笑んだ。
「俺の愛は、お前とは違う。」
「違う?」
「ああ。俺は、フェリシアを妹のように思っている。」
ライオスは、ソファに座った。
「初めて会った時から、彼女を守りたいと思った。」
「妹のように。」
「そうだ。恋愛感情ではない。」
ライオスは、空を見上げた。
「俺には、妹がいない。弟もいない。」
「そうだったな。」
「王子として生まれ、常に一人だった。」
ライオスの声は、少し寂しげだった。
「だから、フェリシアと出会った時、初めて守りたいと思った。」
「ライオス。」
「彼女は、強くて、優しくて、そして脆い。」
ライオスは、リオールを見た。
「だから、お前に頼む。」
「何を?」
「フェリシアを、絶対に幸せにしてくれ。」
ライオスの目は、真剣だった。
「もし、お前が彼女を傷つけたら。」
「わかっている。」
リオールは頷いた。
「俺は、彼女を幸せにする。必ず。」
「ありがとう。」
ライオスは、安堵の表情を浮かべた。
「なら、安心だ。」
―――
「ライオス、一つ聞いていいか?」
「何だ?」
「お前は、結婚しないのか。」
リオールの質問に、ライオスは苦笑した。
「俺?」
「ああ。お前は王子だ。世継ぎが必要だろう。」
「それは、そうだが。」
ライオスは首を横に振った。
「まだ、そういう相手に出会っていない。」
「そうか。」
「それに。」
ライオスは立ち上がった。
「俺には、まだやるべきことがある。」
「やるべきこと?」
「ああ。この国を、もっと良くしたい。」
ライオスは窓の外を見た。
「フェリシアのような、不幸な人を出さないために。」
「ライオス。」
「グレゴールのような悪人を、野放しにしないために。」
ライオスの目は、決意に満ちていた。
「俺は、正義のために戦う。」
リオールは、友の言葉に心を打たれた。
「お前は、本当に良い王になる。」
「そうか?」
「ああ。お前なら、きっと素晴らしい王になる。」
ライオスは、照れたように笑った。
「ありがとう。」
二人は、固く握手を交わした。
―――
その夜、ライオスは一人で庭園を歩いていた。
月明かりが、美しく庭を照らしている。
「フェリシア。」
名前を呟く。
彼女のことを、愛している。
それは、嘘ではない。
でも、それは恋愛感情ではない。
守りたい。
幸せになってほしい。
それが、ライオスの想いだった。
「俺は、王子だ。」
ライオスは、空を見上げた。
「いずれ、政略結婚をするだろう。」
それが、王族の運命。
愛する人を自由に選べない。
「でも、それでいい。」
ライオスは微笑んだ。
「俺は、国のために生きる。」
その時、足音が聞こえた。
振り返ると、フェリシアが立っていた。
「ライオス様。」
「フェリシア、どうした?」
「散歩ですか?」
「ああ、少し考え事を。」
フェリシアは、ライオスの隣に立った。
「私も、眠れなくて。」
「そうか。」
二人は、並んで月を見上げた。
―――
「ライオス様。」
「ん?」
「ありがとうございます。」
フェリシアは、深く頭を下げた。
「あなたがいなければ、私は救われませんでした。」
「いや、俺は何も。」
「いいえ。」
フェリシアは顔を上げた。
「あなたは、私に希望をくれました。」
「フェリシア。」
「あなたは、私を信じてくれました。」
フェリシアの目に、涙が浮かんだ。
「あなたは、私の友人になってくれました。」
「当然だ。」
ライオスは微笑んだ。
「お前は、俺の大切な友人だ。」
「友人。」
フェリシアは、その言葉を繰り返した。
「はい、私もです。」
「フェリシア、これから幸せになれ。」
ライオスは、フェリシアの肩に手を置いた。
「リオールと、幸せになれ。」
「はい。」
「そして、時々は俺のことも思い出してくれ。」
ライオスは笑った。
「お前を救った、お節介な王子のことを。」
フェリシアは、涙を流しながら笑った。
「忘れません。絶対に。」
「ありがとう。」
ライオスは、フェリシアの頭を撫でた。
まるで、妹を愛おしむように。
―――
翌日、リオールはフェリシアと庭園で会っていた。
「昨夜、ライオス様と話したの。」
フェリシアが言った。
「そうか。」
「ライオス様は、優しい人ね。」
「ああ、本当に。」
リオールは頷いた。
「あいつは、誰よりも優しい。」
「リオール様。」
フェリシアは、リオールの手を取った。
「私、幸せです。」
「俺も。」
「あなたと出会えて。」
「俺もだ。」
リオールは、フェリシアを抱きしめた。
「これから、ずっと一緒だ。」
「はい。」
二人は、幸せそうに抱き合っていた。
それを、窓から見ているライオスがいた。
彼は、静かに微笑んでいた。
「幸せになれよ、フェリシア。」
呟いて、ライオスは執務室に戻った。
彼には、やるべき仕事がある。
国を治め、民を守る。
それが、王子の使命。
そして、愛する友人たちを、陰から支える。
それが、ライオスの生き方だった。
窓の外では、二人が笑い合っていた。
その光景を見て、ライオスは心から幸せだと思った。
「俺の選択は、間違っていなかった。」
リオールに、フェリシアを任せる。
それが、正しい選択だった。
ライオスは、机に向かった。
山積みの書類。
国の未来を決める、重要な仕事。
「さて、仕事に戻るか。」
ライオス・ヴェルディアントは、国のために生きる。
そして、愛する人々の幸せを、守り続ける。
それが、彼の選んだ道だった。
遠くから、フェリシアの笑い声が聞こえてくる。
その声を聞きながら、ライオスは微笑んだ。
「幸せになれ。」
もう一度、呟いた。
そして、仕事に集中した。
王子として。
友人として。
そして、守護者として。
ライオスは、自分の役割を全うする。
それが、彼の愛の形だった。




