第13話「姉の告白」
ポリーの訪問から一週間後、彼女は再び王宮を訪れた。
今回は、ライオスとリオールも同席する正式な聴取だった。
応接室には四人が集まっていた。ポリーは緊張した面持ちで椅子に座っている。
「ポリー・アイテール。」
ライオスが口を開いた。
「お前は、父クロスの罪について証言すると申し出た。その覚悟は本物か。」
「はい、ライオス様。」
ポリーは真っ直ぐにライオスを見た。
「私は、父の罪を証言します。そして、私自身の罪も。」
「わかった。では、すべて話してくれ。」
ポリーは深呼吸をして、語り始めた。
―――
「私が十歳の時、母が亡くなりました。」
ポリーの声は静かだった。
「父は突然変わりました。優しかった父が、冷たく、執着的になった。」
「執着的?」
リオールが尋ねた。
「はい。若さへの執着です。」
ポリーは続けた。
「母が亡くなった直後から、父は異常なほど健康になり、若返っていきました。私は子供でしたが、何かおかしいと感じていました。」
「それで?」
「十二歳の時、父の書斎で魔術書を見つけました。」
ポリーの手が震えた。
「そこには、生贄の呪術について書かれていました。そして、フェリシアの名前が…。」
フェリシアは息を呑んだ。
「私は、その時初めて理解しました。父が何をしているのか。」
「それを知って、どうした。」
ライオスが鋭く問う。
「私は、怖くなりました。」
ポリーは顔を伏せた。
「父に問い詰めることも、誰かに相談することもできませんでした。ただ、知らないふりをしていました。」
―――
「十五歳の時、父が私に言いました。」
ポリーは涙声になった。
「『お前も、フェリシアの呪いから恩恵を受けている』と。」
「恩恵?」
「はい。私の健康、美貌、社交界での成功。すべて、妹を犠牲にして得たものだと。」
ポリーは顔を上げた。
「私は拒否しようとしました。でも、父は言いました。『もう遅い。お前もこの呪いに組み込まれている。逃れることはできない』と。」
「それは本当なのか?」
リオールがポリーを見つめた。
魔法使いとしての目で、彼女を観察する。
「確かに、微かだが呪いの痕跡がある。」
リオールは眉をひそめた。
「しかし、フェリシアほど深くはない。おそらく、クロスがポリーを呪いの一部に組み込んだのは事実だが、それは彼女を共犯にするための脅迫だったのだろう。」
「脅迫、ですか。」
ポリーが尋ねた。
「ああ。お前も呪いから利益を得ている、だから共犯だ、と。そう思わせることで、お前を黙らせた。」
リオールの声は怒りを含んでいた。
「クロスは、娘二人を支配していた。」
ポリーは泣き崩れた。
「私は、弱かった。妹を守るべきだったのに。」
フェリシアが姉の隣に座り、その手を握った。
「姉上、もういいんです。」
「でも…。」
「あなたも、被害者だったのです。」
―――
しばらくして、ポリーは落ち着きを取り戻した。
「他に、何か知っていることはあるか?」
ライオスが尋ねた。
「はい。父には、協力者がいました。」
「協力者?」
「はい。私は一度だけ、父が誰かと密会しているのを見ました。」
ポリーは記憶を辿った。
「五年前、真夜中に書斎から声が聞こえて。こっそり覗いたら、黒いローブを着た人物が父と話していました。」
「その人物の顔は見たか?」
「いいえ、フードで隠れていました。でも、声は聞こえました。」
ポリーは震える声で続けた。
「『呪いは順調か』と。そして父は『ああ、フェリシアは完璧な依り代だ』と答えていました。」
リオールとライオスは顔を見合わせた。
「クロスの背後に、誰かいる。」
リオールが呟いた。
「おそらく、その人物がクロスに生贄の呪術を教えた。」
「ポリー、その人物について、他に何か覚えていることは?」
「声が、年老いているように聞こえました。そして、とても冷たい声でした。」
ポリーは目を閉じた。
「その人物は言いました。『ルシェール家の魔力は素晴らしい。次はもっと多くの魔力を集めねば』と。」
「次?」
フェリシアが驚いて尋ねた。
「父は、また誰かを犠牲にするつもりだったのですか?」
「わかりません。でも、そのような話をしていました。」
ライオスは立ち上がった。
「リオール、この情報は重要だ。」
「ああ。クロスの背後にいる人物を見つけなければ。」
―――
聴取が終わり、ポリーとフェリシアだけが部屋に残された。
「フェリシア、私…。」
「姉上、ありがとうございます。」
フェリシアは姉を抱きしめた。
「辛い記憶を話してくださって。」
「当然よ。私にできる、せめてもの償い」
ポリーは妹の髪を撫でた。
「フェリシア、あなたはもっと怒ってもいいのよ」
「怒り?」
「ええ。私は、あなたを守らなかった。姉として、失格だった。」
ポリーの目に涙が浮かんだ。
「だから、私を恨んでも…。」
「恨みません。」
フェリシアは姉を見つめた。
「姉上も苦しんでいた。それがわかったから。」
「フェリシア。」
「それに、今こうして話せている。それだけで、十分です。」
フェリシアは微笑んだ。
ポリーは、その笑顔を見て驚いた。
「あなた、笑えるようになったのね。」
「え?」
「昔は、いつも悲しそうな顔をしていた。でも今は、違う。」
ポリーも微笑んだ。
「良かった。あなたが、幸せそうで。」
二人は、しばらく抱き合っていた。
姉妹として、初めて心を通わせた瞬間だった。
―――
その夜、リオールとライオスは書斎で話していた。
「クロスの背後にいる人物、か。」
ライオスが呟く。
「ああ。その人物を見つけなければ、第二、第三の被害者が出るかもしれない。」
リオールは資料を広げた。
「ルシェール家の魔力を狙っている、ということは、かなり古い魔術師の可能性がある。」
「古い魔術師?」
「ああ。ルシェール家が栄えていた時代を知っている人物だ。」
リオールは考え込んだ。
「もしかしたら、ルシェール家を滅ぼしたのも、その人物かもしれない。」
「つまり、すべては計画されていた?」
「おそらく。ルシェール家を滅ぼし、レーナを孤立させ、クロスを使って魔力を奪う。」
リオールは拳を握りしめた。
「許せない。どれだけの人を犠牲にすれば気が済むんだ。」
ライオスは窓の外を見た。
「その人物を見つけよう。そして、すべての真実を明らかにする。」
「ああ。フェリシアのためにも。」
二人は決意を新たにした。
一方、フェリシアは自室で母の首飾りを見つめていた。
「母上、すべての真実が明らかになろうとしています。」
首飾りが、優しく光った。
まるで母が、娘を励ますように。
「私は、強くなります。あなたの娘として。」
フェリシアは首飾りを胸に抱いた。
明日からも、戦いは続く。
でも、もう恐れることはない。
仲間がいる。姉もいる。
そして、母の愛が守ってくれている。
フェリシアは、窓の外の星空を見上げた。
新しい真実が明らかになった今日。
そして、これから明らかになるであろう、さらなる真実。
すべてを受け止めて、前に進む。
それが、フェリシアの決意だった。
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