第12話「姉の訪問」
クロスが投獄されてから三日が経った。
フェリシアは王宮での生活に少しずつ慣れ始めていた。朝はエミリアに起こされ、ライオスやリオールと食事を共にし、午後はリオールから魔法の基礎を学ぶ。
穏やかな日々。
しかし、心のどこかで何かが引っかかっていた。
姉のポリーのことだ。
父が捕らわれたことを、彼女は知っているだろうか。今、どこで何をしているのだろうか。
その日の午後、フェリシアが庭園を散歩していると、エミリアが駆けてきた。
「フェリシア様!」
「どうしたの、エミリア。」
「お客様です。ポリー・アイテール様が、お嬢様に会いに。」
フェリシアは息を呑んだ。
「姉が?」
「はい。応接室でお待ちです。」
フェリシアは急いで応接室へと向かった。
―――
応接室の扉を開けると、ポリーが窓辺に立っていた。
以前とは違う、質素な灰色のドレスを着ている。髪も簡素にまとめられ、化粧もしていない。
「姉上。」
ポリーが振り向いた。
その顔は、やつれていた。目の下には隈があり、頬はこけている。
「フェリシア。」
二人はしばらく見つめ合った。
「お座りください。」
フェリシアが椅子を勧める。
二人は向かい合って座った。
沈黙が続く。
「姉上、修道院から?」
「ええ。父が投獄されたロスが投獄されてから三日が経った。
フェリシアは王宮での生活に少しずつ慣れ始めていた。朝はエミリアに起こされ、ライオスやリオールと食事を共にし、午後はリオールから魔法の基礎を学ぶ。
穏やかな日々。
しかし、心のどこかで何かが引っかかっていた。
姉のポリーのことだ。
父が捕らわれたことを、彼女は知っているだろうか。今、どこで何をしているのだろうか。
その日の午後、フェリシアが庭園を散歩していると、エミリアが駆けてきた。
「フェリシア様!」
「どうしたの、エミリア。」
「お客様です。ポリー・アイテール様が、お嬢様に会いに。」
フェリシアは息を呑んだ。
「姉が?」
「はい。応接室でお待ちです。」
フェリシアは急いで応接室へと向かった。
―――
応接室の扉を開けると、ポリーが窓辺に立っていた。
以前とは違う、質素な灰色のドレスを着ている。髪も簡素にまとめられ、化粧もしていない。
「姉上。」
ポリーが振り向いた。
その顔は、やつれていた。目の下には隈があり、頬はこけている。
「フェリシア。」
二人はしばらく見つめ合った。
「お座りください。」
フェリシアが椅子を勧める。
二人は向かい合って座った。
沈黙が続く。
「姉上、修道院から?」
「ええ。父が投獄されたと聞いて。」
ポリーの声は震えていた。
「私も、共犯として捕らえられるのではないかと思ったわ」
「姉上は、父に強要されていただけです。」
「でも、私は知っていた。父が何をしているか。そして、止めなかった。」
ポリーは顔を伏せた。
「私は、父と同じくらい罪深い。」
「姉上。」
フェリシアは手を伸ばしたが、途中で止めた。
「なぜ、ここに?」
「あなたに、謝りたかった。」
ポリーは顔を上げた。
その目には、涙が浮かんでいた。
―――
「謝りたい、ですか?」
「ええ。私は、あなたを十八年間苦しめた。」
ポリーは震える声で続けた。
「母を失った悲しみを、あなたにぶつけた。冷たく接し、傷つけ、孤独にさせた。」
「姉上。」
「でも、本当は…。」
ポリーの涙が溢れた。
「本当は、あなたが羨ましかった。」
「羨ましい?」
フェリシアは驚いた。
「なぜです?私は不幸な令嬢で、誰からも避けられて…。」
「それでも、あなたは強かった。」
ポリーは涙を拭った。
「どんなに辛くても、誰かを恨むことなく、優しさを失わなかった。」
「そんなことは…。」
「私は違った。」
ポリーは自嘲的に笑った。
「私は父に従い、妹を犠牲にして、自分だけ安全な場所にいた。弱くて、卑怯で。」
「姉上、あなたも父に利用されていたのです。」
「利用?いいえ、違うわ。」
ポリーは首を横に振った。
「私は、父の行いを知っていた。知っていて、止めなかった。それどころか、恩恵を受けていた。」
ポリーは立ち上がった。
「私は、あなたに許しを乞う資格などない。ただ、謝りたかった。」
深く頭を下げる。
「ごめんなさい、フェリシア。本当に、ごめんなさい。」
フェリシアは、姉の震える背中を見つめた。
―――
フェリシアは立ち上がり、ポリーの前に立った。
「姉上、顔を上げてください。」
「でも…。」
「お願いです。」
ポリーはゆっくりと顔を上げた。
涙で濡れた顔。罪悪感に満ちた目。
「姉上、私は確かに辛かったです。孤独で、苦しかった。」
フェリシアは言葉を選びながら話した。
「でも、姉上も苦しんでいたのですね。」
「フェリシア。」
「父の呪縛から逃れられず、罪悪感に苦しみながら。それも、辛かったはずです。」
フェリシアは深呼吸をした。
「姉上、私はまだ、完全にあなたを許すことはできません。」
ポリーは頷いた。
「でも、いつか許せる日が来ると思います。」
「本当に?」
「はい。だから、今は時間をください。」
フェリシアは初めて、姉の手を取った。
「そして、姉上も自分を許してください。」
ポリーは声を上げて泣き始めた。
「ありがとう、フェリシア。ありがとう。」
二人は、初めて姉妹として抱き合った。
完全な和解ではない。
でも、それは確かな一歩だった。
―――
しばらくして、ポリーは涙を拭い、落ち着きを取り戻した。
「フェリシア、一つ聞いてもいい?」
「はい。」
「あなた、ライオス様やリオール様と親しくなったのね。」
「はい、お二人はとても優しくしてくださいます。」
ポリーは複雑な表情を浮かべた。
「私が社交界で求めていたもの。権力、地位、華やかな生活。あなたは、それを手に入れたのね。」
「姉上、私は。」
「いえ、皮肉じゃないわ。」
ポリーは微笑んだ。
「ただ、あなたにはそれが似合うと思っただけ。」
「似合う?」
「ええ。あなたは本当の意味で高貴な心を持っている。私は、見せかけだけだった。」
ポリーは窓の外を見た。
「フェリシア、一つお願いがあるの。」
「何でしょう。」
「父の裁判で、私も証言したい。」
フェリシアは驚いた。
「証言を?」
「ええ。父の罪を、私が証言する。それが、私にできる唯一の償いだから。」
ポリーは決意に満ちた目をしていた。
「父は、私を愛していたわけじゃない。ただ、利用していただけ。それを、世間に知らしめたい。」
「でも、それは姉上にとっても辛いことでは。」
「辛くていい。私は、その痛みを受け入れる覚悟がある。」
ポリーはフェリシアを見つめた。
「あなたが十八年間耐えてきた痛みに比べれば、何でもない。」
フェリシアは、姉の決意の強さに驚いた。
「わかりました。ライオス様に伝えます。」
「ありがとう。」
―――
ポリーが帰る時、玄関までフェリシアが見送った。
「姉上、修道院での生活は?」
「厳しいけれど、心は穏やかよ。」
ポリーは微笑んだ。
「初めて、自分の足で立っている気がする。」
「それは良かったです。」
「フェリシア。」
ポリーは妹の手を握った。
「あなたは、幸せになって。お願い。」
「姉上も、幸せになってください。」
「私は、償いが終わってから。」
ポリーは馬車に乗り込んだ。
「また、会いに来てもいい?」
「もちろんです。いつでも。」
馬車が動き出す。
ポリーは窓から手を振った。
フェリシアも手を振り返した。
馬車が見えなくなるまで、フェリシアは立っていた。
「お嬢様。」
エミリアが近づいてきた。
「お疲れになったでしょう。」
「少しね。」
フェリシアは微笑んだ。
「でも、良い疲れよ。」
「ポリー様、変わられましたね。」
「ええ。姉も、変わろうとしている。」
フェリシアは空を見上げた。
「人は、変われるのね。」
「はい。フェリシア様も、最初に会った時とは違います。」
「そう?」
「はい。もっと、笑顔が増えました。」
エミリアの言葉に、フェリシアは驚いた。
「笑顔が?」
「はい。とても素敵です。」
その夜、フェリシアは鏡の前に立った。
笑ってみる。
ぎこちないけれど、確かに笑顔だった。
「私、笑えるようになったのかな。」
鏡の中の自分に問いかける。
母の首飾りが、温かく光った。
―――
翌日、フェリシアはライオスにポリーの申し出を伝えた。
「ポリーが、証言を?」
「はい。父の罪を証言したいと。」
ライオスは少し考えてから頷いた。
「わかった。彼女の証言は、裁判で重要になるだろう。」
「姉は、変わろうとしています。」
フェリシアは静かに言った。
「私も、変わろうとしています。」
「ああ、見ていてわかる。」
ライオスは微笑んだ。
「お前は、日に日に強くなっている。」
「ライオス様、リオール様、そして皆さんのおかげです。」
「いや、お前自身の力だ。」
ライオスは立ち上がった。
「フェリシア、お前は一人でも強い。でも、もう一人じゃない。」
「はい。」
「これから、もっと多くの人がお前を支えるだろう。それを、受け入れてくれ。」
フェリシアは深く頷いた。
「ありがとうございます。」
夕方、リオールがフェリシアの部屋を訪れた。
「ポリーが来たと聞いた。」
「はい。」
フェリシアは、姉との会話を話した。
リオールは黙って聞いていた。
「そうか。ポリーも、変わろうとしているんだな。」
「はい。姉も私も、過去から逃れようと。」
「逃れる、か…。」
リオールは窓辺に立った。
「俺も、過去から逃れてきた。」
「リオール様の過去?」
「ああ。いつか、もっと詳しく話そう。」
リオールは振り返った。
「でも今は、お前の未来が大切だ。」
「未来。」
「ああ。呪いを解いて、自由になって、笑顔で生きる。それが、お前の未来だ。」
リオールは優しく微笑んだ。
「俺は、その未来のために全力を尽くす。」
フェリシアは、胸が温かくなるのを感じた。
「ありがとうございます、リオール様。」
「礼には及ばない。俺たちは、仲間だから。」
仲間。友人。
その言葉が、今は何よりも嬉しかった。
月が昇り、王宮を照らしていた。
フェリシアは、ゆっくりと前に進んでいる。
姉との関係も、少しずつ修復されていく。
そして、二ヶ月後には、運命の儀式が待っている。
恐怖はある。
でも、希望の方が大きい。
なぜなら、もう一人じゃないから。
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