表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不幸な令嬢は王宮専属魔法使いに救われる  作者: 雪銀華
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/37

第11話「王子の決意」

翌朝、ライオスは父である国王オズワルドの執務室を訪れていた。


国王は机に向かい、山積みの書類に目を通している。五十代半ばとは思えない精力的な姿勢だ。


「父上、少しお時間をいただけますか?」


「ライオス、何だ。」


オズワルドは書類から顔を上げた。


「アイテール伯爵の件です。」


ライオスは椅子に座った。


「リオールたちの調査により、クロス・アイテールの罪状が明らかになりました。」


ライオスは、これまでに判明した事実を報告した。


レーナの家族を陥れたこと、結婚詐欺、魔力の強奪、そして娘への生贄の呪術。


国王は黙って聞いていたが、その表情は徐々に険しくなっていった。


「なるほど。想像以上に悪質だな。」


「はい。父上、正式な調査と裁判を求めます。」


「当然だ。これほどの罪、見過ごすわけにはいかない。」


オズワルドは立ち上がった。


「しかし、ライオス。お前はなぜ、ここまでこの件に関わる。」


「それは…。」


「一人の令嬢を救うため、王子であるお前が動く。それは良いことだ。しかし、理由を聞かせてくれ。」


ライオスは父を見つめた。


「正義のためです。」


「正義?」


「はい。フェリシアは何も悪くないのに、十八年間苦しんできました。それは、正されるべきです。」


ライオスは立ち上がった。


「そして、俺は将来この国を継ぐ者として、国民を守る責任があります。フェリシアも、この国の民です。」


オズワルドは息子を見つめ、そして微笑んだ。


「よく言った。お前は、良い王になるだろう。」


「父上。」


「わかった。クロス・アイテールの正式な調査を開始する。そして、証拠が揃い次第、裁判を行う。」


オズワルドは机に戻った。


「ライオス、お前はフェリシア嬢の保護を続けろ。彼女が安心して過ごせるように。」


「ありがとうございます、父上。」


―――


執務室を出たライオスは、廊下で待っていた側近の騎士、レオナルドと合流した。


三十代前半の実直な騎士で、ライオスの幼少期から仕えている。


「殿下、国王陛下は何と?」


「正式な調査の許可が下りた。」


「それは良かった。」


二人は廊下を歩き始めた。


「レオナルド、クロス・アイテールの屋敷を調査する必要がある。」


「承知しました。いつ実施しますか。」


「今日の午後だ。騎士を五名、選抜してくれ。」


「かしこまりました。」


レオナルドは一瞬躊躇してから、口を開いた。


「殿下、僭越ながら。」


「何だ?」


「殿下は、フェリシア様に特別な想いを?」


ライオスは足を止めた。


「なぜそう思う。」


「殿下がここまで一人の令嬢のために動かれるのは、初めてですから。」


レオナルドは真剣な表情だった。


「殿下のお気持ちは、どのようなものなのでしょうか?」


ライオスは少し考えてから、答えた。


「わからない。ただ、彼女を放っておけない。」


「放っておけない?」


「ああ。初めて会った時から、彼女の目が忘れられなかった。」


ライオスは窓の外を見た。


「孤独と諦め。でも、その奥に温かい光があった。その光を、消したくない。」


「殿下。」


「それが何なのか、俺にもわからない。でも、彼女を守りたい。それだけは確かだ」


レオナルドは深く頭を下げた。


「わかりました。殿下のお気持ちに従います。」


「頼んだぞ。」


―――


午後、ライオスは五名の騎士を引き連れてアイテール家の屋敷に向かった。


屋敷は以前と変わらず静かだったが、どこか荒んだ雰囲気が漂っていた。


門を叩くと、使用人のマルタが出てきた。彼女は騎士たちを見て、顔を青くした。


「ライオス様、これは?」


「国王陛下の命により、この屋敷を調査する。」


ライオスは令状を見せた。


「クロス・アイテールはどこだ?」


「旦那様は、書斎に。」


「案内しろ。」


マルタに導かれ、一行は屋敷に入った。


使用人たちは怯えた様子で見守っている。


書斎の扉を開けると、クロスが椅子に座っていた。


しかし、その姿は以前とは大きく変わっていた。


髪に白いものが混じり、顔には皺が刻まれている。まるで急速に老化が進んでいるようだった。


「王子殿下、これは一体?」


クロスは立ち上がろうとしたが、よろめいた。


「クロス・アイテール、お前を禁術使用の疑いで調査する。」


ライオスは冷たく言った。


「レオナルド、屋敷を捜索しろ。特に、魔術に関する資料を探せ。」


「はっ!」


騎士たちが動き出す。


クロスは顔を真っ赤にした。


「何の権利があって、私の屋敷を!」


「国王陛下の命令だ。これ以上の権利が必要か?」


ライオスはクロスを見下ろした。


「お前の罪は、すべて明らかになっている。観念しろ。」


「罪?私は何も…。」


「嘘をつくな!」


ライオスの声が鋭くなった。


「レーナを騙し、その家族を陥れ、魔力を奪い、娘を生贄にした。これ以上の罪があるか。」


クロスは言葉に詰まった。


―――


一時間後、騎士たちは様々な資料を発見していた。


古い魔術書、禁じられた儀式の手順書、そしてレーナについて記された日記。


「殿下、これを。」


レオナルドが一冊の日記を手渡した。


ライオスはページを開いた。


そこには、クロスの筆跡で様々なことが記されていた。


『ルシェール家を陥れる計画は順調だ。あと数ヶ月で、彼らは破産するだろう。』


『レーナは美しい。そして強力な魔力を持つ。彼女を手に入れれば、私の野望は叶う。』


『結婚式が終わった。レーナは何も知らない。愚かな女だ。』


『娘が生まれた。レーナは死んだ。計画通りだ。これで、永遠の若さと力が手に入る。』


ライオスは怒りで手が震えた。


「クロス・アイテール。」


低く、しかし怒りに満ちた声。


「お前は、人間ではない。悪魔だ。」


「殿下、それは。」


「黙れ!」


ライオスはクロスの前に日記を叩きつけた。


「これが証拠だ。お前自身が書いた、罪の記録だ。」


クロスは日記を見て、顔面蒼白になった。


「こ、これは。」


「言い逃れはできない。お前は、国王陛下の前で裁かれる。」


ライオスは騎士たちに命じた。


「この男を拘束しろ。」


「はっ!」


騎士たちがクロスに近づく。


「待て!待ってくれ!」


クロスは叫んだ。


「私には、私にはまだ時間が必要だ!フェリシアがいなくなれば、私は老いてしまう!」


「当然だ。それが、お前の受けるべき報いだ。」


「嫌だ!私は死にたくない!」


クロスは床に這いつくばった。


「頼む!もう少しだけ、もう少しだけ時間を!」


その醜態を見て、ライオスは嫌悪感を覚えた。


「哀れだな。娘を犠牲にしてまで得た若さが、そんなに大切か?」


「大切だ!私は、偉大になりたかった!ただそれだけなのに!」


「娘の人生を奪ってまで?」


ライオスは冷たく言い放った。


「お前には、父親の資格などない!」


クロスは泣き崩れた。


騎士たちは、彼を拘束して連行していった。


―――


屋敷の調査が終わり、ライオスは使用人たちを集めた。


「皆、聞いてくれ。」


ライオスは言った。


「クロス・アイテールは逮捕された。この屋敷は、国の管理下に置かれる。」


使用人たちはざわめいた。


「しかし、皆の雇用は守られる。新しい管理者が来るまで、これまで通り屋敷を維持してほしい。」


「ライオス様。」


マルタが前に出た。


「フェリシア様は、ご無事なのでしょうか?」


「ああ、彼女は王宮で保護されている。」


ライオスは優しく言った。


「もう、誰からも傷つけられることはない。」


マルタは涙を流した。


「ありがとうございます。私たち、フェリシア様を守れませんでした。」


「今からでも遅くない。」


ライオスは使用人たちを見回した。


「もし、フェリシアについて知っていることがあれば、教えてほしい。彼女を救う手がかりになるかもしれない。」


使用人たちは顔を見合わせた。


「私から…。」


一人の老使用人が前に出た。


「フェリシア様が小さい頃、よく庭で花に話しかけておられました。」


「花に?」


「はい。『お母様は、この花が好きだったのかな』と。寂しそうに。」


別の使用人も続いた。


「フェリシア様は、いつも部屋で一人で過ごしておられました。でも、時々窓から外を見て、微笑んでおられました。」


「誰かと話したい、友達が欲しい、そう思っておられたのだと思います。」


使用人たちの証言を聞いて、ライオスは胸が締め付けられた。


どれだけ孤独だったのだろう。


どれだけ寂しかったのだろう。


「ありがとう。皆の話は、必ずフェリシアに伝える。」


ライオスは深く頭を下げた。


使用人たちは驚いた。王子が、自分たちに頭を下げるなんて。


「フェリシアは、良い令嬢だ。これから、彼女が幸せになれるように、俺は全力を尽くす。」


―――


王宮に戻ったライオスは、すぐにフェリシアの部屋を訪れた。


ドアをノックすると、フェリシアが出てきた。


「ライオス様。」


「フェリシア、少し話せるか?」


「はい。」


二人は部屋の中で向かい合って座った。


ライオスは、今日あったことを話した。


クロスの逮捕、日記の発見、使用人たちの証言。


フェリシアは黙って聞いていた。


「父が、捕らえられたのですね。」


「ああ。もう、お前を傷つけることはできない。」


フェリシアは複雑な表情を浮かべた。


「安堵と、同時に虚しさを感じます。」


「虚しさ?」


「父は、最後まで私を娘だと思っていなかった。ただの道具だった。」


フェリシアは窓の外を見た。


「もし、父が私を愛してくれていたら、人生は違っていたのでしょうか?」


「わからない。でも…。」


ライオスは立ち上がり、フェリシアの前に膝をついた。


「お前は、愛されるべき人間だ。」


「ライオス様。」


「俺は、お前を友人として大切に思っている。リオールもそうだ。エミリアもそうだ。」


ライオスは、フェリシアの手を取った。


「これから、たくさんの人がお前を愛するだろう。だから、過去にとらわれるな。」


フェリシアの目から、涙が溢れた。


「ありがとうございます。」


「泣くな。もう、お前を泣かせる者はいない。」


ライオスは優しく微笑んだ。


「これから、お前は幸せになる。俺が保証する。」


「ライオス様は、なぜそこまで?」


「なぜ?」


ライオスは少し考えた。


「お前が、特別だからだ。」


「特別?」


「ああ。俺にとって、お前は特別な存在だ。」


その言葉の意味を、ライオス自身もまだ完全には理解していなかった。


でも、確かなことが一つある。


フェリシアを守りたい。


彼女の笑顔を見たい。


彼女が幸せになってほしい。


その想いだけは、嘘じゃない。


「ありがとうございます、ライオス様。」


フェリシアは涙を拭った。


「私、頑張ります!」


「ああ、俺も全力で支える。」


夕日が、二人を照らしていた。


王子と令嬢。


身分は違えど、心は通じ合っている。


そして、これから始まる新しい章へ。


二人は、共に歩んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ