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Causal flood   作者: 山羊原 唱
39/43

28話後半 手向け

 ニーナのMP7A1から放たれる散弾をペトラが盾で弾いている間、コアはク――ッと弦を引いた。


「――!」


 ニーナは感心しながら銃口の狙いを変える。

 コアの矢がカーブしながら向かってきたからだ。


 それを撃ち払って視線を戻すと、コアがグレイヴを持って距離を詰めていた。


 そしてペトラがニーナのMP7A1へ矢を構えている。


 ニーナはあっさりMP7A1を後ろへ投げて、そのままコアの近接戦を受け入れた。


 ペトラは強く舌打ちする。

 相手は〝ラダル〟を持ち、基本攻撃は通用しない。せめて相手の攻撃手段である武器は破壊しておきたかった。

 このまま遠距離で狙っても最悪コアを盾にされる可能性がある。


(だったら先にルカを仕留めてやる‼)

 物騒な物言いを心中で吐き、ペトラの狙いがニーナの後衛を務めるルカに定まる。


「サラ!私が合図したら〝網〟でお願い‼」

 通信機の向こうから、即座にサラが〈うん!〉と反応する。


 ペトラが矢を放つ。

 コアと同じく曲線を描いてニーナを通り越した。


「ルカ。右に二歩」


 コアのグレイヴを躱しながら、ニーナは静かな声音でルカに指示を出す。

 ルカはぴょんぴょんと二歩右にずれ、矢は当たらなかった。

 何度か試すもニーナの感知によって全て失敗に終わる。


 〝トンボ〟からの強襲をなんとか耐えているサラに余裕はなく、ペトラから合図が来ないことがもどかしかった。

〈合図は⁉〉

「だめ避けられる‼」

〈ちゃんと捕まえてよ!〉

「〝ラダル〟相手に先読みで勝てるわけないでしょ‼」

 わっとサラが文句を言うので、ペトラも思わず強く言い返してしまう。




 しかしそれは事実だ。

 コアの槍さばきはかなり熟練されたものだが、かすりもしない。

 それどころか受け身を取られ、コアの力を流してニーナはガーバーマークⅢで応戦してきた。


 どんどんコアは押されていく。

 体格的にもニーナの方が優勢だ。


「ルカ。今」


 ニーナが合図を出すと、ルカは慌ててコアへS&W M442を発砲する。


 手の小さい女性でも扱えるサイズのリボルバーだが、やはりルカには重いようだ。撃つまでの初動に時間がかかり、その弾道は簡単に読まれ、ペトラの矢によって防がれる。


 ルカの攻撃を防ぐもペトラは歯ぎしりする。

 彼の脅威は大したことはないものの、当たれば重傷になる。

(私も加勢したいけど、あの人の指示がある限りルカも後衛として機能しちゃう‼)

 いっそのことルカの腕を狙うか――苦渋の決断を考えた時。

 


 自分の横を風が走った。



「きゃ!いてて!」

 ついでにサラがペトラの腕に落ちてきた。



 サラを抱き留めながら、ペトラは追い付いてくれたリーヴスに喜んだ。

「リーヴス‼」


 彼は〝カーボナイト〟を起動させてニーナとの応戦をコアと代わった。

「急げ‼ルカを‼」


 リーヴスの猛攻でさえニーナは軽やかに避ける。しかし手持ちのガーバーでは〝カーボナイト〟より強度が負けている。コアの時とは違い、回避一辺倒になった。


 コアは即座にニーナの脇を抜けルカに向かう。

 ルカは「わ⁉わわわ!ニーナー!」とS&W M442をコアに向けて発砲するが、照準が乱れまくりとんちんかんな方向へ弾が飛んでいく。

 そんな子ウサギ、あっという間にコアに捕獲された。

 ルカのS&W M442を叩き落とす。



 目標は達成された――というのに。

 リーヴスは何か別の気配を感じた。


 ニーナの声があまりにも落ち着いていたから。

 その正体が分かるまでは一瞬だったのに、やけにゆっくりと感じた。




「〝ヴィアンゲルド〟。〝槍〟」




 それは怪物の名前だ。


 重々しくも美しい金の光がニーナの手に集まる。


 槍の形は今コアが持っているものにそっくりだ。

 だが肌で分かる違いは、その〝強さ〟。



 リーヴスは一突される場所に集められるだけ〝カーボナイト〟の出力を集めた。

 リーヴスの心臓を狙ったそれを彼は両腕で守る。


 しかしその槍は〝カーボナイト〟で守られているはずの彼の腕に()()()()



 〝カーボナイト〟の守りを抜けたことに驚いている暇もない。

 ニーナは金の槍から手を放すと服の内側からカーアームズK9を取り出し、リーヴスの〝カーボナイト〟が起動していない箇所に向けて撃った。


 ボッ!ボッ!ボッ!とリーヴスの右太もも、左わき腹、右目横に当たる。



 ニーナはリーヴスの腕に刺さった槍を抜き取り、ついでに彼に蹴りを入れて突き放す。


 その槍を投擲するため、彼女は構えた。



(怪物の作った槍が〝カーボナイト〟を貫くなら―――)


 〝フルート〟の盾も壊されてしまうのではないだろうか。

 コアは体内の血が冷え切ったみたいにゾッとした。



 ニーナの矛先は無論、ペトラとサラだ。



 ペトラが自分の後ろにサラを置き、盾を構える。

 一秒も経っていないこの間際では回避まで考えられなかった。


 

 

 彼女たちを助けるために、コアはルカから手を離す。

 ニーナの背中を狙ってグレイヴを向けた――瞬間。



「-――がッ……ッッッ‼」



 パン‼と音と共に。小さく鋭い、衝撃が腹に走った。

 倒れこみながら、コアの瞳にルカが映る。

 

 ルカは――ニーナを守るためにS&W M442を拾ってコアへ発砲していた。

 ここまで近ければルカでも大きくは外さない。

 



「コ―――」


 ペトラは遠い前方で床に沈みゆく相棒に声をなくす。


「----――ペトラ‼前‼」



 サラの悲鳴によってペトラはギリギリ、盾を貫通したニーナの槍を、身体をひねって避けた。

 顔面を狙ったその矛先はペトラの右肩を深く擦るように切る。



 ニーナは力の弱まったコアの手を蹴り、グレイヴを取り上げた。そのまま、立ち上がろうとしていたリーヴスの右肺に刺し入れる。

 〝ラダル〟は熱感知もできる。リーヴスが〝カーボナイト〟で守っていない箇所を正確に〝視て〟把握していた。


 リーヴスの口から鮮血が溢れ出る。

 ニーナは容赦なく槍を引き抜いて捨てた。銀糸はただの網としても使える。捕縛される前に手から離した。

 〝ラダル〟がリーヴスの脅威を感知しなくなったので、彼女はリーヴスに背を向け、

 -―コアへカーアームズK9を向ける。



 ニーナは一歩横にずれた。

 サラが苦し紛れの矢を飛ばしてきた。

 ニーナは後方に投げておいたMP7A1を広い、サラへ向ける。

 痛む肩を庇いながらペトラはサラを盾に引っ張り伏せさせた。


「ルカ‼ねぇルカ‼わかんないの⁉私、サラだよ‼お姉ちゃんだよ‼お願いだから思い出して‼」


 ガガガガガガ‼と蝶番型の盾にニーナの感情のない銃撃が続いた。

 もう――誰がいつ殺されてもおかしくなくなった。

 その恐怖と焦りがサラを泣かせる。

 叫んでも叫んでも届かない自分の片割れに。


 それでも叫び続けた。



「ママが待ってるよ‼一緒に帰ろう‼」



 コアは立っていられず両ひざを床につけていた。震える手で傷口を押さえ流血を少しでも防ぐ。片方の手は空いている。だからその手でルカを掴もうとして――

 コアは、手を止めた。


 ルカはサラとそっくりな瞳で、穴が開くくらいコアのことを見つめていた。

 小さな口がかすかに開き、「……まま…」と呟いた。


 コアは掴もうとした手で、ルカの頬に触れた。

 腹部の痛みを気持ちで抑え込み、ルカに笑いかける。


「会いたかったよ。ルカ。…エレナがずっとずっと、待ってる」


 その手が全く怖く感じないことが不思議で。ルカは立ち尽くす。




 コアは息をのんだ。

 姦しい銃撃が止んでいることに気づいた時には。



 ニーナの銃口は自分に向けられていた。


(---――撃たれる――――――……‼)

 コアは瞬き一つもできなかった。




〈待って。ニーナ。〉





 ニーナの耳裏の皮膚シールから泥蛇の制止が聞こえた。

「殺していいんだろ?」



〈――〝フラム(マナ)〟が来た。〉



 その一言で。

 ニーナの動きが止まった。


「…〝シメイラ〟の気配に隠れてるせいか、気づかなかったな」

 声だけはずっと無感情なニーナだ。



 汗が滝のように流れるコアは彼女の表情に眉をひそめる。

 もともと感情が表情に出るタイプではないのだろう。


 しかし心から面白いと思った時、彼女は隠さない。

 それもサンクミー飼育施設の時に見た笑みと違ってその表情には私情があるように見えた。



 ニーナは耳裏の通信機をコアたちにも聞こえるよう操作した。


「何人殺せた?」

〈〝カタム〟は確認済み。〝メモリア〟もあと数分で回収できる。〉



 コアたち全員が言葉を失くす。



〈でも〝フラム〟が来たから一度仕切りなおそう。コアとルカを連れてきて。〉

「了解」


 その瞬間、ペトラが蝶番の盾から虎のように素早く出てきた。


 させてたまるか――決意が顔に書いてある。


「よせペトラ‼」

 リーヴスが叫んで止めても彼女はツヴァイハンダーを左手で握り直し、ニーナとの距離を詰めていく。


 ニーナはMP7A1でペトラを撃たなかった。それどころか無視してコアを担ぎ、ルカと共に建物の奥に進んでいく。


 それを見たリーヴスは気力を振り絞り、追いかけようとするペトラを抱えて止めた。



「やめてリーヴス‼ここで連れて行かれたら‼なんのために――‼」

 叫び狂うペトラを抱え上げ、リーヴスはサラのいる蝶番型の盾のもとまで走る。


(ギリギリか⁉)

 溺死寸前のような苦しさが肺から感じるも、リーヴスは盾とともに二人に覆いかぶさった。

 〝カーボナイト〟を起動させたその時。




 泥蛇が振動弾(ゼルザイルブレット)を発動させた。




―-------------―― 


 前方には大型の船が2隻、接近していた。

 翼のような帆を持つ帆船〝ペガサス〟と〝ペガサス〟よりは一回り小さい、赤い船体に金の影を波に落とす〝クリュサオル〟。

 

 イングやフレイアが人間のサポートに特化しているとするならば、この二つのAIはAIのサポートに特化している。特性などは異なるが、攻撃手段は対AIを想定しているためイングよりも強力だ。

 〝ペガサス〟の主砲がイングの海面近くを狙った。


〈あァっとっとー⁉〝トリアイナ・ハイマ〟‼それはアカンですううぅぅぅ!〉


 イングは慌てて戦艦たちの舵を切り、各艦に光の速さで命令する。


〈母艦3連装砲・各艦信号砲・駆逐艦軌道ジャミング弾発射ああああ‼わあああ!逃げろぉぉですうううぅぅ‼〉


 イングの姦しい叫び声は海を大きく揺らし、その揺れを利用しながらイングの艦隊とハッキングした艦隊が動きだす。



 ---―――オ‼と。〝ペガサス〟から放たれた〝トリアイナ・ハイマ〟は砲撃などではなかった。


 気圧のような風が槍のように飛び、逃げ遅れた艦隊たちの()()着弾した。

 するとルビーのように赤い雷が海面から激しく立ち上がり、強烈な渦を発生させた。


 赤い雷に船体は粉々にされ、あとはミキサーにかけられるように海の藻屑へと化していく。


 渦は引き込めるだけ敵艦を引き込むと何事もなかったように消失した。



 総数約30いた味方艦が半分持っていかれた。

 余波で残る烈風にイング艦と味方艦がぐわんぐわんと揺れる。


〈いきなり必殺技できました!なんて情緒のない戦い方!みなさん!このプログラム通りに動いて波を作って下さい!あの馬ッ面の攻撃は渦を起こしやすくなった瞬間に来ます!〉


 みなさん、というのはハッキングして配下にしたAIたちのことだ。

 しかしどれもイングクラスのAIについていけるほどの性能ではない。〝ペガサス〟はイングの艦隊が作り出す波形を即座に解析し、すぐに二射目の用意を完了させた。

 と同時に。〝クリュサオル〟の主砲も光り輝いていた。


 イングは母艦から振動防壁を展開させて防御するも、クリュサオルの〝ハルパー〟によって突破される。

 その間に周囲の味方艦が〝トリアイナ・ハイマ〟によってほとんど沈められた。


 損傷を受けたイングの母艦が煙を上げながら海に沈んでいく。

 他に残ったのは駆逐艦3隻ほど。母艦のイングが沈めばこれらも停止するだろう。



 勝敗は決したも同然だ。

 しかし〝ペガサス〟と〝クリュサオル〟の猛攻が止まる。

 次の予測に前代未聞の「分からない(Emergency)」が出てしまったからだ。



 イングの振動防壁とは本来、〝ハルパー〟を4回は防げる強力な守りだ。

 互いに攻撃パターンを幾百も予測して戦っていた。その中でより最適解を選んだ方が勝つ。それがFageのAIの戦いだ。

それ以外の…、「予想外」なんて事象は起きない――だから。


 たった一発の〝ハルパー〟によって沈んだイングの意図には全く気付かなかった。



〈〝ユングヴィ・エプレトルァド〟出力向上…97、98、99…〉


 ハッキングしたAIたちに注意を引き付けさせて予測演算の外側に思惑を置いていた。

 あらゆることが予測できるFageのAIを出し抜く――エモーションコピーを獲得したイングにしかでいないことだ。


 イングは不敵に笑った。


〈ふふふふ。必殺技の最も素晴らしい使い方を教えてあげましょう。〉



 イングの母艦後方で海中から太陽でも昇ってきそうな輝きが溢れていく。



〈死んだかなって思わせてからぶっ放す――それが正しい必殺技の使い方でございます‼ひゃっはあああああああーッッッ‼(世界に響く放屁の音)〉



 イングのふざけきった声と、ッッッッぷっぱァァァッァァァアン‼という効果音がエンドレスシーを震わせた。


 イングの母艦の大きさは〝クリュサオル〟と同等。

 それが――本来であれば〝ハルパー〟同様直線状の殲滅ビーム砲であるがそれを船の後方で大爆発させて――海中で光の巨大魚雷となって突っ込んできた。



 特攻だと分かってもその速度に〝トリアイナ・ハイマ〟も〝ハルパー〟も当たらない。

 全ての攻撃が空振りに終わった瞬間、〝ペガサス〟と〝クリュサオル〟のど真ん中にイングの母艦がぶつかった。




 何度も光が飛び散る。海からほとばしる光が美しい巨大船を咀嚼していた。

 イングの母艦から放たれる光が〝ペガサス〟と〝クリュサオル〟を飲み込むと、ひと際強い閃光がエンドレスシーに放たれ、荒れ狂っていたその戦場に光の花びらを散らせた。


 まるで〝ペガサス〟と〝クリュサオル〟へ花を贈ったかのように、光の花びらが舞っている。






〈……。〉

 その戦況を遠くから〝視〟ていた泥蛇は静かに海へ潜る。

 イングが残した駆逐艦数隻、一目散に現場を離れていった。

 イング本体はまだ生きている。


〈…。もう生かしておく理由はなくなりましたね。〉


 未来の資源であるAIを2基も破壊した、史上初であり最悪の罪を犯したAI。

 本当に壊れてしまったようだ。


 氷のような一言を呟いて、泥蛇は海中深く泳いで姿を消した。




―――――――――――-――


 オーバークォーツの花の炎に包まれる〝シメイラ〟を見て、マナは冷たい汗を流した。

(効いてはいる。でもなんだ…この気配)


 〝ラダル〟で感じ取れる脅威は今までにないほど――いや、〝グラビティ〟や〝ヴィアンゲルド〟の時と限りなく酷似している。

 よりにもよって人間の悪質な一面だけを残してあとは全て怪物になっているのだろう。オーウェンのブレードが刺さったまま、彼は炎を消すために暴れ回っていた。


 いっそ怪物化してくれれば〝ヴィアンゲルド〟が始末してくれるのに。



 マナは視線に気づいた。


 こんな時に綺麗だと思ってしまうくらい、そのアメジストのような瞳は特徴的だった。

 キースを見て、なぜか。 

 〝フォア〟だと分かった。



(ここにいるのは〝メモリア〟と〝フォア〟…そして〝フラム〟)


 マナは泥蛇の兵士としての知識を集めた。

 じきに〝シメイラ〟が炎を鎮火させる。

 その前に手だてを打たねばならない。


(キヴォトス搭載時の〝メモリア〟は最適化の記録。〝フォア〟は確か出力維持)


 〝シメイラ〟はやけになって吠え散らかしている。

 その暴風によって辺りの火ごと自分を燃やす火を薙ぎ払う。


 皮膚を焼く風が当たる中、マナは一手を思いついた。


(賭けだ。サクタがいたから私の〝フラム〟はその場に必要なギフトと繋がった。でも彼がいない今、出力を上げたらなんのギフトに繋がるか分からない)


 まだ少し鬣に小さな火が残る〝シメイラ〟の眼光がマナに向く。

 癇癪と怒りですでに爆発している、激しく狂った眼光だ。



「私が〝フラム〟を起動させたら〝メモリア〟と〝フォア〟を私に向けて起動させて‼」


 オーウェンとキースへ、マナは叫んだ。


(〝メモリア〟を〝チューニング〟のように調節役として使えるかは微妙なところだけどやるしかない――‼)


 最適値の記録(〝メモリア〟の起動)を〝フォア〟で維持できれば。


 その〝最適値〟がどこに作用するかが賭けだ。



 やるしかない。

 それはオーウェンとキースも分かっていた。



 〝シメイラ〟が動き出した瞬間、〝メモリア〟と〝フォア〟が起動した。


 そして、マナも〝フラム〟の出力を上げる。




 マナの小柄な身体が〝シメイラ〟の巨大な影にすっぽり収まる。

 〝ラダル〟で感知できても全く身体が動かない。あまりの速度に血の気が引く。


 それでも彼らのギフトは正常に働いた。



 マナの足元から翼のような鉄の刃が、生きているように現れた。


(-----――〝ミエ〟--――‼)


 ギフトの中でも明確な攻撃系統のギフト。

 当たりを引き、マナはそのまま〝フラム〟の出力を上げて刃の波を〝シメイラ〟に押し付けた。



「ガッあ!あああああああ、アアアアアアアッッッッ‼」


 〝シメイラ〟は押し寄せる刃の波を両腕で受け止め、拮抗する。

 オーバークォーツの花の火によって〝シメイラ〟の鬣が粗方燃えたからか、出力の低い〝ミエ〟の刃が〝シメイラ〟の皮膚に食い込んでいる。



 だがそれでも。ギフトはより怪物に近い方が優勢になる。

 〝シメイラ〟は自己修復を繰り返しながら刃の波を一歩一歩、押し返してきた。



(-――どうして)

 マナは奥歯をかみしめる。

 ギフトは宿主が意図的に、そして本能的に全力を出さないよう調整している。

 だがらその気になれば自分の意志でギフトを全力で使えるはず。


(どうして‼)


 マナはじり…、と後退する。力負けしていく。一秒ごとに。


 〝フラム〟はこれ以上応えない。全く動かなくなった。



 〝シメイラ〟の剛腕が振りかざされる。

 マナを覆う影が一層濃くなった。



 〝ラダル〟なんぞなくても分かる。

 それが一撃で自分を液状化させる暴力だと。



 ……マナが〝ミエ〟を発動させてすぐ。

 オーウェンは液体ボディを生成しているフレイアに頼んでいた。

 なんとか、雫ボディのイングの半分くらいの大きさまで回復した。


「同じ手を使うのは格好悪いですが…まだこの辺りにオーバークォーツの花の爆弾はありますか?」


 フレイアは小さな身体を急いで動かし、運よくまだ爆発していなかった商品を見つける。

 まだ、花の状態だ。

 一つの房に10個ほど満開に咲いている。

 加工前の材料がこの暴風の中飛んでいたようだ。

 中心が薄紅で染まった、淡い青の花びらが本当にかわいらしい。


 オーウェンは力なく笑った。


「いやはや。まさか手向けの花がこれとは粋ですな。フレイア」

〈Yes.なんでも仰って下さい。〉

「私の身体を〝シメイラ〟のところまで運んでください」


 フレイアは140センチくらいの精密兵器の姿となった。まるで子供バージョンの精密兵器みたいだ。


〈Of course. I will give them flowers as well. 〉



 マナが〝シメイラ〟の腕に潰されそうになる前に、フレイアはオーウェンを抱えて滑走し、〝シメイラ〟の背中にドン‼と乗せた。

 怪物の背中で、オーウェンは愛剣を力強く握った。


「アアアアアアッッッ⁉」


 〝シメイラ〟は鬱陶しいと叫んだ。

 しかし、それはすぐに違う種類の絶叫となる。



 オーウェンはオーバークォーツの花を、〝シメイラ〟の鬣に残るわずかな残り火に当てた。



 一気に――――再度、〝シメイラ〟は炎に包まれた。


 それも、この花にとって人間は燃料のようなものだ。

 先ほどよりも激しい燃え方だった。

 さらにはフレイアも液体の構成物質をカスタマイズし、〝シメイラ〟がより燃えやすくなるよう〝シメイラ〟の身体に蛇のように巻き付いていく。

 炎はその導火線を駆けていった。



 大地や〝ミエ〟の刃が割れるくらい、怪物の破壊的な絶叫が響いた。

 〝シメイラ〟がオーウェンを振り払おうとも彼が〝シメイラ〟から離れることはなかった。


 目の前で起きた怪物の丸焼きにマナは立ち尽くす。暴れる〝シメイラ〟が迫ってきたのを、キースがマナを引っ張り避けさせた。



 マナはオーウェンが死亡したことを感じた。

 自分に加えられていた〝メモリア〟が沈黙している。


 それでもなお火の勢いが収まらないのは、死してもオーウェンが〝シメイラ〟を離さず、フレイアの核が燃え尽きるまで稼働していたからだ。



 キースは炭へなるオーウェンを見て地面に膝をつけた。

 マナでさえ、胸の奥が冷え切って動けなくなる。



 やがて、マナの〝ラダル〟が〝シメイラ〟の沈黙も確認した。















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