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Causal flood   作者: 山羊原 唱
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0話 これはずっとずっと先の君たちへ

 昔々。

 黄金の宝箱があるという、幻の島がありました。


 その蓋は伝説の剣でも、巨人の鎚でも、魔女の薬でも開かない蓋でした。

 しかし蓋を開ける鍵は島にあるといわれ、みんなみんな、その島を探しました。


 島のまんなかには珍しいリンゴの木と宝箱と怪物がいたのです。

 怪物は宝箱を守っているのか、おとずれた人を食べてしまいます。

 島に辿り着けても、宝箱を手に入れることはできませんでした。


 そんなある日、一人の青年が島にやってきました。

 青年は、美しい歌声にきがつきました。

 黄金の宝箱のことはすっかり忘れて、その歌声を追いかけました。


 なんとその歌声は怪物だったのです。

 怪物は青年に出て行くように、牙を見せます。

 青年は逃げずに、言いました。


「綺麗な声だね。もっと聴いてもいい?」


 はじめてそんなことを言われた怪物はおどろきました。

 でも褒められて嬉しかったのでしょう。

 にっこりと笑って青年のために歌ってあげました。


 宝箱の鍵が開いても、青年はずっと怪物の歌を聴きました。

 すると、黄金の宝箱の中から、かわいらしい二人の子供が出てきたのです。


 嬉しそうに歌う怪物と、怪物の歌に踊る子供たちと、一緒に笑う青年は、いつまでも踊りあかしましたとさ。




 町から少し離れた森で、倒木に座って子供たちに読み聞かせをしていた。

 読み聞かせが終わると、陳列して地面に座る子供たちは不満そうにブーブーと言い始めた。

「ねえマナ!なんでそんな普通の読み聞かせなの!」

「僕のお父さんは〝青年が怪物を倒して姫を救う〟ってアレンジしてくれたのに!」

 文句を言った少年は立ち上がり、近くにあった木の枝を使って剣を振るう真似をする。

 危ないからやめなさいと注意する前に、他の子供たちも「こっちは怪物が魔王だった!」や「島が宇宙に飛んでった!」などと声を上げ始める。

 マナと呼ばれた人物の表情は動かないまま、子供たちの不満が理解出来ないと首を傾げた。

「アレンジが必要なら加えただろう。本当は怪物と青年の出逢いは三日間だけだったのに、怪物と子供と人間の大人がいつまでも歌って踊っているんだ。非現実的でイカれている。派手だろう?」

「いいじゃんそこは物語なんだからさ!」

「地味すぎてわかんないのに派手なわけないじゃん!」

 全員10歳に満たないくらいだが、容赦ないブーイングが飛ぶ。


 次第に誰のアレンジが一番派手かという流れになり、一人の少女が立ち上がった。

「じゃあやっぱりあたしのお姉ちゃんのアレンジが一番派手だわ!」

 顔いっぱいに得意げな笑みを浮かべ、マナの隣に立った。


「島に最初にあったのは宝箱じゃないの。

 真っ黒の箱で、その蓋を開けると魔法の世界へ行けたのよ。

 魔法の世界へ行くと、魔法の力を手に入れる。それで怪物を倒したってわけ!」


「魔法だって!マナ、非現実ってこういうことを言うんだよ!」

 少女の姉によるアレンジは子供たちに好評のようで、「おれもそれ好き~」なんて発言もゆるく飛んできた。

 しかし、オリジナルに近いものを読み聞かせた当人は首をゆっくり横に振った。

「君の姉は良い勘をしている。正確にいうなら予知だな。」

 謎めいたことを言うので、子供たちはみんなきょとんとする。

 そんな子供たちを町に帰すため、パンパンと手を叩いて警告した。

「さて。そろそろ終わりだ。境界線に残党が入ってきている。私は仕事をしなければ。」

 そんな発言に、子供たちは顔面蒼白になり、乱れながら立ち上がった。

「もうマナの馬鹿!」

「それならそうと早く言ってよ!」

「めっちゃ危ないじゃん!せめて顔にだしてくれないと!」

「マナのへたくそ読み聞かせを聞いている場合じゃない!」

 さらっと悪評を残され、子供たちは町へ逃げ帰っていった。


 子供たちがいなくなると、その森は暗さが深くなったような空気になる。

 そんな場所で、〝それ〟はやはり首を傾げた。

「正式名称はそんな難しい発音ではないと思うんだが、なぜ〝マナ〟と呼ぶんだろう?」

 訂正を48回試みたあたりで止めた。

 当人にとってもささいな誤りであるため、訂正に意義がないと判断することにして、甘んじて〝マナ〟ということにした。



 〝それ〟は透き通った金髪を揺らしながら、侵入者たちの方へ歩みを進めた。

 曇りの隙間から注がれる陽光が木々を縫って彼女の瞳に届く。

 鉱石のような銀の瞳が標的を捉えた。


〝それ〟が直接人を殺すことはないが、人知を超えた力で侵入者たちを次々と海へ放り飛ばしていく。

 

 絶対に敵わないと理解して、侵入者たちは悲鳴を上げて走り去る。

 静寂な森がかえってきて、〝それ〟は海の方へ向かった。


 懸命に泳いでいる侵入者が何人かいるが、そちらには目もくれない。

 〝それ〟の眼差しは遠く海に浮かぶ安息地を見つめている。



 海風が〝それ〟の髪をなびかせ、傷だらけの大地を撫でて――

 何度も燃えた木々を通り過ぎて、何度も作り直した人の町を巡っていく。


「〝人々の未来を繋げる〟理念の果て。大陸にこれだけの人間と私が残った時点で、あそこは沈没都市の終焉となるだろう。…ああ、君はそれでも、もう二度と人間の役に立つことはないのか。」


 人間の生きる現実世界ではない、AIの海から、大きな船の(信号)が〝それ〟に届く。

 〝それ〟は清々しいと笑みを作った。















 

 

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