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ウォーキング!

作者: 静真礼御

 20〷年、某地方自治体にて『ウォーキングポイント制度』なるものが制定された。これは市民達の健康促進、およびストレス解消を目的に実施されたものであり、端的に言うと、歩く程ポイントがたまってゆくというシステムである。


 そもそも『歩く』という行為は全身運動であり、運動としてはハードでもなく、そこまでハードルも高くない。運動不足とストレスの良い解消となる訳である。

 そのやり方だが、まず自治体配布の無料アプリを各々のスマートフォンにダウンロードする。スマホならその所持者がどれだけ歩いたかが分かる訳である。自転車や自動車ならば速度で分かるし、一人が複数のスマホを持って歩いても分かるのでズルは出来ない。


 ポイントは当初、何ら実質的な意味など無い単なる数値に過ぎなかった。つまり単にどれだけ歩いたかを示す目安でしかなかった。またそもそもこの頃、ウォーキングポイント(以後WP)制度は、ほとんどの市民達から注目されていなかった。一部の運動好きや散歩好きの市民達が無邪気に仲間内でポイント数を競い合ったり、またどれだけポイントをためられるか、自己の記録に挑戦したりと……とにかく純粋に楽しんでやっていた。


 やがてそんなWPユーザーの市民達の一部から「このポイントが何らかの形で活かせるようになってもらいたい」という声が上がり始めた。

 そんな声に自治体側も応えた。自治体提供の各種有料サービスにクレジット代わりに利用できるようにしたのだ。そもそもの目的が市民達の心身の健康促進とストレス解消であるから、これを機に更に多くの市民達にWP制度を利用してもらえたらと考えたのだ。どう考えても悪い結果になる訳が無い。行政は中長期的に見て良い結果になると思った案なら採用してくれるものである。


 とにかく、これでWPに価値が生れた訳である。こうなるといかにWPを稼ぐかという事を考える連中が出て来るのは時間の問題であった。『歩き屋』なる連中が現れた。依頼者からお金を貰って、そのスマホを持って歩くのだ。

 また中には直にWPの売買を行う者も現れた。自治体のWP管理サーバーに不正アクセスし、依頼者のWPをいじって水増しさせてしまう。

 このような連中は僅かな間だけ幅を利かせたが、すぐに自治体が対策を施し、さらに『不正がバレた場合、ポイントは没収する』というペナルティが制定され、消えていった。割に合わないのだ。


 WPの安全性と信頼性がほぼ確立されると、活用の幅も広がった。地元の商店街などで使える商品券と交換可能になったのだ。こうなるといよいよ歩く市民達が増え始める。街から少しずつ車の数が減り始めた(といってもどうしても車が必要な市民や車好きもいるので、そこまで露骨には減らない)。よく渋滞を起こしていた道などがスムーズに流れるようになった。


 遊歩道が街のあちこちに建設され始めた。半ば放置されていた公園なども再び整備され綺麗になる。歩行者社会となった事で、何となく引きこもりがちだった老人なども気軽に外に出やすくなる。市民達の健康寿命も延びていった。


 ついでに経済的にもプラスとなった。何せ歩くという事は車移動だと見逃してしまう色々な店舗や露店が目に付く、しかも足を止め、店に入って行くハードルも下がる。


 街の中心部ではビル同士が歩道橋で連結され始めた。空中回廊だ。それら歩道橋の集合地点・連結地点には広い空間も設けられる。こうなると地上の上にもう一層、都市空間が出来始めたようなもの。足腰の弱い人のために自動歩道も設置される。多層化、車歩分離はますます進む……




 ……千年後、そこには途方もなく巨大で複雑な多重構造建築の集合体が存在していた。内部にどれだけの人がいるのかは良く分からない。その都市の公式通貨はWPと呼ばれている。だが、その言葉の由来は誰にも分からないのだった。


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