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演劇脚本集  作者: アオ
1/6

都市伝説の街にて

上演当時のト書きがママ残っております。

都市伝説の街にて


松田祥平

アキラ

新聞部部長

星野あかり

不良リーダー

革命軍リーダー

革命軍

祥平父

アキラ母

先生 

多数アンサンブル。








 開幕。円上に置かれた学校の椅子(外を向いている)の全ての上に、人が座っている。そして、その中央に二席、椅子が置かれている。

 客入れ最後のBGMが終わるとそのままセリフ入り。

 照明、円形ステージの中央を照らしている。(アンサンブルの顔は見えなくてよい)


A 青春は残酷な椅子取りゲームだ。

B どうしようもないほど残酷だ。

C みんな知ってはいるけど。

D 知らない振りをする。

皆 ああ、残酷だ。残酷だ。

B 殴られる痛みを。

A 押し付けられる苦しみを。

C 無視される悲しみを。

D 知ってはいるけど。

A 知らない振りをする。

皆 ああ、残酷だ。残酷だ。


 祥平たち二人組が入ってくる。

 真ん中の空いている席を、怪しげに見ている。


祥平 座ろうぜ。

アキラ …。

祥平 ここしか空いてないみたいだぜ。

アキラ …。

祥平 なぁ。

アキラ ! あぁ、そうだな。


 祥平たち二人組が席に座る。


C そういう席に座っただけ。

A ただそれだけ。

B 何かが悪いわけではない。

D 強いて言うなら。

A その席に座ったのが、悪い。

皆 あぁ、残酷だ。残酷だ。残酷だ。残酷だ。

祥平 やめて! 何で! 何で、何でこんな…。

アキラ やめてくれ! 何すんだよ!! 


 暴言の嵐が止み、安堵の表情を浮かべる二人。

 周囲の人は、首吊り用のロープを取りだし、二人に押し付ける。(椅子を内側に向ける)


祥平 やめて! やめてくれ!! やめてください!!!

アキラ やめてくれ! なんでこんなことすんだよ!


 周囲の人が二人を取り囲むと、二人の声が止む。

 周囲の人が囲むのをやめる。(不良の格好をした一団は、そんなに離れず祥平たちのことをにやにやと見ている)

 すると、二人は互いに首に縄がかかっている。互いを引き上げることで辛うじて生きている。


祥平 落ちるだろ!! 死にたくねぇよ! なんだよ、なんだよ、なんだよなんだよなんだよ、何でこんなことになったんだよ!!!

アキラ 離すなって! 死ぬぞ! なんだよ、何で、どうしてこんなことになったんだよ!!!


 不良、高笑いする。

 照明、円形ステージの左右中央にサス二つ。


部長 この街を熱狂させる都市伝説。

あかり 都市伝説なんて古くさい? 息絶えた?

部長 いやいや、都市伝説はまだ生きている。

A ホントに? このすぐ検証できちゃうSNS時代に。

あかり それこそ、このSNS時代だからこそ生き延びたの。

部長 実在こそが語られる所以だろうか?

B 火のないところに煙は立たないと言いますし。

部長 火のないところでも、炎上させてしまうのが今の時代だ。

あかり みんなが「有罪」と言うなら「有罪」な時代。怖いね。怖くない?

部長 もう一度問う。実在こそが語られる所以だろうか? いやいや、逆なんだよ。語られたなら、それはもう実在しているんだ。

あかり 都市伝説の街、S市。

部長 ツイッターのツイート、リツイート、ふぁぼ数、フェイスブックの投稿、いいね、シェア数。ラインのトークでの話題に上った数。…等々、SNSで話題になった、所謂バズった数が上位七つに入った都市伝説は、実在するらしい。…あなた方が持ってるスマホ。


 照明、中央ステージ全体を照らす(最初よりも広めに。アンサンブルの顔も見れるように)

 周囲の人々と、祥平、全員がスマホを取り出す。


部長 それは、入り口だ。簡単にそんな、謎めいたモノ達にアクセスできる。


 全員がそれぞれSNSで語っていることを口々に声に出す。雑踏のような、音の巨大な波。

 それを遮る、電話の着信音。


祥平 もしもし。どうした?

アキラ 呼び出しだよ。

祥平 …あー、今日、パス。

アキラ お前そんなんしたら明日どうなるか分かってんのか!?

祥平 分かってるけど、パス。

アキラ …分かったよ。かけたけど繋がらなかったことにするから、スマホ壊れてたことにしとけ。

祥平 おっけ。分かった。恩に着る。

アキラ いいよ、気にすんなって。また明日な。

祥平 おう、また明日。


 ヤンキーに絡まれながら退場。

 祥平は父親と話始める。


父 もういいのか。

祥平 うん。終わった。

父 アキラくんか?

祥平 えっ、うん、そうそう。

父 違うクラスになったんだっけか。

祥平 あれ、話したっけ?

父 話してた。案外、聞いてるんだぞ。

祥平 覚えてないや。

父 ……進路、どうするんだ?

祥平 …決まんない。

父 それは分かってるんだ。すぐ決めろってわけじゃない。夢はないのか?

祥平 夢? …ないかな。

父 目指してるものはないのか?

祥平 ないね。

父 何かになりたいとかは、ないのか?

祥平 何に。

父 ん?


 照明、円形ステージ中央、祥平にサス。


祥平 何になれるんだろ。…何者に僕はなれるんだろう。何者になる資格が、許可が、素質が、運命が、あるんだろうか。何者になるために、僕は生まれてきたんだろう。特に熱中するものもなく、特筆するようなこともなく、ただ遊んで無為に毎日を浪費してきた。夢、なんてものはなかった。多分身分不相応なんだと思う。夢とか目標を持ってる人はキラキラしてて眩しくて、自分とは、違う人種に見えた。多分、本当に違うんだと思う。…僕は何になりたいんだ…!


 照明、サスを落として、円形ステージ中央に明かり。(最初と同じの、少し暗め)


父 進路希望の紙、書いておけよ。


 父親ハケる。

 祥平、テーブルに進路希望の紙を置き、ひたすらに悩む。


A 少年は悩む。

B 苦悩する。

C 悶絶する。

F たかが一枚の紙切れに。

E 苦しめられ、

D 狂わされ、

A 頭を抱える。

B まるで土下座しているみたいだ。

C 許しを請ってるようだ。

D 過ちを認めてるようだ。

F ペンを握る手に力が入る。

E 入るだけ。

A 一文字も書かない。

E 書けない。

C ペンは一文字も紡がない。

B 紡ぐべき言葉はたくさん見つかるのに。

D 大学。

C 専門学校。

A 就職。

B それとも放浪の旅?

F あるいはニート?

D 文系。

E 理系。

C 未来のカタチ。

A そのどれもが正解に思えて、

B そのどれもが不正解に思えた。

C 着かないライターみたいに、不完全だ。

アン カチッカチッカチッカチッ。

D それでも時計の針は進んでいく。

アン カチッカチッカチッカチッ。

祥平 あぁっ!!

B たかが紙切れ一つに、

E 勝てない。

C 情けない。

A 不甲斐ない。

F いや、昔からそうなのかもしれないよ。

A 昔から?

B 何で?

C どうして?

F 人間は、カミには勝てないって。

アン ……あはははははははははは!


 時計の音。


祥平 今日が、終わった。葛藤も、思考も、全部賞味期限切れになった。


 照明、円形ステージ全体を照らす。

 映像、革命軍の声明文を投影。

 アキラが祥平の元にやってくる。

 アキラは痛々しい眼帯をしている。


アキラ おはよ。

祥平 ! おはよ。

アキラ 昨日はどうした?

祥平 親と話してた。

アキラ 親と?

祥平 進路とか、将来の話。

アキラ あぁ~、なるほど。高2にもなりゃそういうの出てくるよな。

祥平 アキラはなんか、決まってる?

アキラ 決まってねぇ。なーんも決まってない。

祥平 だよな。

アキラ 決まってるやつの方が少ないだろ~。

祥平 それ聞いて安心した。

アキラ なんだ、不安だったのか?

祥平 僕だけかと思って。

アキラ そんなことあるかよ。進路決まってる高校生なんか天然記念物だよ。

祥平 そんなもんか。でも決まってないと、不安じゃない?

アキラ 不安だけどダイジョーブ。何とかなる。

祥平 何か策でもあんの?

アキラ ない。微塵もない。けどその内逆転満塁ホームランが出るに違いない。

祥平 楽天的だな。

アキラ 野球だけに楽天? 上手いねぇ!

祥平 いやいや、何も狙ってないから。

アキラ まぁ、してたし、ホームラン出来るっしょ。

祥平 何年前の話? 大分前じゃん。

アキラ 小学校だから…もう十年?

祥平 十年、十年か。いや~、懐かしいね。

アキラ 昔取った何とやらだな。これで打てる。

祥平 いやいや、杵柄もバットも錆びついちゃってるよ。

アキラ そうそう、杵柄だ杵柄。

祥平 すぐやめちゃったなぁ。

アキラ きつかったもんな~。

祥平 今フルスイングしたら腰やるかも。

アキラ おいおい、花の高校生にあるまじきな発言だな。

祥平 だってもう十年やってないんだぜ?

アキラ じゃあ、リハビリでキャッチボールでもすっか?

祥平 うわ、マジ? グローブどこやったかなぁ。

アキラ エアー、エアー。

祥平 え?

アキラ ほい。…取れよ~。

祥平 あ、ごめん。…ほい。

アキラ ほいよ。


 何回かボールを投げあった後。


祥平 ……あのさ。

アキラ ん?

祥平 昨日は、大丈夫だった?

アキラ ……あぁ、大丈夫だったよ。何もなかった。

祥平 でも…!

アキラ これ(眼帯)だろ? これものもらいでつけてんだよ。

祥平 …………。


 考える祥平。


アキラ なんか、人だかりできてんな。

祥平 えっ?

アキラ なんかあんのかな?


 見に行くと、そこには校舎の壁にペンキで文字が書かれている。


祥平 なんだろうなこれ。

先生 こら、お前たち! 離れろ! もうHRが始まるぞ! クラスに戻りなさい!

アキラ やべっ!


 映像、落とす。

 祥平以外はいなくなる。


祥平 誰の悪戯書きだったのだろう。でも、何故だか心が躍った。無責任に希望を乗せたくなった。革命。いい響きだ。


 祥平、スマホを取り出す。


祥平 「革命軍だって。何か校舎の壁に落書きされてた。本当に革命が起こったら面白いのにな。」


 不良が入ってくる。


不 あれ? 携帯壊れてるって聞いてたけどな。

祥平 !

不 壊れてるようには見えないねぇ。

祥平 返してくれよ!

不 何だよ。俺が何か悪いことしてるみたいじゃん。ちゃんと壊れてないかチェックしてやってるだけなのにさ。なぁ? それとも何? 友達に嘘ついてたってわけ?


 不良、笑う。


不良 革命軍? 何信じてんの?

祥平 ……。

不 起こると楽しそう。分かるわ。退屈だもんなぁ。

祥平 返せよ。

不 俺が、じゃねぇよ。お前の毎日退屈そうだもんな。

祥平 !

不 何だ。やんのか?

先 何やってんだ!

不 ちっ。何もやってませんよー。


 不良、スマホを投げる。


不 おー。よく飛んだ。

祥平 何すんだよ。

不 次、移動教室じゃん。急がなきゃな。

祥平 おい!

不 遅刻しないようにね。


 照明、ステージに地明かり前明かり。

 祥平、スマホを探す。

 そこにアキラが来る。


アキラ どうかした?

祥平 スマホを投げられた。

アキラ クラス別れてから、お前に対しての攻撃が強いよな。

祥平 いいよな、クラス別で。

アキラ ごめんって。

祥平 謝ることじゃないよ。

アキラ 一緒に探してやるからさ。

祥平 ありがと。


 そこでチャイムが鳴る。


祥平 授業…。

アキラ 始まったな。

祥平 俺はいいよ。教室戻りなよ。

アキラ いいよいいよ。

祥平 でも…。

アキラ 次の数学の権田、苦手なんだよ~。「こんなのも解けんのか!」って。

祥平 ちょっと似てる。

アキラ うわぁ、嬉しくねぇな。

祥平 褒めてんのに。

アキラ 苦手な奴に似ててもなぁ。

祥平 そっくりだったよ~。

アキラ おい、それわざとだろ。ほら探すぞ。「手、動かせっ!」

祥平 はい、権田先生!


 二人笑う。

 少ししてやぶの中からスマホが見つかる。


アキラ あった!

祥平 マジで!

アキラ ん? 革命軍?

祥平 ああ。呟いてる時に取られちゃったからさ。

アキラ 信じてんの? ただの悪戯書きだと思うけど。

祥平 信じてるわけじゃないけどさ。ほら、バズったら本当になるって言うじゃん?

アキラ それこそ信じてんのか? あれだろ? ツイッターとかフェイスブックで話題になった都市伝説は本当になるってやつ。

祥平 そう。本当になったら面白いなって。

アキラ それこそ都市伝説だと思うけどなぁ。その内町中がゴミだらけになるとかと一緒。

祥平 何それ?

アキラ 聞いたことない? ゴミのポイ捨てが横行して、ゴミだらけになるって。

祥平 聞いたことないなぁ。

アキラ マジかぁ。

祥平 それとさ、覚えてないか?

アキラ 何を?

祥平 ほら、昔二人で見た洋画だよ。「革命軍だ!」ってやつ。

アキラ …何だっけそれ?

祥平 覚えてない? 山に秘密基地とか作って遊んでたじゃんか。

アキラ 覚えてないな…。

祥平 マジかぁ…。何かそれ思い出して懐かしかったんだよ。

アキラ すまねぇな…。まぁ、でも、革命か。起こったら面白そうではあるな。


 アキラ、スマホを取り出す。


アキラ 拡散、しといてやるよ。

祥平 何だかんだ、アキラも起こって欲しいんじゃないの?

アキラ バレた~?

祥平 バレバレ~。


 二人、手と手をぶつけるようなポーズを取る。(お決まり、ってな感じで)


アキラ 起こると、いいな。


 照明、花道前に明かり。

 祥平とアキラ、二人で映像の投影機の前に座る。(テレビを見てるイメージ)


祥平 子供のころのある昼下がり、付けっぱなしのテレビで、その洋画は始まった。アキラはもう完全に忘れてしまっているみたいだけど。


 アキラ、ハケる。

 映像の中の登場人物が喋り始める。

 映像、背景に、赤などの投影。

 照明、ステージ中央にサス。


革命軍リーダー 俺たちはこのままでいいのか? 虐げられ、為されるがまま。こんなことのために生まれてきたのか? こんなことのために生きていくのか? そんなの間違ってる。そんなことぐらい誰だって気づいてる。だけど、誰も声を挙げない。諦めているからだ。だから俺が代わりに声を挙げる。


 照明、花道前明かり落とす。

 祥平、その登場人物の中に入って語る。


祥平 圧政者に耐えかねた民衆が革命を起こして自由を勝ち取る。今となってはありふれた物語だが、その時の僕達にはとても衝撃的だった。山に作った秘密基地をアジトなんて言って、革命軍ごっこしていた。

リ 戦って勝ち取らなきゃ何も得られない。俺たちが奪われたものを、取り返しに行こう。そうさ、これは…!


 照明、サスを落とす。


祥平 革命だー!!!!! …なんてな。変わっちまったな、ここも。ゴミだらけだ。


 懐かしそうにまわりを見る祥平。


祥平 またな。


 山を下りていく祥平。

 照明、中央ステージ中央を照らす。

 そこで不良と鉢合わせする。


不 奇遇だな。

祥平 !

不 何その顔。

祥平 ……。

不 そんな身構えることないじゃんか。


 そこにバットを持った男(革命軍)が出てくる。

 音響、BGM、CI。


祥平 ?

不 あ?

革 …。

不 ! 何だてめぇ…?

革 ……。


 革命軍、バットで不良を襲う(殺陣)。

 照明、赤を少し足す。

 音響、殺陣SE。

 殺したりはしない。ただ、腕を折ったり重傷を負わせる。多少よけはするものの、革命軍の一方的な攻勢で終わる。


祥平 !

革 …………。


 しばらく対峙するが、その後祥平の横を抜けて去っていく革命軍。

 照明、赤を完全に落とす。

 音響、BGM、フェードアウト。

 しばらく動けない祥平。


不 うぅ…。


 不良のうめき声を聞き、やっと動けるようになる。


祥平 あっ、警察と…。

リ+アン 革命だー!!!!


 照明ステージに前明かり地明かり。

 祥平が振り返ると、リーダー達が意気揚々と革命に沸き立っている。それを背に、革命軍が佇んでいる。


祥平 ! …………革命だ。…革命だ!


 ダンス。

 照明、映像、また別途ダンス担当からイメージを聞いてください。

 ダンス終了。


 照明、円形ステージ中央を照らす。

 祥平と、その後ろに革命軍。周りにアンサンブルと部長とあかりがいる。


祥平 仮面被ってバットを持った男が、襲ってきたんです。きっとあれは、落書きにあった「革命軍」に違いありません! …という内容を、警察に話して、ツイッターにも呟いた。

A 「革命軍」って言うんだって!

B 「革命軍」?

A そう! 革命を起こすんだって。


 革命軍がBを引っ張る。


B 何だてめぇ!


 革命軍がBをバットで一発でKOする。(一瞬暗転)


祥平 僕の呟きは、一人また一人と被害者が出るたびにバズっていった。すごいんだよ! ほら、アキラ見てよ。もう一万リツイートされそうでさ…!

アキラ あぁ、うん…。

祥平 どうかした?

アキラ 寝れてなくてさ。

祥平 寝不足?

アキラ ああ。

祥平 クマすっげぇな。

アキラ そんなにか?

祥平 見てないのか?

アキラ 鏡、見る気がしなくてな。

祥平 そうか。

アキラ 革命軍?

祥平 ああ、そうそう。

アキラ 本当にいるなんてな。

祥平 期待したかいがあったよ。

アキラ はは、サンタクロースみてぇだな。

祥平 子供っぽいってか?

アキラ ちげぇよ。本当にみたいだなって。

祥平 何だよそれ、何くれるんだよ?

アキラ 平和。

祥平 え?

アキラ 平和のための、革命。

D 「革命」ってなに?

C 街の不良たちを懲らしめてるんだって。

D  へぇ、いいじゃん!


 革命軍がCを引っ張る。


C お前! 噂の革命軍…。


 革命軍がDをバットで一発KOする。(一瞬暗転)


あかり 部長部長!

部長 どうかしたか?

あかり 聞きましたか?

部長 何がだ?

あかり また「革命」が起こったそうなんです。

部長 またか…。これで何人目だ?

あかり これで九人目ですね。

部長 二桁に届きそうな勢いだな。

あかり 最初の目撃から二週間。確か目撃者、うちの生徒でしたっけ?

部長 ああ。しかし、狙い通りなのか分からないが、うちも少しは平和になったもんだ。

あかり 「革命」ですか。

部長 気取ってるな。

あかり 義賊扱いですもんね。

部長 ただ殺してないだけなのにな。不良をボコボコにして病院送りにして英雄気取りか。…正体、暴いてやるぞ!

あかり はい!

部長 簡単なことだが、犯人はこの学校にいるだろう。

あかり どうしてですか?

部長 最初の被害者がこの学校の人間だからだ。目的から言ってこの被害者について知っているのが犯人。つまり、この学校に犯人はいる。

あかり なるほど!

部長 …ところであかりくん。

あかり はい。

部長 近くないか?

あかり 何がですか?

部長 君が。

あかり そうですか? そんなことありませんよ?

部長 いや、どう見ても近いだろう!

あかり いや、もっと! もっと…近づけます! 近づきたいです! 近づかせてください!!

部長 …危険だ。

あかり あぁ! 部長どこ行くんですか!!

F 実際さ。

E うん。

F ガラの悪い人少なくなったよね。

E あ、分かる。全然見なくなった。

F これも全部「革命」のおかげだよね。


 革命軍がFを引っ張る。


F 何がしてぇんだよお前は!!


 革命軍がFを一発KOする。(一瞬暗転)


祥平 でも、それでも、僕の日常にはまだ「革命」は起こっていなかった。


 祥平の席だけポツリと配置されていて、その他の人たちとは別になっている。(いくらか空きがある)


祥平 …これは嘘。演劇的な嘘! 大げさもいいとこ! 実際にこんな配置の教室何てありえないから! やりすぎだよ! 大げさ大げさ…。


 諦めて座る祥平。


先生 はい、座って座って。もうじき文化祭だ。うちのクラスは何をするかも決まってないから、この時間は文化祭の話し合いに使っていいぞ。


 自由に話し始める周り。


祥平 ……。


 照明、徐々に円形ステージ前中央サスを入れる。

 革命軍リーダーが入ってくる。


祥平 え? うわ!


 照明、一気に明かりが戻る。

 周りが祥平を見る。


祥平 いえ、その、何も、ないです。


 周りはまた話し始める。


祥平 ヤバイ。俺ヤバイ。え、何、映画の奴じゃん。懐かしいなぁ。いやいや、じゃないよ。ストレス? ストレスかなぁ。溜め込んでたのかなぁ。どんだけ革命起こしたいんだよ。ヤバすぎでしょ…。


 一瞬目を合わせる祥平とリーダー。


祥平 消えてないかぁ。どうやったら消えてくれる? 塩? いや、それ幽霊じゃん。幽霊じゃなさそうだもんなぁ。

リ なんで諦めるんだ?

祥平 え?

リ 変えたいんじゃないのか?

祥平 ……。

リ 変えたいんだろ?

祥平 そりゃ、変えたいけど。

リ じゃあどうして立ち上がらない?

祥平 それは…。

リ あいつは、立ち上がったぞ。

祥平 !

リ 見てなかったのか?

祥平 見てたよ。目の前で。

リ じゃあ。

祥平 でも、無理なんだよ。人種が違うんだ。

リ 人種?

祥平 戦えるのは、強い人なんだよ。僕とは違う。夢や目標を持って、日々を生きれるのは、選ばれた人なんだ。

リ 選ばれなくたって、いいじゃないか。

祥平 は?

リ 俺だって、選ばれた人間じゃない。特別何かが優れてたわけじゃない。ただ、みんなのために立ち上がった、単なる市民だった。

祥平 確かに…。剣が優れてるわけでも、知恵があるわけでもなかった。

リ 起こせよ、革命を。

祥平 革命を。

リ お前の心から、革命を!

祥平 革命を!

リ 立ち上がって、立ち向かって、起こすんだ、革命を!!

祥平 革命を!!

リ 革命を!!!

アン 青春は、残酷な椅子取りゲームだ。

A 都合が良かった。

B あいつらがいなくなったのなら、

C 何かに怯える必要はない。

D 変えるなら今しかない。

E 逃すわけにはいかない。

F 席は、空いていた。

祥平 取って、いいよな。(座って、すごく嬉しそうにしている)。はい! あの…(文化祭の意見)おい、なんだよこれ…。(革命軍も目を背ける)

A お前がやったのか?

祥平 は?


 照明、赤が入る。

 音響、BGM、CI。

 堰を切ったように、ダムが決壊したように、生徒全員がまるで一つの生き物、流れのように、祥平になだれ込む。全員が口々に「お前がやったのか?」「お前が襲ったのか?」「お前が奪ったのか?」と言っている。それから逃げる祥平。しかし、ついに追い詰められる。


全員 お前が襲って奪ったのか?

祥平 違う、僕じゃない。僕は、出来なかった。


 また逃げる祥平。怯えて怯えての、逃走。


祥平 アキラ、アキラ!

アキラ ……。

祥平 アキラ…?

アキラ 俺には、もう関わらないでくれないか?

祥平 アキラ…? 何でだよ。

アキラ 何でもねぇよ。

祥平 何かあったんだろ?

アキラ ねぇよ!

祥平 最近、様子がおかしいぞ。

アキラ ……。

祥平 アキラ! 俺たち、友達だろ? 話なら、聞くよ。

アキラ 友達、なんかじゃねぇよ。

祥平 アキラ…!


 手をふりほどくアキラ。

 照明、赤完全に落とす。

 音響、BGM、FO。

 絶望する祥平。そこに新聞部のあかりがやって来る。


あかり 祥平さん。松田祥平さんですか?

祥平 どなた、ですか?

あかり 新聞部の星野あかりです。

祥平 新聞部?

あかり あなたが起こしたんですか?

祥平 僕が?

あかり 革命を。

祥平 ! 違う! 僕じゃない!!

あかり そうなんですか?

祥平 そうだよ! 僕は起こしてない!!

あかり でも、みんな噂してますよ?


 皆、スマホを持ってざわざわしている。その中で、台詞が聞こえてくる。


A いたら面白いな。だって(笑)

B こいつだよこいつ。

C 自作自演ってやつ?

E やばっ、サイコパスじゃん。

F 分かりやすすぎ。

D 拡散拡散~。

全員 お前が革命軍なんだろ。

あかり すご~い。めちゃめちゃバズってる。あっ、十万リツイート行きましたよ。あなたの、ツイート。


 震えながらスマホを取り出す祥平。通知が止まらない。

 映像、止まらない通知の映像を流す。


あかり 通知、切らないとそんなことになるんですね。

祥平 僕じゃない、僕じゃない!!


 ハケる祥平。


あかり あっ、ちょっと、話聞かせてくださいよ~!


 あかりもハケる。

 暗転。

 照明、ステージに前明かり地明かり(暗め)、円形ステージに赤のみ。

 逃げ込んできた祥平。不良がやってくる。


祥平 違う違う!! お前は病院送りになった! もういない!! もういじめられっこの僕はいない!! 消えろ! 消えろよ!!


 祥平が不良を追い払うと、そこにはアキラがいる。


祥平 …お前がいるからだ。お前がいじめられてた僕を覚えてるから、僕は変われないんだ。お前が、お前がいるから! …何なんだよその目は!! 憐れんでるのか? お前さえいなくなれば、消えてくれたらいいんだ!!


 祥平がアキラをどけると、革命軍がそこにいる。

 音響、BGM,FI。


祥平 ……お前らが!! お前らが望むなら、なってやろうじゃないか…!


 革命軍のマスクと金属バットを取る。

 照明、ステージを完全に落とす。円形ステージ上、花道辺りを照らす。祥平が中央に着いたら中央サス。


A 少年は描く。

E ペンを取り、

C 同じシンボルを。

D 少年は刻む。

B 狼煙のような、

A篝火のような、

C 立ち並ぶ旗のような、

E 証を。

D 少年は選ぶ。

B 正しい不正解を。

A 間違った正解を。

C あの時

E 描けず

D 刻めず

B 選べなかったから。

A いや何時だって

E 描けず

D 刻めず

B 選べなかった。

C そんな自分と、

E 決別するために。

A そんな自分を、

B 革命するために。

祥平 うおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

C 闇雲に、

E ひたすらに、

D がむしゃらに、

A 少年は立ち上がる。

E ただ自分を、

B 世界を、

C 変えるために。

D 霧を振り払うように、

A 闇を切り裂くように、

B 鈍く光る

C バットを携えて!

祥平 そうだよ、革命だ。革命を! 革命を!!!


 祥平はアキラの後頭部を打つ。

 音響、BGM,CO。

 照明。赤のみになる。

 祥平が山に向かうと、アンサンブルはアキラの死体に群がる(あかりちゃんが最初に行く)。写真を撮り、SNSに上げ、話題にしている。が、中央からじわじわと雨の音へと変わっていく。音の波、海へ。

 音響、雨の音、FI。

 照明、赤→青。ステージ中央にサス。

 そして祥平はマスクとバットを隠すために山の秘密基地にやってくる。

 そこにはリーダーがいる。


祥平 どけよ。もうお前の時代は終わったんだ。俺は、一人で革命を起こしたんだ。


 押しのけてマスクとバットを隠そうとするが、ふと手が止まる。

 雨は大雨になっている。


祥平 なんで…。なんでここにこれがあるんだよ!!!


 祥平の手にはもう一セットのマスクとバットがある。

 暗転。


祥平(声のみ) 初めて、革命軍は人を殺した。

 

 照明、円形ステージ中央を照らしている。

 そこは葬式会場。


A 聞いた?

C 何?

A 何でも、革命軍に殺されたらしいのよ。

C え? あの噂の?

A そうそう。

C でも不良しか襲わないんじゃなかった?

A 裏ではしてたんじゃない?

C 見かけによらないわね。

A 怖いわね。

C ね、怖いわね。

祥平 そんなんじゃない!

C 何よ、何でそんなこと言えるのよ。

祥平 そ、それは…、僕とあいつが…………。

A あいつが?

祥平 ……。

A 行きましょ。

祥平 …。

アキラ母 来てくれてありがとうね。

祥平 いえ…。

母 アキラも喜んでるわ。

祥平 …。

母 何か飲む?

祥平 あっ、いや、大丈夫です。

母 ……。


 少し悩んで、バッグの中の飲み物を渡す。


祥平 あのっ…。

母 今じゃなくても、後で飲んでくれたらいいから。

祥平 ありがとうございます…。

母 そんなに落ち込まなくていいのよ。

祥平 …。

母 祥平くんには、祥平くんのこれからがあるじゃない。あの子のせいで落ち込む必要はないわ。

祥平 …。

母 そうだ。祥平くんにって、あの子から。


 バッグからノートを取り出す。


祥平 何ですか、これ?

母 ノートみたいだけど、私も中見てないから分からないわ。祥平くんにって置いてあったのに、私が見るのも悪いじゃない。

祥平 確かに…。

母 受け取ってもらえる?

祥平 ……あの。

母 ん?

祥平 変な質問かもしれませんけど。僕とあいつって、友達でしたかね?

母 何、どうしたの?

祥平 なんか、自信なくなっちゃって。

母 友達だったわよ。しかもとびきりの親友。

祥平 …。

母 だからここにあなた宛てのノートがある。違うかしら?

祥平 いえ。

母 受け取ってもらえる?

祥平 …はい。


 祥平、ノートを受け取る。


母 ゆっくり休んでね。

祥平 え?

母 クマ、出来てるから。

祥平 …。

母 またね。


 アキラ母、ハケる。祥平、ノートを開く。


アキラ(声のみ?) このノートをお前が読んでるってことは、俺は死んだんだな。何で死んだんだろうな。事故とか? 病気? 長生きして老衰とか? いや、そんな普通には死なないよな。俺はあの噂の「革命軍」なんだからさ。

祥平 は?


 部長とあかり、入ってくる。

 祥平、ハケる。


部長 つまり、アキラくんを追っていたら、革命軍が出てきた、と。

あかり はい、その、私、ビックリしちゃいました! いきなり出てくるものだから、どうしたらいいのかと思ってたら、バットで、バァンって。…………殺しちゃったんです。

部長 大丈夫か?

あかり はい……。でも、その、ちゃんと後を追って来たんです。山の中に、ちょっとした基地みたいなのがあって、そこから出てきたんです!

部長 誰が?

あかり 松田祥平です。

部長 友達ではなかったのか? どういうことだ?!

あかり そのはずです。だから私も、また、ビックリしちゃって! なんか喧嘩してたとか目撃情報は上がってましたけど、まさか、こんなことになるなんて…。

部長 …最悪だ。親友を手にかけるとはな。

あかり それで、そこを探したら、二つあったんです。

部長 二つ?

あかり 革命軍のバットとマスクです。

部長 それが二つ? どういうことだ? 二人いたのか?

あかり 予備用とか?

部長 それを準備してどうなる。……何にせよ、松田祥平が親友を手にかけたことは変わらない。後は警察にでも任せよう。連絡してくれ。


 あかり、スマホを取り出す。


あかり ! ぶ、部長…。

部長 どうした?

あかり 革命軍が、また事件を起こしたって…。

部長 どういうことだ……。

あかり 部長、もしかして……。


 祥平、入ってくる。


祥平 それから三日間、僕は学校を休んだ。いくつか何かを考えたが、一つも形にならなかった。


 スマホを取り出す祥平。


祥平 初めて革命軍が人を殺した。このことによって僕のツイートは更にバズった。もういくつのふぁぼとリツイートがあるのか分からない。……このツイートを最初にリツイートしたのが、アキラということも、バズった要因の一つだ。


 歩き出す祥平。相変わらず、席は祥平だけ離れている。しかし、もう何も言わずに座る。机に突っ伏して、何も見ないようにしている。そこに星野あかりが現れる。


祥平 君は…!

あかり 星野あかりです。

祥平 そうじゃなくて、何!

あかり 来てください。


 新聞部の部室に連れてこられる祥平。


部長 来たか。

祥平 何ですか。

部長 話があって僕が呼んだんだ。

祥平 僕にはありません。

部長 両者どちらにも話がある方が珍しいだろう。聞いてってくれよ。

祥平 聞きたくありません。

部長 手土産もあるんだ。


 あかりがマスクとバットを持ってくる。

 祥平、帰ろうとするのをやめる。


部長 気に入ってくれたようで何よりだ。自己紹介から始めよう。僕は新聞部の部長。この子は部員の星野あかりちゃんだ。

祥平 松田祥平。

部長 そう、祥平くん。最近進路のことで悩んでいる普通の男子高校生。巷を騒がせてる革命軍の被害者アキラくんの親友であり、最初の事件の目撃者でもある。

祥平 …よく調べてますね。

部長 新聞部だからね。情報が命だよ。

祥平 熱心なんですね。

部長 そんな君は、最近情報は仕入れているかい?

祥平 いや、何も見る気にならなくて…。

部長 また革命軍が事件を起こしたそうだよ。君の親友だけじゃ飽き足らず、また人を殺した。

祥平 は…?

部長 前までは人を殺さなかったのに、人が変わったみたいだね。

祥平 趣味の悪い冗談はやめてください!

部長 冗談? 冗談は言ってない。疑うなら、そのスマホから調べてみるといい。


 スマホで調べてみるが、どうやら本当らしい。


部長 冗談。そうだよな、冗談だと思うよな。もう革命軍はいないんだから。

祥平 …。

部長 君が殺したんだ。

祥平 !

部長 やはりか。君の親友アキラくんは、革命軍だったんだな。

祥平 そうだよ…! だから革命軍はもういない。これは何かの間違いとか、模倣犯なんですよ。

部長 …革命軍が人を殺してから警察は夜間のパトロールを強化した。おかげで模倣犯は捕まった。

祥平 なら…

部長 だが、事件は止まらない。

祥平 …どうして。

部長 全て君のせいだ。

祥平 は?

部長 SNSでバズった都市伝説は本当になる。

祥平 それが何ですか。

部長 聞いたことはないか?

祥平 聞いたことはありますけど…。

あかり 正確には、SNSで話題になった数が上位七位までに入った都市伝説は本当になる。

祥平 だからそれがどうしたんですか?

部長 分からないのか?

祥平 何も分かりませんよ! どうして僕のせいなんですか!

部長 本当なんだよ。

祥平 何がですか!

部長 この話。

祥平 ……は?

あかり この街に七体の都市伝説が存在しているのです。

部長 実在が噂を作る、だけじゃないんだ。これは不可逆な話じゃないんだよ。噂が実在を作っていくんだ。

祥平 ……そんなことあるわけない。

部長 単に話題になっている、というわけではない。「いて欲しい」「いたらいいな」「いてくれよ」。そんな想いの結晶だ。たくさんの人の想いが、都市伝説を作っているんだ。

祥平 ……信じられません。何で知ってるんですか、そんなこと。

あかり そんなの、何だっていいじゃないですか。

部長 パトロールしていた警察官が、見たそうだよ。何もない空間に消えていくバットを持った男を。

祥平 そんな…。

部長 現在君の「革命軍」に関するツイートは…すごい、三十七万リツイートもされている。僕たちの調べでは見事七位入賞だ。これにより、「革命軍」は実在する。面白い世界になったよ。

祥平 からかってるんですか。

部長 からかってない。本当だ。事実「革命軍」は事件を起こしている。君のツイートがバズったからだ。

祥平 …消します。

部長 消したからどうなるんだ? 話題に上がらなくなるとでも?

祥平 …。

部長 そこで、本題だ。君に話がある。

祥平 何ですか。

部長 「革命軍」を殺してほしい。

祥平 は?

部長 「革命軍」はこれからも人を殺す。最悪だ。止めなくてはいけない。

祥平 そんなの、警察にでも任せればいいじゃないですか!

部長 実体のない都市伝説相手に、警察に何かできるんだ。

祥平 僕にだって何ができるんですか。

部長 君は「革命軍」を殺せる。

祥平 何で僕なんですか!

部長 実績があるからだ。

祥平 実績?

部長 このバットは革命軍を打った。マスクは革命軍の血を浴びた。君は、革命軍を殺した。このバットが、君だけが、「革命軍」を殺せる。

祥平 何で僕がしなくちゃいけないんですか。

部長 人が殺されていくからだ。

祥平 僕には無関係な人たちじゃないですか。

部長 「革命軍」は元々人を殺していなかった。どうして今、人を殺すようになったと思う。

祥平 …?

部長 君が、親友を殺したからだ。そんなことをしたから、革命軍は人を殺すと認知されてしまったんだ。君が呟き、君が殺したからだ! これを引き起こしたのは全て君のせいだ!!

祥平 だから何だって言うんですか! 勝手にみんなが騒いで拡散したせいでしょう!! もう何もかも忘れて安全な席に座っていたいんですよ!! 僕を警察に突き出すなりなんなりしたらいいじゃないですか!! 僕はもうコリゴリなんですよ!!


 出ようとする祥平。


部長 君はいつまで、親友に人を殺させるつもりだ?

祥平 !

部長 いつまで、不本意な殺人をさせるつもりだ?


 祥平、部長の胸ぐらを掴む。


あかり 部長!


 しかし、少しして離し、あかりが持っていたバットとマスクを取って、部室を出ていく。


あかり 大丈夫ですか?

部長 大丈夫だよ。しかし、まるで悪役だね。

あかり やってくれますかね?

部長 さぁね。でも、彼はバットを持ったよ。


 照明、円形ステージ明かりを落として、ステージに地明かり前明かり。

 山の秘密基地にいる祥平。


祥平 やっぱり、ないか。


 革命軍リーダーが心配そうに祥平を見ている。


祥平 僕しか、できないんだってさ。


 アキラ(子供)が出てくる。

 照明、ステージに緑を足す。

 音響、蝉の音、CI。


アキラ 見覚えのないやつ! お前、体制側の人間か!!

祥平 ……僕、敵?

アキラ …よく見たらお前か!

祥平 はい、そうです!

アキラ どうだ? ちゃんと見張っているか?

祥平 はい! 敵一人おりません!

アキラ うむ、平和でよい!

祥平 ですが、まだ、目的には遠いです!

アキラ では、辺りを冒険と行こう!

祥平 はい!

アキラ 行くぞ!!

祥平 行くぞ!


 二人、手をぐっと合わせる。


二人 革命だ!!!


 照明、緑を完全に落とす。

 音響、蝉の音、FO.


祥平 …いっつも、冒険してたな。虫とか捕まえて、珍しい方が勝ち、なんて言ってさ。湧き水見つけたら、ここで休憩だ! とか言って、全部なんか映画の真似して楽しかったよな。怪我して怒られるのもしょっちゅうだったけど、懲りずに遊んでたよな。ホントバカだった。覚えてる? こんなでかいクワガタ捕まえたの。あれ一番だったよな。越えるの、テレビでも見たことねぇわ。

…いつから変わっちまったんだろうな。虫捕まえてはしゃげなくなったのは、キャッチボールしなくなったのは、このアジトがゴミだらけになっちまったのは、女子をからかわなくなったのは、告白して振られたのは、初めて太宰を読んだのは、悔しくても涙を我慢するようになったのは、いじめられ始めたのは、お前が…、お前が革命軍になったのは。いつからで、何をすれば変わらなかったり、変わったりしたんだろうか。

正解は何で、不正解は何なのか。あの時の俺には、あれが正解に思えたよ。この先の未来を掴むには、お前を襲うしかないって、本気でそう思ったんだよ。


 照明、ステージを落として、円形ステージ中央を照らす。

 山を下りると、そこには革命軍がいる。

 音響、BGM,FI.


祥平 久しぶり。


 照明、赤を足す。

 音響、殺陣SE。

 殺陣が始まる。バット同士の殴り合い。

 その最中、アキラが歩いてくる。手にはノートを持っている。

 舞台中央で、ノートを読み始める。

 照明円形ステージ中央サス。


アキラ このノートをお前が読んでるってことは、俺は死んだんだな。何で死んだんだろうな。事故とか? 病気? 長生きして老衰とか? いや、そんな普通には死なないよな。俺はあの噂の「革命軍」なんだからさ。

なんでそんなことしたかって? 気になるよな。あのな、お前が来なかった、あの落書きの前の夜、あるじゃんか。あの時、言われたんだよ。「俺らの側につかないか」って。標的をお前一人にした方が面白いって。もちろん断ったぜ? そしたらあの眼帯つけるはめになっちまった。だから、革命軍でも仮面してたんだ。バレないようにな。だけどさ、あいつら俺が断るのなんかどっちでもよかったんだ。どころか、お前一人を苦しめて、そん時の俺の反応も楽しむつもりだった。何でこんなことになったんだろうな。何かしたわけでもないのにな。どうして俺らばっかり苦しまなきゃいけないんだろうな。だから覚悟したんだ。せめてお前だけでも元の生活になるように「革命」してやろうって。

ああ、嘘ついてごめんな。本当は覚えてたんだ映画のこと。秘密基地も、全部。「革命だ!!」って言って、めちゃめちゃ遊んだよな。だけど、敵役とかどっちもしたくないからさ、いつも冒険してばっかりだったよな。戦いとか向かないんだよな俺ら。…あの映画さ、実は続編あるんだけど、知ってたか? 最初のワンではさ、革命が成功して、国を自分たちのものにして終わり、だったじゃん? ツーはその続きから始まるんだけどさ、革命軍をさ、他の国の連合軍が、壊滅させちゃうんだ。そんで王宮にまで敵が入ってきて、リーダーが追い詰められるんだよ。


 照明、赤→青。

 この辺りで、革命軍がリーダーを追い詰める。


アキラ そっから、命乞いが始まるんだ。


 音響BGMクロスフェード(けっこう早めに切り替わるイメージです)


リ やめろ! 何で俺が! 一番悪いみたいになってるんだよ!


 周りの人を身代わりにしながら逃げるリーダー。


リ 違う! 俺は、みんながしたいことをさせてただけだ! 俺はどっちでもよかったんだ! 何で俺が一番悪い!? 俺が死ななくちゃいけない!! 死にたくない!! 何でもするから! 何でもやるから!!


 照明、青→赤。

 音響、BGM、CO。

 革命軍がバットを一閃すると、リーダーは事切れる。

 音響、BGM、FI。


アキラ …何で監督はこんなエンドにしたんだろうな。もしかしたらさ、ワンの時から決めてたのかもしれないな。「力で得たものに価値はない」って。ほら、革命なんてかっこよく言ってるけどさ、結局は殺し合いだったじゃんか。汚いこともたくさんやってたじゃん。その報い的なものなのかなって。

 何が正しくて、正しい方法が必ず通用するかは分からないけど、間違った方法に訴えかけてはいけないってことを監督は描きたかったのかもな。

 …………あのさ、俺は何で死ぬのかって、書いてたじゃんか。分からない。分からないけどさ、何でか分かんないけどさ、俺は、お前に殺されるかもって、思うんだ。


 距離を取る革命軍と祥平。


祥平 お前は! 俺に殺されたいんだ! そうだろ!


 しばらくの殺陣の末、追い詰める祥平。しかし、バットを落とし、革命軍に話しかける。

 照明、赤を完全に落とす。


祥平 アキラ…? アキラなんだろ…? そう言ってくれ、お前なんだろ。俺はこんなに願ってる!! 思ってる!! なぁ、アキラ! お前なんだろ!! お前なんだよ! アキラ! アキラ!!!


 照明、赤を足す。

 だが、革命軍は、そんな言葉に耳を貸さず、祥平に襲い掛かる。


アキラ お前は、俺を殺した。

祥平 …。

アキラ 身勝手に、殺した。

祥平 …違う。

アキラ 殺したくて、殺したんだ。

祥平 違う!

アキラ なら何で殺した? そのバットでどうして俺を殴ったんだ? 俺はお前にとってあいつらと同じだったか? バットで殴られて当然の存在だったか? その鈍く光るバットで殴られて、死んでしまって当然の存在だったのか? 俺がお前に何をしたんだよ? 俺は、何かしたのかよ。

祥平 違う!!

アキラ 何が違うんだよ!


 祥平、マスクを外して答える。


祥平 確かに俺は、身勝手にお前を殺した。いじめられてる自分から抜け出したくて、逃げ出したくて。でもそんなんじゃ何も変わらなくて。もっと奥の、深い部分から変わらなくちゃいけないんだって……。

後悔、したんだ。取り返しのつかないことをしてしまったって。お前が、今、どう思ってくれてるか分かんないけど、俺は、親友を失ってしまったんだって。親友を自分の手で、殺してしまったんだって。後悔、してるんだ。……だから、けじめをつけに来たんだ。


 少し殺陣の末、後頭部に一撃。

 動きを止める革命軍。

 音響、BGM。CO。

 照明、赤を完全に落とす。

 アキラが革命軍の肩を抱き、連れて行こうとする。口の形だけ、「ごめんな」と動き、去っていく。

 上手く言葉にならない叫びをあげる祥平。

 そこに部長がやってくる。


祥平 何しに来たんだよ。

部長 よくやった。

祥平 嘲笑いに来たのか。

部長 よくやったと、褒めに来たんだ。

祥平 何がよくやっただよ。

部長 人が殺されるのを止めたんだぞ。

祥平 親友を殺しただけじゃないか。

部長 君は、確かに人を、救ったんだ。

祥平 それは綺麗ごとでしょう。真実は違う。

部長 ……そうだな。殺しはした。だが、救ったことも、また真実だ。

祥平 ……何かになりたかったんです。

部長 何か?

祥平 何者かに、僕はなりたかったんです。何でもない、何にもなれない、不甲斐ない自分が嫌で、革命を…………。

部長 何者かになる必要はあるのだろうか。

祥平 分かりませんよ、そんなの。きっと自己満足です。

部長 どこに行くんだ?

祥平 自首します。

部長 祥平くん。

祥平 はい。

部長 罪を償う方法は、一つだろうか?

祥平 どうでしょう? 一つだけではない気がします。

部長 君にしかできないこと、君にしか救えない命に目を瞑ることは、罪ではないだろうか?

祥平 どういうことですか?

部長 …この街ではありふれた話をしよう。

祥平 え?

部長 昔、ある姉妹がいた。姉妹はとても仲が良く、何をするにも、どこに行くにも一緒だった。ある日いつものように二人は買い物に行った。何もかもいつも通りだった。暖かくて、雲一つもなく、出かけるのにはうってつけの日だった。いつもと違ったのは、ある噂が流れていたことだった。

祥平 噂?

部長 そう。殺人鬼が出るという、都市伝説だった。

祥平 …!

部長 運の悪いことに、二人は出会ってしまうんだ。そこからは予想通りだ。だが、姉にかばってもらったおかげで妹は生き延びる。そして仕事を終えたそいつが、何もない空間に消えていくのを見るんだ。それから少しして、それが気が動転した自分が見た幻覚ではなく、全部本当のことで、都市伝説が実体化したものだと知るんだ。

祥平 …。

部長 あんな存在に人間が勝てるわけがない。力がないことを妹は恨んだ。姉を奪ったものに立ち向かえないことが悔しかった。だからせめて、少しだけでも噂を操作しようと考えた。SNSで極力人に無害な都市伝説がバズるようにして、あの都市伝説が埋もれてしまうようにしたんだ。

祥平 だから、都市伝説が本当になるって、知ってたんですね。

部長 だがもうこんな回りくどい方法はしなくて済むかもしれないんだ。

祥平 え?

部長 祥平くん、我が新聞部に、入らないか?


 暗転。

 音響、BGM、CI。


祥平 あれから、少しだけ、時が経って変わったことがある。

A 出るんだって。

B 出るって?

祥平 口裂け女?

部長 そうだ。口裂け女だ。

祥平 今時?

あかり 今時とか言わないの。リバイバル的なのじゃない?

祥平 都市伝説にもリバイバルとかあるんですね。

部長 ごちゃごちゃ言ってないで行ってこい、新入部員くん。

祥平 人使いの荒い部活だなぁ。

部長 仕方ないだろう、君にしかできないことなんだから。

祥平 はい。分かってますよ。…あっ、部長。聞いたことないですか?

部長 ん?

祥平 街中がゴミだらけになるっていう都市伝説。

部長 聞いたことないな。

祥平 …適当言いやがって。

部長 そういうのがあるのか?

祥平 いや、ないかもしれません。


 前を向く、祥平。


祥平 一つは、僕が新聞部に入ったこと。そしてもう一つは…。

B でも大丈夫だと思うよ。

A 何で?

B 聞いたことない? ほら、都市伝説を倒す存在がいるって…。

A あー、聞いたことある!

祥平 都市伝説を倒す存在として、僕のことが上位七位に入ったこと。

皆(声のみ) 青春は、残酷な椅子取りゲームだ。

祥平 …僕は何者かになれただろうか、これから何者かになっていくのだろうか。それとも、何者にもなれやしないのだろうか。今していることは、正しいのだろうか。分からない、分からない。あー、何も分かんねぇ!!! 分かんないけど、これが僕の「償い」であり…「革命」だ。


 祥平、椅子に座る。

 終幕。

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