76話 本気の攻撃? まさかまさか
そうして飛んできた、魔法を始めて習い始めたばかりの子供の魔法よりも弱い火魔法は。ふよふよ飛んでいた割には、ラダリウスの顔にヒット。口を縄で塞がれているため。言葉を話せないラダリウスは、唸り声を上げた。
まぁ、うん。弱いと言っても、火魔法は火魔法だからな。熱いは熱いわな。たださぁ、あれくらいの威力で、そんなにのたうち回らなくても。あり得ないくらいジタバタ騒いでいるラダリウス。顔を見れば、少し赤くなっているだけだ。
と、また声が聞こえた。さっきよりも近くで。見れば林の木々の間から、ラダリウスの側近ブラッドリーが姿を見せていた。やっぱりいたな。
ここにくる前から、1人林の木々の間に隠れてると気づいてたんだけど。みんな気にしてないみたいだったから、まぁ、後で捕まえれば良いかと、そのままにしておいたんだよ。
「ラダリウス様!! くそっ!! 奴らに魔法を邪魔されたのです!!」
俺は皆で顔を見合わせる。誰か今、あいつの邪魔したか? 誰も何もしてないよな? みんなも俺と同じ、不思議な顔をしていたよ。ノーマンは首を横に振ってるし。
「今すぐにお助けいたします!! ファイヤーボール!!」
そしてまさかの衝撃を受けた。ブラッドリーが放った魔法は、先ほどと変わらなかったんだけど。俺が考えていた魔法と違ったんだ。
さっき蝋燭の炎って例えたけど、実は本当にそういう名前が付いている魔法で。魔法名は、『キャンドルフレア』と言い。蝋燭程度の火を灯す魔法なんだ。それを飛ばして来たのかと思ったんだけど。
まさかのその上の初級魔法、ファイヤーボールだったなんて!? ファイヤーボールは、日本のライトノベルに出てくるファイヤボールと同じ感じで。手のひらから火球を放ち、敵を攻撃する。
初級から中級魔法として使われて、威力は使用者の魔力や技量によってに、左右されるんだが、ブラッドリーのファイヤーボールは。初級の初級、ファイヤーボールとは言えない、そうキャンドルフレア並みの威力だったんだ。
「あれがファイヤーボール?」
「私の聞き間違いじゃないわよね?」
「うん、ファイヤーボールって言ったよね」
あまりのことにみんなも驚いたんだろう。そのまま離れてふよふよことらにやってくる、キャンドルフレア並みのファイヤーボールを、そのまま何もせずに見てしまっていた。
そして飛んできたファイヤーボールは、今度はラダリウスのおでこに当たり、少しだけ前髪が焦げて終わったよ。これにも大騒ぎなラダリウス。
「も、申し訳ございません!! 次こそは!!」
まだやるんかいな。そう思いながら、ブラッドリーの攻撃を静かに見守る俺達。
そうして見守ること5回。鼻に当たり、おでこに当たりを繰り返し。5回目でようやく口を覆っている縄にあたり、そして焦げた。うん、縄が切れることはなかった。何だ、これ?
「ううううううっ!!」
さっきまで静かに唸っていたラダリウスは、ブラッドリーのせいで、煩い唸りに変わってしまい。一応は焦げてしまった縄を変えるために、その時だけ我慢して奴の声を聞くことに。
「お前達!! こんなことをして、タダで済むと思うなよ。すぐに我々を助けに。他の街から援軍が来るはずだ!! このわしを助けるためにな!! わしは何でもできる男。全てを完璧にこなせる男なのだ。そのためにいつも先頭に立ち、いろいろとやって来たのだ。そんなワシを助けに来ぬはずがない!!」
「何でも?」
「完璧?」
「いつも私達の所へ来てやっていたことが、なんでも完璧にできていた?」
みんなの頭にハテナが浮かんでいる。何のことを言っているんだ?
「おい!! ブラッドリー!! 早くわしを助けんか!!」
「は、はい!! 今すぐに!! ファイヤー……」
『はぁ、馬鹿らしい。さっさと縄で縛ってしまいましょう。あっちは俺が』
「お願いします。すみません、どうせないもできないと、後からこれらを運ぶ時に捕えれば良いと思っていたのですが」
『まさかの行動と、まさかの魔法でしたね。これは留守番しているみんなに話したら、新しいバカ話しとして、どんどん広がるじゃないかな』
「まぁ、そうでしょうね。さすがの私もこればかりは何とも言えませんよ」
ノーマンが呆れ返りながら、騒ぐラダリウスに改めて縄をかけていく。俺はといえば、ブラッドリーにこれ以上、馬鹿らしい魔法を放たせないために、奴を捕まえることに。
『肋骨で良いか』
『肋骨!?』
『魔法使う事もないだろう。よし、と』
『スッケーパパの肋骨!!』
『それ!!』
『わ~い!!』
俺は自分の肋骨を外し、思い切りブラッドリーに向けて投げた。それと同時に走り出すブッガー。かなりの勢いで投げたからな。肋骨がすぐにブラッドリーまで飛ぶと、狙っていた通り、奴の頭に当たり。奴はグエッと言って、気を失ってその場に倒れた。
と、肋骨の当たりどころが良かったようで。ブラッドリーに当たったあと、さらに遠くに、ぽ~んっと飛んでいく肋骨。それを追うブッガー。そして肋骨に追いつくと、空中で見事にキャッチしたよ。
『スッケーパパ~!! 空中でとれたぁ!!』
ブンブン尻尾を振って喜ぶブッガー。それから戻ってきたブッガーは、今日は取る時に、空中でひねりを入れてみました!! とさらに嬉しそうに報告して来た。
『だって、このおじさん達、遊んでたんでしょう? 火の魔法をできるだけ弱くして、物に当てる遊び。だからボクも!!』
遊ぶために投げたんじゃなかったんだけどな。それにさっきのも、遊びじゃなく本気だったはずだよ。たぶん。うん。




