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第八話

Sクラスは全部で10人だった。

他の1年生はAとBにそれぞれ均等に分けられたという。

言わばSクラスはエリートクラスだ。

クラスメイトを見ると貴族っぽい人がたくさんいた。

きっと幼少の頃から魔術の勉強をしてきていて、優秀な人が多いのだろう。


私にはなにやら噂が先行しているようで誰も話しかけてこなかった。

ユイは相変わらず不機嫌でときどきこちらを睨んでくる。

ダリルにいたっては目も合わせなくなった。


一人でいるのは楽だった。

試験では失敗したが結果的には良かったようだ。

クラスメイトたちは私を怖いものでも見るかのように見る。


担任のおじいさん先生はベリラスという名前だった。

ベリラス先生はおじいさんに見えるがとても存在感のある人だった。

圧倒的なオーラがあるというか。

鑑定してみるととんでもないステータスだった。

今まで会ったどの人よりも能力値が高い。

きっとすごい魔術師なのだろう。

私の鑑定スキルでは深く探れなかった。


最初の授業は座学だった。

魔法に対する心構えのようなことを教えてくれた。

初めて聞く話に私は夢中になった。

基礎中の基礎の話だろう。

魔法の構造を理解する上での基礎の話に他のクラスメイトたちは理解できずにポカーンとしてたりアクビをしたりしていた。


初日はどの授業も当たり障りのない基礎の話ばかりだった。

クラスメイトたちはそんなこと当たり前でしょうという顔をしていた。

さすがSクラス、予習もバッチリなのだろう。

私は魔導書を基本にほとんどを独学で勉強してきた。

サイカも教えてくれたがサイカはどちらかというと感覚的に魔法を使う人で説明も大雑把で理解しきれないところもあった。

しかし学校での授業は論理的で実にわかりやすかった。


その日の夕食は一人で座ることができた。

遅めに行ってアリアたちにみつからないようにこっそり端に座った。

これでゆっくり食事ができる。


「しかし授業つまんなかったなー。」

「早く実習したいよな!派手な魔法を使えるようになりたいぜ。」

どうやらクラスメイトたちは座学より実習を希望していた。

─あの授業を理解したらきっと魔法の精度も上がるのに─

しかし私には他の生徒などどうでもよかった。


────


しばらく授業は地味なものだった。

クラスメイトたちは文句ばかりだったが私にはどれも新鮮で、勉強になった。

新しい解釈をすることで格段に魔法の精度が上がってるように感じた。

転移魔法も行きたいと思うだけで簡単にできるようになった。

私は毎日森の家に行き、サイカたちに学校での出来事を報告していた。

ほんの10分ほどだったがサイカたちは嬉しそうだった。

「ネロ、本当に楽しそうだね。よかった…」

サイカは感激しているようだった。


─楽しそう?─

これが楽しいという感情なのか。

確かに授業はためになることばかりでもっと先生の話を聞きたいと思った。


私にも楽しいという感情が芽生えたのだろうか?


少し考えてみたがよくわからなかった。

私の心の中は相変わらず真っ黒だ。


────


1週間がたち、やっと実習の授業が始まった。

クラスメイトたちの機嫌もようやく直ったようだ。


クラスメイトたちは杖を持っていた。

そういえば試験のときもみんな杖を持っていた。

サイカもフラルも杖を使わないので気にしていなかったが、どうやら杖を使い詠唱するのがこの世界で一般的なスタイルのようだった。

杖を持たない私を見てクラスメイトたちは「杖も持っていない」「貧乏だから」とクスクスと笑っていた。


今日の授業は杖の使い方の基礎というものだった。

「先生、ボクは杖を持っていません。」

ベラリス先生は私をまじまじと見ると、

「ネロくんか、君には必要ないようだな。今日は君なりに解釈して同じ結果になるように自由に魔法を使ってみたまえ。」

「はい、わかりました。」

まるでベラリス先生に体中をスキャンされたような感覚があった。

クラスメイトたちは相変わらず私を見てクスクス笑っている。


「諸君らには簡単かもしれないが基礎中の基礎から説明する。」

そう言ってベラリス先生は杖の振り方や詠唱の仕方を優しく説明していた。


「ではそこにある豆を横にあるグラスに魔法を使って移動させたまえ。」

ベラリス先生がそう言うとクラスメイトたちは一斉に物を動かす呪文を唱えた。

無属性のこの呪文は適性に関係なくみんなが使えるものだ。

さすがSクラスだ。

みんなそつなくこなしているように見える。


私は先生に言われたように自分なりにこの課題に挑むことにした。

─ちょうどいい 試したいことがある─

私は皿の上の豆をみつめた。

なかなか動かない私の豆を見てクラスメイトたちはまたクスクス笑っていた。


─グラスの中に転移しろ─


豆は一瞬でグラスの中に移動した。

見ていたクラスメイトたちは目をパチパチしていた。

転移魔法が使えるようになってから物体の転移を試したかったのだった。

何度か部屋で試したが自分が転移するよりもはるかに難しかった。

魔術書にも難しいと記載されているだけで詳しい方法は書かれていなかった。

しかし授業を受けているうちにできるような気がした。

それがやっと成功したのだった。


ベラリス先生は「今度は皿に戻しなさい」と言った。

私は同じように皿に転移させた。

「ほほぅ、君はそんなことまでできるというのか。」

ベラリス先生は私に向かって感心したようにそう言った。

「成功したのは今日が初めてです。」

私がそう言うとクラスメイトたちはまたクスクスと笑った。

「なるほど。わしらの授業は役に立ったかい?」

「はい、それはもう。」

私の答えに先生は満足そうだった。


先生はパチンと指を鳴らした。

さっきまで豆のあったところに塩が現れた。

「豆より塩の方が難しいぞ。では同じようにやってみたまえ。」


クラスメイトたちは先生の言ったとおり豆よりも苦戦していた。

小さな粒一つ一つを移動させるのはなかなかの集中力が必要で途中でこぼしてしまう子もいた。

私は塩も転移させた。

完璧にこなしたので一部の生徒からは睨まれてしまった。

ベラリス先生は私の姿を見て嬉しそうに頷いていた。

「できなかった者は復習して完璧にできるようにしておくように。今日はここまで。」

ベラリス先生がそう言うと終了を告げる鐘が鳴った。


クラスメイトの中にはうまくできなくて文句を言ってる子もいた。

「あんな地味な魔法じゃなくてもっと派手なやつを習いたいのに!」


派手なやつってどんなだろうと考えているとユイがやって来てその子にこう言った。

「基礎もしっかりできないのにいきなり難しい魔法が使えるとでも思っているの?」

「ユ、ユイ様…」

ユイはまた不機嫌に立ち去って行った。

クラスメイトたちはユイのことを『ユイ様』と呼ぶ。

なんでも大きな領地を持つ大きな貴族のご令嬢なんだという。

身分や階級などどうでもいい。

私には関係ない話だ。


────


日が経つにつれてクラス内でも実力の差がハッキリと出てくるようになった。

先生のする授業も初日とは違い格段に難しくなった。

1ヶ月もすると三人の脱落者が出た。

Sクラス不適合とみなされてABクラスに編入していった。

そのABクラスでも脱落する者が数名出ていた。

この世界の学校は思っていたよりも厳しいのかもしれない。

よく考えれば8歳の子供がいきなり親元を離れて寮暮らし、難しい勉強ともなれば家に帰りたいと思うのも無理もないかもしれない。


私は元の世界で8歳ころはどんな生活をしてたっけ。

その頃の記憶は曖昧だ。

すでに親と呼べる人はいなかった。

里親だとか言って知らないおじさんとおばさんの家に行ったこともあった気がする。

それもすぐに終わり結局はホームに戻された。

私は大人の言うとおり行けと言われたところへ行った。


─帰る家があるってだけで幸せじゃん─


今の私には帰る家がある。

待ってくれている家族がいる。


私はいつの間にか涙を流していた。

泣くのは生まれて初めてだった。


─これが 涙─

しかしなぜ泣いているのかはわからなかった。

人は悲しいときや嬉しいときに泣くという。

私にも何かしらの感情が生まれたのだろうか?


しかし心の中は相変わらず真っ黒だった。

冷たくて真っ黒な闇しかなかった。


────

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