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第六話

私が試験を終えて門を出ると心配顔のサイカがいた。

「ネロ!どうだった?!」

「ごめんなさい。」

「えっ?!」

私は門をくぐってからの話を細かくサイカに話した。

「属性の熟練度?!今はそんなものまでわかるというのか!」

「80%オーバーと書かれていたから詳しい数値はわからないけどみんな30%とかだったんだよね。」

「まぁ、そんなもんだろうな…それでもすごい方だと思うよ。」

サイカに話せば失敗を咎められると思っていた。

しかしサイカはとても嬉しそうだった。

「やっぱりネロはすごい子だな!」

自慢気にそう言った。


「でも目立ちたくなかったのに。すでに名前を覚えられた気がするよ。学校は諦めようかな…」

「何を言ってるだ!遅かれ早かれ魔法を学べばお前のすごさはみんなにバレる。どうとでもなるさ!光属性の子もいたんだろう?きっとみんなその子に注目するはずだよ。」

「そうだといいけどね。」

私はすでに学校へは行かなくてもいいような気持ちになっていた。

このままサイカと家で修行して魔導書を読んで自己鍛練すればどうにかなる気がする。


「ねぇ、サイカ…」

「だめだよ!合格したら行きなさい!」

「えっ?!」

「諦めた顔をしてるよ。魔法をもっと勉強したいんだろう?家にいたらだめだよ。」

「う、うん。」

サイカにはお見通しだった。

合格発表は1週間後に郵送されてくる。

私たちはその日のうちに家に帰った。


────


フラルは笑顔でごちそうを作って待っていた。

「おつかれさま!疲れただろう。」

「お母さん聞いてよ!ネロってばね!」

サイカは帰るなり私の試験での話を武勇伝のようにフラルに話して聞かせた。

「でもそれじゃあ当初の設定と変わっちゃうんじゃないかい?」

「そうね。こうなったら天才魔術師にでもなるしかないわね。」

サイカは私を見てニヤリと笑った。


─めんどくさそうだな─


「普通がいいんだけど。」

「そうだよ、お城の関係者にみつかったらえらいことになる。サイカ、あんまり煽らないでよ。」

フラルは心配そうに私を見て頭を撫でた。

その日はたっぷり食べてゆっくり眠った。

この小さな体には堪えたようだ。


────


1週間がたち、合格通知が送られてきた。

入学はさらに1週間後になる。

サイカは少しずつ入学の準備を進めてくれていた。

「制服とか高そうだけど大丈夫?」

「魔術学校はね、政府からもお金が出てるんだ。未来への投資ってやつでね。制服は入学者に無償で提供されるはずだよ。それにネロ、あんた奨学金が出るってよ。」

「なにそれ?」

「優秀な成績を認めて授業料や寮費も無料になるって。優秀な生徒を他の学校に行かせないように囲いたいんだろうさ。」

「他にも学校があるの?」

「あぁ、うちからはちょっと遠いけど、この国だけでも5つくらいはあるよ。」

「へぇ。でも奨学金は助かるね。」

「せっかく貯えてたのになぁ〜。」

サイカはそう言いながらも売れしそうなホッとしたような顔を見せた。

試験では加減を間違えてしまったがこれが功を奏したようだった。


「寂しくなるねぇ…」

フラルはカゴいっぱいにトマトを取ってきていた。

その日はたくさんトマトを食べた。


────


「ねぇ、転移魔法って難しい?」

翌朝、畑に行こうとしているサイカに私は聞いてみた。

「それはそれはすごく難しい魔法だよ。国内でも使えるのはかなり限られていると思うよ。」

転移魔法とは無属性魔法で、行ったことのある場所へワープできるとても便利な魔法である。

「そっか…使えたら毎日ここに帰ってこれるのに。」

「あはは、それなら寂しくないね。」

「サイカのアクセサリーに魔法付与も定期的にしたいし。本を調べてみるよ。」

「なんだよ、寂しいからじゃないのかい!」


─寂しい?─


寂しいとはどういう感情なのだろうか。

よく一人は寂しいなどと聞くが私にとっては一人は楽なものである。

煩わしさがないのはいいことだ。


そんなことを考えながら私はサイカの部屋の本棚を漁った。

確か無属性魔法についての本があったはずだ。


その本はすぐにみつかった。

分厚い本は他の本に比べるときれいだった。

サイカは無属性魔法にはあまり興味がなかったらしい。

転移魔法の項目をみつけページを開いた。

そこには図式で詳しい構造が描いてあった。

複雑な構造で理解するのに半日かかった。

失敗すると体がズタズタになるのが想像できた。


構造がわかっただけでは魔法は使えない。

そこからさらにイメージを膨らませなくてはいけない。

その作用を完璧にイメージできるほど完成度の高い魔法となる。

私はさらに半日かけて本と向き合い、転移魔法についてのイメージを膨らませた。


寝るまでずっと転移魔法のことばかり考えた。

理論的には使えるはずだ。

─明日試してみよう─

私は眠気に負けて早めに就寝した。


────


翌日、私は一人で森へ行き転移魔法を試すことにした。

失敗すると体がズタズタになる。

まずは数ミリ単位からやってみたがさすがに移動したのかがわからなかった。

とりあえず体はズタズタにはなっていない。

数cmで成功したのでだんだん距離を伸ばしていった。

そして裏庭から自分の部屋まで行き、また裏庭へ戻ることもできた。

─これは便利だな─

しかし知らない人が8歳の子供が突然転移して現れたのを見たらどうだろうか?

それこそ問題になるではないか。


転移はできるようになったので次は安全な場所をみつけるところから始めないといけなかった。

裏庭や家の中に行くのとは訳が違う。

大きな街や王都へ転移するとなると人のいない場所を予め調査しておかないといけない。

私はここは慎重に入学してから試すことにした。

魔力消費は距離と比例してないようなので遠距離の移動もきっと変わりなくできるだろう。


昼食のときにサイカが「転移魔法は諦めたのかい?」と聞いてきたので目の前で移動して見せた。

「えぇ?!もうできるようになったの??」

フラルもびっくりしていた。

「ネロのことだからいつかはできるようになるとは思ったけど…でも気持ち悪いから家の中では禁止ね。」

私が部屋の中をピョコピョコ転移するのを見てサイカは呆れてそう言った。

「でも学校からときどき会いに来てくれるなら、それは楽しみだな。」

サイカがそう言うとフラルも嬉しそうに頷いた。

私が魔法を付与してるアクセサリーは人気があるみたいだからね。


────


そしてあっという間に入学式前日になった。

どういうわけか合格通知が来て数日後にはサイズピッタリの制服が家に届いた。

それらを持って例のごとく前日に王都の宿屋に泊まっている。

今日はフラルもついてきた。

「入学式はネロの初めての大舞台」とフラルは目を輝かせて言っていた。

私たちはいつもより少し豪華な夕食をとり、早めに就寝した。

二人はずっと緊張すると言っていた。

入学するのは私なんだけど。


そして翌朝、正装でびしっとキメた二人に連れられて私は学校へやって来た。

門の前には馬車がひっきりなしにやって来た。

貴族の子供だろうとサイカは言っていた。

手続きを済ませ、ホールに入るとそこは試験のときとは違った重厚さを出していた。

いかにもセレモニーをしますという会場になっている。

新入生は一度教室に集まり後で入場するのだという。

私はサイカたちと別れて指示された教室へと向かった。


教室の中には試験で見かけた子たちが緊張した顔で席についていた。

私のクラスは1-Sというクラスだった。

少人数らしく、教室には10人程度しかいなかった。

そこには私を見て明らかに不機嫌になったユイと私を見てみるみる恐怖の表情になったダリルがそこにいた。

どうやら二人とも一緒のクラスのようだ。


クラスに誰がいようと関係ない。

重要なのは生徒より先生だ。

担任はサイカのときと同じ先生だった。

サイカが子供の時からこの先生はおじいさんだったそうだ。

今も相変わらずおじいさんだ。

一体何歳なんだろうか。


サイカが1番だと言っていた先生に当たったので私は安心した。

そして入学式は滞りなく執り行われ、生徒たちは親と別れる時間になった。

全寮制と言うわけではないが通いの生徒はほとんどいない。

みんな泣きながら別れを惜しんでいた。


『部屋が問題なければそこから転移ですぐに帰るから。』

私が小声でサイカにそう言うと、

「そんな危険なこと、しなくていいのに。」

と言いながらも少し嬉しそうに見えた。

フラルは泣きじゃくり私を抱きしめた。

「つらくなったらいつでも帰ってきていいんだからね。」

「ダメよ!お母さん!最初からそんな弱気でどうするのよ!ネロ、頑張るのよ!夏休みには迎えにくるわ。とりあえずそれまでは頑張るのよ!」

二人とも私をなんだと思っているのだろうか。

3年ある学校生活を全うできると想像できないものなのか。


「二人とも、今まで立派に育ててくれてありがとうございました。その恩に応えるべく一生懸命学んでまいります。」

私がそう言うと二人は人目もはばからず大声で泣きだしてしまった。

目立つからやめてほしかったがまわりも泣いている子がたくさんいた。


親が泣いてるのはうちくらいだったが。

こうして私の学校生活は始まったのである。


────

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