第四十四話
ネロくんがいなくなって2週間くらい経った日の昼、快晴だった空は真っ暗闇に包まれた。
「悪魔のお出ましのようね。」
ラミラミさんは険しい顔をしてそうつぶやいた。
私たちは『何かが始まる』かもしれないと心構えをしてきた。
こちらから何もできない状況だったから、備えることしかできなかった。
どんな状況になろうとも、『ネロくんは生きているから助ける』ということを忘れないようにしていた。
していたのだが…
実際に真っ暗になった空を見たら声は出ず、体は震えていた。
─しっかりしないと─
「あの性悪女め、我がやっつけてやろうぞ!」
ブラドさんは人間の姿を留めていられなくなったのか、金髪に黒い角の姿になった。
「シロネも!悪魔やっつける!!」
シロネちゃんも小さいのにがんばっている。
「あかり!結界の補強を手伝って!」
ラミラミさんは震えていた。
誰よりも怖がりで、魔物が苦手で、きっと悪魔にも相当な恐怖を感じているだろう。
それなのに震えながらも、やるべきことをしっかり考えて行動している。
「はい!指示ください!」
私は声を振り絞り、気合を入れて返事をした。
「本当はできるだけ広い範囲にかけたいんだけど、きっとすぐに破られてしまうわ。だから家だけでも…命だけでも守らないと!」
「はい!!」
私はラミラミさんに教えてもらっていろんな結界を張れるようになっていた。
私は私にできる1番強固な結界を家のまわりに張り巡らせた。
────
私たちは家に籠城できるように急いで作物を収穫した。
シロネちゃんがアイテムボックスにどんどん入れている。
新鮮なまま保管ができる素晴らしいアイテムだった。
─ネロくんが作ってくれた─
ネロくんは今どこにいるのだろうか。
悪魔に囚われたまま、どこかに繋がれているのかもしれない。
悪魔を倒したらみつけられるだろうか。
悪魔しか知らない場所に閉じ込められているとしたら…
悪魔に会って確かめないと。
私がそう思っていたら遠くから爆音が轟いた。
街の方から煙が見える。
「ひどい…」
ネロくんが消えてから、私たちはできるだけ家から離れなかった。
何かあってもすぐに戻れる場所にいるように心がけた。
だから今は家族みんな離れることなく、いられている。
「ギュブァベェェグワァーーーー」
上空から聞いたこともない恐ろしい鳴き声が聞こえてきた。
見上げると見たことのない空飛ぶ恐竜のような魔物がいた。
「我に任せよ!」
ブラドさんはそう言うと走っていき、ドラゴンの姿になった。
「シロネも行く!」
シロネちゃんはとんでもないスピードでブラドさんの背中へと飛び乗った。
あっという間すぎて私は置いてけぼりになった。
─向かうべきか それともここのみんなを守るべきか─
私は震えながら身を寄せ合っているみんなを見た。
─とにかくみんなを守らないと─
「あかり、ここが心配だっていうなら私に任せて!」
ラミラミさんは真っ青な顔でどうにか笑おうとして引きつった顔をしながらそう言った。
「私、ネロくんを助けに行かないと!」
「うん。ネロの存在を感じるわ。暗くなったと同時に、ネロがいるのがわかる。あかり、ネロを助けて!」
「はい!行ってきます!」
私も微かに感じていた。
ネロくんの気配!!
私は直感に従って進んだ。
飛行術もうまくなった。
私は真っ暗な空へと飛び上がった。
空ではブラドさんとシロネさんが飛んでいる魔物をどんどん倒していた。
しかしその数は減ることなく、どこかから湧いてくるようだった。
「キリがない。中心部へ突撃するぞ!」
ブラドさんはそう言って王都の方へと飛んでいった。
ネロくんの気配もそちらから感じる。
私もブラドさんの後を追った。
────
サマルナの城は黒い渦に包まれていた。
「ここが…中心?」
城の上空には真っ黒な分厚い雲がかかっていて、雷を放っていた。
城にある塔の上に一人の女性が見えた。
─王妃様?!─
王妃様は明らかに普通じゃなかった。
両手を天にかざし、焦点の合わない虚ろな目をして立っていた。
雷を受けて焦げているのに笑っていた。
「城をぶっ壊すぞ!」
ブラドさんはそう言うと口からすごい何かを出した。
城は一瞬で灰と化した。
黒く渦を巻いていたものはそのまま空へと舞い上がり、消えていった。
どんどん増えていた魔物はピタリと出てこなくなった。
城から出てきていたようだった。
「ブラドさん!すごいです!」
私はそう言ったが、城が消えた場所は激しく燃えていた。
城下町もろとも燃えてしまいそうだ。
私は水魔法で雨を降らせた。
炎はシューシュー白い煙を出しながら消えていった。
「我の炎を消すとは!さすがあかり殿だ!」
「ブラドさん後ろ!!」
ブラドさんの背後から来た魔物はシロネちゃんが何かを飛ばしてやっつけてくれた。
「ブラドさん、できればブレスは控えめに…」
「そうじゃったな、また砂漠になるところじゃった。」
「私はネロくんを探します。魔物の殲滅を任せてもいいですか?」
「シロネ!魔物倒す!あかり、ネロを頼んだ!」
私は頷いて気配のする城跡へと降りて行った。
雨で沈火した地面はまだ熱を帯びていた。
ネロくんの気配は地下から感じる気がする。
私は一面の焼け野原を見渡した。
─地下に行く道は ない─
私が何かないかと探していると地下からスゥーッと黒い人影が出てくるように見えた。
そこには黒髪の美しい女性が立っていた。
────
その女性は私を上から下へとゆっくり眺めているようだった。
「あなたがサーシャさんですね。」
「まぁ…私を知っているのねぇ。」
黒いボディスーツを着たその妖艶な姿の悪魔はニヤリと笑ってみせた。
「ネロくんを返してください。」
私は目の前にいる悪魔を睨みつけた。
そして自分にできるだけの結界を張った。
「ネロくん…あのつまらない少年かい?そんなもの、すっかり忘れていたよ。」
「ネロくんはどこですか?!」
私が必死になってそう叫ぶと悪魔は声を上げて笑いだした。
「あんなもの、私には必要ないんだけどぉ。あんたみたいな純粋な目をした人間には絶対に渡したくないねぇぇ。」
そう言うと悪魔はこちらを攻撃し始めた。
─見える!─
悪魔の攻撃が手に取るように見えた。
私はひらりとかわすことができた。
─当たる気がしない─
「サーシャさん、悪魔は勇者に勝てないそうですよ!そう決まっているそうです!」
私は悪魔の出す魔法を避けながらそう言った。
「そんなこと誰が決めたのよ!!」
悪魔はイライラしてきたようだった。
「神様ですって。」
私はそう言って悪魔に向かって拘束する魔法を放った。
悪魔は手足の動きを止められて地面に転がった。
「おまえ…この私になんてことを…」
そう言って悪魔はなんとか顔をこちらに向けた。
怒りで悪魔の美しかった顔は歪んでいた。
「ネロくんの居場所を言いなさい!」
悪魔は私から目をそらした。
「私しか知らない場所にちゃんといるよ。でも私を殺したら永遠にあの少年には会えないかもねぇぇぇ。」
悪魔はそういうと狂ったように笑いだした。
私は転がっている悪魔に馬乗りになって両手を悪魔の頭にあてた。
「言わないなら探らせてもらいますね。」
私は今までこんなことをしたことはなかった。
しかしこうすれば悪魔の頭の中がわかると本能的にわかった。
悪魔の腰についている小さなバッグが見えた。
アイテムボックスになっているのだろうか。
ネロくんはその中にいた。
真っ暗闇の中に。
私は動けなくなった悪魔からバッグを奪い、開けて中に手を入れた。
「ネロくん、お願い!私の手を掴んで!!!」
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