第四十二話
森の家は今日も平和だった。
勇者と天使とドラゴンが1つの食卓を囲んでいる。
そしてシロネは大きな白いもふもふの獣だ。
そして私は悪魔に召喚された者。
誰もそのことを気にする者はいない。
─平和だな─
ゾンビの魔物に出会ってから数日経った。
あれから毎日魔物の出そうなところを見回っているがその姿を見ることはなかった。
たまたまあの森にいただけで、他にはいないのかもしれない。
そう思いだしているときにあの感覚がした。
─悪魔だ─
私はいつもの魔法陣からの悪魔の執務室にいた。
今日はタカタがいない。
「久しぶりだね、ネロよ。」
「はい。」
どうせまた私のことなど忘れてしまっていたのだろう。
「弟を亡きものにしたんだってなぁ。恐ろしいことを。」
そう言いながら悪魔はニヤニヤと笑っていた。
「地上に悪魔を放つわけにはいきませんので。」
私がそう言うと悪魔は真顔になった。
「それがな、どうやらサーシャが地上に行ったらしい。」
「え??どうやって?!」
「まぁ、頑張れば自力で行けないこともないのだよ。」
「そんな…」
「地上で変わったことは?」
「アンデッドの魔物をみかけましたが…」
「サーシャだな。」
私は予測していたことの最悪の事態になっていて何をどこからやるべきか頭の中がパンクしそうになった。
「サーシャが何をしたいのかは知らん。それに地上がどうなろうとも知らん。」
「じゃあなぜボクにその話を?」
「タカタが行方不明だ。」
「えっ?!」
─だから居ないのか─
「サーシャにも地上にも興味はないが、タカタは別だ。もし地上に連れて行かれたのならばここに戻してほしいのだ。」
「なぜタカタさんを地上に…」
「タカタはヴァンパイアだ。地上生まれなのだよ。だから地上にいくのも、わしなんかよりも楽に行けるのだ。」
「タカタさんを使ってサーシャは地上に行ったとお考えですか?」
「何かしらの役目があってタカタを連れ去っただろうと考えておる。」
「ボクにタカタさんを探すことができるかな…」
「サーシャを探せばタカタもみつかるんじゃないかと思う。サーシャは派手好きだからそのうち姿を現すだろう。」
悪魔は 私の話も聞かずに「頼んだぞ」と言って私を森の家に戻した。
────
「ネロくん今消えてた?」
「あぁ、悪魔に呼ばれてた。」
あかりは目をぱちぱちしていた。
「サーシャが…悪魔が地上に来ているかもしれないって。悪魔の執事を拉致してるかもしれないって。」
「じゃあ、あのアンデッドは…」
「サーシャじゃないかって。」
あかりは何かを考え込むような顔をして黙った。
「決めたわ!」
「えっ?!」
急にあかりが大声を出したので私は驚いた。
「私が悪魔を倒すわ!」
私はあかりになんて言っていいかわからなかった。
あかりに悪魔を倒せる力があるとは思えない。
ランドライトなら話せばわかってくれるかもしれないが、サーシャにはきっと無理だろう。
「ボクも手伝うよ。」
私にはそう言うしかなかった。
「うん!ネロくんがいたらきっと倒せるわ!」
あかりの目に恐怖心はなかった。
─もしかしたら今のあかりならやってくれるかもしれない─
────
私たちはサーシャの気配や痕跡がないか探し回った。
しかしそんな噂も、おかしな事件もなかった。
そんな日が続き、私は油断したのだろう。
いつものように東の森へと転移したときにそれは起きた。
目の前に森が見えた瞬間に真っ暗闇になった。
真っ暗闇で何もない。
暗くて冷たい空間にひとりぼっちだった。
─ここはどこだろう みんなは無事だろうか─
叫んでみても自分の声が響くだけだった。
────
「あれ?!ネロくん?!」
「ネロどこー?」
一緒に転移したはずなのに、ネロはその場から消えていた。
「この森にネロの気配はないわ…こんなこと、初めてよね…」
「ネロのにおい、しない…」
シロネは泣きそうになっている。
あかり、シロネ、ラミラミ、ブラドの4人は森の中を探し、イストンの街も探した。
しかしネロの姿はどこにもなかった。
夜になり、4人は疲れきってしまった。
「どうしよう。森の家にもすぐには帰れないわよね。」
ラミラミはそんな長距離は飛べないと言った。
「宿を取って、また明日ここを探したほうがいいのか…それよりも森の家に帰るのがいいかな…でもネロなしで帰るとしたら何日もかかるわよね…」
「我が飛べばあっという間に帰れると思うぞ。」
ブラドがそう言うと、
「シロネ、ドラゴンで飛びたい!」
とシロネは喜んだ。
「深夜なら人目につかないで帰れるかしら?」
あかりは意気消沈しながらも、少し元気になった。
4人は深夜まで森で待機してからブラドに運んでもらうことにした。
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「誰かいませんか?」
私は暗闇の中を歩き回った。
そして感じたのは、ここは亜空間なのではないかということだった。
飛んでみても真っ暗な空間が続くだけでどこにもぶつかることはなかった。
いろいろな魔法を放ってみたが出した瞬間に消えてしまう。
─どうしようもないな─
私は動くのをやめた。
自分の力で出るのは無理なんじゃないかと思ったからだ。
「つまらない人間ねぇぇ、ネロ。」
どこからか聞き覚えのある声が聞こえた。
「サーシャ、どういうつもり?」
「声だけでわかってくれるなんてぇ。お姉さんちょっと嬉しいわぁ。」
私はめんどくさそうなのでそれ以上喋らなかった。
今は圧倒的に不利であろう。
「あなたには私のやりたいことを手伝ってもらうわぁ!」
そう言うと何やら呪文のようなものが聞こえた。
「さぁ、どうかしら?私の下僕として人間界を破滅させてくれるかしら?」
「え、嫌だけど。」
私がそう言うと「あら?私の魔法が効かないですって?!」とサーシャは怒り出した。
そして何度も呪文を唱えた。
しかしどうやら私には効いていない。
おそらく奴隷化か何かの呪文なんだろうけど、私には何の変化もないように思える。
「まぁ今日はこれくらいにしてあげるわ。この中にいて私の言うことを聞かなかった子はいないもの。」
そう言い残してサーシャは去っていったようだった。
私は暗闇の中、ひとりぼっちだった。
ここがサーシャの管理する何かだとしたら、今私が喚いても何も変わらないだろう。
─暇だな─
みんなに心配させているだろうと思うと申し訳ない気持ちになった。
しかしここから誰かに何かを伝えることはできそうにない。
─暇だな─
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