第四十話
「ブラドさんは好きなときにドラゴンの姿になれるんですか?」
あかりは友達と話すような感じでブラドに話しかける。
「本来はあの黒い竜の姿なんだがな、大きさに問題があるだろう?」
「確かにそうですね!食費もかかりそうですし。」
─え、そこなの?─
「人の姿とは言え、その姿は目立つわね。」
ラミラミはブラドの角が気になるようで引っ張ったり叩いたりしていた。
「角はドラゴン族のシンボルじゃよ。」
ブラドの角は真っ黒で艷やかで、私はあの黒い玉を思い出した。
「確かに他の人間が見たらびっくりしちゃうかもしれないね。ドラゴン族ってそんなに多くないよね?ボク、会うの初めてなんだけど。」
ブラドは首を傾げながら、
「そうじゃなぁ、他に赤いのと青いのがいたと思うが…なにしろ外に出るのが数百年ぶりじゃから。増えておればいいげどなぁ。」
「普通の人間に似せて紛れ込んで暮らしているかもしれないわね。ドラゴン族も変身できるわよね?」
「あぁ、そうじゃな。我も角なし緑髪になれるぞ。」
「それはすごい!他の人間に会うときはできればそっちに変身してくださいね。めんどくさそうだから。」
「承知した。」
ブラドはなかなか気さくないいやつだった。
数百年の間、あのダンジョンの地下で1人、魔物を狩りながら生活していたのだという。
あのダンジョンに訪れる人はほとんどいない。
呪いだとしてもほぼ解ける見込みのない半永久的な罰を与えられたのだろう。
「ヤンチャをしたって言ってたけど、何をしたんだい?」
私はどうしても気になったのでブラドに聞いてみた。
「友達に悪魔がいてな、暴れるって言うんで便乗してちょっとな…」
─悪魔と─
「それってランドライトのこと?」
「そうだ、そんな名前だったな。知り合いか?」
「うん、ちょっとね。」
─数百年前じゃなくて数千年前じゃないか─
私たち5人は蛇を狩りながら砂漠をひたすら東に進んだ。
途中であかりが食事を作ってくれたのだが、ブラドは感激して3回も作らせた。
調理した魔物を食べたのは初めてだったのだそうだ。
それからブラドはあかりのことを『あかり殿』と呼ぶようになった。
理由はともあれ、ドラゴンを従えているようで勇者っぽい。
「お前たちどこへ行くつもりなんだ?」
「この東に何かないかなーって。ブラドさん何か知ってますか?」
「いや、まったくわからん。昔はこんな砂だらけの土地なんてなかったはずだ。…待てよ…」
ブラドはそう言って考えていた。
「我のブレスで土地が焼けたのかもしれぬ。」
「こんなに広い範囲をですか?」
「大地が燃えるのはなかなか壮観でなぁ。ちょっとやりすぎたかもしれんな。」
─ドラゴン 砂漠化の原因説─
「ブラドさんは本当にお強いんですね!」
あかりは感心したようにそう褒めた。
ブラドは嬉しそうに笑って、「上には上がいるけどな!」と言った。
─大いなる力のことか─
大いなる力についてはブラドもよくわからないと言った。
勇者が悪魔を止めたときに、一緒に金色の光に包まれてあの呪いをかけられたのだという。
あかりは「きっと神様だわ!」と言っていた。
剣をくれたときと似ているのだそうだ。
「ブラド、行きたいところないの?」
シロネはブラドに肩車をしてもらっていた。
「そうじゃな…この砂地は少し飽きたな。そういえば悪魔は今どうしておるのじゃ?」
「悪魔たちなら煉獄にいるよ。」
「そうか、煉獄に戻されたのか。」
ブラドは一瞬悲しそうな顔になった。
「煉獄に行きたいの?」
「まさか!あそこは悪魔以外のものが住むには過酷すぎる土地じゃよ。」
私は見渡す限り荒廃した土地だったのを思い出した。
明けない夜。
いつまでも朝は来ないし植物も生えていない。
「悪魔たち、と言ったな。あの女も生きておるのか?」
「サーシャのこと?生きてるよ。」
「あの性悪女め…次会ったらただじゃおかんぞ。」
ブラドを煉獄に落としたのはサーシャなのだという。
サーシャはブラドを下僕にしようと考えたがランドライトに阻止され、ブラドはランドライトと仲良くなったそうだ。
─幼馴染の話でも聞いてるみたいだな─
「我も悪魔も若かった。今はそんなことしようだなんて思いもせんよ。」
ブラドは数千年という時間を孤独に過ごしてきた。
私なら発狂していそうだが。
そうして歩いているうちにポツポツと木が生えている場所に出てきた。
「やっと砂漠を抜けたみたいだね。」
「シロネ、蛇飽きた。」
シロネが言うのは食べる方だろう。
────
あかりはマッピングを続けていた。
少し先まで見えるこのスキルは本当に便利だった。
街道は見えなかったが先には森のようなものが見えた。
人の住んでいる街がどこかにあるかもしれない。
私たちはちょうどいい岩場をみつけてそこにテントを張った。
ブラドは体が大きくてテントには入ってこなかった。
星空を見ながら眠れることを本当に喜んでいるようだった。
「少し飛んでくる。」
夜になり、真っ暗になった空をブラドは飛んでいった。
羽ばたくだけでこちらが吹き飛ばされてしまったがみんなは嬉しそうに飛ぶブラドの姿を笑顔で見送った。
真っ暗な夜の空を月あかりを浴びながら飛ぶ真っ黒のドラゴンはそれはそれは美しいものだった。
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あかりは途中でブラドに剣を教えてもらっている。
ブラドは人の姿で剣を使うのがうまかった。
よく悪魔と対戦して遊んだのだという。
勇者の剣はあかりには長すぎるということで、お宝の中にあった短剣をラミラミがとても嫌そうに出してくれた。
「その剣はきっと観賞用よ!次の街でちゃんとした剣を買いなさいよ!!」
「ラミラミさん、貸してくださってありがとうございます!」
あかりがあまりにも嬉しそうだったのでボロボロになっていく短剣を見てもラミラミは文句を言えなかった。
森まで来るといろんな種類の魔物が出てきて、あかりの修行は捗っているように見えた。
ブラドに剣を学び、ラミラミに光魔法を学び、シロネには解体作業を習った。
あかりはそれらをどんどん吸収していった。
風魔法を応用した飛行術も覚え、飛べないのはシロネだけになった。
「シロネも飛びたい!!!」
そう言われて教えてみたが、シロネにはそっちの才能がないようだった。
「シロネは我に乗ればよいではないか!」
ブラドは人の姿でも羽を出せば飛ぶことができた。
試しに肩車したまま飛んでもらっていたが、とても楽しかったようで、ブラドの肩の上がシロネのお気に入りの場所になった。
シロネに懐かれたブラドはまんざらじゃない顔をしていたので私は何も言わなかった。
森を越えると街道に出た。
道があるということは人が住んでいるということだ。
ブラドは念のため人間の姿に変身した。
背が高くて整った美しい顔のブラドを見て、あかりは頬を赤らめていた。
あとで聞くと「ゲームにそっくりなキャラがいたの」と言った。
薄々感じてはいたが、あかりはどうやら元の世界でオタクだったようだ。
街道を進むと畑が広がっていた。
家が数軒あって、農作業中の人に聞くとこの先に大きな街があるという。
「こんなところを旅人が歩いてるのは珍しいのぉ。あんたらよっぽど方向音痴なんじゃね!」
道を聞いたおばあさんはそう言って笑っていた。
まさか砂漠から来たとは思わないのだろう。
街の入り口が見えた。
大きな街のようで入るにはギルドカードの提示が必要になる。
「ブラド、ギルドカード持ってる?」
「なんだそれは?そんなものなかったぞ?」
この年齢でギルドカードを持ってない人がいるのだろうか。
怪しまれるのではないだろうか。
案の定、街の門番をしている兵士に止められてしまった。
「魔物に襲われてどこかに落としてしまったようで…」
「ではこちらに名前と滞在理由をお書きください。ギルドカードのない人は通行料がかかりますがよろしいですか?」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
私は通行料を払いそそくさとブラドを街の中へと入れた。
「我は魔物なんかにやられないぞ?」
「わかってるけど、ドラゴンだからそんなものないなんて言えないだろう?」
「そういうものか?」
「そういうものですよ、ブラドさん。」
「あかり殿がそういうのならそうなのだろう。」
ブラドはあかりの言うことなら素直にきく。
ますます勇者っぽい。
私たちはとりあえずブラドのギルドカードを作るために冒険者ギルドへ向かった。
「再発行ですとレベル1からやり直しになりますがよろしいですか?」
「はい、構いません。お願いします。」
シロネは自分のギルドカードをブラドに見せて自慢していた。
「シロネ、レベル7。」
「それはシロネが強いということか?」
「そう、シロネ強い!」
「我も早くレベルを上げたいぞ!」
ブラドは約千年のブランクを感じさせない適応能力があった。
ドラゴン族はかなり頭のいい種族なのだろう。
街でも騒がずにうまくやっていた。
ただ食べる量がかなり多くて食堂に行くとみんな驚いてみていた。
「この調子だと資金がすぐになくなるな。」
「この街に少し滞在してギルドの仕事をしますか?」
「うん、久しぶりに宿屋に泊まろうか。」
「いいわね!早くお風呂に入りたいわ!!」
おとなしくしていたラミラミが出てきた。
私たちはここ『イストン』の街にしばらく滞在することにした。
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