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第三話

私は城の人たちにみつかることなく5歳になっていた。

その頃になるとサイカは私を一人で留守番させてくれた。

もちろん農家として働いているフラルが敷地内にいたのだが、私は好きなことをする時間が増えた。

そのほとんどを魔法の習得や研究に費やしていた。


サイカは魔法の訓練もしてくれるようになっていた。

本で見て頭では理解していても実際に見る魔法は格別だった。

よりその仕組みを理解することができた。


「ネロは本当に魔法が好きだね。」

サイカはときどき私に向かってそう言う。


私には『好き』という感情がわからない。


確かに魔法を勉強することは、今の私にできる1番有用なことだと思う。

新しい魔法を覚えることにもやりがいを感じるが、これがみんなの言う『好き』ということなのかはわからない。


サイカに『好き』とはどういうことなのか聞いてみると少し困っていた。

「好きって理屈ではないからなぁ…そのことを思うだけで心がそわそわしたりあったかくなったりする。ピンクや黄色のふわふわしたものが心の中で飛んでるような感じだよ。」

サイカは照れながらそう教えてくれた。


─心の中の色─


私の心の中に色などない。

強いて言うなら真っ黒だ。

真っ黒で深い闇しかない。

あたたかくもない。

それは真っ黒で冷たい無機質な何かしかない。


やはり、私はこの世界でも『異物』のようだ。

だからどうというわけでもないが、せっかく人生をやり直せているのだから、前の世界でのことを教訓にもっと人と関われるようにしようと思う。

きっとそのほうが自分のためになる。


私は暇をみつけると笑う練習をした。

サイカもフラルもよく笑う。

笑うという行為は人間にとって不可欠の何かだ。

二人は喧嘩をしていても笑い出すとすぐに仲直りしてしまう。

おそらくそこに笑うという行為があるからだと最近気がついた。


窓に写った自分の顔を見た。

そこには5歳の少年がいた。

緑色の髪の毛は短く切ってもらっていた。

真っ黒な瞳はみんなと違う。

みんなは薄い茶色や灰色の瞳をしている。

王様や王妃様を見る機会があったのでよく観察してみたが私はどちらにも似ていなかった。

きっと私が転生してきたからなのだろう。


口角を上げて笑顔を作ってみる。

ぎこちないが笑っているように見えなくもない。

もっと自然にできるようにならないと。


私は昔から努力は苦無くできるタイプだった。

目標を作りそれに向かってコツコツと積み重ねていくのはゲームでレベリングをするようなものだ。

ただそれも興味のあることに関してだけだったが。


私が笑顔の練習をしていると窓の向こう側からフラルがこっちを向いてにこやかに見ていた。

サイカもフラルも私が無表情でも何も言わない。

そんな私を理解してくれている。


フラルがトマトを一つ持ってこちらにやってきた。

「ネロ、お前はお前だから無理して作らなくてもいいんだよ。」

そう言って私に真っ赤なトマトを渡して頭をポンと叩いてまた畑に行ってしまった。

真っ赤なトマトは熟れていて味が濃い。

もっと食べたいと思わせる。


─これが好きっていう気持ちなのかな─


私はトマトを食べ終えると裏庭に移動して魔法の練習をすることにした。


────


水や風を操ったり土を盛り上げて壁を作ったり、何に使うのかわからない魔法もたくさん使えるようになっていた。

火と水の魔法を組み合わせてお湯を出す魔法はサイカたちに重宝がられている。

お茶を飲むときやお風呂のお湯をためるのは私の仕事になった。


この世界には魔物と呼ばれるものが存在している。

ゲームに出てくるモンスターのようなものだ。

リスやウサギのようなかわいらしいものからゾンビのようなおぞましいものまで様々だった。


闇属性の魔法の中に対象のものを奴隷化できるものがあった。

私はそれを覚えたので使うチャンスをうかがっていた。

遠くまで行かないことを条件に柵の外に出ることを許されていた。

私は少し森の中を歩くことにした。


森の奥には強い魔物がいるので行ってはいけないと言われている。

ある程度の魔法が使えることはサイカもわかってくれているので家の近くの森を散策するくらいなら、と許可された。

敵対してくる魔物はほとんど出ない。

気配を察知する魔法も習得しているのでそれを使いながら歩くように言われている。

魔法の練習で近くにいる魔物はほとんど狩り尽くしてしまったようだった。


─何もいない─


私は魔物を呼びつける魔法を試してみた。

笛のような音を出すと魔物が寄ってくるというものだ。

何か出てきてくれるといいのだが。


すると強い魔物の気配が近づいてきた。

今までに出会ったことのない強い気配。

私は逃げようかとも思ったが、どうしてもその正体を見てみたくなった。

自分の気配を消して茂みに隠れて待った。


そこには金色に輝くキツネのような魔物がいた。

サイカの持っている図鑑には載っていない。

フェンリルのようだが銀色ではない。


─こいつも『異物』なのかな─


私は迷わずその魔物に向かって奴隷化の魔法を使った。

魔物は一瞬ビクッとしてキョロキョロしだした。

失敗したのかと思った瞬間、魔物はこちらに向かって突進してきた。

やられると思ったが魔物は私の目の前でピタリと止まった。


『私を奴隷にしようとしたのはお前かい?』


魔物から声が聞こえた。

しかし聞こえたという表現は間違っている。

魔物は声を発していないからだ。

脳内に直接語りかけてきているようだった。


私は魔物に向かって頷いた。

魔物はクスクスと笑いだした。


『子供の分際で私にそのような魔法を使うとは…身の程知らずにも程がある』

魔物に敵対心は見られなかった。

どちらかと言えば馬鹿にしているような口調だった。


「ごめんなさい。新しい魔法を使ってみたくて。」

私がそう言うと魔物は笑いだした。


『私はローライ 唯一無二の金色のフェンリルだ』


─唯一無二の─


『その程度の魔法は私には効かん もっと修行に励め少年よ』


そう言うと金色のフェンリルは風のように去って行ってしまった。

どうやら私の魔法は未完成だったようだ。

遠くからサイカの声が聞こえる。

あたりは日が暮れだして夕焼け空になっていた。


─もうそんな時間?─

私は急いで家に帰った。


────


夕食時に私は二人に質問してみた。

「金色のフェンリルを知ってる?」

二人は首を傾げた。

「フェンリルは白というか銀色というか…金色ではないわね。」

「そうだよね。」

「ネロ、まさか森の奥に行ったの?!」

サイカは急に怖い顔になった。

「行ってないよ。言われたとおり家の近くの森にしか。」

サイカは睨みつけて「約束を破ったら外出禁止ですからね」と言った。


食事が終わるとフラルが「思い出したわ!」と言って1冊の絵本を持ってきてくれた。

「この本、サイカが小さいときのやつなんだけど…」

表紙には金色のフェンリルが描かれていた。

「サイカは絵本を読むようなこどもじゃなかったからねぇ…」

「そんな本あったっけ?」

サイカは珍しいものでも見るように絵本を開いた。

私はサイカの横に座り絵本を読んだ。


「森の王、ローライはこの世に1匹しかいない金色のフェンリルです。彼は神様から特別な力をもらいました。」

絵本は簡単に言うと金色のフェンリルが森の平和を守るという話だった。


─ローライ…名前も同じだ─


絵本になるほど有名な個体なのだろうか。

絵柄も本物そっくりに描かれていた。

「気に入ったならこの本はネロにあげるわ。」

私が目を離さなかったのでサイカは嬉しそうにそう言った。

「ありがとう。」

サイカは私の頭を撫でると夕食の片付けに行ってしまった。


─この絵本は本当の話を描いている─


私はしばらくその絵本を読み返した。

そして一つの目標をみつけた。


『ローライを従魔にする』


それから私は暇があれば魔法の鍛錬に励んだ。


────


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