第三十八話
私は平常を取り戻していた。
森の家付近はいつの間にか人が増えていた。
移住者たちに子供が生まれたこともあったが、サイカやフラルが戦争で親を失った身寄りのない子供たちを街からどんどん連れてくるからである。
いつの間にか建物も増えていつしか村のようになっていた。
ときどき小競り合いはあるようだったが、みんな笑顔で暮らしている。
そんなある日、あかりが深刻な顔をして私に話があると言ってきた。
「あのね、ネロくん…実は神様から神託が降りてきたの。」
─神様???─
「神様って実在するの?」
「いや、私も実際に会ったわけではないんだけどね…森で訓練している間に奥の方まで行っちゃってね、迷子になったの。
そのときに洞窟で休憩したんだけど…そこで居眠りしちゃってね。」
─洞窟で居眠りもなかなか危険そうだが─
「その時の夢に金色のすごく光った何かが出てきてね、私にこう言ったの。
『勇者よ、真の運命に備えよ。』って。」
「でも夢だったんでしょ?」
「私もそう思ったんだけどね、目の前にこれが…」
あかりは肩からかけていた小さなバッグからとんでもないものを出した。
「すごい…剣だね…」
ゲームなら勇者の剣なんだろう。
金色に光る剣だった。
「だからね、それはきっと神様だって信じることにしたの。それでね…」
あかりはモジモジしながら続けた。
「ネロくん、私と一緒に冒険の旅に出てくれないかな?」
─冒険の旅─
「ここで鍛錬してるだけではダメだってこと?」
「この辺の魔物くらいなら倒せるようになったんだよね。でも世界にはもっともっと強い魔物もいるでしょう?それに…」
あかりは顔を赤らめてこう言った。
「ゲームやアニメなら武者修行の旅に出るのはド定番でしょ?」
私は首を傾げた。
確かに竜やらドラゴンを倒しに行くゲームの存在は知っている。
─やったことないけど─
「それはいいとしてさ、あかりの『真の運命』ってなに?」
「あぁ、それね、私もたくさん考えたんだけどね…わからなかったわ!だから、旅をしてるうちに何かに気がつくんじゃないかなって。」
─かなりノープランな提案だな─
しかし今後ジナーのようなものが現れないとは言い切れない。
もしもの事態に備えてあかりが強くなるのはいいことだ。
「わかった。行こう!」
「ほんと?!やったー!」
そしてその日の夕食時にあかりはみんなに冒険の旅について話をした。
ラミラミはもちろんついていくと言った。
シロネも案の定行くと言った。
こうして4人は旅に出ることが決まった。
「しかしどこに行くつもりなんだい?何か目標でもあるのかい?」
サイカはリロの口を拭いてやりながらそう聞いてきた。
「北は嫌よ!!寒いのは絶対に嫌!!」
ラミラミは北の土地にいい思い出が無いようだった。
「ボクが転移魔法で行けるのは行ったことがある場所だけなんだよね。」
「西と南は海だから、行くなら船がないと無理だなぁ。」
ガルは食器を片付けながら言った。
「じゃあ東かしらね?スプランのさらに東!」
あかりは楽しそうに立ち上がってそう言った。
「スプランの東って何かある?」
私の持っている地図には何も描かれていなかった。
大陸自体は続いているようだが、街の名前は記されていない。
「スプランの先は死の大地と呼ばれていてね、砂と岩しかない過酷な大地が広がっているのよ。だから普通の人は行かないし、何があるのか調べに行く人もいないと思うわ。いたとしても情報が来ないってことは…ね…。」
サイカは『行ったら戻ってこれない』と言いたいのだろう。
「それに東の果てにはでっかい蛇がいるって話だよ。」
「大きな魔物!ネロ、私そこに行きたいわ!」
「砂漠かぁ…どう?ラミラミ。」
「寒いより暑いほうがマシよ。」
「シロネ、でっかい蛇食いたい!」
みんなは一斉に私を見た。
「まぁ、水魔法があれば飲水にも困らないし…ダメそうなら転移して帰ってくればいいか。」
こうして私たちはスプラン経由で砂漠に行くことになった。
────
スプランは思った以上に荒れ果てていた。
まともな人たちはどこかの街へと移住をしたようで人の姿はほとんどない。
残っていたのは盗賊のような連中たちだった。
拠点にするにはうってつけなのかもしれない。
途中で絡んできた盗賊をシロネが撃退した。
「悪いやつ、倒した!」
あかりにも「やれば」と言ったが、あかりはまだ人を攻撃することに抵抗があるそうだ。
シロネに「あかり、死ぬよ?」と言われて少し落ち込んでいた。
スプランを抜けるとサバンナのようになっていた。
葉の少ない木が点在していて、オアシスのような水場が時々あった。
「今日はこの水場にテントを張ろう。」
水場でキャンプをイメージしていたが、そんなゆっくりできる場所ではなかった。
水を求めてやってくる魔物がたくさんいたからである。
あかりは魔物に対しては強かった。
いつの間にか使える魔法の種類も増えていて、闇属性以外は使えるようになったのだと言う。
さすが勇者だ。
チート感満載である。
「あかり、あの剣は使わないの?」
「うん…実は練習しようと何度か頑張ってはみたんだけどね…」
重くてうまく扱えないのだという。
─勇者 筋力不足─
「でも神様がくれたのだとしたら大事なものだよね。少しずつでいいから扱えるように努力しておかないと。」
「そうね…筋トレもするわ!」
「シロネもするー!」
2人は楽しそうに腹筋やら背筋を鍛えだした。
「魔法が使えれば別に不自由しないと思うけど。」
ラミラミはそんな2人をただ眺めた。
水場でのキャンプは寝不足で終わった。
みんなは夜が深まるにつれて魔物が来ても起きなくなった。
私は一人で魔物退治をすることになって、絶賛寝不足である。
あかりは積み上げられた魔物たちを見て謝った。
シロネは「すぐ血抜きしないとまずくなる!」と怒った。
シロネは魔物たちを解体してカバンにしまった。
「あかりも解体できるようになると楽だよ!」
シロネはいつの間にか解体のスキルを得ていたようだった。
─解体費用が浮くな─
進むにつれ、植物の姿を見なくなってきた。
「暑いのも苦手かも〜!」
ラミラミはシロネの肩の上でダランと伸びていた。
「ネロ!」
シロネが叫んだ。
「うん、何か来る!」
あかりも戦闘態勢になった。
ラミラミは「頑張れ〜」と私のフードの中に入った。
そこには大きな蛇がいた。
「あかり、やってみて!」
「わかった!」
あかりは蛇目がけていろんな魔法を放った。
蛇のウロコは硬く、なかなか攻撃が通らない。
「あかりー!がんばれー!」
シロネはぴょんぴょん飛び跳ねて応援をした。
「はい!」
シロネはうまく攻撃を避けながら弱点を探しているようだった。
「わかりました!仕留めます!」
あかりはそう言うと大きな口を開けてこちらを飲み込もうとした蛇に見たことのない魔法をぶち込んだ。
蛇は内側から爆発したように裂けて倒れた。
「やりました!」
「すごい!あかり!強い!」
「口の中を攻撃ね。確かにウロコが硬そうだったもんね。」
私がそう言ってる間にシロネは『中くらいのやつ』をナイフのようにして蛇の皮を剥ぎ取っていた。
あかりはそれを見て目が点になっていた。
「シロネは規格外だから、気にしないほうがいいよ。」
「う、うん。」
完全な砂漠になると蛇はウジャウジャと出てきた。
あかりの攻撃の精度もかなり向上してきた。
「あかりすごいよ!蛇マスターを名乗れるよ。」
「でも蛇ばかりでさすがに飽きてきたわね。」
砂漠にいる魔物は蛇かサソリくらいだった。
「ねぇ、砂の上に寝るなんて言わないわよね?」
ラミラミはサソリが苦手なようだった。
「うーん、今日の寝床かぁ…あの岩山に何かないか調べてみようか。」
私は少し先に見えていた岩山を指差した。
「砂の上よりはよさそうね。」
私たちは岩山にちょうどいい洞窟や穴がないか探すことにした。
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