第三十七話
深夜、見回りの兵士たちは交代の時間になり、各場所で引き継ぎを始めた。
私とシロネは透明化してそのまま魔術師の部屋へと向かった。
魔術師の部屋は結界も何もなく、防犯対策は何もない。
シロネは「静かに」と言いながら『静かな強いやつ』を寝ている魔術師に向けて放った。
眠っていた魔術師は一瞬にして消え去った。
何がどうなって消えるのかはわからない。
深く考えることはやめた。
きっと分子レベルで何かが起こったということだろう。
私たちはそのまま王子の部屋へと向かった。
王子の部屋のまわりにはたくさんの見張りがついている。
私たちはとりあえずベランダへと移動して中を覗うことにした。
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王子は広い寝室で1人、大きなベッドの上で眠っていた。
王子をこのまま殺害するのは簡単だ。
しかし私はどうしても『なぜこんなことを考えたのか』を知りたかった。
私は王子の寝室に結界を張った。
外部からの侵入を防ぎ、防音になるように。
私とシロネはゆっくりと王子の寝室に入った。
シロネが「いい?」と聞いたので「ちょっと待って」と止めた。
私はゆっくりと王子に近づいた。
何かにうなされるように苦しそうにしていた。
そして王子は急にガバッと起き上がった。
そして私と目が合った。
「お、お前は…なぜここに!!誰か!!侵入者だ!!」
王子は察してそう叫んだが、結界の中なので外には聞こえなかった。
「はじめまして、ジナー。」
私がそう言うと王子は、
「わかってるぞ、忌まわしき子め!!」
と大声で叫んだ。
「へぇ、ボクのことがわかるんだ?」
「母上に棄てられた悪魔の子だろう?昨日お前の仲間を1人殺したぞ!!」
─そこまでわかったのか─
このジナーという男は意外と鋭いかもしれない。
王子は杖を手にしてこちらに何か魔法を飛ばしてきた。
シロネはそれをすべて『弱いやつ』で弾き飛ばした。
「仲間を連れてきたのか…卑怯者め…」
「一般的に寝込みを襲うのは卑怯だよね。でも他の人を巻き込みたくなくてさ。ごめんよ。」
方法などどうでもいい。
世界を壊される前にこいつをどうにかしないといけない。
王子は顔面蒼白でジリジリと後退った。
「ねぇ、死ぬ前に1つ教えてよ。なぜ悪魔を呼ぼうとしていたの?それに王を生かしていたのはなぜ?あ、質問が2つになっちゃった。」
王子はこちらを睨みつけるだけで話そうとしなかった。
─まぁ、あたりまえか─
私は王子に奴隷化の魔法をかけて『本当の事を話せ』と命じた。
「お前が…お前が生きているとわかってから父上も母上も変わってしまった…
お前のせいで父上は母上に呪いをかけた。それで母上はご病気に…だから俺は父上にもっと強い呪いをかけさせたんだ。
生かしてたのは父上を悪魔にやるためさ。あんな父でも悪魔にしたらごちそうなんだとよ。」
王子は涙を流していた。
必死に抵抗しようとして顔が醜く歪んでいた。
「母上は…自分で棄てた子なのにお前に会いたがった。会って謝りたいとそればかりだった。俺にはわからなかった。なぜお前なんかのことを愛しむように話すのか!」
「だから悪魔を呼んで世界を壊そうとしたっていうのか?ボクにはそっちの方がよっぽど意味がわからないよ。」
「俺に逆らうやつはみんな悪魔にくれてやろうと思ってた。世界をリセットするんだよ。お前を含めてな。」
王子はそう言うと笑いだした。
─なんて自分勝手な─
「ありがとう、聞きたいことは聞けたよ。じゃあ死んでもらおうかな。」
王子は壁際で震えていた。
シロネは「いつでもいけるよ」と睨みつけていた。
「お待ちください!!」
結界の外側に人の姿があった。
王妃だった。
音は聞こえないはずなのに。
何かを感じてここに来たというのか。
「どうか…ジナーをお許しください…悪いのはすべて私なんです…」
王妃はそう言うと床に崩れおちた。
「母上!!」
王子が近寄ろうとしたので『動くな』と命じた。
「あなたなのでしょう?」
私は王妃の目を見て睨みつけた。
「あなたには…本当にひどいことを…
私は若くて愚かでした。愛してはいけない人を愛してしまった。
彼は…あなたの父親はヴァンパイアなの。
…そして私も…
計略結婚でここに嫁いで来たけど、彼も私もお互いを忘れられなかった。
そして彼は私に会いに来てしまったの。そしてあなたが…
それを王に知られると私も彼もあなたも…みんなの命が危なかったわ。
だからサイカに託したの。彼女ならきっとあなたを殺さない。どこかで育ててくれるって、そんな期待をどこかでしていたの。
ひどい親よね…無責任で…
でもね…これだけは信じてほしいのです。私はあなたを心から愛しています。生まれてからずっと、死んだかもしれないと思いながらもあなたのことを忘れたことはなかった。」
王妃は泣きながら私をみつめた。
「あの人に…そっくりだわ…本当によく似てる。」
王妃はそう言って微笑んだ。
「ヤミなら殺したよ。」
部屋の中が静まり返った。
王妃は口に手をあてて声を殺して泣き出した。
「そんな…」
「本当にみんな自分のことしか考えない、バカばっかりだよ。」
私は王子に向かってヤミに使った魔法の改良版を放った。
王子は恐怖の表情のままキラキラ輝きながら消えていった。
─せめて最後くらい輝かせてあげよう─
「キラキラだね!」
シロネは王子のいた場所を見て嬉しそうにそう言った。
「破裂するだけだとちょっとグロテスクだったからね。改良してみたんだ。なかなかいいね。」
「うん!きれい!」
王妃は泣くのも忘れてただその光景を見ていた。
「なんてひどい…あなたには人の心ってものがないの?!」
王妃は狂ったようにそう叫ぶと私の方へと突進してきた。
結界があって進めないのに。
王妃は見えない壁を叩き続けた。
私は王妃のところまで行き、暴れ回る王妃の首を絞めた。
「ボクには人の心なんかない。」
私はそう言うと睨みつける王妃を離した。
王妃はその場でゲホゲホとむせて、そのまま泣き崩れた。
「帰るよ、シロネ。」
「この人は?」
「殺さない予定だったろう?」
「そっか!」
そして私たちは森の家に帰った。
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みんな寝ないで待っていた。
「ただいまー!」
「おかえりなさい。」
私たちが帰ってきたのを見て、みんなはほっとしたような悲しそうな顔を見せた。
「シロネがんばった!ネロリンの仇はとったよ!」
フラルはシロネの頭を撫でて「そう。」とだけ言った。
「二人とも無事でよかったわ。今日はもう寝ましょう。」
「そうだね。」
妙な空気が流れているようだった。
ラミラミはヤミを殺したときと同じ表情をしていた。
─私が人を殺すと、みんなこういう感じになるんだ─
みんなの悲しそうな顔を見て、むやみに人の命を奪うのはやめようと思った。
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翌朝、ラミラミは珍しく私より早く起きて、
「ネロ、大丈夫?」と聞いてきた。
「うん。なんともないよ。」
フラルたちはいつもと変わらない様子で朝食の用意をしてくれていた。
「おはよう、ネロ!トマトたくさん用意したわよ!」
むしろいつもより元気そうだった。
私は昨日の寝る前の様子が変だったので心配したが、気にすることではなかったようだ。
あかりはチーズオムレツを作ってくれた。
「チーズを作れるようになったのよ!」
そう言って嬉しそうにしていた。
「すごい!美味しいよ!ピザとか食べたくなるね。」
「ピザね!作ってみるわね!」
森の家は平和だった。
脅威がなくなった今、私たちが旅に出る意味はない。
ここでまた、前のように楽しく暮らすことができる。
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王は元気を取り戻したようで、「ジナーは病気で死んでしまった」と国民に報告していた。
王妃が王にどう説明したのかはわからない。
王にかけられていた呪いはダリが死んで解けたのだろう。
とりあえず国は問題なく今までどおり運営されるだろう。
王妃は公の場に姿を一切見せなくなったという。
ラミラミが「心配じゃないの?」と聞いてきた。
「ボクが心配をするのは、ここにいるみんなだけだよ。」
そう言うとなんとも複雑な表情をした。
「ネロがそう言うなら、それでいいわ。」
ラミラミは一瞬悲しそうな顔をしたがすぐに笑顔になった。
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