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第三十六話

ネロリンは今日もみつかることなく潜入を続けていた。

数日経ってわかったことがある。

王は生きてはいるが、まるで死人だった。

焦点の合わない虚ろな目をしていて、王子の言いなりだった。

こんな状態で生かしておく意味はあるのだろうか?


ダリはいつまでも回復しない魔術師たちを諦めることにしたようで、街の人たちの中から魔力の高い者たちを集めることにしたようだった。

『お城での簡単なお仕事』

と、どう見ても怪しげな広告を立て、魔力を検査しては採用、不採用と選別していた。

「3日後に城に来てくださいね。」

ダリは採用となった人たちにそう伝えていた。


─3日後に悪魔を召喚する気か─


こうなったら関係者を暗殺するしかないだろうか。

王子とダリさえいなくなればこの計画は進まないだろう。


ラミラミたちにそう言うと、

「ダリはいいとして、ジナーは弟だけどいいの?」

「えっ?ダメかな?」

「ネロがいいなら、いいけど…」

ラミラミは心配そうな顔をした。


城の中はネロリンのおかげでどこに誰がいるのか把握できた。

脅威になるのはダリくらいだろう。


私たちが作戦を立てているとネロリンからヘルプの信号がきた。


私は試行錯誤の末に木の板で映像とともに音声も聞こえるようにしていた。

なんの魔法がその効果をもたらせたのかはわからなかったが。

シロネとラミラミは木の板をみつめた。

私はネロリンへと意識を移した。


────


ネロリンはなぜか王妃の寝室にいた。


「急にごめんなさいね。どうしてもあなたと話がしたくて…」

王妃は今日は気分がいいとベランダに出て日光浴をしていたのだという。

ネロリンは外の庭で兵士たちからの情報収集をしていた。

情報収集と言っても庭の手入れをするフリをして、サボっている兵士たちの話を聞くというだけなのだが。


それがなぜか王妃の部屋に招かれたのだ。

「あなた、何の係をしているのかしら?いつからここで働いているのかしら?あぁ、お名前を伺っても?」

王妃様は一気にまくしたてた。

「えっと…ネロリンと申します。」

「ネロリン!いい名前ね!」


それから王妃はいろいろと私に質問してきた。

なぜ急にメイドなんかに興味を持ったのか…

─迷惑だ─


私は隣の街から出稼ぎに来ていると適当に作り話をした。

それを王妃は嬉しそうに聞いていた。

高級そうなお茶とお菓子を出してくれた。


「あぁ、いけないわ。ネロリン、仕事をサボらせてしまいましたね。怒られてしまうかしら?」

「あ、いえ、大丈夫です。王妃様の仕事をいつでも優先するようにと言われておりますので。」

─もちろんそんなこと言う人はいないのだが─


「そうなのね!ではもう少しお話つきあってちょうだいね。」


王妃様はイメージと全然違う優しそうな人だった。

─この人に棄てられたのか─


私が話を聞いていると王妃様は突然泣きだしてしまった。

「あの、何か失礼なことをしましたでしょうか?!」

あまりにも突然だったので私は慌てていた。

「いいえ、ごめんなさいね。こんなこと、初めてなのよ。普段は話なんてしないの。いつも一人で…」

王妃様は涙を拭きながら外を見ていた。


「昔ね、私は過ちを犯したの。それはとても許されるものではない。人として許されない過ちよ。

私はそれをずっと悔いていて、謝ることができるなら謝りたいと思っていたわ。」

「王妃様がそう仰るなんて、よほどのことなのですね。」

「えぇ、1日だって忘れたことはないわ。」


私はなんて声をかけていいかわからず、答えに詰まっていた。

「ごめんなさいね、なんだかあなたには何でも話せるような気持ちになってしまって。」

「あの、どうして私なんかに…」


「ベランダからあなたを一目見たときにね、あなたと話をすべきだと感じたの。なぜかしらね…でも話せて楽しかったわ。

よかったら明日もまた同じ時間に来てくださるかしら?」

「はい、私でよければ。」


そして私は解放された。

─何だったのだろうか─


私は疲れきってしまったのでネロリンを従業人用の仮眠室に寝かせて本体へと意識をもどした。


────


戻るとラミラミが泣いていた。

「えっ?ラミラミ、どうしたの?!」

「ネロ、あなた気がつかなかったの?!あの人…王妃様は…あなたを棄てたことを後悔して生きてきたのよ!」

「えっ?あれってボクのこと言ってたの?!」

「それしかないでしょ!それに、たとえ分身だとしても王妃様にはあなたが自分の子供だって本能的に感じたのよ。」


─それはダメなんじゃ─


「ネロリンは回収しないとダメみたいだね。明日は約束をしたから、それが終わったら国に帰ると言うよ。」

ラミラミは何かを言おうとしたが途中でやめた。

「ネロがそうしたいならそれでいいと思うわ。」


「暗殺は2日後の深夜に決行する。」


────


翌日、私はネロリンで王妃様のところへ行った。

王妃様は昨日よりも顔色がよく、私が行くと嬉しそうにした。

「ネロリンさん来てくださってありがとう。今日は珍しいお菓子が手に入ったというのでご用意したのよ!」

「ありがとうございます。」


その日も王妃は嬉しそうにどうでもいい話を続けた。

私には興味のない話だったが辛抱強く彼女の話を聞いた。

「王妃様、そろそろお時間です。」

王妃のメイドが冷や汗をかきながらそう言った。

「あぁ、もうそんな時間ですか…ネロリンさん、また明日も来てくださるかしら?」

「申し訳ありません。実は本日付で退職することになっておりまして。」

「なぜですの?ここに来たことを咎められたのですか?!」

「いいえ、実家で少し騒動がありまして。帰らないと行けないのです。」

「…そう、家族は大事ですものね。でもまた時間ができたら遊びにいらして!働かなくてもいいから!」

「ありがとうございます。その時はぜひ。」

私は頭を下げて王妃の部屋を出てきた。


廊下に出ると王子とすれ違った。

私は深く頭を下げて通り過ぎるのを待った。

王子は王妃の部屋へと入っていった。

『母上、遅いのでお迎えにあがりました。』

『ジナーごめんなさい、急に体調が…』

『昨日から体調がいいとおっしゃってたじゃないですか!』

『ごめんなさいね。また体調のいい日にしましょう。』

『…わかりました。』


私は聞き耳を建てていたが王子が出てきそうだったので急いでその場を去った。

隠れて王子の様子を見るとかなりご立腹の様子だった。

お付きの兵士に向かって、

「さっきのメガネのメイドを探せ。すぐに連れてこい!」

と叫んだ。


私は慌ててメガネを外して早足で逃げた。

─なんだかヤバそうだ─


しかし兵士は私のメガネを外した姿を覚えていた。

すぐにみつかってしまったのだ。

「お前、何をしたんだ?王子はかなりご立腹だぞ。」


そうして私は王子の部屋へと連れてこられた。

「お前、何者だ?母上に何をしたんだ?」

「あの、私は王妃様の話し相手になっていただけで…」

「はぁ?なんでメイドなんかと話をするんだよ!!お前、何か魔法を使ったな?母上に取り込むように!許さんぞ!!なんでお前なんかと!!あんな楽しそうな姿…許さん!!!」

─こいつ マザコンか─


私を睨みつける王子の瞳は真っ黒だった。

─こんな色だったかな?─


次の瞬間、王子は剣を抜いて私の首をはねた。


ネロリンの頭はゴロリと王子の部屋に転がった。


「掃除をしておけ。」


私は本体に意識を戻された。


────


「死んだらスライムに戻るかと思ったけど、人のままだったね。」

「えっ?!そこなの?!首をはねられたのに!!」

ラミラミは怒っていた。

「ネロリン、かわいそう。」

シロネは何も見えなくなった木の板を見ていた。

「あの王子はダメね。暗殺には反対だったけど、しかたないわ。」

ラミラミは怒りを通り越して呆れていた。


分身の目を失ってしまった。

「今日にした方がいいかな?あっちの様子もわからないし。」

「そうね、早い方がいいかもしれないわね。」

「シロネはいつでも行けるよ!」


私たちは作戦の確認をした。

私とシロネは透明化して城へと転移。

ラミラミは残念ながらお留守番。

森の家に置いてくることにした。


まずはダリを先に片付ける。

それからジナーを。


「王と王妃はどうするつもり?」

「ジナーとダリ以外はできるだけ殺さないで。」

「わかった。」


私はラミラミをフラルに預けて城の近くの森に転移した。

「シロネ、もう少しで見回りが終わって交代の時間になる。その時を狙うよ。」

「わかった。静かに、だよね。」

「そう。静かに、だよ。」


「ネロリンの仇はシロネがとるよ!」

─ネロリン─


王妃はネロリンが国に帰ったと思うだろう。

なぜか王妃にネロリンが死んだことを知らせたくなかった。


─きっと悲しむような気がしたから─


────

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