第三十四話
私たちはワンダの宿屋に来ている。
「透明化して城に忍び込もうかな。」
「でもヤミくらいの魔術師がいたらみつかっちゃうわよ。悪魔を召喚できる魔術師なんてきっととんでもなくすごい人なんじゃない?」
私は前回、透明化で潜入して呪われて帰ってきた。
確かにきっとすごい魔術師がいるだろう。
「正面から行って『やめて』って言えたらいいけど、そんなわけにもいかないよね。」
「王子にたどり着く前に捕まっちゃうわね。」
「シロネがピューって行って強いやつバババーってやって帰ってこようか?」
それはそれで地獄絵図だ。
「王子を殺しちゃったらそれはそれで大変なことになるからダメ。」
全くいい考えが浮かばない。
すでにサーシャとコンタクトを取ってる以上、いつこちらに来てしまうかわからない。
時間がない。
「悪魔は勇者に勝てないのよね?あかりは悪魔を倒せないのかしら?」
「料理で倒せるならあかりは最強なんだけどね。」
「はんばーぐ食べたいね。」
私たちはお腹が空いていることに気がつき、何か食べに行くことにした。
街中は冒険者で賑わっていた。
「あのダンジョンさ、天使にも悪魔にも利用されてたね。他の人たちに害がなければいいけど。」
「ダンジョン自体が不思議な存在だもの。なんでもアリなんじゃないかしら。そこに多少手が加わっていても誰も気がつかないのよ。」
─そういうものだと思うのか─
私たちは食堂でお腹いっぱい食べた。
ここ数日、いろんなことがあって頭の中はパンクしそうだった。
どこからどこまでが繋がっていたのか、考えれば考えるほど怪しく思えてくる。
サマルナの王が私の存在に気がついたという噂もきっと繋がっているのだろう。
スプランからの攻撃に私の実の親が関わっていることも知っているのだろうか?
そして勇者の存在も。
調べに行きたい。
「あの獣、連れてきたかったなぁ。」
シロネはあのリスのような獣のことを思い出したらしい。
「野生の獣を街で飼うのは無理だよ。獣は人間を怖がるからね。」
私はそこまで言ってあるスキルのことを思い出した。
奴隷化するスキルがあったではないか。
奴隷化したものの視界を共有できたら立派な監視カメラになるんじゃないか。
「シロネ、虫取りするよ!」
「する!」
私はシロネと飛んでいる虫をたくさん捕まえた。
宿に戻ると私は奴隷化の魔法を使った。
虫は私の思うまま動いた。
ラミラミは「気持ち悪い!」と言ってお風呂に行ってしまった。
─どうにかして視界の共有ができないものか─
私は二人が寝てからも試行錯誤を続けた。
何度も試しているうちにコツを掴んだ。
そしてついには虫が見ている景色を脳内に届けさせることに成功した。
しかしかなり集中しないとその映像は見れない。
私は木の板を用意してそれに映像を映そうとまた試行錯誤した。
意識を移す。
わかっているがやろうとするとなかなか難しかった。
朝になり、窓の外はすっかり明るくなった。
そして私はついに完成させたのである。
この世界でたった一台の奴隷化したものの見ているものを映す木の板を!
─名前長いな─
私は虫をすべて逃し、窓の外に見える小鳥を奴隷化した。
鳥の見ている景色を木の板に映し出してみる。
鳥は私がさっき逃した虫を捕食した。
─虫さんごめんよ─
そして空へと飛び立った。
その映像はまるで自分が飛んでいるようだった。
「それ、なぁに?」
シロネが目をこすりながら起きてきた。
「鳥が見てる景色だよ。」
「わぁ!飛んでるみたいだね!」
シロネはそれを見て喜んでいた。
私は鳥にサマルナに行くように命令した。
鳥が1日にどれくらい移動できるのかわからない。
疲れたら休み、お腹が空いたら何か食べるようにと命令に付け加えた。
「シロネ…ボク…もう…」
私はそのまま力尽きて眠ってしまった。
────
起きると夕方になっていた。
シロネは人間の姿になったラミラミと買い物をしてきたようで部屋には食べるものがたくさんあった。
「おはようネロ。寝ないでこんな面白いものを作ってたのね。」
ラミラミは天使の姿に戻り、ケーキのようなものを美味しそうに食べていた。
「どこまで行けたんだろう?ラミラミ、わかる?」
「まったくわからないわ。でも夜は飛ばないみたいね。」
木にとまって丸くなる様子が見えた。
今日はここで眠るようだ。
「サマルナの近くでやればよかった。」
その日はこれ以上の動きはなかった。
翌朝、シロネに起こされた。
「ネロ!お城についたみたい!」
上空から城を見下ろす映像が映っている。
私はジナーを探すように命令をした。
─鳥にジナーが判別できるのかはわからないが─
鳥は必死にいろんな人の近くを飛んだ。
窓から中を覗いてみたり、窓が開いていたら中に入ってみたり。
見る人が見たらかなり怪しいだろう。
「あ、いた!」
私は鳥にその人の近くへ行けと命令をした。
鳥はうまく窓の近くにいるジナーを捉えた。
しかし見えただけであった。
─音声のことを忘れていた─
私はあまりの間抜けっぷりに頭を抱えた。
「魔術師っぽい男がいるわね。」
見ていたラミラミが指をさした。
そこには髭を生やした、いかにもという魔術師がいた。
とりあえず見た感じは悪魔はまだ来ていないようだ。
私は鳥に自由になるよう、魔法を解いた。
「あら、もういいの?」
「うん、みつかって鳥が殺されでもしたら嫌だからね。」
「ネロってときどき優しいこと言うわよね。」
─ときどきですか─
音声を聞くにはどうしたらいいんだろうか。
私の意識ごと乗り移れればいいのか?
そんな幽霊みたいなこと私にできるだろうか。
心が折れそうになった。
「分身の術でも使えたらいいのに。」
「なにそれ?」
「自分の分身を作るってことだよ。なんて言えばいいのかな。もう一人の自分を作るっていうか、偽物を作るっていうか。」
「シロネ、できるよ!」
「えっ?!」
シロネはその場で力を込めた。
ポコッと音がして小さい白いもふもふの獣が生まれた。
「がんばればもっといっぱい出せるよ。」
「わぁ!なにこれ!かわいいー!」
ラミラミが大喜びだった。
「でも疲れたら消えちゃうんだ。」
どうやら自然消滅するらしい。
「シロネ!どうやってるの?!ボクにも教えて!」
そこからが大変だった。
シロネの説明は『うーーん、ってやって、モコモコっとやって、ポンッって出てくる』だった。
まったく意味がわからない。
私なりに解釈して少しずつ紐解いていった。
私はまた徹夜をしてしまった。
空が明るくなってきた頃、私はやっと分身を作ることができた。
「で、これがネロの分身なの?!」
「う、うん。言うとおりに動くし、五感も共有してる。」
そこには真っ黒いスライムのようなものがいた。
「ネロの分身、キモい。」
シロネは枝でそれをツンツンつついた。
「痛いよ、シロネ!やめて!」
「この黒いのやっつけたらネロも死ぬ?」
「いや、そこまでは共有していないと思う。」
私は分身を消してみせた。
「ほらね、シロネのやつと同じだよ。」
「シロネのはもっとかわいいよ!同じじゃない!」
─確かにひどい姿だ─
「しょうがないわね!その黒いやつもう一度出しなさいよ!」
ラミラミはそう言うと黒いスライムに魔法をかけてくれた。
それは城で働くメイドの姿にそっくりだった。
「この子に忍び込んでもらいましょう!」
ラミラミはなんだか楽しそうだった。
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私はサマルナの城の近くに転移して分身を置いてきた。
そしてなんとか城に潜入することができた。
分身が見ている映像をまた木の板に映し出した。
「音はボクにしか聞こえないけどね。」
こうして分身スパイ大作戦が幕をあげた。
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