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第三十三話

「どこまで行くんだろう?」

私たちはぐるぐると階段を降りている。

上を見ると真っ暗で始まりがどの辺なのかもうわからない。


「ネロ!ついた!」

先を歩いていたシロネが叫んだ。

階段が終わり、部屋のようになっている。

「何かある?」

私たちは別れて部屋の中を探した。


壁に穴が開いていて、そこに黒い玉が置いてあった。

私は無意識にそれを手に取った。

─あれれ─


急に目の前が真っ暗になり何も見えなくなった。

身体が重い。

地面にめり込んでしまうような感覚がした。

─堕ちる─


────


「やっと会えたわね、ネロ。」


真っ暗闇の中、女の人の声が聞こえた。

私は目を開けられないでいた。

身体は地面にめり込んでいる感覚のまま動くことができなかった。


「目くらい開けなさいよ!」

女の人が怒鳴ると私の目はパチリと開いた。


目の前には黒い髪の美しい女性がいた。

私は声を出そうとしたが口が動かなかった。

目だけが動く。

私の身体は見えない。

見えるのはゴツゴツした岩の壁だけだった。


「ごめんなさいねぇ。初めてだったから失敗しちゃってぇ。壁から出してあげられなかったのぉ。」


女の人は謝っているようだがバカにしたような態度だった。

「私のこと、あの人から聞いてるかしら…

ランドライト様…お元気かしら。」

─悪魔のことか─


私は改めてこの女の人を見た。

私はこの人を見たことがある。


悪魔のことを書いている本に載っていた。


私を召喚した悪魔の隣に描かれていた女性にそっくりだ。


「なかなかお会いできなくてね…お誘いしても断られてしまうし…まぁ、お互い煉獄での仕事もあるしぃ、忙しいからなんだろうけどぉ。

サーシャ、少し寂しくなっちゃってぇ。

あ、サーシャって私の名前よっ!

それでね、だからね、あなたをここに呼んだのよ、ネロ!」

─もう一人の悪魔 サーシャ─


「壁から出したらどうなるかしら。バラバラになっちゃうかしら?っていうかぁ、身体もちゃんとここにあるのかしら?」

サーシャは長くて真っ赤な舌で唇を舐めた。


─あの悪魔より、より悪魔っぽい悪魔だな─


黒いボディスーツを着ている。

グラマラスで妖艶な雰囲気だ。

黒くて長いストレートの髪は見るからにサラサラしている。


「なんてお伝えしたら来てくれるかしら。あなたのペットが壁にめり込んでますよぉ!助けにいらしてぇ。なんて言ったら来てくれるかしら?

あぁ、ランドライト様…」


どうやらこのサーシャという悪魔はランドライトをここに呼びたいようだ。

普通に呼んでも応じないので繋がりのある私をここに呼び寄せたのだろう。


─あの黒い玉─

キマイラのときにわかっていたのに。

見ると触らずにはいられなかった。

─あの玉がほしい─


サーシャは私がめり込んでいるという壁を叩いたり蹴ったりして調べだした。

「どうやって出そうかしら。」


壁を向いているサーシャの真後ろに突然ランドライトがやって来た。

「サーシャよ、私を呼んだかね。」


サーシャは満面の笑みになり振り返った。

「ランドライト様!!」

ランドライトは部屋にあった椅子をシュッと動かして座った。


「ネロ、酷い姿だな。」

ランドライトは眉間にシワを寄せて私を見た。

「どんな魔法を使えばこうなったんだい?サーシャよ。」


「ごめんなさぁい。転移の座標を間違えちゃったみたいでぇ。」

「それで、なんの用だい。」

「そうでしたわ!実は…人間が私に地上に来ないか?って言うんですぅ。好きなものをあげるし、人間も食べ放題だよって。そんなうまい話あると思いますかぁ?」

─サーシャを地上に?!食べ放題??─


「ほほぅ。」

「すぐに行ってもよかったんですけどぉ。どうせならランドライト様と一緒に、キャッ、行きたいなぁって。」

「お前を呼んだと言うのはどこのどいつだ?」

「お・ま・え だなんて。夫婦みたいぃ。

えーっと、なんて名前だったかしら?サマなんとかっていう国の王子だったと思うわ。若いのにすごく悪い子でね、すごく魅力的な坊やだったわよ。

あ、でも、1番素敵なのはランドライト様ですけどぉ。」


─サマルナの王子?!─


「なるほど、わしは地上には興味がない。話がそれだけなら帰らせてもらうよ。」

ランドライトは指をシュッとやった。

ドタッと音がして私の身体が見えた。

壁から抜け出せたようだ。


「えぇー。ランドライト様が行かないならぁ、サーシャもやめよっかなぁ。」

「好きにするがいい。では、わしは帰る。」

ランドライトは私の腕を掴んだ。


────


気がつくと私は悪魔の執務室のソファに座っていた。

「おかえりなさいませ。」

タカタがお茶を持ってきた。


私はまだ声を出せないでいた。

「お前は学習能力がないのかね。」

黒い玉のことだろう。

私は言い返せずに俯いた。


「サーシャは地上で暴れるかもしれんな。」

「どうして止めてくれなかったんですか!」

私はやっと声を出せた。


「なぜ止めないといけないのだ?サーシャも悪魔だ。悪魔が悪魔のやることを咎めることなんてできんよ。」

「じゃあ地上は…」

「サーシャは人間を喰らう。わしと違って食の趣味も悪くてな。」

私の頭の中はまるで地獄絵図のような想像でいっぱいになった。

「止めないと!!」

私は立ち上がった。

「サーシャを止めるのは難しいと思うぞ?」

「いや、ボクが止めるべきはサマルナの王子だ。」

「たしか…お前の弟だったな。」

「半分だけですが。」

「まぁよい。好きにするがいい。」

悪魔はそう言うと魔法陣に私を乗せていつものように指をシュッとやった。


────


「ネロ、何かあった?」


シロネは洞窟の中で走り回っていた。

─戻ってこれたのか─


床にラミラミが落ちていた。

「あれ?何で床で寝てたんだろ?ネロ!落としたわね!!」

「えっ?あ、ごめん。」

私はまだ身体が重くてなんだか息苦しかった。

「ひどいわねっ!ってネロ、顔色が悪いわよ?!座りなさい!」

私は床に座り込んだ。

「ごめん。ちょっと悪魔が…黒い玉があったから触っちゃって…ごめん。」

頭が痛くてうまく説明できなかった。

ラミラミは私に治癒魔法やら浄化魔法をかけてくれた。


「ラミラミありがとう!身体が軽くなったよ!」

何が効いたのかはわからないが私は元気を取り戻した。

ラミラミはホッとしたようでシロネの頭の上に座り込んだ。

「そこにある玉に魔法か何かがかけられていたみたいで。」

私は二人にあったことを順番に話した。


「サマルナの王子が悪魔を召喚しようとしていると…なぜかしらね?戦争も終わって平和なのに。」

「わからないけど、そのサーシャっていう悪魔はボクを召喚した悪魔と違って人間を喰らうんだって。地上に来ちゃったら大変なことになると思うんだ。」


「宝箱どころの話じゃないわね。」

「その宝箱のことだけど、もしかしたらボクをここに誘き寄せるための罠だったのかも?だってこの部屋に宝箱があるように思えない。」

「シロネもいっぱい探したけどみつからない。においもしない。」

「考えもなしにサマルナに行くのも危険だと思うし、森の家に帰るのも何かあったら嫌だから…ワンダの街で1回作戦を立てようと思うんだけど。」

「賛成だわ。そうしましょ!」


私たちはワンダの街の近くに転移した。

寒くないのに気がついて慌ててコートを脱いだ。


─サマルナの王子─

私はあの日見た馬に跨り笑っているジナーの顔を思い出した。


─なぜ悪魔なんか─


────

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