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第三十二話

魔法陣の行き先はダンジョンの入口だと精霊フルルは言っていた。


「ここはどこだろう?」


明らかに岩山だったダンジョンの入口ではない。

お日様の光り輝く美しい花畑だった。

「お花!きれいだね!」

シロネは喜んで走り回る。

ふとラミラミの顔を見ると恐怖に引きつっているように見えた。

「ラミラミ?どうしたの?大丈夫??」

よく見ると小刻みに震えているようだ。


「私、ここを知ってるわ…ここは…天界よ!!!」


─天界─

天使の住む場所だっけ。

しかしダンジョンからなぜ天界に来てしまったのだろうか。

「あの精霊、悪いやつだったのかな?なぜ天界に来ちゃったんだろう?」

私は首を傾げた。


「おかえりなさい。ラミラミ。」


どこからかとても優しくて美しい声が聞こえた。

それは何かの音楽のように聞こえた。


ラミラミはまだ震えていた。

私は声の主を探そうとキョロキョロしていた。

どこにも人影はない。


「はじめまして、ネロ。私は天界の王、キラよ。」


急に目の前にラミラミに似た格好の小さな人が現れた。

「あの、ネロです。」

私は一応挨拶をした。

ラミラミの方を見ると叱られた子供のような顔をしていた。

「キラ様、お久しぶりです。」

「えーっと、どういうことでしょうか?」

私はまだ状況が飲み込めないでいた。


「何も話していないようですね、ラミラミ。」

キラはにっこりと笑っていたが目が笑っていない。

「ごめんなさい。」

ラミラミは俯いてしまった。


「ネロよ、よく聞きなさい。

ラミラミはこの天界の次期王、私の娘です。

この子は王になりたくないと言って天界から逃げました。」

─ラミラミが天界の姫ということ?─


「少し自由にさせておけば帰ってくるかと思ってましたが。勝手に守護天使になったり、人間の姿になったり、やりたい放題ではありませんか。

さすがにこれ以上自由にさせておくわけにはいきません。」

「あの精霊はお母様の手下だったのですか?!」

「手下などではありません。精霊は天使にとって地上への使者のような存在です。天使をみつけたら報告するように言ってあっただけです。あの魔法陣は私が描いたものですよ。」


私はこの後の動向を見守るしかなかった。


「お母様、私は王になりたくないなんて言っておりません。ただ、王になる前に見聞を広げたかったのです。王になったら地上には行けないでしょう?」

そう言うラミラミをキラは厳しい眼差しでみつめていた。

「天界に戻るつもりはあったということですか?」

「もちろんです!だって私は天使ですから!」

キラは目を閉じて考え込んだ。

シロネも空気を察して黙っている。


「まだ戻りたくないと、そういうことなのですね?」

「できるならば、もっと地上で勉強したいです!!」


キラはラミラミの前にハート型のついたネックレスを出した。

「これで私との会話が可能になります。定期的に地上での出来事を報告すると約束できますか?」

「はい!!できます!!」


キラの表情が柔らかくなった。

「ネロ、親子の問題に巻き込んでしまってごめんなさいね。」

「いいえ。」

「この子はよくやってたかしら?」

「はい、たくさんの命を救ってくれました。」

「そうですか。人間を助けましたか。」

キラは嬉しそうに私の話を聞いた。

宮殿のような建物に案内され、私たちは天界でごちそうを振る舞われた。

ラミラミのような格好の天使たちがたくさん飛び交っている。


「ネロ、この子をよろしくお願いしますね。」

キラはサイカやフラルのような『お母さん』の顔をしていた。

「はい。」


そして私たちはダンジョンの宝物庫に戻された。


────


「宝箱の中身は補充されたかしら?」

いつものラミラミに戻っていた。

ラミラミが宝箱を開けると、それは人食い箱になった。

「いやーーーー!助けてー!!」

シロネは宝箱に向かって中くらいのやつを出した。

「欲張るからだよ。」

「助かったわ…ありがとうシロネ。」

ラミラミはとびきりの笑顔をみせた。

「地上はやっぱりスリリングで楽しいわね!!」


────


本来の魔法陣をみつけて私たちはダンジョンの入口に帰ってきた。

外はすっかり暗くなっていた。

「宿に戻ろうか。」


私たちはダンジョンを出て、人目のないところで宿屋の部屋へと転移した。


「お腹もいっぱいだし、今日はお風呂に入って早めに寝よう。」

「そうね!シロネ!お風呂に行くわよ!」

「シロネ、お風呂キライ。」

ラミラミはシロネを引っ張りお風呂へと行った。

私もお風呂へ向かった。


風呂から上がり、あの地図を出して見てみた。

地図には宝箱のマークの他に教会のマークのようなものと星印が描かれている。

道の記載はないが高等線のような曲線が描かれていた。

─山脈の地図なのかな─


鍵をよく見ても情報はない。

宝箱の鍵だろうとは思うのだが。


「宝箱を探すのかしら?」

サッパリしてご機嫌のラミラミが地図を覗きこんだ。

「うん、多分山の上にあるみたい。」

「山の…上…?!」

ラミラミは急に不機嫌になった。

「山の上だなんて!寒いに決まってるじゃない!!」

「雪?!雪のところに行くの?シロネも行きたい!!」

「ほら、シロネは行きたいって。」

「防寒具はどうするのよ!私用の小さい防寒具なんて売ってないでしょ!」

「シロネが作るよ!!」

「えっ?そんな、シロネに作れるわけ…」


シロネはカバンから魔物の毛皮を出した。

それに何か魔法をかけたようだった。


「はい!どうぞ!」

そこにはお人形さん用のかわいらしいコートがあった。

ラミラミはそれを着てみた。

「あら、けっこういいじゃない!」

「うん、似合ってるよ。」

「ラミラミ!かわいい!」


こうして私たちは宝箱を探すべく、山に向かうことになった。


────


シロネは私と自分の分のコートも作ってくれていた。

「寒くなったら出すね!」

「ありがとう。」

シロネにこんな才能があるとは。

この先、仕事にもなるかもしれない。


私たちは宿屋を精算して北へと向かった。

行く前にお菓子をたくさん買わされた。

まるで遠足にでも行くようだ。

街は相変わらず賑わっていた。

私たちはダンジョンの入口付近と出口しか見ていない。

時間があるときにまた来てみよう。


「気のせいか、ちょっとずつ寒くなってきたわね?」

「そう?ボクにはわからないけど。」

「シロネもまだ寒くない。」

ラミラミはコートを着て、いつものフードの中で丸くなったようだ。


山道は国境を越える手前にある。

どうやら山脈のほとんどがサマルナ領だった。

人の姿はまったくない。

ときどき小さな獣を見かけたがこちらを襲ってくる様子はない。

なんなら興味津々でこちらに近づいてくる。


シロネはリスのような獣と仲良くなったようだ。

「ネロ、こいつついてくる!」

「シロネのことを気に入ったみたいだね。」

シロネは嬉しそうにカバンから出した木の実をリスにあげたりしていた。


私は地図を見ながら宝箱へと進んだ。

途中で教会のマークだろうと思っていたものがあった。

おそらくこれは誰かのお墓だろう。

なぜこんなところに作ったのだろうか。


標高が上がるにつれてだんだん寒くなってきた。

シロネの作ったコートはちょっと重かったがかなり暖かかった。

「シロネ!コートすごくいいよ!」

「ネロ、もふもふで魔物みたい!」

ラミラミはフードの中も寒かったらしく私のコートの中に潜り込んできた。


「見て!!雪だ!!」

あっという間に一面の銀世界になった。

木も何も生えていない岩山は真っ白だった。

「冷たい!雪!おいしい!」

シロネは嬉しそうに雪を食べていた。

「お腹壊すよー。」


初めての雪山を歩くのは大変だった。

シロネは雪まみれになって雪だるまのようになった。

それでも楽しそうだった。

山頂と思われる場所に来ると石碑のようなものがあった。

そこには人間のようなものが星のような光を天に向けてかざす様子が彫られていた。

地図の星マークはここのことだろう。


「もう少しで地図の場所になりそうなんだけど…この雪の中で探すのは大変そうだね。」

私はため息をついた。


「ネロ!なんかあるよ!」

シロネがみつけたのは洞窟の入口のようだった。

─なるほど、そこが怪しい─

「シロネ、えらい!」

「えへへ」


私たちは洞窟に入り、雪を落とした。

濡れてコートが重くなっていたので熱風を出して乾かした。

雪は積もっていなかったが洞窟の中は暗くてひんやりしていた。

私はシロネが取り出した枝に光魔法をかけた。

シロネは光松明を気に入っている。


進むと螺旋階段のようなっていて下へと進む道になっていた。


私たちはそのまま道なりに進んだ。


────

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