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第二十九話

────


「─ゆぅちゃん、ご飯だよ。」

「わーい!チャーハンだ!」

カニカマと玉子とネギの緑色の部分が入ったチャーハンだ。

8畳くらいの部屋には荷物が溢れかえっている。

狭いスペースに小さなテーブルが置かれている。

このテーブルをお母さんは片側二本の足を畳んで滑り台にしてくれた。

私は喜んで遊んだがお父さんにみつかって怒られたっけ。


私はチャーハンを食べている。

お母さんは料理が苦手で、こったものは作れない。

スーパーで半額になったお惣菜がテーブルに並ぶことが多かった。

その中で作ってくれるチャーハンは味が薄かったり濃かったり、きっと普通なら美味しいと言えない味なんだろうけど私にはごちそうだった。


お母さんはいつものように私にご飯を置いて仕事に行ってしまう。

「いってきます。」

「いってらっしゃい!」

私はいつもドアのところまでお見送りをする。


お友達はこの時間、幼稚園や保育園に行っている。

外に行っても遊ぶ子はいない。

私はいつも家で一人だった。

お父さんはあまり家にいない。

家にいてもいつもお酒を飲んでお母さんに怒鳴っているから嫌いだ。

仕事はしていない。

パチンコが俺の仕事だと言っていたが、それは仕事じゃないと幼い私でもわかった。

お父さんは病気だから仕事ができないとお母さんが言っていた。

ときどき足に注射を打っている。

それを打たないと死んでしまうんだって。


お母さんは夜になると帰ってくる。

いつもはちゃんと帰ってくる。


でも今日はなかなか帰ってこない。

私は外でお母さんが帰ってくるのを待った。

なわとびをしていればきっとすぐに帰ってくる。

お母さん、なわとび上手になったよって教えなきゃ。


何回なわとびをとんでもお母さんは帰ってこなかった。

今日はチャーハンしか食べていない。


「おなかすいたよ、お母さん。」


暗くなっちゃった。

どこかで犬が吠えている。

私は怖くなって家の中に入った。


私は玄関の前でお母さんが帰ってくるのを待った。

しかしなかなか帰ってこない。

冷蔵庫の中には食べるものがほとんどない。

お鍋で煮て食べるラーメンがあったけど、お母さんは「絶対に火は使っちゃダメ!」って言ってたから作れない。


でも、おなかがすいたんだ。


私はカリカリとラーメンの麺をかじった。

味はしないけど、おなかはいっぱいになったよ。

お母さんが帰ってきたら、勝手に食べでごめんねって言わないと。


それでもお母さんは帰ってこなかった。


家の前で待ってても、玄関の前で待ってても、お母さんは帰ってこなかった。

家にあった食べられるものは食べ尽くした。

マヨネーズを舐めたらダメって言ってたけど、もうそれしか食べるものがなかったんだよ。


お母さん、許してくれるかな?


急に眠くなった。

玄関の前で寝てたらお母さんがびっくりして踏んづけちゃうかも。

おふとんに行かないと。

でも動けないんだ。


お母さん、おふとんまで行けなくて、ごめんね。


────


「ネロ?!どうしよう。ネロが壊れちゃった!!」

ラミラミは泣いている。


「ラミラミ、大丈夫だよ。ボクはなんともないよ。」

私は涙で濡れた顔を拭いた。

涙は止まっていた。


フラルは私の頭からつま先までおかしなところがないか確認した。

「くすぐったいよ、フラル。」

「大丈夫そうね。いったいどうしちゃったのかしらね。」

「わからない。でもなんともないよ。」


本当は私にはわかっていた。

あの日の記憶が蘇ったからだろう。

私が感情をなくすきっかけになったあの日。


─お母さんに捨てられて、ひとりぼっちになったあの日─


あれから私はチャーハンが嫌いになった。

食べると吐きそうになる。

だから私はチャーハンなんて食べなくなった。

でもそんなこともすっかり忘れていたんだ。

チャーハンのことも、お母さんのことも。


今さらどうでもいい。

そんな忘れた記憶、また忘れればいい。


────


あかりは自分のせいかもしれないとチャーハンを作ることはなくなった。

そのかわりにいろいろな中華料理に挑戦しだした。

作り方を知らないはずなのに、あの中華鍋を持つと作れるようになるのだという。

あかりが取得したスキルのおかげだろう。


しかしこのスキル、勇者としてはどうなのだろうか?

前の勇者も料理を作れたようだが、それで悪魔を倒したとは思えない。

あかりは楽しそうに料理を作っていた。

─まぁいいか─


それよりも悪魔が言っていたことを考えないと。

『サマルナの王が私の存在に気がついた』

今さら息子として迎え入れるつもりはないだろう。

あの家には私のあとに息子が生まれている。

なんならその後に妹も生まれている。

世継ぎもいるし、計略結婚させられる娘もいる。

私など必要はないだろう。


─戦争の道具として─

それなら私は最適任だろう。

私とシロネ2人いれば国を1つ潰そうと思えば潰せる気がする。


森の家には厳重な結界が張り巡らされている。

外敵から守る意味もあるが、探知されないことが1番の目的だ。

スプランの上層部が壊滅して、あかりのことを知るものはほとんどいなくなったと思われる。

『水槽の少女』を知っていても今のあかりと結びつけられる人は少ないだろう。


やはり今の問題は私だ。

私がここを去るのが一番なのではないだろうか?

そう考えると、そうとしか思えなくなった。


────


それから私は一人でこの家を出る準備を始めた。

何か目的がないときっと止められてしまう。


問題はラミラミだ。

守護天使というからにはきっとついてくるだろう。

「ねぇ、ラミラミ。」

「なに?」

「守護天使の件なんだけど、ボクじゃなくてあかりを守ってもらえないかな?」

「はぁ??守護天使をなんだと思っているの?そんな取ったり付けたり簡単にできると思ってるの?!」

「できないの?」

「え、いや、できなくはないけど…そういうことじゃないわ!失礼じゃない?って話よ!要らないから他にあげるだなんて!!」

「要らないなんて言ってないよ。せっかくのラミラミの力をボクなんかじゃなくて必要としているあかりに使ってほしいと思ったんだよ。」

私がそう言うとラミラミは「ふーん」と言って睨みつけた。


「確かにネロは強いわ。私の加護なんて必要ないかもしれないわね。でも私の気持ちを考えたことある?そんな…ひどいわよ…ネロ…」

ラミラミはポロポロと涙をこぼした。

「ごめん。ラミラミがそんなふうに考えるとは思ってなかったよ。いつもありがとう。これからもよろしく。」

「いいのよ!素晴らしい力を有効利用したいと考えるのはネロらしいわ!でも私はネロの守護天使なの。これからもちゃんと守ってあげるわ!」

「うん。頼りにしてるよ。」

ラミラミは機嫌を直してくれたようだ。


あのチャーハンの一件があってからみんなの態度が変わったように思う。

なんだか扱いが少し優しくなったというか。

特にラミラミは前よりも私を気遣っているように見えた。

気のせいかもしれないが。


「ラミラミに相談があるんだけど。」

ラミラミを置いていくのは諦めることにしたのでラミラミは連れて行くプランで練り直しが必要だ。

「珍しいわね、なにかしら?」


私は悪魔に言われたことをそのままラミラミに伝えた。

「ネロのせいでみんなが巻き込まれるってことね。それでネロはみんなと距離を置きたいと言うことね。」

「そう。」

相談されたラミラミは少し嬉しそうにしていた。

しかし急に怒りだした。

「ねぇネロ?!さっきまで私を置いていこうと思ってたわね?そうでしょ?!」

「え、あ、うん。ラミラミに何かあったら嫌だし、みんなと一緒にいる方がいいかなって。」

「なんて正直者なの…まぁいいわ。私を置いていくなんて無理だってわかったんでしょ?」

「うん。」


ラミラミはここを離れることに概ね賛成だった。

ただシロネに関してだけは本人の意見を尊重してほしいといった。

シロネは元は白い大きな獣だ。

人間に見えても本当は人間ではない。

「わかったよ。今日の夕食でみんなに話す。ボクね、北の方へ行ってみたいんだ。」

「冒険の旅ね!それならみんな止められないわね!」


そして私はみんなにその話をした。

シロネは悩みに悩んだ挙句、一緒に行くと言った。

仲良くなったダイと離れるのも辛そうだったが。


「シロネもボウケンして強くなる。」

ということになった。


あかりも一緒に行きたい素振りをみせたが、「足手まといになる」と自覚していた。

フラルが「私に任せて行っておいで」と言ってくれた。

それはとても意外だった。


そしてまた3人の旅が始まった。

なんだか懐かしい気がした。


────

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