第二十八話
「お前、父親を殺したんだってな?」
久しぶりに会った悪魔の第一声はそれだった。
「父親?あぁ、ヤミのことですか。」
そういえば王の部屋でそんなことを言ってたっけ。
私はあの日起こったことの記憶が曖昧だった。
あかりを拉致されてスプランに乗り込んだことは覚えている。
あかりの無事を確認して私は一人でヤミ討伐に向かったのだ。
そこで私はスプラン王を殺害したヤミを新しい魔法で倒した。
新しい魔法を使ったという記憶はあるがその前後の記憶が曖昧だった。
ラミラミに「父親だったんでしょ?」と言われてもピンとこなかった。
どういう経緯でヤミとサマルナの王妃が結ばれたのかはわからない。
王室にも闇があるということだろう。
悪魔は相変わらずニヤニヤしていた。
タカタは今日はココアのような甘くて美味しい飲み物を出してくれた。
「お前は本当に感情がないんだな。まことに羨ましい。」
「そんなこと言われたのは初めてです。いつもみんな『かわいそう』と言います。」
「そう言われても気にならないのだろう?」
「そうですね。」
「お前は最強の戦士になれるな。」
「敵がいるんですか?」
─最強の戦士─
感情にとらわれず無情に戦い続けることができる。
確かにそうだなと思った。
「まったくおらん。平和すぎてお前のことも忘れておった。」
─だから呼ばれなかったのか─
「勇者召喚はヤミがしたことです。何がしたかったのかはわかりませんでしたが。殺そうと思えば殺せたのに生かしていたのには何か意味があるかもしれません。結局よくわからないまま終わってしまいました。
あかりはただの人間のままですが楽しそうに暮らしていますよ。」
「そうか。」
悪魔は心なしか嬉しそうな顔をしたように見えた。
「あなたは最初、『勇者を殺せ』と言いましたよね?どうして『守れ』に変わったのですか?」
悪魔は真顔になった。
「おもしろ半分で召喚された勇者は害をなすことがあったのでな。今や悪魔は絶滅したと思われておるだろう?」
「はい。」
「それなのに悪魔討伐を考えるなんておかしな話だろう。きっとそんな嘘で人間同士で争うのだろうと思った。そこに規格外の能力を持った勇者が現れてみろ。人間に利用されて人間を殺す道具にされてしまう。
それは哀れだと思わんか?」
「本来の勇者としての使命ではないですものね。」
「だから勇者ってやつはかわいそうなんだよ。自分の意思で召喚されるやつなんていないからな。」
悪魔はそう言うとどこか遠いところでも見ているような目になった。
私は聞きたかったことを聞いてみた。
「本に載っていたのですが、伝説の勇者に会ったことがありますか?白い服を着てヘンテコな呪文を唱える勇者です。」
「あぁ、あいつか。懐かしいな。
私がまだ生まれたばかりの頃に少しヤンチャをしてな。あいつに煉獄に戻されたよ。
本当に変なやつだったなぁ。」
まるで友達の話をするように悪魔は語った。
「本には悪魔を倒して消えた。とありましたが、それは本当ですか?」
「いや、あいつと私は煉獄に移動しただけだ。あの後も煉獄で楽しそうに暮らしていたよ。」
「えっ?!悪魔と勇者は敵同士なんでしょ?」
「敵というか、悪魔は勇者に勝てない。どう足掻いても勝てないと決まっている。だから早々に降参した。」
「それで勇者は許したと?」
「あぁ、いい奴だったよ。見たこともないうまい料理をよく作ってくれたな。
久しぶりに食いたくなったな。タカタ、頼む。」
「かしこまりました。」
あの本に書かれていたのは地上にいた誰かが都合いいように書いた嘘だったのか。
確かに2人が消えてしまった後のことは想像するしかない。
人間は煉獄に来ることができないのだから。
すぐにタカタがいいにおいのするものを持ってきた。
紛れもなくそれは餃子だった。
「ギョーザと言うらしい。うまいぞ、食え。」
「20年ぶりくらいに食べました。美味しいです。」
「そうか、あいつとお前は同じ星から来たのだな。」
「そのようですね。」
私は悪魔と勇者のことを聞けて、心に詰まっていた何かが取れた気がした。
悪魔のあかりに対する対応もわからなくもない。
「それで今日はなぜ呼ばれたのですか?」
悪魔は餃子を食べ終えて満足した顔をしていた。
「そうだったな。はて、なぜ呼んだのだったかな。」
忘れるくらいならたいした用事ではなかったのだろう。
「あぁ、そうだ。お前が生きていることがどうやらサマルナの王にバレたようだ。お前の能力を知って戦争の道具にしようとするかもしれん。」
「サマルナの王を倒せばいいということですか?」
「それはお前に任せる。お前を従わせるために周りの者たちが巻き込まれるかもしれぬ。
勇者はまだ何も力を持っていないのだろう?」
悪魔は私ではなく、あかりの心配をしているようだった。
「はい、魔法もスキルも何もありません。」
「役に立つかはわからんが、あの勇者の置き土産を渡そうと思ってな。」
─伝説の剣とかだろうか─
悪魔が私の目の前に出したのは中華鍋とおたまだった。
─せめて包丁ならもう少し格好よかったのに─
「強めの火力がコツらしいぞ。かまどを作ってやれ。」
悪魔はそう言うと私を魔法陣の上に移動させ、呪文を唱えた。
────
私は中華鍋とおたまを持って畑の前にいた。
「ネロ?何してるんだい?新しい魔導具でも作ったのかい?」
フラルは不思議そうにこちらを見ていた。
「えっと、悪魔にもらった。」
「あぁ、呼び出されてたのかい。久しぶりだったねぇ。」
ここに住む人たちは悪魔を怖がらない。
私の友達とでもいうような扱いをするようになっていた。
─確かに怖い存在ではないけど─
私はあかりを探した。
あかりは芋を掘っていた。
─芋掘り勇者─
「あかり、おみやげ。」
「え?中華鍋?!」
私は泥だらけのあかりに悪魔との話をした。
「大昔にそんなことがあったんですね。」
私は中華鍋とおたまをあかりに渡した。
あかりが持つと中華鍋とおたまは光りだした。
「えっ?えっっ???」
そしてすぐに光はおさまった。
「何か感じる?」
変な顔をしているあかりに聞いてみた。
「私、今ならやれる気がします!!」
私はあかりを鑑定してみた。
今まで何のスキルもなかったあかりにやっとスキルがついた。
「ユニークスキル『伝説の料理人』だって。」
あかりは思いのほか喜んだ。
フラルやシロネにも中華鍋を見せて回っていた。
私はあかりのために外に高火力を出せるかまどを作ってあげた。
「あかり、強めの火力がコツらしいよ。悪魔が言ってた。」
「はい!今ならできると思うんです!私!!」
やる気がみなぎったあかりはさっそくかまどを使ってある料理を作った。
「パラパラチャーハンです!」
この世界にも米に似たものがある。
日本で食べたそれには遠く及ばない味だったが。
私はあかりからチャーハンを受け取り、一口食べた。
「うまい!!!」
それは本当にパラパラのチャーハンだった。
「ネロさん?!泣くほど美味しかったですか?!えっ??大丈夫ですか???本当は不味かったですか?!」
あかりが私を見て狼狽えていた。
─泣いてるだって?─
顔を触ると目から涙が出ていた。
「なにこれ。」
「フラルさん!どうしましょう!!ネロさんを泣かしてしまいました!!!」
慌ててフラルがやって来た。
「ネロ、あんた大丈夫かい?!いったいどうしたって言うんだよ?!ラミラミ!!ネロが大変だよ!」
すごいスピードでラミラミが飛んできた。
私を見て凍りついている。
「病気?!それとも呪いかしら?!」
ラミラミは慌てて私に治療魔法や浄化魔法を使った。
「効かないわ!どうしよう!!」
私に泣いている自覚はない。
チャーハンを食べるとなぜか目から涙が出てくる。
なぜなのかわからない。
みんなは私を見て慌てている。
シロネはずっと私の涙を拭いていた。
私の心の中の真っ暗闇の中にある映像が見えた。
これは…
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